2019年5月22日 肉の部屋
異臭がして目が覚めた。
目が覚めたと言っても、もちろん夢の中での話だ。
現実世界ではない、というのが瞬間的に分かる、そんな部屋にいた。
目測で言えば、一辺が7メートルから8メートルくらいの、正方形の部屋。
ドアや窓は一切無く、完全な密室だと言える。
その部屋の中に手術台のようなベッドが3つ並べられていた。
ベッドの他に、大きめの机が二つある。
この悪夢で一番問題なのが、
その上に置かれているモノだ。
ベッドの上には、切り刻まれた死体。
腕が欠損していたり、腹に大きな穴が空いていたり、とにかく損壊している。
が、まだ辛うじて人の形を保っていると言えなくもない。
机の上の方が、異質だった。
あらゆる破壊を受けたかのような、腐敗も始まってそうな人だった何か。
漫画ですら最近は規制があり、はっきりと見せない。
これをテレビで流したら、その放送局は潰れると思う。
損壊された肉の塊。
夢だと分かってなければ発狂する。
それほどに、匂いがきつい、見た目にもきつい。
夢から醒めるためには、この触りたくもない物を調べないといけないみたいだ。
※※※※夢から醒める条件※※※※
それは夢によってさまざまであるが、基本的なことはあまり変わらない。
・夢を最後まで見ること。
・夢の中での探索ポイントを全て調べること。
・夢の中で死ぬこと。
・外部からの強い衝撃により、突発的に夢が中断すること。
・目覚まし時計に助けられること。
・極々たまに、自分の意思で起きられることもあり。
基本はこの程度の事で夢から醒める。
外部からの衝撃や目覚まし時計などで夢から醒めても、二度寝すれば結局同じ夢に戻ってしまうので、あまり意味がないと言えば意味がない。
まずは部屋の観察から。
ベッドの上に三人分。
机二つの上には、何人分か分からない肉片の塊。
部屋を見渡しても、出られる場所は無い。
床を見た。
「ひっ」と声が出た。
聖闘士星矢が好きな人なら分かると思うが、デスマスクの悪趣味な部屋。
死んだ人間の、苦しんでいる顔が床一面に敷き詰められていた。
この夢での一番の恐怖ポイントだった。
自分は素足で、人の顔の上を歩かなければいけない。
感触が気持ち悪い。
歩くたびにうめき声が聞こえた気がする。
ただの死体の皮だというのに「想像」すると恐怖は倍増する。
ここで動けなくなると夢が長引く…
夢に囚われると、夢からなかなか抜け出せなくなる。
※※※※※※※
自分は最長で夢の中で八十年くらい過ごした。
別人の人生を。
起きた時、現実世界を理解するのに3時間くらいかかったのを覚えている。
※※※※※※※
夢から抜け出せなくなると、夢の住人にされてしまうことがある。
そうすると、経った一夜で莫大な時間夢の中で過ごさなければいけなくなる。
それはもちろん危険なことで、脳が常にフル活動していることになり、休まらない。
それが続いたら廃人確定コースだ。
だからこそ、夢は自分でコントロールしなければならない。
難しいけど。
恐怖を感じながら、まずはベッドの遺体から調べた。
医学の勉強は少しはしているが、完全に専門というわけでは無い。
検死なんかできるわけもない。
だから、まずは観察。
ベッドは三台。
立ち位置左から、
片腕がない遺体、片足が無い遺体、お腹に穴の空いた遺体。
机位の上には、何人分か分からない遺体。
ふと、肉塊の中に腕を見つけた。
あまり傷ついていない、左のベッドの遺体に合いそうな腕だった。
あまり触りたく無いが、肉塊の中から腕を引っこ抜き、左のベッドの遺体にくっつける。
実際にくっつく訳じゃ無いが、一応横に置くような形で置いてみた。
不思議なことに、さっきまでは全く気づかなかったが、机の下に足が転がってた。
多分、真ん中のベッドの遺体の物だろう。
早速拾おうと動いた。
一歩足を進めるたびに、足の裏に感じる生々しい肉の感触。
これは精神的に保たないかも…
ちょっとだけ気持ちが負けてきた。
足を拾う時、足の周りのデスマスクが一斉にこちらをみてきた気がしたが、気のせいだと強く思い込むことにした。
分からないのが、お腹に穴の空いた死体だ。
これは机の上にもバラバラにされた内臓が散らばっているため、どれがどれだか分からない。
触りたくは無いが、肉の塊を崩しながら、内臓を探してみた。
それらしいものは見つからない。
しばらく探していると、部屋の片隅から赤ちゃんの泣く声が聞こえてきた。
やっぱりかーーーーーーー!!
その時はそう思った。
部屋の片隅におくるみに包まれて、泣いている赤子が居た。
心底不気味な状況だが、これを母体に戻せば先へ進めるはず!
すぐに赤子を拾い上げ、右のベッドの遺体のお腹に入れてあげた。
その瞬間、部屋が真っ白になった。
あまりの眩しさに目を閉じてしまう。
目を閉じても、瞼の上から刺す光が強い。
手で顔を覆う。
どのくらいの時間だったかは分からない。
しばらく待ってから目を開けると、遺体や肉の塊は微塵も無く、
ただただ真っ白い部屋の中に、一人ぽつんと立ってた。
バシュっと背後から音が聞こえ、
一瞬びっくりしたけど、振り向いたらドアができてた。
ドアに手をかけ、ゆっくりと引いて行った。
部屋の先には…
ここで目が覚めた。
クエスト完了、と言ったところだろう。
上に書いた夢から醒める条件、
【夢の中での探索ポイントを全て調べること】
これが今回の夢から醒めるきっかけだった。
夢の中のキーポイントを全て見つけられることはあんまり無いけど、これは成功例と言っていいのでは?
と、起きてからちょっと自画自賛してしまったのを覚えている。
夢は、脳が情報を整理しているときの断片。
そう言われている。
でも、明らかに不可思議。
もし見聞きしたものや想像したもので構成されているのだとしたら、自分は人の顔を踏みながら歩く感触は識らないし、おくるみに包まれた赤ちゃんを抱えた、あの重さを一度も経験してきてない。
夢は頑張れば自分でコントロールできるもの、そう思って夢の中で色々と行動できるように鍛えてきたけど、
もしかすると、夢はまた別の次元で見せられているものなのかもしれない。
【水の記憶】
【細胞の記憶】
人間、まだまだ理解できない事象はたくさんあるけど、自分が書き描き続けることで何かヒントが出てくるのでは?
なんて事を考えてしまっているよ。