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8. 病院とプリンと私

 池馬(イケメ)の角材事件から、数日後。


 間地緒まじお 拓朗たくろうは、近所の病院に入院していた。

 ――― あの後、救急車で運ばれた間地緒は、肩の骨折と頭蓋骨異常で全治5ヵ月3日4時間16秒の重症と診断され、即刻入院となったのだ。


 大変な怪我ではあるが、良かったことが、ひとつ。



「あ、あの…… プリン、食べさせてあげようか?」


「い、い、いや……だだ大丈夫だよ……っ! ほ、ほら、右腕は使えるし」


 ――― 憧れのミワちゃんが、こうしてしばしばお見舞いにきてくれるようになったのだ。


 プリンあーんを断られ、真っ赤になってモジモジと下を向く、ミワちゃん。


「あ、ああ……そ、そうだよねっ! じゃ、じゃあ、その……カップを支えておいて……あげる、ね……?」


「あ、あ、あ…… その、そうだねっ……! あのそのあの、ありがとう……」


 どこかから岩が飛んできたり爆発物が仕掛けられたり矢が飛んできたり毒を盛られたりするほどのリア充ぶりであるが……


 実は、ふたりはまだ、お互いの想いを確かめあっているわけではない。


 ©*@«(ピンハネ)º*≅¿(ポンチコ)が、ヤキモキと成り行きを見守っていることも、もちろん、彼らは知らないのだ。



「あ、あの…… や、やっぱり、食べさせてあげるよ……」


 片手でプリンを食べにくそうにしている間地緒を見かねて、ミワちゃんが再び、申し出た。


 チラッと床を見る、間地緒の視線の先では……


『コ ト ワ ル ナ』


 虫たちがピョンピョンと跳ねながら、アドバイスをしてくれている。


「うん……! ありがとう……!」


「えへっ…… はい、あーん」


 照れながら、あーんしてくれるミワちゃん。


 間地緒は、差し出されたプリンをモグゴックンと飲み下し、目頭を押さえた。

 ―――人生で初の 『あーん』 に、感涙を禁じ得ない。


 そして。


『コ ン ド コ ソ 、 コ ク ル ン ダ』


『キ ミ ナ ラ デ キ ル』


 次々と送られる、miniたちからのアドバイスと激励に、間地緒(まじお)はついに、決意した。


「ね、ねえ、ミワさん」


「ん? なあに?」


「たたた、退院後も……、こうして、たたた、たまには…… ぷぷ、プリンを…… たたた食べさせて……」


 勇気を出してみても、最後まで言い切れずに、またしてもモジモジとする間地緒であったが。


「わ、わたしなんかで……いいの?」


「う、うん……」


 ミワちゃんのOKっぽい返事に、再び勇気を振り絞った。


「ミワさんが、いいんだ……ずっと、前から……」


「間地緒くん……! 嬉しい……!」


「ミワさん……! ボクも……!」


 見つめあう、ふたり。



 ――― きっと、これでもう、安心だ。


<良かったな!> <ですね!> 


 ©*@«(ピンハネ)º*≅¿(ポンチコ)は、祝福の舞を踊りかけ……


 次にきた、ミワちゃんの返事に、盛大にコケた。



「あ、でも、付き合うのは、部屋を片付けて、学校に行って、勉強の遅れを取り戻してから、かな? てへっ」



<そんなのいい!> <さっさと付き合ってください!>


 ツッコミを入れるふたりを、<まぁ、まぁ> と宥めるのは、未来miniたちである。


<ハルミさんも、そうだったというでは、ありませんか!>


<それで、今日も仲良くイチャイチャしてたではありませんか!>


<焦るより、細くても長く強い絆を……!>


 ――― 確かに、未来miniたちの言う通りかも、しれない。


 焦るのは、もちろん、ミワちゃんの将来が気掛かりだからだが……


 ……そっと寄り添う、ミワちゃんと間地緒を見れば、それももう、心配なさそうだ。


 そう、©*@«(ピンハネ)º*≅¿(ポンチコ)は、未来ですべきことは全て、なし終えたのだ……。


<さぁ、過去に帰るか!> <ですね>


<と言いたいところだが、実は……> <ですね……>


 言を濁す©*@«(ピンハネ)に、『わかっていました』 というように微笑む、º*≅¿(ポンチコ)


<このタイムマシンは、もともと、試作品…… 

 時空飛行(タイムワープ)の負荷の上に、『時よ止まれ』 ボタンまで使ってしまったら、オーバーワークですよね>


º*≅¿(ポンチコ)くん、もしや、君は全てをわかった上で……?>


 息を呑む©*@«(ピンハネ)に、º*≅¿(ポンチコ)は言った。


<いえいえ…… 未来(ここ)だって、悪い場所ではありませんし>


<いやいや…… そうだな、大人になったミワちゃんの、恋の行く末を見守りつつ、その時を待とうか……>


©*@«(ピンハネ)様……> <º*≅¿(ポンチコ)くん……>


 見つめあう、miniの初代皇帝と初代お小姓……もとい、科学大臣。

 彼らの絆は、強く、尊い。



 ……と、その時。

 クイクイと、遠慮がちに©*@«(ピンハネ)の腕が引っ張られた。


 見れば、若く美しいminiの女の子が、憧れの眼差しを©*@«(ピンハネ)に注いでいる。


 彼女は甘やかなフェロモンと思念(テレパシー)を発していた。


<あの、あたし……©*@«(ピンハネ)様が、ここに残って下さるの、嬉しいです……♡>


 一方では、º*≅¿(ポンチコ)の傍にもいつの間にか、大和撫子風なminiの女の子が気恥ずかしそうに寄り添っていた。


 二人は顔を見合わせ、非リアの絆に別れを告げた。



 ――― その後、miniの初代皇帝と初代科学大臣は、少しばかり若返ったとか、いないとか。


 しかし、どちらにしても、全ての生き物に、最後の日は訪れる……。

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― 新着の感想 ―
[一言] むむむ。気になる引きですね。
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