5. ポスターとフィギュアと私
ミワちゃんに恋する男子高校生、間地緒 拓朗を応援すべく、その部屋に潜入した©*@«とº*≅¿…… 彼らはすぐに、その選択に若干以上の疑問を持たざるを得なくなってしまう。
<©*@«様、これって、ヘ○タイじゃないでしょうか……>
<いや、愛の証ともいえる……かな……>
なにしろ、間地緒の部屋の壁には、ミワちゃんによく似たバーチャルアイドルのポスターが、隙間なく貼られているのだ。
それだけではない。
机の上にも本棚の上も、ミワちゃん似アイドルのフィギュアだらけである。
「ミワたーん、たらいまぁ♡」
ポスターにデレデレと微笑みかけ、フィギュアの1体1体を丁寧に布で磨きながら 「大好きだよ♡」 「寂しかった?」 などと話し掛ける間地緒の姿に、ガックリと肩を落とす©*@«とº*≅¿。
<控えめに言って、キモいんですが……>
<う…… そうだな…… 正しい愛情表現は、徐々に覚えさせるとしよう……>
©*@«とº*≅¿に残された時間は、限られている。
使えるものは全て使い、出せる技を出しきって、間地緒をイケメン寄りのフツメンに変身させよう、とふたりは決意した。
<<まずは筋肉をつけさせるのだ!>>
<これが、未来のminiテクノロジーの粋を集めた筋肉増強剤です!>
<ニキビケアの薬もあります!>
<頭髪以外の毛が薄くなる薬です!>
<息がバラの香りになる薬です!>
<瞳の輝きが増す薬です!>
<男性フェロモンが増す薬です!>
<<よし、毎日少しずつ、全部、注入!>>
©*@«たちの指令のもと、未来miniたちは、怪しい薬品を次々と、間地緒にコッソリ注入していく。
<<睡眠学習!>>
<ジドリアニメの 『胸キュン神シチュ特集』 です!>
<『家政婦は床』 の 『ドキッ! 女の本心が垣間見える名場面20選』 です!>
<『宇宙ブラザーズ』 の 『これぞブロマンス!燃える男たちの友情特集』 です!>
<『刀剣メンズ』 の 『惚れずにはいられない! 私の推しシチュランキング』 です!>
<ならうVチューバーの自作エッセイ朗読 『初恋の始め方』 です!>
<<よし、睡眠中にループで再生!>>
かくして間地緒は、睡眠中、耳元と瞼に最新型のmini製録画再生機を取り付けられ、『正しい愛情表現』 の仕方を学ぶこととなった。
そして、数週間の時が経ち……
その変化は、間地緒自身が自覚できるほどになる。
「あれ? ぼ、ボクなんだか……? マッチョになってる……?」
鏡の前で、さまざまなマッチョポーズをとってみる、間地緒。
それに……、と、おもむろに部屋を見回す。
「フィギュアやポスターじゃ、何か物足りない気が……? う、ウソだぁ……っ!」
<ウソじゃない! 本当だ!> <睡眠学習の効果です!>
©*@«とº*≅¿の密かな声援は、もちろん、間地緒には聞こえていない。
「そ、そんな…… ボクは一体どうしたら……っ! 可愛いボクのミワたんたちと、一生添い遂げるつもりだったのにぃぃっ……!!」
泣き崩れる、間地緒 拓朗17歳。
……どうやら、自分の急激な変化に、心がついていけていないらしい。
©*@«は、むう、という思念を発しつつ、腕組みをした。
<相変わらず貧弱な精神だな>
<まったくです>
<では、何か新たな薬物を盛るか>
<実は……>
打ち明けるº*≅¿の顔色は、少々宜しくない。
<これ以上の薬物使用は危険なレベルで、もうイロイロと使ってしまっています>
<ふむ……筋肉は薬で鍛えられるが、精神を鍛えるのはヤル気と経験、ということか……>
<さすが、©*@«様…… 名言です!>
<いやいや……> <いえいえ……>
忖度合戦を繰り広げる©*@«とº*≅¿を、未来miniたちが 『やはり殿様とお小姓なのでは……?』 という目で見ているが、もちろん、ふたりは気づいていない。
<よし!> <ならば……!>
小さく跳躍し、未来miniたちに指令を下した。
<<mini文字deハッスル計画、始動……!!>>