4. オタクと回想と私
「どうぞどうぞ。ミワちゃんの親戚の方からこっそり採取した、血液ジュースです」
「こちらは、ミワちゃんのフケです……!」
ミワちゃんの汚部屋の片隅に積まれた座布団の上で、©*@«とº*≅¿は、未来のminiたちから大変な歓待を受けていた。
彼らの背後の壁に飾られているのは、小さな額縁に入った、ふたりの近影。
未来のminiたちは、日々この肖像を崇め、祈りを捧げ続けていたのだという。
「本当に…… 初代皇帝とお小姓……いえ、科学大臣様が現れてくれないものかと、我々がどれほど願っていたことか……!」
「ミワちゃんを更正させようと、どれほど言っても 『放っておいて!』 と吹き飛ばされ続け……」
「報われない日々が、やっと終わるんですね……!」
未来のminiたちから向けられる思念はいずれも切実であった。
彼らは移住以来の伝統を守り、ハルミ・和樹夫妻とミワちゃんを真摯に見守り続けていたのだ。
「…………」 「…………」
彼らの苦労を思い、言葉少なに血液ジュースを飲みミルフィーユを食べる、©*@«とº*≅¿。
思いは、既に決まっている。
ふたりは杯を置くと、腰を痛めないように、そっと宙返りをしたのだった。
「「これより、失恋相手の偵察に向かう……!」」
こうして、未来miniたちを引き連れ、腰をかばいつつ路上に跳び出た©*@«とº*≅¿は……
そこで、切なげにミワちゃんの部屋を見上げる、ひとりの少年と出会うことになる。
¤*≅¶©*@«º*≅¿≡<↑£
……彼女が引きこもって、今日でもう、1年になる……。
間地緒 拓朗は、憧れの彼女の家の2階を見上げ、そっと首を横に振った。
彼女に、学校のプリントやノートを渡しにきたのだが、どうしても直接会う勇気が、でないのだ。
以前にも同じ用事で彼女を訪ね、励まそうとして…… かえって泣かれてしまって以来、会いたいのだが、会いづらい。
プリントの隅に 『元気出して』 と書いて郵便受けに入れるのが、関の山である。
旧湖 ミワ。
――― 明るく可愛い彼女は、1年前、ある事件をキッカケに変わってしまった……。
そこまで回想した間地緒は、ふと地面を見てぎょっとした。
……なんと。そこには、ノミほどの大きさの小さな虫がピョンピョンと移動しながら、次々と文字を形成していたのだ……!
『 ソ ノ ハ ナ シ 、 モ ッ ト ク ワ シ ク 』
「え……? しゃべるの? ボクが?」
『 オ モ ウ ダ ケ デ イ イ 』
『 テ レ パ シ ー 』
「き、君たちはいったい……!?」
こんな時ではあるが、ついワクワクしてしまう、オタク成分かなり濃い目の間地緒。
――― 未確認の知的生命体かもしれない。それとも、どこかで虫を操る超能力の持ち主が……?
どこまでも膨らんでしまう妄想を止めたのは、次に綴られた虫文字だった。
『 ド ウ デ モ イ イ 』 『 イ マ ハ ミ ワ ガ ダ イ ジ 』
「そ、そうだね……!」
間地緒は道の隅にしゃがみこみ、回想を始めた。……誰がどう見ても挙動不審者であったが、幸い、そんな彼を見ているのは、miniたちしかいない。
『間地緒 拓朗の回想 ①
ミワちゃんは、プリキュRのダンスが得意で、明るくて、可愛いんだけど気さくな子で…… クラスでも人気だったんだ。
オタクで陰キャなボクは、ただ遠くから見守るだけだった。笑顔で挨拶されても、顔を背けて逃げ出しちゃったりしてさ…… ははっ』
<乙女だな> <乙女ですね>
©*@«とº*≅¿は、顔を見合わせてうなずいた。
『間地緒 拓朗の回想 ②
彼女は入学してすぐに、イケメン生徒会長と付き合い始めたんだ。
彼の名前は池馬・Chara・Haragley。
世界的な大企業のトップを祖父にもつ、クォーターという噂で…… ファッション誌のモデルもやってたな。
……羨ましいとも、思わなかったよ。ふたりの世界は、ボクには遠すぎてね。……ははっ』
間地緒の脳裏に再生された生徒会長は、確かに人間基準ではかなりのイケメンであった。
―――バランスの良い長身に、やや茶色がかったサラサラの髪とクッキリした瞳に長い睫毛、通った鼻筋と滑らかな白い肌。
<リア充撲滅!> <ですよね!>
腰の痛みを忘れて思いっきりジャンプし、 <<うっっ>> と思わず呻く、miniのリーダーふたりである。
――― 間地緒の回想は、続く。
『間地緒 拓朗の回想 ③
けれど、ある日、ボクは見てしまった……!
別の美少女2人と腕を組みつつ、ミワさんを嘲っている、池馬・Chara・Haragleyの姿を……!
「どーせオレの顔と金に惚れただけだろ、お前も」 「文句言わずにコイツらと仲良くやれるなら、これまで通り付き合ってやるよ!」 「今度4Pしてみるか? ヒャハハッ」
切れ切れに聞こえた言葉を繋げると、こんな感じだったかな。
……ミワさんは……、泣いていたよ。
ボクは止めたかったけど、足がすくんでしまって……本当にダメなヤツさ、ボクは…… ははっ。』
<最低だな> <最悪ですね>
まじにソイツはダメ、止めといた方が良い、と、顔を見合せて首を横に振る、©*@«とº*≅¿。
彼らの想いを知ってか知らずか、間地緒は回想を続ける。
『間地緒 拓朗の回想 ④
翌日から、ミワさんは、学校に来なくなったよ。
もし、怖じ気づいてないで、ボクが声をかけてたら…… もし、ミワさんがヤツと付き合う前にボクと付き合ってたら…… きっと、あんな悲しい思いはさせなかったのに…… なんてね。……ありえないよね、そもそも……ははっ……ううううっ』
間地緒が涙ぐみ、©*@«とº*≅¿は顔を見合わせて、半分はタメイキ、半分は貰い泣きのような思念を漏らした。
<ううう……うっとうしいヤツだな。だが、気持ちは分かる……>
<ううっ……そうですよね。やはり、非リアの悲哀は種族の壁を越えるというか……>
<これは、協力してやらねばならぬな。おそらくはミワも、真っ当な愛に気づけば立ち直れるはずだ>
――― かつて、ハルミがそうだったように……。
賛同を表し、そっと宙返りをする、º*≅¿。
<そうですね! さすが、©*@«様!>
<いやいや……> <いえいえ……>
ひとしきり恒例の忖度合戦を繰り広げた後。
ふたりは仲良く、未来miniたちに号令を掛けたのだった。
<<総員、間地緒を追跡! 部屋に潜入する!>>
挿し絵製作:秋の桜子さま
※ キャラクターは、Picrewの「たまごむしメーカー」で製作しています。https://picrew.me/share?cd=YVAGJzI384 #Picrew #たまごむしメーカー
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6/28 誤字訂正しました!報告下さった方、ありがとうございます!