2. 未来と汚部屋と私
「あ、ごめんなさぃぃぃ! お邪魔しましたぁぁ!」
折り重なって見つめあう、リーダーと上司を目にした、若いmini。大慌てで回れ右し、イリオモテヤマイヌのモフモフ毛皮から跳び移ろうとしたところで。
「まっ、待ちたまえ!」 「我々はそんなんじゃないんだ!」
ふたりからの制止を受けて、ハタ、と止まる。
「あれ? 勘違いですか?」
「もちろんだ。そもそも今さらそんなことをせずとも、我々はもっと深く繋がりあっているのだ……!」
「そうですよ、©*@«様のおっしゃる通りです! 生涯非リアの絆は、リア充のそれを遥かに越えるのです……!」
「ああっ、そうすねー!」
若いminiは、キレのあるジャンプで納得感を表した。
ちっぽけな脳ミソの片隅で感じた羨ましさを、º*≅¿は事務的な思念で誤魔化す。
「で、ご用はなんでしょうか」
「そうそう、実は! この! ワタクシこと、偉大なる科学者º*≅¿さまの12番目の弟子≡<↑£がっ!
なんとなんとなんと……っ!」
かつてのº*≅¿のような高速スピンを得意気に披露するのも、若さゆえであろう。
「『未来が見えちゃう機械』 を発明しちゃいましたぁ……っ!」
「おおっ、ついにですか……!」
連続で小さく跳躍し、弟子を褒め称えるº*≅¿。
©*@«もまた、ピョコピョコと跳びはねて惜しみ無い賛辞を送る。
「さすがº*≅¿くんの弟子!」
「いえいえ……」
「いやいや……」
「そうでしょう、そうでしょう! やっぱ偉い人にはボクの優秀さがわかっちゃうんですネッ。マジあざますッ!」
――― 阿吽の呼吸の忖度合戦も、若い世代にはなんら、響かないらしい……。
とまぁ、そんなわけで。
早速、『未来が見えちゃう機械』 を覗き込む、©*@«とº*≅¿。
「ふむ、なるほど…… この棒で見たい地域に照準を合わせるんだな」
「このダイヤルで、時間を合わせるんですね」
「で、こっちでズーム調整……」
「よく出来てるでしょう? いやぁ、我ながら天才ッすよボク!」
「あーすごいすごい」 「さすが私の弟子です」
ドヤる若者を適当にあやすふたりが注目しているのは、もちろんスコープの中である。
――― 照準はもちろん、彼らの第一拠点だった、和樹とハルミの家。
そして、そこで暮らしているはずの、高校生になったミワちゃん……
「「ほげぇぇぇぇえ!?」」
制服姿はどうかな、などとホワホワした空想は、一瞬で吹き飛んだ。
「「ミ、ミワちゃん……っっ!?」」
仲良く手を取り合って呆然とする、©*@«とº*≅¿の目の前の画面には。
かつてのハルミの部屋と同じ、いや、それ以上の汚部屋で、そこはかとなくニオいそうなハンテンを着込み、ゴロゴロと寝転んでウダウダとゲームに興じる―――
――― どう見ても、引きこもっているとしか考えられない、ミワちゃんの姿が映されていたのだった。
「これは重大ですよ!」
「うむ、重大だ!」
「うっわぁ♡ すっげぇ天国♡ 将来の移住先はココに決定っすね♡」
「「だ め だ !」」
上司ふたりの深刻な表情をまったく読まずに、はしゃぐ≡<↑£に、ふたりは渾身の力で高く跳躍してみせる。
「あの地は聖域……!」 「そうですよ!」
「ミワちゃんの危機は、全miniの危機……!」
「えーっ、意味わかんねッスけど?」
「とにかくそうなんだ!」 「そうなんですよ!」
©*@«とº*≅¿は、必死にジャンプを続けて若者に詰め寄った。
「未来スコープを、即改造せよ! タイムマシンを作るのだ!」
「もちろん私も、手を貸します!」
「えーっ。これ自体が試作品で性能が安定してないのに、いきなりタイムマシンなんてぇ……いっくらº*≅¿様でも、無理ッスよ、無理!」
イラつく口調ながら、≡<↑£の意見が正当であることは、科学者たるº*≅¿にもわかっている。
だが、しかし。
悠長に完成を待つには、©*@«とº*≅¿の残り寿命は、心許ないのだ……。
「……いえ、私はやりますよ」
「そんなっ……、やめてくださいよぉ……! もし失敗して師匠に何かあったら、ボク……ボクッ!」
「≡<↑£くん……」
º*≅¿は弟子を慰めようと、緩やかにスピンした。
「こんな素晴らしい機械を作ったキミは、もう1人前だ。それに、私たちはもう先の短い命……」
「師匠……っ!」
「残りの命を、科学の進歩とミワちゃんの救済に捧げることができるなら…… こんな良いmini生はないでしょう……!」
「せんせぇ…… ボクも手伝うッス!」
師弟のやりとりを、感動しながら眺めていた©*@«は、激励を込めて精一杯のジャンプを披露し……
「いっどぉぁぁぁぁあぁぁ!!」
再び、腰をグッキリやってしまったのであった……。
ともかくも、かくして。
師匠と12番目の弟子は、タイムマシンの発明に、取りかかったのである。