8話
部活が終わり、片付けをしている時、未来がファストフード店への寄り道を持ちかけてきた。中学の頃から放課後や休日に遊ぶことはあるが、未来から誘ってくるのはそんなに多いことじゃない。
私達はそれぞれが飲み物を頼み、空いていた端の席に向かい合って座る。
「これ、美味しい!」
「それ何?」
「メロンソーダ!」
「ちょっと、ちょうだい」
「いいよ!」
未来は身を乗り出し、私の容器に刺さっているストローでメロンソーダを啜る。
「本当だ!美味しい!」
「でしょ。私も欲しい!」
「いいよ!」
未来が頼んだ飲み物はコーラだった。美味しかったが、私が頼んだメロンソーダも決して負けてない。
「ねぇ、咲菜」
「何?」
未来はコーラを啜りながら目線だけをこちらに向ける。
「咲菜は戸倉と付き合いたくないの?」
「えっ!?」
何の合図もなしに飛び込んだ爆弾に持っていたメロンソーダのカップを潰し、吹き出した。未来はむせている私に変わり、テーブルを拭きながら話を続ける。
「ごめん、そんなに驚くことだった?いつも好き好きオーラ駄々洩れなのに何もしないで普通に友達してるから、付き合いたくないのかなぁって思って」
「ゴホッ、ゴホッ・・・・・・・・・。別に付き合いたくない訳じゃないけど」
「けど?」
「いや、その・・・・・・」
メロンソーダを拭き終わった未来は座り直す。私は目尻の涙を拭い、未来の質問に答えられず、落ち着きがなくなった手持無沙汰な両手で持ったメロンソーダを啜る。
「告白しちゃえば良いじゃん!」
未来の言葉に再び動揺し、またしても、メロンソーダを吹き出した。今度はさっきよりも大量のメロンソーダが宙を舞う。
「あ~」
未来はあたふたする私を横に手早く、布巾を用意して、一緒に拭いてくれた。
「ごめん~!許して~!」
「大丈夫、大丈夫。怒ってないよ。それより動揺しすぎでしょ」
未来は笑ってコーラを啜り、中に入っている氷をストローでかき回す。
「戸倉のこと、すごい好きなんだね」
「ち、違うよ!私は別に恵一のことなんかっ・・・・・・」
未来は騎士のような真っ直ぐな目で私を見つめ、私の口を指で閉ざす。その目を見ると、気持ちが自然と収まるのが自分でも分かる。落ち着いた私を見て、未来は自分の指を引っ込めて、頭を撫でる。
「自分の気持ちを否定して、自分の気持ちを偽って、それじゃあ私の好きな咲菜は幸せになれない、でしょ?」
その言葉に驚く私を見て、未来は優しく微笑んだ。
「断られるのが怖い?」
「・・・・・・うん」
「怖いよね。私も怖かったから咲菜の気持ちはすごい分かる。でも、私には咲菜がいてくれたから。だから私は勇気出して、一歩踏み出せたんだよ。咲菜、ありがとう」
未来の言葉は押しつけがましいアドバイスのようなものではなく、ただ味方でいるとだけ教えてくれる。自分のことを自分以上に真剣に考えてくれることがこんなにも心強く、幸せなことだとしみじみと感じた。揺らぐ気持ちに整理がつき、前を向く。
「私は恵一が好き、だから・・・・・・・恵一の、好きになりたい!」
未来はあの私の好きな笑顔を私に向け、
「いいと思うよ」
その肯定が嬉しかった。