5話
私達は学校から駅に四人で向かい、同じ電車に乗り込んだ。電車内は座れる席こそないが、混んでいるわけではなく、東上丘高校の生徒がちらほら見える。扉の前に位置する私達は電車に揺られながら話をしていた。
「七崎君は家どの辺なの?」
私は吊革に掴る七崎君に質問する。
「俺の家?俺、今は未来の家に住んでるんだよね」
「そうなの?」
「源、高校の間は私の家に居候することになったの」
「何で?」
「源はもともとこの辺に住んでたわけじゃないんだけど東上丘高校のサッカー部にスカウトされたんだよね」
「本当?すごいじゃん!」
未来は自分が成し遂げた功績のように鼻を高くして、誇らしげだ。そんな未来を見て、七崎君は照れ笑いを浮かべている。
「それで、どうせ通うなら私の家の方が近いから、高校三年間は私の家に居候することにしたんだよ」
「そうなんだ。でも、本当にすごいね。」
東上丘高校のサッカー部は、去年は全国大会にあと一歩届かなかったと聞いた。それでも何年もの間、全国大会には常に顔を出し、県内では指折りの強豪校として有名だ。それを知って、県外からも入部希望者が殺到していると聞いたことがある。そんなサッカー部に推薦で入学するのは容易いことではないだろう。
「ありがとう!ケイはどこの部活入るの?」
「俺は帰宅部」
「え~、どこか入ろうぜ!どうせならサッカー部とか!どう?」
「遠慮しとくよ」
「いいじゃん、入ろうぜ!絶っっ対、楽しいぞ!」
七崎君は熱心に何度も勧誘したが、恵一から期待に応えるような言葉は出ずに落胆しながら最寄り駅に到着した。
私と恵一、未来と七崎君に別れ、それぞれの自宅へと向かった。
「恵一、本当にサッカー部入らないの?」
「うん」
「入りなよ。せっかく、中学まで頑張ってたんだし」
「入らなくて良いよ」
恵一は中学の時、サッカー部のキャプテンをしていた。恵一は部内を統率してチームを引っ張っていく未来のようなタイプではなかったらしいが、その実力からキャプテンを任されていたと聞いたことがある。小学生の頃、何度か恵一が出ているサッカーの試合の応援に言った時、素人目にも恵一の技術は抜きんでていたことを覚えている。
七崎君にサッカー部に誘われた時、そのことを言おうか迷ったが、やめておいた。
「何で入らないの?」
「別に。入らなくてもいいかなぁって」
「恵一」
「何?」
「入りなよ。サッカー部」
「どうして?」
「私、恵一が毎日、すごい頑張ってサッカーの練習してるの本当に凄いなぁって思ってて、恵一が頑張ってたから私も陸上頑張れたところあるんだよ。本当に感謝してるし、尊敬してる」
恵一は真面目な性格で、どんなことでも感情の起伏が表に出ず、淡々とこなしているせいか、やる気がないように思われることも多く、そのことで中学の頃、先輩と色々あったらしい。
しかし、本当は私が一人で陸上の練習をするときに使う、自転車をニ十分ほど走らせたところにある広い公園に行くと、見なかった日がないぐらいの高確率で恵一はサッカーの練習をしていたのだ。恵一のお母さんに聞くと、小学生の頃からほとんど毎日、そこに通い、一人で練習をしていたようだ。それを知ってから、恵一の頑張りを励みに私もそこに通うようになっていた。
「だから、恵一にはまだサッカー続けて欲しいな。でも、決めるのは恵一だから!やりたくないなら無理にしないでね。恵一、頑張り過ぎちゃうから」
「・・・・・・か、考えとく」
恵一と話していると、すでに自宅の前だった。
「うん、ありがと。考えといてね。じゃあね、恵一」
「うん」
恵一は立ち止まり、右手を挙げて、少し長めの髪の隙間から真っ直ぐに澄んだ瞳がこっちを見る。私が手を振り返すのを見て、恵一は自分の家へと帰って行く。
恵一の家は最寄駅から私の家の前を通り、直ぐの角を曲がって数分歩くと着く所にある。小学生の頃は良く遊びに行ったりもしていたが、中学生になってからは一回も行っていない。それだけでなく、遊んだことも数えるほどで、今でも友達とすら思ってもらえている自信がない。
恵一が見えなくなると、私は挙げていた手を下ろす。
寂しいな・・・・・・・。
私は鍵を開けて、家へと入った。