4話
新入生の保護者は体育館の後方に並べられたパイプ椅子に座っている。その後ろにはカメラを構えた保護者がファインダーを覗いていた。
入場している時、お母さんと恵一のお母さんが隣同士で座っているのが見えた。前方には私達、生徒が座る場所が用意されていて、私の座る場所は前の舞台から見て右側だ。座る場所に到着すると、未来は何も言わずに端の席に移動した。
「どこ行くの?」
小声で未来に声をかける。
「ちょっと、仕事」
未来が何を言っているのか分からなかったが、取り敢えず私は席に座った。
校長先生の式辞や来賓の挨拶など延々続くのではないかと錯覚する恒例行事に、忘れていた眠気がチラつき、格闘する。しかし、それも司会の一言で覆る。
「新入生代表宣誓。新入生代表、一年三組、早乙女未来」
「はい」
司会に応える未来を見て、目が覚めた。未来は立ち上がり、舞台の真ん中に着くと、一礼して、手元にある台本を開いて、話し出す。手元に持っていた台本を殆ど見ることなく、背筋を伸ばし、目線は前を見据えていた。この状況にも物怖じせず、堂々とした未来の凛とした姿は禁断の恋の扉を軽々と開けたことを容易に想像させる。
未来の完璧な新入生代表宣誓に続き、先生の紹介や校歌斉唱が終わると、私達は退場することになった。入場時と同様、沢山の拍手に見送られ、体育館を後にした私達はそのまま教室に帰って行く。その途中、後ろから誰かが私に抱き着く。
「どうだった?私の新入生代表宣誓」
私の顔の横には満足気な表情の未来がいた。
「うん!すごい良かった!でも、あんなことするなんて知らなかったよ」
「あれ、言ってなかったっけ?」
未来は本当に忘れているようだ。
「言ってないよ!」
「ごめん、ごめん!まぁ、サプライズってことで良いんじゃない?」
「私にサプライズしてどうすんの!?」
二人で笑い合いながら話していると、直ぐに教室に到着した。
その後は次の日からの大まかな流れが伝えられ、今日は早々に下校の時間となった。
「咲菜、帰ろう!」
「うん!」
恵一の席を見ると、そこに恵一の姿はなかったが、未来の席に恵一の雰囲気とはかけ離れた、男くさい、日本男児を具現化したような、短髪で体格の良い男の子と共に肩を組んでやって来た。恵一は乗り気な様子ではなく、嫌々連れて来られた感じがする。
「未来、こいつ、ケイな。ケイ、こっちは未来。さっき新入生代表宣誓してたの見たでしょ?」
その男の子は未来のことを知っていた。
「知ってるよ。同じ中学だし」
「え、そうなの?」
その男の子は未来に向いていた顔を恵一の方へ向ける。
「うん。そう」
「そうなの!?それなら先言えよ~」
「ご、ごめん」
「いいよ、いいよ!」
男の子は満面の笑みを浮かべた。
「えっと、咲菜、あの・・・・・・」
私は蚊帳の外でポカンとしていたが、男の子を指差して、そっぽを向き、少し照れる未来を見て、彼が誰なのかを察した。
「俺、七崎源。これからよろしく!」
「うん!私は瀬川咲菜。これからよろしくね!」
「おう!!」