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PRECIOUSGIRLS~瀬川咲菜MEMORY~  作者: 近江玲也
第1部
19/25

19話

 夏休みは連日、部活に追われ、週に何回かある休みの日はそれまでの疲れで、ほとんどの時間を自宅で過ごした。厳しい環境で、逃げ出したい気持ちもなかった訳ではない。それでもその環境に身を置けたことで恵一のことを思い出すことも多くはなかった。


 夏休みも残り一週間。冷房が効いた部屋とコップに入った氷入りの麦茶が夏の残暑を和らげる。部活も休みで、今日は未来が私の家に来て、一緒に大量に残っている夏休みの宿題をしていた。多くはない部活の休みを、毎回昼過ぎまで寝ていたことが仇となる。と言っても未来は夏休みの宿題を既に終わらせていて、今日は全く宿題が終わっていない私を見かねて家にまで来てくれたのだ。


「未来、ここ良く分からない」


「ん~、どこ~?」


これまで、ほとんどの問題を未来に聞いている。もし、未来が居なかったら宿題は終わらなかったと思う。


「ここ、ここ」


「あ~、それはね~・・・」


 その時、一階から呼び鈴の音が聞こえた。


「誰だろう?」


「一回出てくる?」


「ううん、大丈夫。お母さんいるから」


「そうなんだ。じゃあ、続けるね」


「うん!」


すると、もう一度呼び鈴が鳴った。


あれ?


「あ!そうだ!今日、買い物行くって言ってたんだ!ごめん、ちょっと待ってて!」


「うん!大丈夫、大丈夫」


私は急いで階段を駆け下り、玄関のドアを開ける。蒸し暑い外気が身に纏った冷気を奪い、瞬きをする間に吹き付けた。


「よっ」


えっ!?


「け、恵一!?どうしたの!?」


そこには部活のシャツを着た恵一が立っていた。突然の訪問に状況が呑み込めず、無意識に距離をとる。


「さっきまで合宿行ってて・・・・・・・・・それで、これ、お土産」


恵一はビニール袋を私に手渡した。中にはお菓子が入っていた。


「あ、ありがと・・・・・・」


「うん・・・・・・・・・・・・」


ずっと話したかった恵一は目の前、話せる距離にいるにも関わらず、何も話せずに沈黙が続く。


「・・・・・・・ねぇ」


「ん?何?」


恵一は顔を逸らした。


「今度の日曜日、花火大会あるじゃん」


「あ~、そうだね」


「・・・・・・・・・誰かと行く?」


えっ?


「ううん」


「・・・・・・・・・じゃあさ、一緒に行かない?」


えっ?


「私と?」


「うん」


「う、うん・・・・・・良いよ」


「じゃあ、待ち合わせ時間後で送る」


「分かった」


「じゃあ」


恵一は何事もなかったかのようにいつも通りに門扉を開け、家に帰って行く。


えっ?えっ?えっ!?ちょっと待って!?ちょっと待って!?


呆然と立ち尽くし、気付いた時には恵一の姿は私の前からいなくなっていた。

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