18話
突如訪れた一世一代の告白はうやむやになり、私が告白した相手は恵一ではなかったのではないかと思うほど、恵一は普通に過ごしているように見えた。もちろん、特に返事もなく、明日は何か言われるのではないかとソワソワしながら過ごし、気苦労が募っては一日が終わるということが繰り返され、気付けば明日からは夏休みだった。
夏休み前最後の登校日、今日も恵一から何を言われるでもなく、下校の時間になる。ここまで来るといっその事、本当に恵一ではない人に告白をした、あれは本番前の練習をしたんだ、恵一への告白はなかったんだ、そう思ってしまいたかった。
そんなことを悟られないよう、今日もいつも通り未来と一緒に帰っている。
「やっと夏休みだね!」
「だね」
「夏休み、凄い大変らしいよ」
「部活?」
「そうそう。私はその方が良いけど」
「どうして?」
「陸上を手抜きにはしたくないから」
「未来らしい」
割と厳しい部活である陸上部の練習が終わった後でも未来の足取りは軽く、いつも通りなその姿は自然と私に笑みを与える。
「あっ!源~!」
未来は駅の前でアイスを頬張る七崎君を見つけ、その方へ駆け寄った。そこには一緒になってアイスを食べる恵一がいた。
「源も今帰り?」
「おう!未来も?」
「うん!」
未来のテンションが一気に上がったことが分かる。
二人は付き合っているとはいえ、表立ってイチャイチャするような関係ではない。学校では恋人関係というより、ビジネスパートナーのような関係で、お互いを信頼し合っていることが伝わってくる。そんな二人でもいつもより人目の少ない学校外では恋人のように接したいものなのだろう。
最寄り駅に着き、未来と七崎君と別れて私達が家の方に歩き出したと思ったのか、未来が七崎君の腕にしがみ付くのを見てしまったが、直ぐに振り返った。
そして、自分が恵一と二人になったことを思い出す。
「サッカー部って、やっぱり厳しいの?」
無言になるのが怖かった私は恵一に話しかける。
「別に大したことないよ」
「そ、そうなんだ」
「うん」
「・・・・・・・夏休み!合宿とかあるの?」
「うん、一回だけ」
「そ、そっか!そっか!・・・・・・・結構大変?」
「どうだろう」
「・・・・・・・陸上部は、夏休み、結構大変らしいんだよね」
「へぇ」
恵一が別に怒っている訳でも、いつもと言動が違う訳でもないのに、どうにも会話が続かない。どうやって今まで恵一と話していたのか良く分からなくなっていた。
「でも、未来はその方が良いって言ってたんだよ」
「ふ~ん」
・・・・・・・・・・・もう少し。・・・・・・・・何で?
感じていたのは私だけなのかも知れないが、気まずい雰囲気にも終わりが来た。少し前まではもっと一緒にいたいとあれだけ思っていたのに、今日は別れられることにホッとしているのが分かる。
「じゃあ、またね」
「うん、また」
私は門扉を開き、足早に玄関に向かい恵一と距離が開くのを感じながら鞄の中の鍵を探した。