17話
遊園地に行ってから一週間が経った。この一週間、恵一とはほとんど話していない。二人の間だけに漂う気まずい雰囲気は恵一との間に見えない壁を作り、お互いがお互いを避けているような日々が続いた。そのせいで、一日中会話を交わさない日もあるくらい接点が減ったのだ。
そして、今日も恵一とは一言も会話を交わすことなく、下校の時間となり、いつも通り未来と一緒に帰っていた。
「咲菜さ、戸倉と何かあったの?」
「え!?いや、特に、何も」
急な質問に動揺がチラつく。
「・・・・・・そっか。いや、無いなら良いんだけど、最近あんまり元気無いし、戸倉ともあんまり話してないみたいだから」
「そう?そんなことないよ」
「・・・・・・うん、分かった。何かあったら言ってね」
未来は納得したわけではなさそうだが、それ以上詮索してくることはなかった。
未来の気遣いに心が痛んだ。こんなにも私のことを気にかけ、心配してくれている未来を裏切る形になってしまっているのが苦しく、心臓をしめつける。しかし、このままではいけないと私の中でスイッチが入った。
次の日、昼休みに恵一を呼び出し、階段の踊り場で恵一を待っていると間もなく恵一が来た。
「ごめん、急に呼び出して」
「いや、大丈夫。・・・・・・・何?」
恵一の表情は硬かったが、怒ってはいなさそうだ。しかし、気まずさは拭えていない。
「その・・・・・・この前のことなんだけど・・・・・・・・・」
定まらない視線が顔を上げた一瞬、恵一の目を捉え、直ぐに逸れた。
「この前は本当にごめん」
「・・・・・・・・・うん。分かった」
「・・・・・・け、恵一!!」
恵一から続く言葉はなく、沈黙に抗うように名前を呼んだ。
「う、うん」
「あの、私・・・・・・別にからかってあんなことしたんじゃないから。ずっと・・・・・・・・・ずっと、好きだったの!」
沈黙に耐えきれず、言うつもりのなかった本音まで口走ってしまい、恵一の驚く表情が自分が発した言葉の重大さを物語っていた。
「・・・・・・・・・」
「ケイ~」
階段の下から快活で、聞き覚えのある声がした。
「何してんの?」
「え!?いや・・・・・・特に何も」
そこには大量のノートを持って階段を昇って来る七崎君と何も持っていない手ぶらの未来が居た。
「ケイ、ちょっとこれ手伝ってよ」
「えっ?え?」
「良いじゃん。お願い!」
恵一は断り切れずにノートを渡される。
「だから私が持つって言ってんじゃん」
「未来は持たなくてもいいの!」
「ハァ、ごめんね、戸倉」
「ううん、大丈夫」
未来は溜息を吐きながら恵一に謝る。
「咲菜もごめん。何か話してた?」
「ううん、大丈夫、大丈夫!大したことじゃないから」
「・・・・・・・そっか」
恵一とそれ以上は話すことは出来ず、七崎君と前を歩く恵一の後ろに付いて教室へ戻った。