15話
恵一の唇から離れ、目を開けると、止まっていた時間が動き出す。この時、そこで動き出した時間がこれまでの時間とは一変していることに戸惑った表情で固まった恵一が気付かせた。
私は何を・・・・・・・・。
向かいの席に座っている恵一から向けられた奇異の目に耐えきれず、視線を下に向け、思考を巡らせる。
何で!?何であんなこと?どうして?
ジェットコースターでは隣同士で座り、メリーゴーランドでは手を握り返してくれて、お化け屋敷では恵一の方から手を差し伸べてくれた。今日、恵一がしてくれたことは全てが恵一の優しさだったにかかわらず、それを忘れ、恵一も同じ気持ちなのだと勝手に思い込んだ。自惚れていた私は身勝手な欲望を押し付けることへの躊躇を自然と捨てていた。
何やってんの私!?馬鹿!馬鹿!馬鹿!馬鹿!馬鹿!!
自分の過ちに腹が立ち、何度も心の中の自分に罵声を浴びせる。
時間が進む度、後悔は募り、泣き出しそうだった私は最後まで恵一と目を合わすこともなく、何の会話もせず、観覧車を降りる。それまで、ずっと下を向いていて、恵一がどんな顔をしているのか分からなかったが、あの時に見た恵一の瞳とは真逆の光を全く感じない瞳が見えた。
自分がした過ちの重さが背中に伸しかかる。潰れてしまいそうな自分を枯れた心で支え、立ち止まってしまいそうな足を動かした。
未来と七崎君と合流し、帰り道はずっと、未来と話した。気分はどん底、体調も悪い気がする。それを悟られる訳にはいけないと、余力を振り絞って笑顔を作った。今回は上手く誤魔化せたはずだと無意識に思った。
着いてしまった・・・・・・・。
最寄り駅に着き、未来と七崎君と別れると、最悪の雰囲気の残ったままの恵一と歩いた。会話はなく、無言で歩き続けていると、赤信号で止まった。
「・・・・・・恵一」
辛くなった無言を切り裂く。
「何?」
「・・・・・・・・・その、さっきはごめん」
「・・・・・・・・・・・・大丈夫」
信号が青に変わる。この後も無言のまま私の家に到着して、恵一は私に別れを告げる。いつもなら手を振っていたが、当然のことながら、今日は目も合わせてもらえず、自分の家に向かって歩いて行った。
家に入り、リビングに顔を出すこともせず、自分の部屋へと向かう。扉を開け、電気も付けずに暗い部屋のベッドに飛び込んだ。
一日の疲れが一気にベッドへと流れ込む。少しの間、うつ伏せだった私は息が苦しくなってひっくり返り、天井を見上げた。今日は身体的にも、精神的にも疲労が蓄積された一日だったが、それは全て、自分のしてしまった愚行なのだと記憶が蘇る。
あ~、もう何であんなことしちゃったんだろう。
何度思い返しても自分自身への怒りが収まらず、出来ることならあの場へ戻って、自分を殴ってでも止めたかった。
「咲菜~、ご飯食べないの~」
「今日は要らない」
もう何をするのも嫌になり、毛布を被って、目を瞑った。