13話
薄汚れた鉄の扉からお化け屋敷の中へと入る。未来は七崎君の袖を掴み、斜め後ろで震えていて、私は恵一の隣にいた。
「源、離れないでよ」
「うん、分かったよ」
七崎君は袖を掴んでいた未来の手を掴み、先に歩いていく。暗く不気味な雰囲気、肌に感じるどこから来てるか分からない冷たい風、想像以上のクオリティだ。
その時、生首が上から降って来た。
「キャァァァァァ」
未来と私は大きな悲鳴を上げた。
「源、もう無理・・・・・・。早く出よう」
未来は今にも泣きだしてしまいそうな涙声で懇願し、七崎君にの腕にしがみ付く。
「分かった、分かった。じゃあ、早く行こ」
七崎君と未来が先へ進む中、私は腰が抜け、尻餅をついていた。
「咲菜、こういうのダメだったっけ?」
声をかけて来たのは恵一だ。恵一の行動に驚きながらも差し伸べられた手を握り、再び、恵一の体温を感じると不思議と気持ちも落ち着いていく。それと共に、この場に似つかわしくなくない感情が心を占める。
恵一はお化け屋敷を出るまで私の手を握り、淡々とお化け屋敷を進んで行く。そのおかげで最後の方は勿論怖かったが、楽しさも感じた。
私と恵一がお化け屋敷を出ると、未来と七崎君はベンチに座って待っていた。未来はとても酷い顔で七崎君にもたれかかっている。
「酷い目にあった・・・・・・・」
未来は大きな溜息を吐く。
「ごめん、ごめん。次は未来が行きたいところ行こ!」
「うん・・・・・・」
未来は私達がいることなど頭にないのか、甘えたモード全開で、七崎君の腕を胸まで引き寄せ、身体を密着させている。
「行きたいところある?」
「・・・・・・・ジェットコースター」
「うん、分かったよ。じゃあ、ジェットコースター行こっか!」
「うん」
未来は少し元気になり、七崎君に上目遣いで笑顔を見せる。
「ケイ達はどうする?」
「ちょっと、休憩して適当に遊んでるよ」
「わかった!どう、未來。行ける?」
「うん!」
「よしっ!じゃあ、俺達は行きますか!」
未来は七崎君と腕を組みながら肩には頭をもたれかけて、ジェットコースターに向かって行く。私はその姿を羨ましく見送った。
未来と七崎君の姿が見えなくなると、私と恵一は並んでベンチに座る。
「未来、すごく甘えてたね」
「早乙女ってあんな人なの?」
「私も見るのは初めてだけど、話を聞いてる限り、七崎君の前だとあんな感じだよ」
「ふーん」
私もあんな風に恵一と過ごせたらと、出来もしない妄想がちらつく。
「これからどうする?」
恵一のこの問いに対する答えは一つだ。これはずっと行きたかったアトラクションの一つだったが、それを提案して良いものか決めあぐねていた。
「俺はどこでも良いよ」
欠伸をしながら言った、気の抜けた恵一の言葉は私の背中を押す。
「じゃ、じゃあさ、観覧車乗らない?」
「観覧車?」
「そう、久し振りに」
「・・・・・・良いよ。じゃあ、並ぼう」
恵一が立ち上がり、観覧車の方に行くのを浮足立ちながら追いかけた。