2 落ちたのは…
『おきて〜!』
『あぶないよ〜』
どこかでお友達の声が聞こえる。
…ん?なんかすごい風を感じる気が…はっ!
目を開けた瞬間、迫りくる森が目に入って、思わず手足をバタバタした。な、こ、これどうしよう…!
どうやら意識がなかったのは、一瞬だったらしい。首を絞められ、意識はなくなったけど雲の上から落ちている途中で気がついてしまった。
風のせいで髪の毛がバタバタとはためく。着ていたワンピースの下から空気が入って、膨らむ。迫りくる地上が怖くて、目をぎゅっと瞑れば涙がどこかへ飛んで行ったのを感じた。
『ぼくたちがどうにかするよ!』
小さいけど頼もしいその声が聞こえて、そちらのほうを見れば、お友達が私のことを見てニコニコ笑っていた。ものすごい勢いで落ちているというのに呑気に親指をピンと立てている。よく見れば、周りにいるたくさんのお友達はみんな楽しそうに笑って歓声をあげている。
『やっとかいほうだ〜!』
『これからはもっとたのしくくらそ〜!』
なんでみんなが楽しそうなのか、その言葉はどういう意味なのか、わからないことはたくさんあったけど、私と共に来てくれたたくさんのお友達が楽しそうなのは安心した。
『ありがとう』
『ぜんぜんいいよ〜』
『ぼくたちみんなアテナがだいすきだから、なんでもてつだっちゃうの〜』
口を開けば、ものすごい勢いで空気が入ってきて、話すことなんてできなくて。でもどうしてもみんなにお礼を言いたくて心の中で言ったはずなのに、なぜかみんなに伝わった。
なんで?とは思ったけどもういろいろありすぎて追及する気にはなれない。
『よし!もうそろそろだ〜!がんばるぞ!』
『『『『『おー!』』』』』
もうすぐそこに森があった。それを見てお友達が声をあげる。小さな拳を握りしめて突き上げているその姿は、すごくかっこよく見えた。そして…
『『『『『バリア〜!』』』』』
みんなが大きな声でそう言った。その瞬間落ちている速度が遅くなって、私の周りには半透明の膜?みたいなものができた。きっとこれがみんながさっき言っていたバリアなんだろう。バリアの中はちょっとだけあったかくて、風が当たらない。そしてなにより光で包まれている。
これだったらなんとか助かるかもしれない。どれくらいの強度かわからないけれど、今はもうこれしかない。
『しょうげき〜』
『きをつける〜!』
お友達のそんな声を聞きながら、私はバリアごと地上に突っ込んだ。
ボンッっとすごい音がして、でもバリアは壊れなかった。
ちょっと斜めった角度から突っ込んだからなのか、土にめりこまずごろごろと転がった私は数十メートルそのまま転がり続けてやっと止まった。
『よかった〜もうだいじょうぶだ〜』
『アテナだいじょうぶ〜?』
「うん、だいじょうぶだよ」
いつの間にかバリアはなくなっていて、私は地面に寝転がっていた。そんな私を心配そうにお友達が覗き込んでいる。
バリアのおかげで傷ひとつなく今も生きている。どれくらいの時間空を落ちてきたのかはわからないけど、雲の上にいた時に感じた命の危機はもう脱した。そして今から考えなきゃいけないのは…
「ねえ、ここどこかしってる?」
私が今ここにいるのはどこか、ということ。
雲の上から出たことなかった私は本当に狭い世界のことしか知らない。来たこともましてや見たこともないこの世界。何があるのかわからない。そう思った瞬間、サッと血の気が引く感覚がした。
私は何も持っていない。雲の上に荷物があるわけでもなく、本当に何も持っていない。あるとすれば、今着ているこのぼろぼろの服と命だけだ。
こわくて、心細くて、涙が溢れた。
その時、
「…ここで何してるんだ?」
突然聞こえたその声に驚いて顔をあげれば、涙がポタッと地面に落ちた。
たくさん生えた木の中でも一際大きな木の影から出てきたその人は、ゆっくりと私に近づいてきた。その人の片手には光ってて大きな剣が握られていた。
私…殺されるの…?
体が震えて、また涙が溢れた。今度はボロボロと止まることを知らずにどんどん落ちていく。
一歩、一歩、近づいてくるその人の後ろには弓矢をもった女の人がいる。
逃げなきゃ。ここから離れて、どこかへ行かなきゃ。誰もいないところへ。
そう思うのに体は動かない。力が入らない。
「こどもか?お父さんやお母さんはどうした?」
『ちかづくな〜!』
『アテナをきずつけたらゆるさない〜!』
動けない私を庇うように、お友達が前へ出る。
「精霊がこんなに…どうなってるんだ…?」
『あれ?このひとぼくたちのことみえてる〜』
『ほんとだ〜じゃあまりょくがつよいってこと〜?』
驚いたように私のお友達を見るその人は、呆然としたようにそこに立ち尽くしている。
そしてお友達も迷うように私のそばに戻ってきた。みんな私の肩や頭の上に乗って、それ以外の乗れなかったお友達は周りに座った。
『あのひとこわくないかも〜』
『うんうん、だいじょうぶかも〜』
困惑したように私にそう言ってくれるお友達。でも…でも、どうしてもこわい。
一人でいるのもこわい。知らない人といるのもこわい。
ぐるぐると頭が混乱する。
「大丈夫だ。俺たちは怖いことしないぞ」
いつの間にか近くにきていたその人が伸ばした手。
それが私の首を絞めるかもしれない。そう思った瞬間、すっごくこわくなった。
「、やっ!」
こわい。こわいの。
目がチカチカして開けていられない。頭もガンガンして痛くて痛くてたまらない。お友達の声も聞こえない。
そして私はいつの間にか意識を手放していた。