5-7 あふれて、こぼれる。⑦
「どうしたの、玲!? 今、開けるよ」
「いや、いい。そのままそこで聞いてくれ」
ちらりと佐々先輩はこちらを見やる。
「そこに、宮下もいるんだろ?」
「そう、だけど……」
扉の隙間からわずかに見える佐々先輩の、その表情を見て、その声を聞いて、これから何を言おうとしているのか分かった。佐々先輩はまるで未来なんか分かっているみたいに落ち着いていて、けれどどこか、地に足が着かないみたいに不安そうでもあって、そんな相反する気持ちを佐々先輩は、冷たい空気と一緒くたにして飲み込んでは、吐き出してゆく。
「まどろっこしいことはもうやめだ、涼美」
「玲……?」
「答えが分かっていて、伝えない方がいいと分かっていて、結果不幸になると分かっていたんだとしても……この気持ちを吐き出しておかねえと、この先、誰かを好きになったとしても、お前のことが頭をよぎっちまう。それこそが、最大の不幸なんじゃねえかとも思っちまうんだ」
この人は、どうして。
どうしてこんなにも、自分の気持ちに後ろ向きなのだろう。
「……何が言いたいのか、分からないよ、玲」
「お前がそんなに察しの悪い奴じゃねえって、こっちは分かってんだ。こちとら一年半もお前のことを見てきたんだから」
「分からないよ」
加倉先輩の声は、少し震えていた。
「分からない……。玲、どうして?」
「私は、私はな、涼美。こんな気持ち、なくなればいいと思ってたよ。とけてなくなっちまえば良いって。でもな、頭では分かっていても、私はお前のそばにいた。挙句の果てには今のこの状況だ。私ってやつは、自分にとことん甘かったってわけだ」
「私は……、私は……」
加倉先輩は、息苦しそうに、言葉を絞り出そうとする。
けれど、何も言えないのだろう。私にだって分かってしまった。加倉先輩にとって、佐々先輩は大切な友人であって、それ以上でもそれ以下でもないことが。
「私が何も言わなければ、仲良く友達やってられたのにな」
「いいよ、言わなくいい。言わなくていいから」
「ここまで聞いといて、そういうわけにはいかねえだろ」
私の目の前で、築かれていた友情が、崩れようとしている。
私が佐々先輩をふっかけたせい?
それとも、こうなるのは時間の問題だった?
佐々先輩の気持ちは秘められておくべきだった?
それとも、佐々先輩の言うように吐き出しておかないと不幸になった?
いったい、何が正しいのか。
いったい、何が最善だったのか。




