5-2 あふれて、こぼれる。②
イルミネーションは全て消えて、世界は真っ暗になった。
「わ、なになに?」
先輩と繋いでいた手が、離される。
まるで、図ったかのようなタイミングだった。
これも運命というやつなのだろうか。
だとしたら私は、――。
『現在、機材トラブルにより園内のイルミネーションが消灯しております。復旧の目途がたち次第、ご連絡させていただきます。ご迷惑をおかけして誠に申し訳ありません』
ガーデン内に、放送が響く。
なんだ、と暗闇の中で安堵したように先輩が呟く。
「玲とこなみちゃんは大丈夫かな」
と、先輩が気にかけた瞬間、私のスマホが鳴った。
小波からだ。
「もしもし、こなみん?」
『やふやふー、大丈夫かい?』
声だけだと言うのに、なんだか眩しさを感じる。
「特に問題はないけど」
『それなら良いのです。私たちは帰りますのでい』
「え、帰るの?」
加倉先輩が、ちらりとこちらを見やる。
先輩に聞こえないように、私は小声で訊ねる。
「佐々先輩は、良いの」
『他人なんて気にしてる場合じゃないんだよ。恋は戦争という言葉もあるしねい。そんなんじゃ負けちゃうよ?』
「……負けたくない」
『その意気だよ。夜はこれからだからねい』
「小波は……」
良いのだろうか。いや、良いに決まっている。
「ううん。何でもない」
『ミズっち』
「ん?」
『私はこなみんだよ』
「……うん」
『ふっふっふ。今日、運命は大きく変わるよ』
「出た、預言者こなみん」
『全てはあらかじめ決まっているのですよ』
「こうして、こなみんと話していることも?」
『そうそう。喜びも怒りも悲しみも、全ては筋書き通り。私がこうして発している言葉でさえ、それは私の意志ではなく、決められている通りに話しているだけ……』
「また哲学的な話?」
『うひっ。そういう考え方もあるっていうお話ですねい』
「そういうのには、抗いたくなっちゃうね」
『ふふーん。じゃあミズっちは神様に罰せられちゃうねい』
「いいよ、こなみんが何とかしてくれるから」
『どうですかねい』
にんまり、優しく微笑む小波が見える。
『では、長話もなんなので』
「ありがと、こなみん」
『頑張ってねい、ミズっち』
電話が切れる。
先輩が「なんだって?」と訊ねてきた。
「二人とも先に帰ってるみたいです」
「な、ええ? それはまたどうして」
「用事を思い出した、とかなんとか」
「嘘っぽさがすごい」
うーんと先輩はうなる。戸惑っているみたいだ。さすがに二人きりになれて嬉しい、なんて都合良く思ってくれてはいないらしい。それもそうだ。そうであったら、私は思い悩んでいる必要なんてない。私は、先輩の心を動かさなくてはならない。それだけの行動をしなくてはならない。これから私が取る行動も、全ては決まっていることなのだろうか。先輩が私のことを好きになるかどうかも、すでに答えが決まっているのだろうか。
そんなのは、分かりっこない。
分からないなら、決まってないのと同じだ。
少なくとも、私にとっては。
「とりあえず復旧を待って、それからまたゆっくり回りませんか」
と、私が先輩の手を再び取ろうとした瞬間だった。
また、アナウンスが入る。
『大変申し訳ございません。本日、機材の復旧が難しい状況となっております。入園料をご返却させて頂きますので、お手数ですがガーデンパーク入り口まで――』
「だってさ、宮下」
ため息交じりに、先輩は言う。
「私たちも、帰ろっか」
「……はい」
○
運命は、最初から決まっているのだろうか。
私と加倉先輩の気持ちが通い合うことはないのだろうか。
「そんなにしょげないでよ、宮下」
帰り道で、隣を歩く先輩が言う。
「また、違う時に来ればいいんだからさ」
的外れなことを言わないでよ、先輩。
その時は、先輩と一緒じゃなきゃダメで、今日みたいな特別な日でないとダメなのに。
「ね。元気出してよ、宮下」
「……はい」
小波に頑張ってと言われた手前、申し訳ないけれど、今日のところは大人しく帰った方が良さそうだ。何をしても、上手くいくような気がしない。
そう思っていたというのに。
電車に乗ろうと駅のホームに行くと、人だかりができていた。
「なんだろうね、宮下」
「嫌な予感しかしません……」
電光掲示板を見る。どうやら、事故があったらしい。
今日中の復旧は難しく、もう電車は動かないそうだ。
「クリスマスイヴだっていうのに、今日はついてないな」
白い息を吐きながら、先輩は言う。
「宮下の家って、ここから遠い?」
「歩くと、二時間はかかるかと……」
「ホントに? それはやばいね」
「バスもないし、タクシーもお金がかかっちゃいますし……」
一人、憂鬱な気分を漂わせながら、歩いて帰ろうと意志を固めたときだった。
先輩は言った。
「ここからうちなら、歩いて三十分ぐらいだし。宮下が良ければだけど……」
小波。
もし運命があって、全てが決まっているというのなら。
全ては、この為に仕組まれたことだって、それも最初から決まってたのかな。
「今日、うちに泊まってく?」
私は数秒悩むふりをして、はいと頷いた。
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