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とけて、宮下。  作者: 水野つき
第4章 おもい、あふれる。
26/33

4-8.5 くぐれない、トンネル。


 ☆


 誘拐、という言葉が的確であったように思える。


「チッ……。んだよ、あれ」


 だが、追いかけようという気にはなれなかった。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。 


「んっふっふ。二人になっちゃいましたねい、佐々先輩」


 虹色に瞬くトンネルの中、小谷が声をかけてきた。


「……お前、良いのかよ」


「どういう意味です?」


()()()()()()


「んっふっふっふっふ!」

 私の言葉を遮って、小谷は笑う。

「面白いことを考えてますねい、佐々先輩」


「面白くねえよ、全然」


「どうして、その結論に至ったんですかねい」


「……見てれば、分かっちまうっていうのか? っていうか、隠す気ないだろ、お前」


「あは。おかしいですねい、これでも精一杯、我慢してるんですけど」


「てめえのことは、てめえじゃ分かんねえんだよ。外に目ん玉があるわけじゃねえんだ」


「……難儀ってやつですねい」

 そう言って、小谷はわざとらしく肩をすくませる。

「佐々先輩は追いかけなくて、良いんですか?」


「私は、別に」


「んふ。()()()って、佐々先輩言ってましたよ」


「……目ざといやつ」


「耳ざといんですよう。それに、佐々先輩も隠す気ゼーローでしょう」


 思わず、ため息が漏れた。

 やっぱり、てめえのことは、てめえじゃ分からねえ。


「本当に良いのか、お前」


「ふふ。私はもう覚悟もスタンスも決まっていますのでい」


「……好きな人が幸せだったら、それでいいってか? 綺麗ごとだな」


「んふふ。こればっかりは、なるようにしかならないのですよ」


「だから、お前は何もしないのか」

 

「分かってないですねい、佐々先輩は」

 小谷は、両腕を広げた。

「人は、変わっていくんですよ。見た目も、中身も、価値観も、気持ちも」


「……」


「永遠のものなんて、ないのです」


「そう思うなら、それはその程度の気持ちってことだ」


「いいですねい。パッションを感じます。漫画の主人公向けですねい」


「そうやって誤魔化して誤魔化して、今までやってきたんだな」

 小谷は、笑顔を崩さない。

「一歩引いてりゃ、それは楽だと思うけどよ。てめえの気持ちに踏み込まないってのは、それはそれでどうなんだって私は思うよ」


「んふ。今の自分に言い聞かせているんですか?」


「あ?」


「そう言うのなら、加倉先輩を追いかけるべきではないのですか?」


「――私は」

 

 宮下水葉は、嵐のように現れた。

 そして宮下水葉は、あっという間に涼美と距離を縮めて、今この場にいる。

 私に「涼美が好きである」と告白をして。


 私は、臆病者だ。

 いつか、私の気持ちが伝われば良い。そんな淡い気持ちを抱き続けて、一年が過ぎた。


 涼美のファンの存在は、私にとって都合が良かった。

 厄介なファンから守るためだと言えば、体裁よく涼実のそばにいられたし、涼美に近付くやつをファンだとひとくくりにしてしまえば、涼美も一定の距離を置いて接するようにしていた。


 ――宮下水葉は、違った。


 あの日、涼美の家を聞きに来たとき。

 私はダメだと言って、追い払うことは出来なかった。


 宮下水葉の、気持ちを汲み取ったこともあったのかも知れない。

 けれど、それ以上に、涼美が宮下水葉のことを――。


「――綺麗ごとを言っているのは、私の方か……」


「悟りでも開きましたかねい?」

 

「ああ。面倒くせえよ、ホントに」

 そうやって、面倒がって逃げてきた結果が、これなのかも知れない。

 少なくとも、宮下水葉は向き合っていた。

 自分の気持ちにも、そして私の気持ちにすらも。

「厄介なヤツ……」


「んふ。諦めがついちゃいましたか?」


「……私が今ここで突っ立って、お前と話していることが答えなんだろうな」


「冷めてますねい。先ほどまでのパッションはどこへやら」


「誰も彼もが一番ってわけにはいかねえだろ」


「大人ですねい」


「馬鹿なんだよ、私」

 自虐めいたことを言うと、うひっと小谷は心底愉快そうに笑った。

「……お前はいったい、どういうつもりなんだよ」


「どういうつもりとは?」


「自分の気持ちを差し置いて、それどころか涼美と宮下の仲を取り持ってるじゃねえか」


「んふ。私、言ったじゃないですか。()()()()()()()()()()()()()()

  

「お前……」


「近すぎず、離れすぎず。適切な距離を保つ。白黒はっきりさせないで、曖昧な関係性を保つ。人間ってやつはねい、答えが分かってしまったらキョーミがなくなってしまう。幸せに浸っていたら、もっともっと幸せであることを求めてしまう。人間はねい、あらゆる環境にすぐに適応しちゃうほど賢いから、ある意味では厄介なんですよねい」


 小谷小波は、平然と笑っている。

 いったい、お前は何を考えている?


「ふふふ。そういえば、言い忘れていましたけど」


 小谷が口を開いたその瞬間、またトンネルは暗闇に包まれた。


「私、神様見習いなんですよ」










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