4-7 おもい、あふれる。④
「ま、それキッカケで涼美とはよく話すようになったよ。良くも悪くもな」
「良くも悪くも?」
「……深い意味はねえよ。浅い意味も、ねえ」
嘘つき、と私は心の中で呟いた。
スプリットを倒すべく、私は二つのピンと向き合う。
ボウルを投げて、ピンに当てて、そのピンをもう一方のピンへ弾き飛ばして、二つのピンを倒す。恋愛に例えて言えば……、ボウルは恋のキューピッドで、離れ離れだった二つのピンをくっつけるというわけだ。
「佐々先輩」
ボウルを持ったまま私は立ち戻り、佐々先輩の耳元でささやいた。
「私、加倉先輩のことが――」
「は?」
私はそのまま振り返って、思いっきりボウルを投げた。
「好きでええええええええす!」
私の放ったボウルは、どちらのピンにかすりもしないで、ど真ん中を駆け抜けていった。
「え、宮下、今なんて叫んだの?」
投球すんでだった加倉先輩が、クエスチョンマークを浮かべながら訊ねてきた。
「気合が入りすぎました」
「なんて叫んだの?」
「……すき焼き、ですよ。ほら、よくゴルフとかでも、チャーシューメンとか言って食べ物の名前を言いますから」
「へえ。なるほど、私も叫んでみようかな」
席に戻ると、佐々先輩はぽかんと口を開け放っていた。
「……なあ、聞き間違いか、私の」
「私はね、先輩」
佐々先輩の隣に、腰を下ろす。
「悪いなんて、思いませんよ。今も、これからも。絶対に」
「……」
「佐々先輩は、どうなんですか」
これって、おかしなことですか?
これって、悪いことですか?
「加倉先輩のこと、どう思ってるんですか」
佐々先輩は黙って立ち上がり、ボウルを持つ。
投球フォームは一切ぶれることはなく、佐々先輩はしなやかにボウルを放った。
ピンが、鮮やかに飛び跳ねる。
ストライクだった。
佐々先輩は戻って来て、舌打ちをしてから、言った。
「お前と同じ気持ちだよ、私も」
○
最後にやって来たのは、このあたりでは有名なイルミネーションスポットであるガーデンパークだった。完全にデートコースというやつだ。佐々先輩は、もとより加倉先輩と二人でここにくるつもりだったのだ。
冷静に考えれば、アピールとしてはこの上なく分かりやすい。
相手が、相手であれば、だけれど。
「やっぱ、カップルだらけだ」
前を歩く、加倉先輩が言った。
その隣を歩く佐々先輩が「そうだな」と素っ気なく返す。
「玲は良い人いないの?」
「いたら、お前とこんなとこ歩いてねえよ」
「えー? 部活とかでいい感じにならないの?」
「ならねえんだよ」
なんだか、聞いているこっちがハラハラとさせられる。
「がさつだしな、私は」
「え、どこが? むしろ、繊細じゃん」
「お前は本当に、何を見てるんだ?」
「玲だよ」
淀みなく、加倉先輩は言う。
「いろいろ気、遣ってくれてるでしょ」
「……覚えがねえ」
「無意識でやってるんでしょ。いつも車道側歩いてくれるし、私がダウンめな時はすぐに気付いてくれるし」
だから、と加倉先輩は言う。
「玲って、モテると思うんだけどな」
「……みんなに優しく出来るほど、私は人間できてねえんだよ」
「私だけ特別?」
「そういうもんだろ、……ダチっていうのは」
「んっふっふ、ダチ認定いただきました」
「っせえな」
なんて、もどかしい。
背中を押してあげたくなる。けれど、私はキューピッドになるつもりはない。
「むつかしい顔してるねい」
隣を歩く、小波が言う。
「またおジェラ?」
「……半々かな」
「おや。もう半分は?」
「……優しさかも」
薄っぺらで、どろどろの優しさ。
「ふふふ。バッファリーンだね」
「はあ。頭が痛いよ、私は」
「加倉先輩のお隣歩かなくて良いのかにゃ?」
「……」
佐々先輩のことを想うと、言葉が出ない。
あの人はたぶん、一年以上も加倉先輩に片想いをしている。
今日だって、本当は加倉先輩と佐々先輩が二人で遊ぶはずだったのに、それを私が潰してしまったようなものだ。
「また、お悩んでるようだねい」
神様見習いの小波は、世界を見通すかのように言った。




