4-5 おもい、あふれる。②
「加倉先輩にはファンがいて、それで」
やはり、ここは聞いておきたいところだった。
「私が気に入られてるというのは……?」
やれやれという言葉がこもったようなため息を漏らしてから、佐々先輩は言う。
「……そういう輩に対して、意外と塩対応なんだよ、あいつ」
「塩対応……。具体的には?」
「なんつーかな、表面上は愛想よく振る舞ってるけど、あいつから話を広げたりしないって感じっつーの?」
「そうなんですか」
案外、人懐っこいところもあると思うこともあっただけに、少し意外だった。世の中意外だらけだねえ、としみじみ言っていた小波を思い出す。
「だから、お前も気をつけとけよ。あんまり仲良くしてると、背中でも刺されるかも知れねーし」
これは、釘を刺されたと見るべきなのか?
けれど、関係ない。私はもう、突き進むと決めたのだ。
「……刺し返しますよ、私」
「は?」
「刺されたら、刺し返します。倍返しで」
「……怖いこと言うな、お前」
「冗談ですよ」
「やっぱりお前って」
変な奴、と眉間にしわを寄せて佐々先輩は言った。
○
佐々先輩と雑談をして、およそ三十分が経った頃だった。
「あれ、二人とももう来てたの!?」
改札口から現れたのは、加倉先輩と……。
「こ、こなみん……」
「やー、気合い入ってるねい、ミズッち」
私の頭の中で思い描いていたのと同じように、にまっと小波は笑う。
「ちょう早いねい。ドッキリ大失敗!」
「か、加倉先輩と一緒に来たの?」
「うひっ」
微笑んで、小波は私の耳元に口を寄せる。
「安心しーて。たまたま、同じ電車に乗ってただけ」
「私は、何も……」
「ジェラシーオーラがビシバシ来てたましたです」
「うぐ」
嫉妬。
七也が他の女の子と話していても、あまり感じることはなかった気持ち。私が加倉先輩を好きだということを、思い知らせてくれているのだろうか。愛と憎しみが並べ立てられる理由を、なんとなく理解できたような気がする。
厄介だな。
好きなら好きで、ただそれだけで良いのに。
「暗い顔はノンノ」
小波の手が、頬に添えられる。
太陽みたいに、小波の手はやっぱり熱い。
「いっぱい笑って、プリティなとこ見せなきゃだよ」
「……そだね」
「うひひ、やっぱりミズっちが笑うと可愛いねい」
「あれ。私、口説かれてる?」
「あはっ、ばれーた?」
「嘘つき」
「ふふふ」
「あはは」
「なになに、愉快な話?」
声がふってくる。加倉先輩だった。
「小波ちゃんと宮下って、仲良いんだね。っていうか、こなみちゃんだったっけ。あれ?」
「こなみんは、あだ名なのです!」
「そうなんだ! じゃ、私もこなみちゃんって呼んでいい?」
「よよいのよいですよ!」
「あ~、なんか妹感あって可愛い! わしゃわしゃしたくなる!」
「頭のもこもこなら、もこもこして良いですよう」
「わー、もこもこもこ」
小波の被っていた、ロシア風のファー帽子を加倉先輩はもこもこする。アウターである淡いピンクのプードルコートもよく似合っていて、加倉先輩の言う通りなんだか妹のようで可愛らしいし、もこもこされてずるい。
小波と目が合って、ぺろりと舌を出される。
「佐々先輩とは、初めましてですねい!」
加倉先輩からのもこもこを抜け出して、小波は佐々先輩の隣に並ぶ。
「歩きながら話しませんか?」
「あ、ああ」
「れっつらごー!」
小波と佐々先輩が、並んで歩き出す。
どうやら、気を遣ってくれたらしい。
「んじゃ、私たちも行こっか、宮下」
「……はい」
「……ヤキモチ妬いてる?」
「はい!?」
びっくりして、普通に喉の奥から大声が漏れた。
ちら、と佐々先輩が怪訝そうに一瞬こちらに振り向いた。
「何を言い出すんですか……」
「だって宮下、もこもこしてるときにすごく見てたから」
「も、もこもこが気になってただけです」
「へー、そうなんだー、ふーん」
加倉先輩は、にやにやとしている。
私はそんなにポーカーフェイスが下手だったのか。
それでも、それでも分かるまい。
私の秘めたる、この気持ちは。
「認めます、認めますよ。ちょっと妬いてました」
「お、素直な宮下。もこもこないけど、もこもこしてあげよう」
もこもこもこと言いながら、加倉先輩は私の頭をもこもこしてくる。
この人は、本当に、人の気も知らないで。
いや、知らないからこそ、なのか。




