4-4 おもい、あふれる。①
待ち合わせは、以前と同じ改札前。
この間は私が待ち合わせの三十分前に来たわけだけれど、あの人のことだから、私に対抗して一時間前に来ていたりするかも知れない――そう思って、待ち合わせの場所を訪れると、そこにいたのは。
「……マジかよ」
「あはは、どうも」
佐々先輩の姿が、そこにはあった。
○
全体的なシルエットはすらりとしていて、背は私よりも、加倉先輩よりも高い。どこかの雑誌のモデルをやっている、と言われても信じてしまいそうだし、実際にやっているかも知れない。紺色のスキニ―デニムに、少し大きめのダウンジャケットを羽織っており、短い髪も相まってボーイッシュにまとまっている。
「んだよ、マジマジと見て」
「す、すみません。ちょっと見惚れてました」
「は?」
「ああ、いやその、かっこ可愛いなあと思って」
チッと舌打ちをして、佐々先輩は私から視線を逸らす。
「んだよ、調子狂うな」
「……照れてます?」
「調子乗んなよ」
「す、すみません」
「なんでこんな早く来てんだよ」
「いや、佐々先輩こそ、めちゃくちゃ早いじゃないですか」
「あいつ……涼美と待ち合わせすると、大抵三十分前にはいるからな」
「……加倉先輩とは、よく遊ぶんですか」
「それなりにな」
「それなりですか」
「お前は、どうなんだよ」
「私、ですか?」
「ちょくちょく、会話にお前が出てくるんだよ」
ちょっと不機嫌そうに、佐々先輩は言う。
「なんか、飯食いに行ったのは聞いたけど」
「どこかに行ったっていうのは、それだけです。後は、学校で顔を合わせるぐらいで」
「……そうか」
佐々先輩はポケットからスマホを取り出す。
「ま、あいつも一人暮らしで忙しいからな」
「あの時は、ありがとうございました。家の場所、教えてくれて」
「ああ、そんなこともあったな」
「佐々先輩も、加倉先輩の家に行ったことあるんですか?」
「まあ、何度かな」
「へ、へえ」
ああ、思ったより佐々先輩と加倉先輩の仲は良いみたいだ。
ライバル、と言っては語弊があるだろうか。しかし、佐々先輩が加倉先輩に対して恋愛感情を持っていないとは言い切れないし、例え友情関係であったとしても、超えなければならない壁には違いない。
「だから、マジマジ見んなって」
「そ、そんなに見てません」
嘘だ。マジマジ見ていた。
スマホを触る横顔は、傍から見れば かっこよくて綺麗で、少し羨ましい。
「やっぱり変な奴だな、お前」
「や、やっぱりってなんですか」
「深い意味はない」
「浅い意味はあるんですか」
「は~、くだらねえ言葉遊びしやがって」
「うっ」
小波の影響かも知れない。
うひ、と嬉しそうに頭の中で小波が笑っていた。
というか、頭の中にすっかり小波が住み着いていないか、私。
「急ににまにましだして、気持ちわりいな」
「し、してませんよ!」
「……変な奴。涼美が気に入るわけだ」
ぼそっと呟いたその言葉を、私は聞き逃さなかった。
「気に入られてるんですか、私」
「知らねえよ、知らねえ知らねえ」
「知らないって、自分で言ったんじゃないですか!」
「だー、なんだよお前! 涼美大好きかよ!」
ぴた、と私の中で時間が止まる。
――あまり、佐々先輩には迂闊に気持ちを押し出さない方が良い気がする。
少なくとも、――今、言うことではないというのは確かだ。
「かふっ」
動揺して、噛んでしまった。
「……加倉先輩って、そういう、気に入るとか入らないとか、あるんですか」
平静を装って、佐々先輩に訊ねる。
スマホの画面と、私をちらりと横目で見ながら、佐々先輩は応じる。
「お前が知ってるのか、知らないのか、知らねえけど、あいつファンがいるくらいには人気なんだよ」
「ふ、ふぁん?」
我ながら、素っ頓狂な声が漏れてしまった。
「男にも女にも、不思議ともてるんだよ、あいつ」
無意識だろうか、佐々先輩は深いため息をつく。
「たまーに私も、そのファンに噛みつかれるわけだが」
「ま、まるでアイドルですね」
「違いねえな」
私ももれなくファンの一人と言っても過言ではないのだけれど。
だからこそ、分かってしまう。言葉では説明しようのないカリスマ性みたいなものが、加倉先輩には備わっている。確かに容姿も優れているのには違いないのだけれど、それだけではない何かが、加倉先輩には備わっているように思える。それをカリスマ性の一言で言ってしまえば、それまでなのだが。




