4-2 おもい、なやむ。②
「ミズッちは、モンブラン好きなの?」
ショートケーキをもぐもぐしながら、小波は訊ねてくる。
「好きだよ」
「栗も好き?」
「もちろん」
「じゃあ、その栗は最初に食べる派ー?」
「最後にとっておくかな」
言いながら、私はモンブランに乗っていた栗をお皿の隅に移す。
「まあ、あんまり深く考えてないけど」
「いちごはお好き?」
「まあまあ好き」
「ていっ!」
「あっ!」
グサリ、と私がお皿の端に置いた栗に、小波はフォークを刺す。
「ちょっとちょっと!」
「いただきます」
「あーっ!」
栗が、小波に食べられた。
「なーもー、こなみーっ!」
「私の名前は小波です!」
「知ってるよバーカーもう!」
「うひひ、めちゃ怒るねい」
「とっといた、って言ったじゃん!」
「んひ。いちごあげるから許してよい」
「うー、許すけど……」
「ふふふー、分かってくれたー?」
「なにが」
「ぼやぼやしちゃってると、他の誰かに取られちゃうってことだよ」
「それとこれとは話が別!」
「んー、ホントにそう思う?」
「それは、……」
「もうミズッち忘れてるーっしょ。大事なのは『今でしょ』なんだよ?』
加倉先輩は――たぶんモテる。
単純にルックスが良いし、バランスも良い。あの中性的な感じは、男受けも良くて女受けも良いだろう。私が出会った中では最強と言っても、過言ではない。誰かを好きになったことはないと言ってはいたが、告白ぐらいはされたことがありそうだ。それに、加倉先輩はそれなりに人懐っこいところもある。
つまりは、加倉先輩がいつ、誰と付き合っても不思議ではない――ということだ。
「というわけで、スマホ出すのだ!」
「何するの」
「今、すぐ、この場で! メッセージ送ってクリスマスイヴ誘うんだよ」
「うむ~」
よく分からない声が漏れ出てしまった。だけれど、小波の言うことは正しい。結局のところ、動かなければ始まらないし、タイミングを図っていてもどうしようもない。今でしょ、という予備講師の声が脳内で反響する。
「うじうじしててーも、結局誘うんでしょ、ミズッちは」
「そうだね」
スマホを机の上に置いて、加倉先輩とのメッセージ画面を表示させる。
「よし、送る!」
「ごーごーごーごー!」
「『加倉先輩、クリスマスイヴは何かご予定ありますか。今年は私も一人なので、良かったら遊んでくれませんか』……。これでいいかな。いやでも、ちょっといきなり過ぎのような……」
「はい、ポチーーーっ」
「あーーっ!」
小波に送信ボタンを押された。またも不意打ちだった。
「ちょっとちょっとちょっと! まだ推敲の余地があったかもなのに!」
「お紅茶が冷めるといけませんのでい」
「こなみぃぃぃ!」
「小波です!」
なんて、やり取りをしている間にもう、既読がついていた。心臓が耳の近くにあるんじゃないかってぐらいに、ばくばくと騒がしく音を立てている。
「うひ。そわそわして可愛いねい」
「このメッセージを待つ時間が、ホント無理」
「ドッキドキ?」
「ドギマギし過ぎて気持ち悪くなってきた」
「乙女~」
「あーもー、他人事だと思って!」
「んふふ」
と、スマホから通知音が鳴る。
その音が、私の心臓を直接押しているみたいで、とても痛い。
「読まないの?」
「……モンブラン食べ終わってから読む」
「じれったいので読みまーす!」
「ちょ、こなみ!」
スマホを奪われた。
「返せ!」
「即断即決、今今の今でしょ!」
「うぐぐぐぐ……」
「……自分で読むかい?」
「……読む」
「ほほいのほい」
小波からスマホを受け取る。
紅茶を一飲みしてから、私は先輩からのメッセージを開いた。
『おー、イヴは玲と約束してるんだよ。良かったら孤独な女の子どうし女子会でもするかい?』
玲。佐々先輩だ。まさかここで佐々先輩の名前が出るとは思わなかった。
「どうしたの、豆鉄砲でも食らった顔しちゃってい」
「まさにそんな感じだよ、もう」
佐々先輩は、いったいどういうつもりで加倉先輩をクリスマスイヴに誘ったのだろう。
普通に考えれば、彼氏がいないもの同士での女子会という名目で成立するだろうけれど、佐々先輩が自らそんな提案をするような人だとは思えない。とすれば、加倉先輩から佐々先輩を誘ったということになるのだろうか。それはそれでモヤモヤとする。そこに恋愛感情がないのだとしても、いや、ないのだろうけれど。
私は加倉先輩にとっての、一番でありたい。
「はあ」
「大きなため息だねい」
「我ながら、だいぶ拗れてきてるなあと思って」
「人間みんな拗れてるから、大丈夫だよい」
「大きく出たね」
「人の幸福は、恥辱の果てにあるのです」
「出た、こなみんの謎講義」
「聞く?」
「聞く」
「全ての生命は、繁殖しなければならないのです。私たち人間も、例外ではありません」
「やらしい話?」
「いえす」
「こなみんはNGないの?」
「ありません! 続けます!」
止めようかとも思ったけれど、幸い周りにお客さんもいないので続けてもらうことにした。




