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とけて、宮下。  作者: 水野つき
第3章 あなたを、おもう。
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3-6 あなたを、おもう。⑤

 加倉先輩と別れて、私は近所の公園を訪れた。

 七也は、すでに公園に来ていた。街灯に照らされながら、ベンチに座っている。七也以外に人はいない。じゃり、と私の足音が響いて、七也は顔を上げた。

 

「お待たせ」


「今、来たとこだよ」


 少し間を空けて、私は七也の隣に座る。


「久しぶりに来たけど、こんなに遊具って小さかったんだって、びっくりしたよ」

 なんだか嬉しそうに、七也は言う。

「最後に来たのって、小学校の六年ぐらいだっけ?」


「たぶん、そのぐらいだね」


「ちょっと乗ってみる?」


「いいよ、乗ってみよう」


 近くにあった、シーソーに向かい合って座る。

 七也の言う通り、こんなに遊具って小さかったのかと思い知らされる。

 互いに端と端に座って、上下に激しく動いていたシーソーも、今はずっと七也の方に傾いたままだ。


 ジャングルジムなんかは、よく中に入り込んでいたというのに、今はもう外側を登るだけしか出来そうにない。七也は、からだを折りたたんで無理やり入り込んでいたけれど、「息苦しいや」と言ってすぐに中から出てきた。


 一通り、公園の遊具を巡って、最後にブランコに乗った。

 

「よく靴を飛ばして遊んだっけ」


 ブランコを漕ぎながら、隣の七也は言った。

 あの頃は、何も考えずにスニーカーを履いていた。

 靴を飛ばすことにも、何の躊躇(ためら)いもなかった。


 いつからか、身だしなみに気を遣うようになった。自分に似合う髪型はどんなのだろうって、色んな雑誌を読んだり、友達に意見を聞いたりした。ファッションにも気を遣うようになって、化粧もするようになった。あどけなかった私はもう、どこにもいない。


 七也は、何も変わらなかった。

 子どもの頃のまま、ぼさぼさの頭で、少しよれたチェックの服を来ている。襟足の短いジーンズからは、白い靴下が見えていた。


 白いスニーカーが、宙を舞った。


 綺麗な放物線を描いて、それは地面に落ちる。


「よく飛ぶなあ」と、七也は言った。


 スニーカーを取りに行って、七也はまたブランコを漕ぎ始める。


「変わらないね、七也は」

 真正面を見たまま、私は言った。

「小学校から、変わらない」


「それは良い意味なのかな」


「両方かな」


 私は、ブランコを漕いでいた。

 一人で、ブランコを漕いでいた。

 小学二年生の春、私はこの街に転校してきた。

 

 クラスは二つしかなくて、人間関係はすでに出来上がっていた。当時引っ込み思案だった私は、クラスの輪に馴染むことができないで、いつも一人だった。


 だから、日の暮れた頃に、私はよくこの公園に行っていた。

 誰もいない公園で、思い切りブランコを漕ぐのが私の楽しみだった。


 いつも通り、私が一人でブランコを漕いでいるときに、七也はやってきた。私が転校してきて、初めて迎えた夏休みのときだった。今日みたいに、ベンチの近くで街灯がついているだけで、私は隣のブランコに七也が来ていることに全く気がついていなかった。


「ねえ。だいじょうぶ?」


 七也は声をかけてきて、私は慌ててブランコを止めた。

 私は気恥ずかしくて、走って逃げ出したくなったのだけれど、七也も一人で、同じクラスの男の子だと分かって、その場に留まった。


「七也くん……?」


「うん。水葉ちゃんだよね」


「うん……」


「いつも、だいじょうぶかなって思ってたんだ」


「えっ?」


「さみしそうにしてるから」


 学校でも、公園でも、と七也は言った。

 七也は私が公園でよくブランコを漕いでいるのを知っているようだった。


「ねえ、僕と一緒に遊ぼうよ」


 そうやって、七也は私のことを誘ってくれた。

 思い返せば、いつもそうだった。夏休みが終わった後も、七也はさりげなく私を七也のグループに入れてくれた。それから女の子の友達ができて、クラスの皆とも話せるようになった。


 時折、公園に行こうと七也から誘われて。

 二人でブランコを揺らして、二人で靴をとばして。

 そんな時間が積み重なっていって。

 小学校を卒業する時に、七也に告白された。


 当時の私は、深く考えることもしないで「いいよ」と言った。

 仲の良かった男の子は七也しかいなかったし、付き合うということにも、特に嫌悪感を抱くこともなかった。


 それが、全ての間違いだったのかもしれない。


 ○







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