3-4 あなたを、おもう。③
店に入り、先輩と向かい合って座る。
店員さんの説明を聞いて、私たちはスイーツを取りに回った。
テーブルの上には、ケーキやゼリー、パフェやアイスクリームなど、見ているだけでお腹がいっぱいになりそうだった。
「先輩、取り過ぎじゃないですか?」
「善は急げって言うからね」
「先輩のそれは、ボケなんですか?」
「時は金なり、の方が正しいかな」
「どっちでもいいです……」
「ほら、早く食べよ」
いただきます、と私たちは手を合わせてスイーツを頬張る。
「美味しい~」と、先輩は分かりやすくリアクションを取る。なんだか微笑ましい。
「宮下、食べないの?」
「先輩が美味しそうに食べるので、つい」
「つい?」
「見ちゃってました」
「え。なんか恥ずかしいな……。宮下も食べてみてよ。見てるから」
「み、見てなくていいですよ」
「宮下は見てたじゃないか」
「見てたというか、見ちゃってたというか」
埒があかなそうなので、私はフォークでショートケーキをすくって、口に含む。
「あ、美味しい」
「なんか淡泊」
「そんなこと言われましても」
「そんなんじゃ、食リポは出来ないよ」
「やらないから大丈夫です」
「淡泊だなあ、宮下は」
美味しい~と、先輩はまた幸せそうにケーキを頬張る。
淡泊なんかじゃ、ない。だって、ケーキなんかよりも、ずっとあなたを見ていたいと思っている。
そんな劣情を打ち消すように、私は甘ったるいスイーツを口に運んでいく。
○
「はぁ~、満足してきた」
制限時間は、残り三十分。
加倉先輩は、いったん休憩と言って、ホットコーヒーをすする。
「まだ食べられるんですか」
私はもう、満足を通り越して満腹だった。
これ以上、何もお腹には入りそうにない。別腹までいっぱいいっぱいだ。
「羨ましいです」
「え、何が?」
「それだけ食べても、スラっとしてるじゃないですか」
「あのね、いつもこれだけ食べてるわけじゃないんだよ」
先輩は、唇を尖らせる。
「面倒で、ご飯作らない日とかあるし」
「それはそれで、心配ですけど」
そういえば、この人は一人暮らしをしているんだった。
「宮下が家政婦になってくれてもいいよ」
「な、なりませんよ」
ちょっと良いかな、なんて思ってしまう自分が怖い。
「たまに、ご飯作るくらいなら、良いですけど……」
「おお、宮下って、料理できるの?」
「それなりには」
「そっか。ならこの間、作ってもらえば良かったな」
「私、お昼自分でお弁当作ってるんですけど」
冷静さを装って、私は言う。
「先輩の分も作りましょうか?」
「え、本当に?」
「……一人分作るのも、二人分作るのも、そんなに変わりません」
「そんなことはないでしょ」
うーん、とコーヒーを一飲みして、先輩は言う。
「そうだ。私も作って来るから、交換しようよ」
それは、なんとも魅力的な提案だった。
「先輩も、お昼は自分で作ってるんですか?」
「元気な時は」
「なるほど」
「だめなおかずとか、ある?」
「本当に作ってくれるんですか?」
「あれ、冗談のやつだった?」
「いえ、その、冗談じゃないやつです」
「じゃ、教えて、宮下」
苦手なものは、という先輩の問いかけに、私は「ありません」と答えた。
「先輩は?」と訊ね返すと、「私はブロッコリー」と答える。
「あの、モシャモシャがだめなんだよね」
「もしゃもしゃ……」
「うーん、森感って言うのかな」
「先輩って」
変な人。小波ほどでは、ないけれど。
「ちょっと不思議系入ってますよね」
「うぇ、よく言われるやつ」
「やっぱりですか」
「この前、とうとう玲にも言われたんだよね」
不意に出たその名前に、少しだけ胸がチクリとした。
「佐々先輩にも、ですか」
「あ。そういえば、玲が宮下のこと褒めてたよ」
「え、褒めてたんですか?」
「うん。変なやつだって」
ガクッと椅子から滑り落ちそうになる。
「それ、褒めてませんよね」
「褒めてる褒めてる!」
前のめりになって、先輩は言ってくる。
「変なやつで、たぶん良いやつって言ってた」
「素直に喜べない……」
「でも、玲がそう言うのってあんまりないから、良いやつだって思ってるんだよ。それに、宮下が良いやつだってのは、私も分かってきたよ」
「……どうでしょうね」
私は、きっと良いやつなんかではない。
全部、全部、全部、自分のために。
そして、これからやろうとしていることも。
制限時間は、残り十分を切っていた。
「……先輩、私には」
言わなくて、良いことかも知れない。
でも、言っておかなければならない。
それが、七也に対する贖罪であって欲しいと、身勝手に私は思う。
「彼氏が、いるんです」
○




