3-3 あなたを、おもう。②
迎えた、休日。
駅の改札口で待ち合わせていたけれど、まだ来ていないようだった。
柱にもたれかかって、スマホを取り出す。メッセージは来ていない。それもそうだ。まだ待ち合わせの三十分も前なのだから。やっぱり、待たせるよりも待ちたい。そんなことを思っている自分が、なんだか自分でも不思議だった。
アプリのゲームをやりながら、相手が来るのを待つ。
くるくると指を動かすけれど、上手く集中は出来ない。
いつもなんなくクリアできているステージも、今日は苦戦している。
まるで世界が引き伸ばされているんじゃないかって思えるぐらいに、時が経つのもゆっくりだ。
今、どこにいるのだろう。
メッセージ画面を開いたり、閉じたり、我ながら忙しない。
次の電車が来たのだろう。
改札口に人が流れ込んでくる。それでも、まだ二十分前だ。
改札を抜けてくる人たちを顔を合わせないように、私は顔を伏せてスマホの画面を注視する。
「わ、宮下さん、早いね!」
予期せぬ声。
顔を上げると、加倉先輩が目の前に立っていた。
「ごめんごめん。待たせちゃった?」
「いえ、そんな……。先輩こそ、早いですね」
「だって、可愛い後輩を待たせるなんて、かっこよくないでしょ。いや、結果的には待たせてしまったんだけど……」
うろたえる先輩。
計算違いはお互い様だったわけだけれど、嬉しかった。
私のために、早く来ようとしてくれたその気持ちが、嬉しい。
「いいんですよ。だって、後輩が先輩をお待たせするわけにはいかないですから」
「うーん。そんな気を遣わなくていいんだよ? 先輩とか、関係なくさ」
「……先に後輩って言いだしたのは、先輩ですよ」
「う。鋭いな」
「先輩も、私が後輩だからって、気を遣わないで下さい」
だって、対等でありたい。
先輩の前では、一人の女の子でありたい。
なんて言ったら、気持ちが悪いだろうか。
「年下とか関係なく……接して下さい」
「難しいことを言うね」
「難しくありません」
「じゃあ、まずは敬語をやめようって話になるけど」
「……難しいですね」
「ふふ。ま、こういうのは流れだよ、流れ」
「そういうものですかね」
「君は、お友達に敬語を止めます! って宣言して止めたことある? そんなことないでしょ」
「気付けばタメ口でした」
「そういうことだよ、宮下」
「……そうですね、加倉、先輩」
「義理深くて可愛い後輩だ」
ため息混じりに笑って、先輩は歩き出す。
「さ、行こっか、宮下」
「はい」
先輩の、隣に並んで歩く。
たったそれだけのことなのに、ふわふわと雲でも踏みしめているかのような感じで、落ち着かない。帰りには空でも歩いてしまっていそうな気がする。
「宮下、お腹は空かせてきた?」
「はい。おにぎり一つで留めました」
「シーチキンマヨ?」
「明太子です」
「えー、意外と辛いもの好き?」
「そんなに明太子は辛くないですよ。甘いものも好きです」
「それなら安心。今日はたんまり食べていいからね」
スイーツバイキング。
それが先輩からの、お返しだった。純粋なお返しというよりかは、自分も行きたいという節は透けて見えているけれど。
「なんか私服の宮下、新鮮だね」
少し間を置いて、先輩は言った。
「ガーリーだよ」
「……褒めてます、それ?」
「ほ、褒めてるよ」
秋らしく、キャメル色のカーディガンに、ブラウンチェックのタイトスカートを履いてきた。わりと悩んできただけに、褒めてくれているというのなら、それはそれで嬉しい。
そんな私と相反して、先輩はスポーティで動きやすそう格好をしている。シンプルな黒のハイネックニットにストレートデニム。そして黒のスニーカーを履き合わせており、シンプルな色合いなのに、どこか大人っぽくてかっこいい。
「先輩も、似合ってます」
「お世辞?」
「違いますよ」
案外、素直じゃないのだろうか。
「大人っぽくて、かっこいいなって思いました」
「うは。宮下って、わりとハッキリ言ってくるよね」
「……そうでもないですよ」
「そうなの?」
「ものによりけりです」
「政治家みたいなやつ」
「ちょっと違う気がしますけど」
「もう少し可愛げがあるかと思ったけどな」
「な、私、可愛げないですか!?」
「急にスイッチ入るね!?」
「す、すみません。いや、冷静に考えたら、あまり可愛げはないかも知れません……」
「しょんぼりするなって、宮下」
ごくごく自然に、先輩はポンポンと頭を撫でてくる。
「今、可愛げが出てきてる」
「……先輩、こういうこと誰にでもしてます?」
「え、どういうこと?」
「いや、何でもないです」
「あ、着いたよ、宮下」
立ち止まる先輩に合わせて、私も足を止める。
スイーツバイキング店『ハルノクニ』。
「入ろ入ろ!」と、足取り軽やかにお店に入ってゆく先輩の後を追う。
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