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とけて、宮下。  作者: 水野つき
第3章 あなたを、おもう。
12/33

3-2 あなたを、おもう。①

 お昼になって、私は七也と向かい合ってお弁当を食べる。

「具合は大丈夫?」と七也は心配してくれる。


「昨日は気付けなくて、ごめん」


「いいよ、そんな。謝らないで」

 罪悪感が募る。

「何でもは分からないよ」


「でも、水葉のことはちゃんと知っておきたい」


「どうして?」


「どうして、ってそんなの」

 七也は、私から目を逸らす。

「恋人、だし……」


「……ね、七也は、私のどこが好きなの?」


「ど、どうしたの、突然」


「言ってみて」

  

「うーん、照れくさいな」

 箸を置いて、本当に照れくさいといった様子で、七也はボサボサの頭をかく。

「優しいところとか、たまにカッコいいところとか……」


「他には?」


「ええと、頭も良いし、料理も出来るし、弟想いなところとか」


「なるほどね」


 ()()()()()()()()()()()()

 なにに納得している? 納得なんかしていない。

 優しくありたい、かっこよくありたい。

 頭も良くなりたいし、料理も上手くなりたい。

 弟を、希月を――心から想ってやりたい。


「そういえば、希月に勉強教えてくれてありがとね」


「全然構わないよ。希月君、すごく一生懸命だし」


「どこか入りたい高校でもあるのかな」


「あれ、聞いてないの?」

 不思議そうに、七也は首を傾げた。

「ここを目指してるみたいだよ」


「ここって、うちの高校?」


「いや、はっきり聞いたわけじゃないんだ。たまたま模試の結果が見えちゃって。そのときの第一志望がここだったんだ」


「そうなんだ」


 何を考えているんだか、分からない。

 毎日一緒にいるのに、家族だっていうのに、その心中は推し量れない。何を考えているのか、分からない人間だらけだ。分かってしまったら、それはそれで退屈で窮屈で残酷で、息苦しくなってしまうのかも知れないけれど。


 ここぞ、っていうときぐらいは分かってやりたい。

 きっとそれが、家族というやつだ。


「言わない方が良かったかな……」


「いいよ。私、何も言わないから」


「そっか……」


「どうかした?」

 七也が何か言いたげな時は、すぐに分かる。昔からそうだった。何かを言おうとして、でも、言葉を飲み込もうとして、唇を隠すのだ。

「希月が、何か言ってたの?」


「んー……。その、まあ。ずっと言われてはいたんだけどね」


「何を?」


「水葉と付き合ってて、楽しいのかって。そういう感じのニュアンスのことを、ここ最近は強く言われてて。うん、ハッキリとは言わないんだけどね」


「あー、それで……」


「不安に、なるんだ。僕は水葉とつり合いが取れているのか、水葉にとって、理想の恋人になれているのかどうか、とか……」


「……」


 不安を口にすることは、同情されることは容易い。

 荒田七也は、優しい。けれど、その優しさの本質は、きっといつか暴かれなければならない。その役割はきっと、私でなくてはならない。私以外の誰かであってはいけない。


 その一時が、たとえ溺れそうなほどに息苦しいのだとしても。

 「言葉」にして、空気を震わせて、伝えなければならない。

 

「今度の休み、デートしよ」


 バケツいっぱいの勇気が欲しい。

 抱えきれないほどの勇気が、私にあればいいのにと思う。

 

「やった、本当に?」


「うん」


「嬉しいなあ」


「そんなに?」


「うん」

 だって、と七也は言った。

「水葉から誘ってくれたの、初めてだもん」


 七也は、笑う。

 小学生みたいに、嬉しそうに、笑っていた。


 ○


 

 


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