3-2 あなたを、おもう。①
お昼になって、私は七也と向かい合ってお弁当を食べる。
「具合は大丈夫?」と七也は心配してくれる。
「昨日は気付けなくて、ごめん」
「いいよ、そんな。謝らないで」
罪悪感が募る。
「何でもは分からないよ」
「でも、水葉のことはちゃんと知っておきたい」
「どうして?」
「どうして、ってそんなの」
七也は、私から目を逸らす。
「恋人、だし……」
「……ね、七也は、私のどこが好きなの?」
「ど、どうしたの、突然」
「言ってみて」
「うーん、照れくさいな」
箸を置いて、本当に照れくさいといった様子で、七也はボサボサの頭をかく。
「優しいところとか、たまにカッコいいところとか……」
「他には?」
「ええと、頭も良いし、料理も出来るし、弟想いなところとか」
「なるほどね」
なにがなるほどなのだろう。
なにに納得している? 納得なんかしていない。
優しくありたい、かっこよくありたい。
頭も良くなりたいし、料理も上手くなりたい。
弟を、希月を――心から想ってやりたい。
「そういえば、希月に勉強教えてくれてありがとね」
「全然構わないよ。希月君、すごく一生懸命だし」
「どこか入りたい高校でもあるのかな」
「あれ、聞いてないの?」
不思議そうに、七也は首を傾げた。
「ここを目指してるみたいだよ」
「ここって、うちの高校?」
「いや、はっきり聞いたわけじゃないんだ。たまたま模試の結果が見えちゃって。そのときの第一志望がここだったんだ」
「そうなんだ」
何を考えているんだか、分からない。
毎日一緒にいるのに、家族だっていうのに、その心中は推し量れない。何を考えているのか、分からない人間だらけだ。分かってしまったら、それはそれで退屈で窮屈で残酷で、息苦しくなってしまうのかも知れないけれど。
ここぞ、っていうときぐらいは分かってやりたい。
きっとそれが、家族というやつだ。
「言わない方が良かったかな……」
「いいよ。私、何も言わないから」
「そっか……」
「どうかした?」
七也が何か言いたげな時は、すぐに分かる。昔からそうだった。何かを言おうとして、でも、言葉を飲み込もうとして、唇を隠すのだ。
「希月が、何か言ってたの?」
「んー……。その、まあ。ずっと言われてはいたんだけどね」
「何を?」
「水葉と付き合ってて、楽しいのかって。そういう感じのニュアンスのことを、ここ最近は強く言われてて。うん、ハッキリとは言わないんだけどね」
「あー、それで……」
「不安に、なるんだ。僕は水葉とつり合いが取れているのか、水葉にとって、理想の恋人になれているのかどうか、とか……」
「……」
不安を口にすることは、同情されることは容易い。
荒田七也は、優しい。けれど、その優しさの本質は、きっといつか暴かれなければならない。その役割はきっと、私でなくてはならない。私以外の誰かであってはいけない。
その一時が、たとえ溺れそうなほどに息苦しいのだとしても。
「言葉」にして、空気を震わせて、伝えなければならない。
「今度の休み、デートしよ」
バケツいっぱいの勇気が欲しい。
抱えきれないほどの勇気が、私にあればいいのにと思う。
「やった、本当に?」
「うん」
「嬉しいなあ」
「そんなに?」
「うん」
だって、と七也は言った。
「水葉から誘ってくれたの、初めてだもん」
七也は、笑う。
小学生みたいに、嬉しそうに、笑っていた。
○




