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とけて、宮下。  作者: 水野つき
第3章 あなたを、おもう。
11/33

3-1 さまよい、惑う。

 熱は、いずれ冷める。


 そうであると、私は信じる。


 ○


 いつもより早い帰宅となったけれど、家には誰もいなかった。


 自室のベッドに横になって、スマホを見る。

 七也からメッセージが届いていた。そのメッセージから察するに、私は体調不良で早退したことになっているらしい。それも小波が機転を利かせてくれたようだった。


『ありがとう。明日は学校に行けると思う』


 メッセージを送る。

 既読は、まだつかない。

 ちょうど最期の授業の途中ぐらいだろう。


『七也に、話したいことがある』


 送信ボタンの上で、親指がさまよう。

 

 荒田七也のことを、想う。


 一目惚れなんかしないと言った私がいる。

 同情なんかじゃないと言った私がいる。


 ボタンを押せない、私がいる。


 通知音が鳴った。

 心臓が跳ねた。加倉先輩からだった。

 既読はつけないで、途中まで表示されたメッセージを読む。


『今日はありがとう! 元気になった! 今度……』


 今度、なんだろう。

 すぐに開いて見れば良いのに、駆け引きするような相手でもないのに。スマホを閉じて、ふとんに埋もれさせて、悶々として、こらえきれなくなって、私は加倉先輩からのメッセージを開いた。


『今度、お礼をするよ(*^_^*)

 シーチキンマヨマヨとチョコラBBのお返し(^O^)』


 可愛い。

 お返しってなんだろう。どこかに連れて行ってくれるのだろうか、いや、お菓子を持ってきてくれるとか、そういう類のものかも知れない。期待はしてはいけない。


 ――なんて、矛盾。

 私は、期待している。


 既読をつけてしまったからには、早く返さなきゃとメッセージを考えるけれど、文字を打っては消えてを繰り返してゆく。もう十分も経っていた。おかしい。時間って、こんなに早く流れるものだっただろうか。


 本当はお返しなんて、いらないのに。

 むしろ、私がお礼をしたいぐらいなのに。

 わがままになる自分がいる。

 

『本当にお体大丈夫ですか?

 今日は突然、押しかけてすみません。

 お返し楽しみにしてます』


 押すか押すまいか、迷ったあげくに目をつぶりながら押して、すぐにスマホを閉じて、布団の中に潜り込んだ。


「どうかしてる……」


 嫌われたくない。

 だけど、わがままも言いたい。

 なんて、不合理なのだろう。


『俺には遠慮しあってるだけのように見えるね』


 希月の言葉が、頭の中で反響する。

 

 残酷なことに、気付いてしまう。


 私は。


 七也。


 あなたに。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()



「憑き物が取れた顔をしているねえ」

 教室で、顔を合わせるなり、小波(さざな)は言ってきた。

「それで、新しい憑き物がついた顔をしている」


「おはよう、小波さん」


「さざなさんってカミカミになりそうだよねえ。さざなんって呼んでもいいよ。もしくはこなみん」


「昨日はありがとう、こなみん」


「わお。ミズッち順応はやーい」


「おかげで、不良女子高生にならずに済んだよ」


「頑張る人は好きなのよ」


「こなみんも頑張ってる?」


「ぼちぼちってとーこ」


「そっか」


「例の先輩とは、うまくいったみたいだねえ」


「うん。ちゃんと謝れた、と思う」


「それもあると思うけど」

 小波は、真っ直ぐと私を見ていた。

「自分の気持ちに、素直になれたんじゃーない?」


「……何を偉そうに、って思うかも知れないけど、私は小波のことを結構信用してるんだ」


「シリアスタイム?」


「うん」

 にゃっ、と小波は鳴いた。

「小波は、考えてないようで考えてる。だから信じられる」


「まねー、神様見習いだし」


「私のことも、ちゃんと見てくれてる。私の気持ちを察してくれる。私の想いを吐き出させようとしてくれる」


「おえっとねえ」


「良いやつだね、こなみん」


「名探偵こなみんと呼ばれた女ですから」


 なかなか掴めそうで、掴めない。

 ひょうひょうとしている。

 底が知れない。だから、知りたい。


 そして、私のことを知って欲しい。


「私ね、こなみん」


「うん」


「加倉先輩のことが、好きなんだと思う」


「いっひっひ」


 知ってる、と小波は言った。

 

 ○



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