3-1 さまよい、惑う。
熱は、いずれ冷める。
そうであると、私は信じる。
○
いつもより早い帰宅となったけれど、家には誰もいなかった。
自室のベッドに横になって、スマホを見る。
七也からメッセージが届いていた。そのメッセージから察するに、私は体調不良で早退したことになっているらしい。それも小波が機転を利かせてくれたようだった。
『ありがとう。明日は学校に行けると思う』
メッセージを送る。
既読は、まだつかない。
ちょうど最期の授業の途中ぐらいだろう。
『七也に、話したいことがある』
送信ボタンの上で、親指がさまよう。
荒田七也のことを、想う。
一目惚れなんかしないと言った私がいる。
同情なんかじゃないと言った私がいる。
ボタンを押せない、私がいる。
通知音が鳴った。
心臓が跳ねた。加倉先輩からだった。
既読はつけないで、途中まで表示されたメッセージを読む。
『今日はありがとう! 元気になった! 今度……』
今度、なんだろう。
すぐに開いて見れば良いのに、駆け引きするような相手でもないのに。スマホを閉じて、ふとんに埋もれさせて、悶々として、こらえきれなくなって、私は加倉先輩からのメッセージを開いた。
『今度、お礼をするよ(*^_^*)
シーチキンマヨマヨとチョコラBBのお返し(^O^)』
可愛い。
お返しってなんだろう。どこかに連れて行ってくれるのだろうか、いや、お菓子を持ってきてくれるとか、そういう類のものかも知れない。期待はしてはいけない。
――なんて、矛盾。
私は、期待している。
既読をつけてしまったからには、早く返さなきゃとメッセージを考えるけれど、文字を打っては消えてを繰り返してゆく。もう十分も経っていた。おかしい。時間って、こんなに早く流れるものだっただろうか。
本当はお返しなんて、いらないのに。
むしろ、私がお礼をしたいぐらいなのに。
わがままになる自分がいる。
『本当にお体大丈夫ですか?
今日は突然、押しかけてすみません。
お返し楽しみにしてます』
押すか押すまいか、迷ったあげくに目をつぶりながら押して、すぐにスマホを閉じて、布団の中に潜り込んだ。
「どうかしてる……」
嫌われたくない。
だけど、わがままも言いたい。
なんて、不合理なのだろう。
『俺には遠慮しあってるだけのように見えるね』
希月の言葉が、頭の中で反響する。
残酷なことに、気付いてしまう。
私は。
七也。
あなたに。
遠慮するようなことさえ、なかった。
○
「憑き物が取れた顔をしているねえ」
教室で、顔を合わせるなり、小波は言ってきた。
「それで、新しい憑き物がついた顔をしている」
「おはよう、小波さん」
「さざなさんってカミカミになりそうだよねえ。さざなんって呼んでもいいよ。もしくはこなみん」
「昨日はありがとう、こなみん」
「わお。ミズッち順応はやーい」
「おかげで、不良女子高生にならずに済んだよ」
「頑張る人は好きなのよ」
「こなみんも頑張ってる?」
「ぼちぼちってとーこ」
「そっか」
「例の先輩とは、うまくいったみたいだねえ」
「うん。ちゃんと謝れた、と思う」
「それもあると思うけど」
小波は、真っ直ぐと私を見ていた。
「自分の気持ちに、素直になれたんじゃーない?」
「……何を偉そうに、って思うかも知れないけど、私は小波のことを結構信用してるんだ」
「シリアスタイム?」
「うん」
にゃっ、と小波は鳴いた。
「小波は、考えてないようで考えてる。だから信じられる」
「まねー、神様見習いだし」
「私のことも、ちゃんと見てくれてる。私の気持ちを察してくれる。私の想いを吐き出させようとしてくれる」
「おえっとねえ」
「良いやつだね、こなみん」
「名探偵こなみんと呼ばれた女ですから」
なかなか掴めそうで、掴めない。
ひょうひょうとしている。
底が知れない。だから、知りたい。
そして、私のことを知って欲しい。
「私ね、こなみん」
「うん」
「加倉先輩のことが、好きなんだと思う」
「いっひっひ」
知ってる、と小波は言った。
○




