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1-5 出立

「……ちょっと待って」


 ミチは木の影から紙袋を持ってきた。

 紙袋から取り出したのは二人と同じ形の白いローブ。そして大きめのウエストポーチ。


「これは着ていてね」

「着ると魔法が使えるってこと?」

「……これを着たると潜在的な魔力が高くなるの。この土地の魔法脈に感応するらしいよ。絶対脱がないで……」


 私はローブをミチと同じように腕を通した。途端、ローブの表生地はごく薄い桜色に変わった。

 ミチのローブは下地がオレンジで黄色っぽく、カイのローブは緑と濃い水色だった。


「へー、服の色が着ると反応するんだ。確かに魔法っぽい」

「それと……ワンドは貰ってきてるね」

「え?」

「それ」


 ミチが指差したのは、私がさっき貰ってきたミルフィーユスプーン。

 これが何でワンド? 小杖? なの?

 私が戸惑ってるところをカイが補足を入れた。


「この世界では、思い入れがあるモノが魔法のトリガーになるんだよ」


 思い入れといっても、さっき初めて知って、珍しいなと思っただけなのに。

 それでも、これが私専用の小杖だと二人に押し切られた。




 VRゲームイベントの出発と言っても明確なスタート合図もなく、ミチが「行こ?」と疑問形で言ったのが合図だけの曖昧に始まった。

 先頭はミチ、ほぼ並んで私。そしてカイが後ろについた。

 森の入口も曖昧で、農道みたいな道がずっと通っていて、そこをずっと歩いていくようだ。


「森の向こうに町が近くにあるんだって。そこがさしあたりのゴール」


 女性の言っていた通り、カイから聞けたのは取り敢えずの目標だけだった。町へ行けば何かがわかるからと濁されたのは気になったけど、このゲームに経験があるらしいカイとミチに今はついていくしかなかった。


「……では、魔法について簡単に説明するね」


 歩きながらゲームのルールを覚えられる自信が無かったけど、ミチから魔法は序盤にも使う可能性もあるということで強制力が働く。

 色々説明してくれたけど、やっぱりすぐには覚えられないよ。


「……うへ、魔法がイベントで使うモノだっていうことはわかったけど、イベントそのものが、目的地に着くだけでしょ」

「魔法って、何でも使えるの……物を作ったり……逆も然り。大なり小なり何かで必要に迫られる」

「で、私の魔法って、このスプ……ワンドを使うの?」

「そう。チーちゃんは杖の魔法、火の属性がある魔法が使えるの」

「……火? そういう設定だから?」

「ローブが赤系の色が薄く出てきてるよね、それがチーちゃんが火の属性だってあらわしてる」

「ふーん。そうなんだ」


 私はローブを手でヒラヒラさせて確認。桜色は割と好きな色だけど、もう少しはっきりしててもいいかなとは思う。

 火と言われてしまうと微睡みの中に見た、紅い服を着ていた女性を思い出す。あの人はローブじゃなかったし、髪も赤かったか。


「でも、かなり薄いよ。ミチとカイの色ははっきりしてるのに」

「魔力の差だね。まるで運動音痴のチカと抜群の私の差」

「カイと比べないでよ。私は普通、運動は中の中」


 私がカイと言い合ってるとき、イキナリ、ミチが私のスプーンを持ってる手を自分の額に当てて、何かブツブツと言い始めた。


「……チーちゃんて、運動より絵の方が得意だったよね。そのワンド使って、空中に何か念じながら描いてみて」

「あ、うん」


 私はミチに言われるまま、スプーンの先をペン先に見立てた。

 はじめは何も反応しなかった。

 ……けど、スプーンの先に火花が一瞬走った気がした。


「あれ?」


 そこから、私のスプーンの先が、火花を散らして、空中に線を描き出し始めた。

 私は驚いたまま、人物のデフォルメを空中に描く。


「流石、絵本作家志望。小憎らしいキャラをよく捉えてる」


 カイが私の空中絵をそう評価してくれたので、矢印つけて『カイ』と書き入れた。

 「な」っと言ってるカイは無視し、私はミチを賞賛。


「ミチ、何これ、すごい」

「チーちゃんの力。私はただ、今だけワンドの先に鉄分を集中させただけ」

「そういう設定が出来るイベントってわけね。すごいなあ。もしかすると、とても面白いイベントなの?」


 空中絵はしばらく経つと透けるように消えて無くなった。

 私は急に興味が出てきた。何かわかわないけど、空中に描ける絵。ビジュアル的にインパクトある。そう言えば、ネットの動画でも空中に線が描ける装置を見かけたことがある。その最先端はスプーンでやるのは知らなかったけど。


「……そう。チーちゃんが面白いと思ってくれるなら、希望あるよ……」


 ミチが何故か消え入りそうに言葉尻を下げた。

 それにしても、流石はミチだと感心する。昔から頭の良い子なのはよく知ってたけど。

 私が興味示す方で教えてくれるなんてのは、ミチにとって造作もないことなんだろうね。

 それで、今度はカイが注文してきた。


「チカ、今度はツノが生えた頭、裂けた口から出る牙、凶悪そうな目、羽の生えた黒っぽい人間を描いてみて」

「何それ」


 私は手早く描いてみた。何だか描いてて御伽噺の小悪魔か、ガーゴイルみたいな風貌だねと思った。


「多少漫画っぽいけど、やっぱり上手いよ」


 多少、皮肉が入るのはカイの性分なので仕方ないけど、本音から私の絵が上手いと言ってくれているので、そこは満足しとく。


「で、ここから、コイツを退治するとする。チカならどうする?」

「え?」


 カイの目がいつにも増して、興味深く私を見つめてくるので、たじろぎながら、その小悪魔の絵を修正してカイに見せた。


「あは、ロープで縛るんだ」


 カイは、少し小馬鹿にした笑みを浮かべた。


「何よ?」

「いや、上手いけど、斬ったり燃やしたりした方が絵の加工は簡単じゃなかったかなと」

「刀ぶら下げてるカイと同じにしないでよ。可哀想じゃない。」

「その割には締め上げ過ぎてて、グロ絵になってる気がするけど……いや、いい。私が言いたいのは、そういう想像とか発想とか大事にしてってこと」


 意味わからない。笑いを我慢してるカイに少し本気でムッとする。

ケルト神話の戦いに明け暮れた三相女神とも言われる、モリガン、ヴァハ、バズヴの命運を持った女の子達の昇華の物語だったんですが、まあ。


暗い森に迷い込んで始まるダンテ神曲、地獄篇、第七圏谷。或いは東洋的無間地獄。

黄金の夜明け団的解釈のセフィロトの木の階級。

実は魔女狩りも仲間割れが発端だった被虐的で破滅的な魔術の人類史。


こんなモチーフを使った内容で書くつもりでした。

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