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04 ルトラルガ

「ふおぉーーーっ! スキル≪時空転移≫! カッコイイ!!」


 先ほどのいきさつを和葉に説明する。

 落胆させてしまうのではないかと心配したが、落胆するどころか、なんか逆に喜んでいた。


「……お前、俺の話ちゃんと聞いてた?」

「聞いてたよー。すぐに帰れないのは残念だけど、“帰り方”は分かったんだから、いつかは帰れるって話でしょ?」

「まあ、それはそうなんだが……」

「でしょー? なら前向きに考えようよ」


 確かに、悲観してても物事が好転するわけでもない。

 なら少なくとも“帰り方”は分かったのだと、前向きに考えるべきか。

 ただ、≪時空転移≫に必要なレベルが“10”というところに嫌な予感をヒシヒシと感じる。


 この世界のレベルの最大値はいくらなのだろうか。

 多くのゲームなどがそうであるように、最大値が99まであるような世界であればいい。

 しかし、TRPGなどで時折見かける、レベルの最大値は10まで、という世界だった場合が厄介だ。

 その場合、レベルを10に上げるのにいったいどれほどの時間と労力が必要になるのやら……。

 そして、≪時空転移≫なんてスキルが使用可能になることから考えるに、おそらく後者の世界である可能性が高い。


 ああ、いかん。

 ついさっき前向きに考えようとしたばかりなのに、もう悲観的になってしまった。

 どうも俺は考え過ぎてしまうきらいがある。

 少しは和葉を見習って前向きに、ポジティブ思考ってやつを身につけないと。


「それにしても――」

「ん?」

「こんなすぐに“帰り方”を見つけちゃうなんて、やっぱりそーちゃんは凄いなー」


 いいこ、いいこしてあげようねー、と和葉は俺の頭部に手を伸ばしてくる。

 しかし、俺はその手を避けた。

 暫くの間、俺の頭を撫でようとする和葉と、撫でさせまいとする俺の間で、無意味な攻防が発生した。


「……なんで避けるの?」

「そりゃお前、男子たるもの、みだりに頭部を触れさせるべからず、っていうだろ?」

「そっかー、なら仕方ないね」


 適当に格言っぽいものを言っただけなのに納得されてしまった。


「それよりも、これからどうする?」

「ん? どうするって?」


 あ、ダメだこいつ。なんも考えてないわ。

 俺がしっかりしないと……。


 見たところ街(?)の治安は悪くなさそうなので、身の安全についてはそれほど心配することはないだろう。

 ただ、食事と寝床の確保については急ぐ必要がある。

 食事はまあ、一日くらいは我慢できるだろうが、寝床については和葉がいる状態で野宿というのは可能な限り避けたい。


 そのためには先立つものが必要になるわけだが……。

 現在、俺の全財産は五千円と少し。

 しかし、異世界で日本のお金が使えるわけもない。


(……“金”を稼ぐ必要があるな)


 とはいうものの、俺たちはこの世界についてあまりにも知らなさすぎる。

 俺は少し思案したあと、ふと和葉に尋ねてみた。


「なあ、ネット小説とかで異世界に転移させられた主人公は、どうやって“金”の問題を解決してるんだ?」

「んー、あんまりその辺りの詳細を書いてる小説はないかなー」

「マジか……」

「ただ、スマホを“マジックアイテム”だって言い張って、大金で売っちゃう展開は読んだことあるよ」


 なるほど、スマホか。

 確かにそれならば大金で売り捌くことも可能かもしれない。

 しかし――


「いい手ではあると思うが、スマホの売却は最終手段だな」

「えー、なんでー?」

「周りを見てみろ、どうみてもこの世界の文明レベルは、地球でいうところの中世どまりだろ? もしかすると、この世界じゃスマホはオーパーツにも等しい扱いをうけるかもしれない」

「なるほど! ……ところで、そーちゃん。オーパーツってなに?」

「……未来の道具くらいに覚えとけ」

「おー、分かりやすい!」

「ともかく、スマホを売ってしまうと大騒ぎになるかもしれないし、出所を探られて厄介事に巻き込まれるかもしれないってことだ、分かったか?」

「分かった! 私もお父さんに買ってもらったスマホを売りたくないし、それでいいと思う」


 こいつ、なんか少しズレてるんだよな。

 まあ、和葉だし仕方ない。


「他に真っ当な方法で金を稼ぐ手段となると、日雇い労働とかになるか?」


 しかし、素性も分からない人間を、いきなり雇ってくれる店なんてあるのだろうか。

 さらに、日本のバイトですら未経験の俺に、異世界での労働なんて務まるのか、という不安もある。


「あ、それなら“ギルド”に行こうよ!」

「ギルドか……」


 確かに、ギルドであれば日雇い労働などの斡旋もしている可能性が高い。

 和葉のくせに良い案を出す。

 ただし、この街にギルドがあれば、の話だが。


「にーさんたち、ギルドを探してるのかい?」

「え?」


 急に声をかけられる。

 見ると、そこには人の良さそうな顔をした中年男性が立っていた。


「……失礼ですが、アナタは?」


 なにげにこれが異世界人とのファーストコンタクトだ。

 俺は慎重に慎重を重ね対応する。


「いやなに、盗み聞きするつもりはなかったんだけど、ギルドがどうとか聞こえたものでね」

「この街にギルドあるんですか?」

(ちょ、このバカ――っ)


 あまりにも不用意な発言を和葉が口にする。

 この世界のことを何も知らない俺たちは、どんな発言がどんな結果に繋がるかすらも分かっていないというのに。

 既に後の祭りだが、第三者を交えて会話する場合は、和葉に口を出さないよう言っておくべきだった――。


「そりゃこれだけ大きな街だもの、ギルドくらいあるさ」


 ハッハッハ、と男性は大きな声で笑う。


「あー、すみません! 僕ら田舎からやってきたもので、こんな大きな街に来るのは初めてなんですよ!」

「なるほど、それなら仕方ないのかもしれないね」


 よし、なんとか誤魔化すことに成功した。

 それと同時に、和葉にこれ以上口を出さないように目配せする。


「田舎から来たばっかりじゃ、道が分からなくて大変だろう。良ければオジサンがギルドまで案内してあげようか?」

「え、そんなの悪いですよ」


 気にすることはないよ、と目の前の男は言うが……さて、どうすべきか。

 正直なところ、渡りに船な話ではある。

 しかし、異世界人であるこの男を、どこまで信用していいものやら……。

 少し逡巡したあと――


「じゃあ、すみませんが案内をお願いします」


 結局俺は、朗らかに笑うこのオジサンが悪人だとは思えず、案内をお願いすることした。

 ただし、俺が合図を出した場合は、すぐに逃げ出すようにと和葉に伝えておくのも忘れない。

 ここは異世界だ。慎重に慎重を重ねるくらいで丁度いい。


 俺たちはオジサンの先導で歩き出す。

 その途中、オジサンには色んなことを教えてもらった。

 この街の名前が“ルトラルガ”であること。

 この街には“ダンジョン”が存在し、そこで採れるアイテムなどが名物として売られていること。

 そして、“冒険者”や“魔物”、そして“魔法”の存在などなど。

 時折冗談を交えながらもオジサンは、それらの説明を丁寧に話してくれた。


 ある程度予想はしていたが、オジサンの話を総合すると、やはり俺たちは剣と魔法のファンタジー世界へと飛ばされてしまったらしい。

 それにしても、である。


 オジサンと出会った当初、彼が異世界人だからと疑ってかかってしまった自分を叱ってやりたい。

 異世界人だろうがなんだろうが、俺たちと何も変わらないじゃないか。

 彼らはみな、俺たちと同じ暖かい心を持った人間だったのだ。




「――なんて思っていた時期が俺にもありました」


 俺たちはいつの間にか薄暗い路地裏に誘導されていた。

 前方にはガラの悪い男が二人。

 そして人の良さそうな顔をしていたオジサンは、いつの間にか悪人面へと変貌し『へっへっへ』と、いかにもな感じで笑っていた。

 逃げだそうにも男たちの仲間とおぼしき連中が後方に回り込んでおり、退路は断たれている。


「そーちゃん……」


 和葉が不安にそうに俺に寄り添ってくる。

 ああ、彼が異世界人だからと、もっと警戒しなかった自分を殴りつけたい。

 所詮俺も平和ボケした日本人だったということか。


(ともかく和葉だけは――和葉だけは絶対に守らないと――っ)


 そう決意した俺は、打開策を練るべく、頭をフル回転させた。

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