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35 闘気纏

「――で、なんでお前がいるんだ?」


 夜、先日のようにリーリアに訓練をつけてもらおうと思っていたら、今日は何故か和葉も着いて来ていた。

 その後ろには和葉お付きのメイドさんが待機しているので、俺は軽く会釈する。


「そーちゃんは、自分のメイドさんと二人きりの方が良かった?」

「……バカなこと言うな」


 今日だってダンジョン探索に行ってきたのだ。

 和葉にはこんなところで油を売ってないで、充分な休養をとってもらいたいのだが……。


「まあ、冗談は置いといて、私はお目付け役ってとこかなー?」

「はぁ? お目付け役? お前が?」


 何をバカな。

 お目付け役が必要なのは、お前の方だろうと言ってやりたいところだが――。


「うん、この前みたいに動けなくなるまで訓練されても困るしね」


 一度やらかしてしまった前科があるだけに、何も言い返すことができない俺だった。


「それに、私も最近思うところがあってね? 私もそーちゃんみたいに修行する必要あるなーって」

「はぁ? お前のどこにそんな必要があるんだ」


 確かに初めの頃は慣れてないせいもあったのか、危なっかしいところがあった。

 しかし、今やどんな魔物と戦おうが連戦連勝、未だ負け知らずの和葉なのだ。


 そんな和葉に修行が必要だとは、とても思えないが……。


「だって、今の私じゃ、ソルジャービーとかみたいに、空を飛んでる魔物が出てきたらこっちに近付いてくるまで手が出せないでしょ?」

「それはそうかもしれないが、得物に剣を使ってる限り、それは仕方ないだろ?」


 人間は誰しも出来ることと出来ないことがあるのは当たり前。

 だから俺たちは、互いに出来ないことを補い合うために、パーティーを組んでいるのだ。


「そうだね、剣では空を飛ぶ魔物は倒せない――でもね、そーちゃん? 何も“斬る”だけが剣の全てじゃないんだよ」


 不敵に笑いながら和葉は剣を逆手に持ち、剣先を自身の後方へと追いやる。

 さらにそこから左足を一歩前へと踏み出したあと、腰を落とし、最後に左半身を右側へと捻った。


「そ、その構えはっ!?」


 五行の構えのどれでもない独特な構えではあったが、俺はその構えに見覚えがあった。

 何故なら、その構えはとある有名な漫画の主人公が必殺技を放つ際の構えで、当時の子供たちが傘を持ったなら必ず真似したであろう構えだからだ。


 何を隠そう、俺も傘を持ってあの構えをとったことがある。


「そーちゃん――“飛ぶ斬撃”だってあるんだよ?」


 確かに、その構えから放たれる必殺技なら、空を飛んでいる魔物の迎撃だって容易い。

 しかし――


「お前……撃てるのか!? あの必殺技を撃てるってのかっ!?」

「撃てるとか撃てないとかじゃないんだよ……撃つんだよ――っ」


 和葉はそう宣言し、さらに腰を深く落とす。

 剣を持つ手にぐぐっと力を込め、そして――


「和葉ストラァァァーーーッシュ!!」


 技名を叫びながら逆手に持った剣を横薙ぎに払った!


「うおおおおおおっ――――――お?」


 和葉は自身の剣を払っただけで、そこから特に衝撃波や真空波らしきものは出ていない。


「あの……和葉さん? 衝撃波とかそういうのは……?」

「やだなぁ、そーちゃん。ただ剣を振っただけで、そんなの出るわけないじゃない」

「はぁぁぁっ!? お前っ、散々出来るみたいな雰囲気出しといて、結局出来ないのかよっ!?」


 期待してたのに!

 子供の頃に憧れたあの必殺技が、実際にこの目で見られるのかと期待してたのにっ!


「ごめんね、珍しくそーちゃんが乗ってくるから、あとに退けなくて――でも、出来るようになったらいいなーと思ってここに修行に来たんだー」

「あっそう……」


 つまり修行と言ってはいるが、実際はお遊びのようなものだ。

 おそらく修行というのは建前で、最初に言っていたお目付け役――要は俺が無茶をしないか監視するのが本当の目的なのだろう。


「それじゃ、俺はリーリアと組み手してるから、そっちはそっちで勝手にやっといてくれ……」

「はーい」


 俺が言うのもなんだが、和葉が体を酷使するような修行を行うのであれば、断固として止めるところだった。

 しかし、監視ついでの、いわゆるごっご遊びのようなものであるなら、その必要はないだろう。


(それにしても、“飛ぶ斬撃”ねぇ……)


 いくら和葉の身体能力が抜群に優れていると言っても、こればっかりはどうしようもない。

 なにせ、身体能力でどうこうできる問題ではないのだから。


 仮に魔力を使用すれば、そんなことも可能になるのかもしれないが、残念ながら俺にも和葉にも魔力なんて力は宿っていなかった。


(――いや、待てよ。そういうスキルを創ればいいんじゃないか?)


 何故今まで気付かなかったのか。

 そう、これならいつか和葉とした約束――和葉にエンチャント可能なスキルを創造する――も達成できる。


 しかし、さっそく≪スキル創造クリエイト≫を使用としたその時だった。


「そーちゃん、出来たよー!」

「出来たのぉっ!?」


 え、出来たって、和葉ストラッシュが?

 あれ、監視のついでのごっこ遊びじゃなかったの?


 というか、まださっきから数分も経ってませんけど!?


「そーちゃん、見ててね!」


 混乱する俺をよそに、和葉は例の構えをとる。


「和葉ストラァァァーーーッシュ!!」


 和葉が技名を叫びながら剣を横薙ぎに払うと、さっきとは違い、剣から衝撃波のものが弧を描きながら水平に飛んでいく。

 衝撃波のようなものは5m程度でかき消えてしまったが、それでも確かに和葉の剣から現れていた。


「お前、これ……」


 ついさっきまで出来なかったものが、ほんの少し目を離した隙に出来るようになっているとか無茶苦茶だ……。


「凄いでしょー? 褒めて褒めて!」

「いや、凄いけど……今のって何を飛ばしてんの?」

「さぁ? 分かんない」

「分からないもの飛ばしてるのかよ!」


 魔力を剣圧のようにして飛ばしている?

 しかし、和葉には魔力はないはずだが……。


「今のは≪闘気纏とうきまとい≫の応用技ですね」

「知っているのか、リーリア!?」

「はい、本来は闘気――いわゆる“気”と呼ばれるものを纏い、身体を強化する技なのですが、カズハ様が使用されたのは、これの応用技で闘気を武器に纏わせて放つ技になります」


 闘気を纏う……この世界には魔法だけではなく、そんな技まであるのか……。


「闘気かー。うん、なんとなく分かってきた、これが闘気なんだ」

「さすがカズハ様です。本来であれば闘気を体に纏わせることから覚えるのですが、既にものにされたようですね」

「待ってくれ、その≪闘気纏≫というのは、誰でも使えるのか?」


 使用に魔力が必要ないなら、俺にだって使えるはずだ。

 その闘気とやらで身体能力を強化すれば、俺も今より多少は戦えるようになるかもしれない。


「……残念ながら、使用にはかなりの才能が必要らしく、私も母以外で使用する方を見るのはカズハ様が初めてです」

「そ、そうか……」


 そんな気はしていたが、やはり予想通りの答えが返ってくる。

 というか、メイリアさんも使えるのか。

 いったい何者なんだよ、あの人は……。


 いや、しかし諦めるのはまだ早い。

 もしかすると、俺にもこの≪闘気纏≫に関してはだけは、和葉を越える才能があるかもしれないのだ。


「すまん、リーリア。今日の組み手は中止にさせてくれ」


 そうして俺は、和葉から≪闘気纏≫を使用するコツを聞くのだが……。


「えっとねー、全身に力を入れてから、グワッと闘気を出す感じ」


 予想通り、まったく参考にならなかった。


 結論を話そう。

 俺にもこの≪闘気纏≫に関してはだけは、和葉を越える才能が――なんて夢みたいな話があるはずもなく、当然のごとく習得は適わなかった。

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