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28 セティとセラ

「頼む、ソウイチロー殿! セラに、妹に――≪スキル付与エンチャント≫を試してみてほしいのだ!」


 テーブルに額を擦り付けるかのように、セティさんは深々と頭を下げる。

 一方、事態が全く飲み込めていない俺は、ただ呆然とするばかりであった。


「レンジャーのスキルに≪鷹の目≫や、≪千里眼≫といったスキルがあるという。それらをセラにエンチャントすれば、セラの目に光を取り戻せるかもしれないのだ!」

「あ、ああ……そういうことですか」


 そこまで説明されて、ようやく合点がいく。

 なるほど、今まで試したことはないが、確かにやってみる価値はあるだろう。


「あの、セティ姉様? そのスキルなんとやらとはいったい……」


 しかし、俺とは対照的に、セラさんはまったく合点がいかない様子であった。


(セティさん、当の本人に何も説明しないまま話を始めたのか……)


 薄々感づいてはいたが、わりとセティさんは、ぽんこつなところがある。

 そんなところも可愛げがあるといえば聞こえはいいが、こんな大きな屋敷の主(?)としては如何なものだろうか。


「えっと、≪スキル付与エンチャント≫については、俺の方から説明します」


 俺はセラさんに自身の能力の説明をした。


「まあ、スキルを付与するスキルなんて初めて聞きましたわ」

「そうだろう、私もこの一年、色んな冒険者に出会ったが、ソウイチロー殿のような力を持った者は誰一人としていなかった」

「それは言いすぎだと思いますが……そう言えば、セティさんは伝説級のアイテムを求めてダンジョンに挑んでいると聞きましたが、もしかしてセラさんのために?」

「ああ、そうだ。そのアイテムは、どんな病をもたちどころに治すと言われている霊薬でな、名を“霊薬エリクシール”という」

「霊薬エレクシール……」


 確かその名は、エリクサーの別名だったはずだ。

 某有名RPGでは、HPとMPを完全回復させる効果があったが、この世界ではそんな扱いになっているのか。


「セティ姉様は、その霊薬とやらで私の“目”を治そうとしているのですわ」

「そうだ、そもそもセラは生まれつき目が見えなかったわけではないのだ」

「え、そうなんですか?」

「ええ、実は私、三年ほど前に大きな病にかかってしまいまして……幸い一命はとりとめたものの、その後遺症で目が見えなくなってしまったのです」

「そんなことが……」


 なるほど、確かに目が見えない原因が、先天的ではなく後天的なものであるなら、その霊薬での治療が可能かもしれない。


「故に私はセラのため、セラの目にもう一度光を取り戻してやりたいがために、そのアイテムを求めてダンジョンに潜っていたのだ」

「まったく、私のために危険なことはしないでほしいと何度も言ってますのに、いっさい聞いてくれませんの。本当に困った姉ですわ」


 やれやれといった風に愚痴を漏らすセラさん。

 しかし、その言葉とはうらはらに、その態度はどこか嬉しそうだった。


 セティさんは照れ臭さを誤魔化すように『ゴホン』と咳払いをして、話を続ける。


「そしてその途中で、神の御業みわざが如き力の使い手――すなわち、ソウイチロー殿と出会ったわけだな」

「いやいや、さっきも言いましたけど、さすがにそれは言いすぎですって!」

「――いえ、そうとも限りませんよ」


 突如、アエリーが神妙な面持ちでそんなことを言う。


「ナルセさんはご自身のスキルを、ユニークスキルの一種だと思っているようですが、それにしたって他のスキルと比べても特異性が高すぎます」

「でもさ、アエリーちゃん。ユニークスキルじゃなきゃ、そーちゃんのスキルは何になるの?」

「その通りだ。まさか本当に神の御業みわざだとでも言うつもりではあるまいな?」

「そ、それは私にも分かりませんけど……一度ちゃんと調べた方がいいかなって……」


 確かにアエリーの言うことはもっともだ。

 俺は自身のスキルを、便宜上ユニークスキルということにしてはいる。

 しかし、その実、これらのスキルについて何も理解できていないのが現状だった。


「……言いたいことは分かるし、過去に俺も自分のスキルについて色々と調べたこともある。けど、殆ど何も分からなかったんだよな」

「あ、それなら私のお婆ちゃんに聞いてみましょうか? お婆ちゃんなら色んなことを知ってますから、もしかしたら何か分かるかもしれません」


 アエリーの祖母か。

 そういえば、以前アエリーの目標は、祖母のような偉大な魔法使いになることだと聞いたことがあるな。

 それほど凄い魔法使いなのであれば、俺の力についても何か知っているかもしれない。


「そうだな、手間じゃなければ頼む」

「はい! じゃあお手紙出しておきますね――あ、話の腰折っちゃってすみません……」


 アエリーは恥ずかしそうに俯く。

 俺はそんなアエリーの様子を見て、苦笑しながら話を続けた。


「えっと、じゃあまずは≪鷹の目≫からセラさんにエンチャントしてみます」




 ※ ※ ※




 ――結論から言おう。


 ≪鷹の目≫、≪千里眼≫、≪夜目≫。

 この三つのスキルをエンチャントしてみたのだが、セラさんの目に光が射すことはなかった。


 セティさんは大いに嘆きテーブルを叩く。

 俺はそこで諦めるつもりは毛頭なかったが、いったいどんなスキルをエンチャントすればセラさんの目に光を取り戻すことができるのか、見当もついていない状態だった。


 しかし、和葉の一言で事態は大きく動くこととなる。


「私、スキル≪心眼≫とか持ってるんだけど、これならどうかな?」


 その言葉を聞いて、俺はすぐさまセラさんにスキル≪心眼Lv2≫をエンチャントする。

 すると、彼女は『キャッ』と小さく悲鳴をあげ、自身の顔を両手で覆った。


「大丈夫か、セラッ!?」


 慌ててセティさんがセラさんのもとへと駆け寄る。

 その時だった。


「こ、これがソウイチロー様のお力なのですね……森羅万象を見通す私の新しい瞳≪真理の五眼ごげん≫、確かに受け取りました……」

「セラ、お前、何を言って……?」

「セティ姉様……もう少し、もう少しだけお待ちください……もう少しで目が慣れますから」

「まさか、お前目が――っ!?」


 和葉とアエリーが、わっと声をあげる。

 その後暫くして、セラさんは覆ってた両手を離し顔を見せた。


「お待たせして申し訳ありません」


 セラさんは困ったような、照れたような表情で頭をさげる。

 そして、その目は今までのように閉じられてはおらず、ハッキリと開かれていたのだった。


「セラ、お前……見えるのだな……?」

「フフ……セティ姉様、随分と背が伸びたようですね……」

「あ、当たり前だ! お前が最後に私の姿を見たのは三年も前だぞ! この三年間、私がどれほど心配したか――っ!!」


 セティさんはセラさんを強く抱きしめる。

 その瞳からは大量の涙が溢れ出て、次から次へと彼女の頬を濡らしていた。


「申し訳ありません……私知りませんでした。セティ姉様がこんなにも大きく、美しく成長なさっていたなんて……私は妹失格ですね……」

「バ、バカなことを言うなっ! 誰がなんと言おうが、お前は私のたった一人の妹だ!

そうだ、お前には見せたいものが山ほどあるんだ!

いつかお前が私に似合うと言ってくれた白と蒼のドレスがあっただろ、あれをイメージした鎧を作らせたんだ!

是非お前には、あの鎧を着た私の勇姿を見てほしいんだ!

あと、お前の目が見えなくなってからも、私はずっとお前の誕生日には肖像画を描いていたんだぞ!

いつかお前の目が見えるようになった時に、あの時のお前はこんな姿だったと分かるようにな!

それと他にも……お前に見せたいものが他にも沢山あるんだ……っ!」

「セティ姉様……」

「だから……妹失格だなんて、そんな悲しいことを言わないでくれ……っ!!」

「……私は本当にダメな妹ですね……セティ姉様の顔がこんなに近くにあるのに、涙が溢れ出てきて、よく見えないんです……」

「馬鹿者っ……私の顔くらい、これからイヤと言うほど見せてやるから覚悟しておけ……!」

「はい……セティ姉様……っ!」


 そうして二人は、抱き合ったまま涙を流しあう。

 しかし、その時俺は――


「うぅ……セラちゃんの目が見えるようになって良かったね、そーちゃ――そーちゃんっ!?」

「……どうした?」

「どうしたって……顔が真っ青だよっ! 大丈夫なの!?」

「すまん……大声を出されると頭に響く……もう少し――――――」


 その直後、俺はその場に崩れ落ち、そこで意識は途絶えた。




 ※ ※ ※




「フンフフンフ、フンフン、フーン」


 とある場所の、とある一室にて、一人の男が陽気に鼻歌を口ずさんでいた。

 男は革袋にギッシリと詰められた金貨を、一枚一枚取り出しては積み重ね、金貨の塔を作っている。


「いやー、今日も実に儲かりましたねぇ」


 男の言う通り、まだ革袋の中には半分ほどの金貨が残っているにも関わらず、テーブルの上に建築された金貨の塔の高さは、既に男の頭を超えようとしていた。

 普通ではない金貨の量だ。

 しかも、この男はこれほどの金貨を、今日一日で稼ぎ出したらしい。


 その裕福さを象徴するかのように、男の十本全ての指には、それぞれ別の宝石があつらえられた指輪がはめられていた。


「ふぅむ、これ以上積むと倒れてしまいますかねぇ」


 男がこれ以上の増築は危険と判断し、二つ目の金貨の塔を建築し始めようとした、その時だった。

 ピシッと、男の手元の方から聞き慣れない音が聞こえてくる。


「おんやぁ?」


 見ると、右手の小指にはめられている指輪の宝石に亀裂が入っていた。


「はて、この宝石は“どなた”でしたかねぇ」


 男は右側のこめかみを人差し指でトントンと叩く。


「――ああ、思い出した、アルファウト家のご令嬢です。彼女に“呪い”をかけた時のものでしたねぇ」


 『そうでした、そうでした』と男は呟きながら、右手の小指にはめていた指輪を外す。

 そして、部屋の隅にポイと投げ捨てた。


「私の“呪い”が解呪されたということは、余程高名なプリーストでも雇ったのでしょうか」


 男は顎に手を当て、考え込むようなそぶりを見せるが……。


「まあ、いいでしょう。今はそんな些細なことに構っている暇はありませんからねぇ」


 すぐに考えるのを止め、思考を切り替えた。


「なにせ、もうすぐこの程度の金貨など、はした金に思えるほどに大儲けできる機会がやってくるのですからねぇ……ふふ、ふふふふふふふふふふふ」

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