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27 仲間⑤

「仮住まいの家なので、狭くて申し訳ないのだが……」


 そう謙遜しながらセレスティアさんは、自身の家に俺たちを案内してくれる。

 しかし、招待されたその家は、狭いなんてとんでもない。

 俺と和葉が宿泊している宿の、優に三倍の大きさはあろうかという豪邸だった。


「はえー、でっかいお家だねー」


 和葉が目の前の豪邸を見上げながら感嘆の声をあげる。


「こ、ここが本当にセレスティアさんのお家なんですか……?」


 アエリーに至っては、豪邸を目の前にして完全に萎縮してしまっているようだった。

 二人のこの反応も無理はない。


 俺はあらかじめベネディアさんとの会話から、セレスティアさんが良家のお嬢様であろうことが予想できていた。

 しかし、俺だって前情報もなしに、いきなりこんな豪邸に招待されたのであれば、さぞかし動揺していたに違いない。


「あ、あのっ、私こんな格好なんですけど、入っても大丈夫なんでしょうか……?」

「そういえば私もダンジョン探索時の装備のままだよ!」

「フフ、面白いことを言うな。我が家にドレスコードなんて堅苦しいものはないから安心してくれ」


 愉快そうに笑いながらセレスティアさんは玄関の扉をノックする。

 するとすぐに扉が開き、中からメイド服姿の女性が顔を覗かせた。


「今戻った。それと、今日は客人が三人いるとメイリアに伝えてくれ」

「かしこまりました」


 そんなやりとりを聞きながら俺たちは、家の中へと案内される。

 そこで、外観に勝るとも劣らない豪華な内装を目にするのだが……。


「そーちゃん、メイドさんがいる。リアルメイドさんだよ」

「ああ、しかもクラシカルタイプのメイド服だ」


 俺と和葉は豪華な内装そっちのけで、こちらへと近づいてきていたメイド服姿の女性に目を奪われていた。


「お帰りなさいませ、セレスティアお嬢様」


 メイド服姿の女性はうやうやしく頭を下げる。


「うん、ただいま。みんな、紹介しよう。彼女は“メイリア”――うちでメイド長を勤めてもらっている」

「皆さま初めまして。只今ご紹介にあずかりました、メイリアと申します。以後お見知りおきを」


 そう言ってメイリアさんは、再びうやうやしく頭を下げる。

 切れ長の目のせいか少しキツそうな印象を受けるが、黒いメイド服にショートボブに切り揃えた黒髪がよく似合っている女性だった。


「メイリア、彼らは今日の探索を共にした仲間たちでな、勝手ながら夕食に招待させてもらった」

「かしこまりました。皆さまの分のお食事もご用意させていただきます」


 『では、一旦失礼します』との言葉と共に、メイリアさんは立ち去っていく。

 その際、一瞬ではあるが、彼女は俺を値踏みするような目で一瞥いちべつしていった。


「……なんというか、私たちとは別次元の世界にいる人たちの会話ですね」

「そうだな……」


 まあ、そんな世界のお嬢様が、俺のような貧相な格好をした男を連れてきたのだ。

 ある程度、警戒や値踏みをされるのは仕方ないのかもしれない。




「――ご馳走さまでした! セレスティアさん、すっごく美味しかったです!」


 その後、食堂に通された俺たちは、いつも食べていた料理はなんだったのかと思えるほど豪勢な料理でもてなされる。

 特にアエリーなどは、『こんな美味しいもの生まれて初めて食べました!』などと言ってバカスカ食べていた。


「わ、私は少し食べ過ぎました……苦しいです……」


 その結果がこの有り様である。

 しかし、それほどまでにここの料理は絶品だった。

 暫くの間、質素な料理を食べ続けていたせいもあるだろうが、元の世界で食べていた料理と、なんら遜色ないように感じられたほどだ。


「うん、気に入ってもらえたようで何よりだ」


 俺たちの様子を見て、セレスティアさんはご満悦のようだ。


「セレスティアさんは、毎日こんな美味しいもの食べてるんでしょ? いいなー」

「フフ、なんなら今日からウチに住むか? 部屋ならいくらでも空いているからな」

「え、いいの!?」

「いや、良いわけないだろ……」


 そんな風に食後の歓談を行っている時だった。


「あらあら、随分と楽しそうな声が聞こえますわね」


 メイリアさんと共に、一人の少女が食堂へと入ってくる。

 歳は十二、三歳くらいにみえることから、セレスティアさんの妹だろうか。

 姉譲りのブロンドの髪をツインテールにまとめた、小柄で可愛らしい少女だった。


「セティ姉様、私もお話に参加させてもらってもよろしいですか?」

「あ、ああ、勿論だとも」

「ありがとうございます。皆さま、初めまして。セレスティアの妹、“セラフィリス”と申します。どうぞお気軽に“セラ”とお呼びください」


 セラフィリスと名乗った少女は、貴族風の挨拶だろうか。

 スカートの両端を少し持ち上げ、頭を下げた。


「あ、初めまして。ソウイチロー・ナルセです」


 釣られて俺も挨拶を返す。

 但し俺は礼儀作法に詳しくなかったので、頭を下げるだけだったが。


「まあ、ソウイチロー様と仰るのですね。不思議な響きの名前ですわ」

「そ、そうですか?」


 確かに和葉もそうだが、特に俺の名前は日本色が強い。

 そのせいか、よく変わった名前だと言われることがあった。


「セラ、失礼なことを言うんじゃない!」

「あら、ごめんなさい。貶すつもりはなかったのですが、つい――私はソウイチロー様のお名前、男らしくて好きですわよ?」

「あ、ありがとうございます……」


 その後、和葉とアエリーも続けて挨拶を行った。


「カズハ様にアエリエール様ですね。私はこの通り、目が不自由な女ですが、仲良くしていただけると嬉しいですわ」


 そう言ってセラさんは、メイリアさんに手を引かれ、席へと着いた。

 挨拶の間もずっと目をつむっていたから、そうではないかと思っていたが、やはり目が見えなかったのか……。


「セラ、そんな言い方をするから、みんな反応に困っているじゃないか」

「でも、セティ姉様、私は事実をお伝えしたまでですわ」

「まったく、みんなすまないな。この通り、小生意気な妹だが仲良くしてやってくれ」

「はは、分かりました」




「――新進気鋭のパーティーとは聞いていたが、これが噂にたがわぬ実力者揃いでな」

「まあ、セティ姉様がここまで言うなんて、皆さま本当にお強いのですね」

「いやー、照れるなー」


 俺たちはセラさんを交えて、歓談の続きを行っていた。


「いやいや、セティさんだって、さすがレベル3のパラディンです。今日の探索はいつもより安心感が段違いでしたよ」


 俺の言葉にアエリーが、うんうんと頷く。

 なお、歓談の途中でセレスティアさんから、自分を呼ぶときは“セティ”でいいとのお達しを受けたので、そのように呼ばせてもらっている。


「そ、そうか? 今日が盾役タンクとして初の探索だったのだが、そう言われるとありがたいな……」

「まあ、セティ姉様ったら顔を赤くして。これは近い内に、ソウイチロー様を“お兄様”と呼ぶ日が来るのかしら?」

「ふぇっ!? せせせ、セラッ! バカなことを言うんじゃないっ!」

「あら? でも、今までお知り合いを一人も呼ぶことがなかったセティ姉様が、急にウチに招待したのですもの、これは“そういうこと”だと思うのが当然ではありません?」


 その言葉を聞いて、心なしかセラさんの後ろに控えている、メイリアさんの眼力が強くなった気がする。


「そ、それは誤解です、セラさん! セティさんとはつい先日会ったばかりですし、そんな関係ではいっさいありませんから!」

「まあ、私のことはセラとお呼びになってくださいな、“お兄様”?」

「ぐはぁ――っ!?」


 おおぅ、“お兄様”なんて初めて呼ばれたぞ。

 里菜の“お兄ちゃん”には敵わないものの、これはこれで……。


「そーちゃん、妹なら誰でもいいんだ……」

「は、はぁ!? ふざけたこと言ってんじゃねーし! 俺の妹は里菜ただ一人だっつーのっ!!」

(ほんとだ、前にカズハさんが言ってた通り、図星突かれたら言葉使い悪くなってる)

「あらあら、ではセティ姉様のこととは関係なく、お兄様とお呼びした方がよろしいかしら」


 セラさんが悪戯っぽい笑みを浮かべ、さらに話をややこしくしようとしていたその時だった。


「セラ、いい加減にしないか」


 先ほどまでは違い、厳格な雰囲気を身にまとわせたセティさんが、セラさんをたしなめる。

 鶴の一声とばかりに、喧騒に包まれていたその場は、一瞬にしてシンと静まり返った。


「丁度セラの紹介も出来たことだし、いい機会だ。今日ソウイチロー殿たちをお呼びした本題に入りたいと思う」

「セティ姉様……?」

「頼む、ソウイチロー殿! セラに、妹に――≪スキル付与エンチャント≫を試してみてほしいのだ!」

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