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02 転移

「さすが常にランキング上位に入っている作品だけあって、すっごい面白かったよー!」

「へー、それは良かったな」


 朝、学校に向かう途中でのこと。

 隣で喧しく話す幼なじみに対し、俺はおざなりに返事を返す。

 いつも思うのだが、何故こいつは朝からこんなにもテンションが高いのだろうか。

 俺なんて、まだ眠くて仕方ないというのに……。


「読んでみれば絶対ハマるのと思うのになー」

「いや、何回も言ってもけど、俺はゲームの方が性に合ってるから」


 和葉が読めと迫っているのは、いわゆるネット小説のことだ。

 この橘和葉という少女は、一見すると活発な少女に見えるかもしれない。

 いや、事実そうなのだが、しかし毎晩ネット上の小説投稿サイトを徘徊しては投稿されている小説を読み漁るという一面も持ち合わせていた。


 俺だって最近のネット小説にはアニメ化するほど人気があって面白い作品があるのは知っている。

 しかし、どうも俺は文字をずっと読み続けるということが苦手なのだ。眠くなっている。

 なので、俺は今日まで小説という媒体には手を出せないでいた。


「そーちゃんは頑固だなー」

「うるせー」


 ちなみに、この『そーちゃん』というのは勿論俺のことだ。

 俺の名前が、成瀬聡一郎だから名前の頭文字を取って『そーちゃん』となる。

 さすがにこの歳で『そーちゃん』というのはどうかと思うのだが、今更こいつに『聡一郎くん』などと呼ばれる方が逆に恥ずかしい。

 なので他に良い呼び名を思いつかなかった俺たちは、子供の頃からの呼び方を変えることなく今に至ってしまっていた。


 ――そんな、いつもと変わらない平凡な朝。

 ずっと続くかのように思っていた日常は唐突に終わりを告げる。


「――っ」


 一瞬、眩暈がしたかと思うと、俺は先ほどまで歩いてはずの通学路とは全く別の場所に立っていた。


「……は?」


 あまりの出来事に理解が追いつかない。

 先ほどまで歩いていたはずの通学路は、いつの間にかどこかの大通りになっていた。

 周囲に見えるのは日本では見かけないレンガ造りの家、家、家。

 地面に至ってはコンクリート舗装など望むべくもなく、土がむき出しのまま放置されている。

 スマホを確認すると、当然のようにアンテナは“圏外”を指し示していた。


「そーちゃん……ここどこ……?」


 幸いにも、と言うべきかは分からないが、隣には和葉がポケーっとした顔で突っ立っていた。


「……外国、かなぁ?」


 自分でもありえないことを言っているとは思うが、それ以外に言いようがない。

 先ほども述べたように周囲の建物の建築様式が日本とは明らかに違う。

 しかし、最も驚くべきはこの大通りを忙しなく通りすぎていく人間たちだ。

 さっきまで周りには俺と和葉しかいなかったはずなのに――というのはこの際、一旦置いておく。


 ガシャン、ガシャンと鎧(?)を着込んだ人が、普通に歩いている。

 道行く人々は、それが日常と言わんばかりに鎧の男には目もくれない。

 そして、異常な風景の極めつけとして、犬がいた。

 なんか普通に服を着て二足歩行で歩いてた。


 ――コスプレ会場かな?

 と、現実逃避しかけた時のことだ。


「――そーちゃん! これって異世界転移じゃないかな!?」


 隣でポケーっと突っ立ってた和葉が急にそんなことを言い出す。


「異世界転移ぃ~?」


 そんなバカなと言いたいところだが、先ほどの犬、獣人(?)を見たあとだと強く否定もできない。


「ステータスオープン! ――ほら、これで自分のステータスが確認できる! やっぱり異世界転移だよ、これ!」


 なにやら和葉は何もないはずの空間を見つめてはテンションを上げている。

 え、なに?

 やつには見えてはいけないものが見えてんの?


「ほらぁ、そーちゃんも見てよ、これ!」


 そういって和葉は俺の腕を引っ張る。

 あいたた、痛い、マジ痛い!

 こいつ、こんなに力強かったっけか!?


「ちょっと待て! そう言われても俺には何も見えないんだよ」

「そーなの? じゃあ自分のステータスは自分にしか見えないんだ」


 え、というかマジなの?

 マジで和葉には自分のステータスとやらが見えてんの?


「そーちゃんも早く見なよー。転移特典かは分からないけど、私強そうなスキルがすっごいあるよー」


 え、さっきまでステータス見てたはずなのに、なんかもう違うこと言い始めてる。

 いかん、早くしないと置いていかれる。

 というか、転移特典ってなに?


 しかし、言うの?

 マジで言うの?

 この天下の往来で?

 こんな大勢の人たちがいる中で?

 ステータスオープンって叫ぶの?

 痛くない?


 と思った瞬間、突然目の前に何かが現れる。


「おおっ、ビックリしたぁ……」


 それは、まるでゲームでよく見かけるようなステータスウインドウだった。

 そんなものが空中に映し出されていた。


 なるほど、これがさっきから和葉が見ているものか。

 確かに画面(?)内に≪STR≫がどうたら≪INT≫がどうたらと記載されている。

 なんだ『ステータスオープン』なんて叫ぶ必要ないじゃないか。和葉のやつめ、適当なこと言いやがって。


 ふむ、この数値を見る限り、俺は≪STR≫や≪VIT≫が低い代わりに≪INT≫が高めという後衛タイプ向きのステータスをしている。

 確かに俺は体を動かすよりも頭を使う方が得意なタイプだが……。

 これ、現実の俺を元にしてステータス決めてるのか?


 ……いや、現実の俺って何だよ。

 いかん、和葉のゲーム脳ならぬ、ネット小説脳の影響が俺にまで出始めている。気をつけないと。


「もうステータス確認した?」


 と、そこで和葉に声をかけられる。


「ああ、俺はどうも≪INT≫が高めの後衛タイプ向きのステだな」


 まあ、それもこのウインドウに表示されている≪STR≫や≪INT≫が、ゲームと同じように腕力や知力を現していればの話だが。


「お、いいねー。私は前衛向きのステだからバランスいい感じだね!」


 と、和葉は嬉しそうにするが、男としては女子に前衛を任せるというのはどうにも抵抗がある。


 ……ん? 前衛を任せるってなんだよ。

 まさか、俺は和葉を連れてモンスター退治にでも行くつもりか?

 いやいやいやっ!


「で、そーちゃんのスキルはどんな感じだった? レアスキルあった?」

「あ、ああ……まだ見てない」

「えー、まだ見てないの? 私の予想ではね、そーちゃんにはすっごいレアスキルが発現してると思うんだよねー」


 なんたって、そーちゃんだからねー、と和葉は訳の分からないことを言う。

 俺は先の嫌な考えを振り切るようにして、≪スキル欄≫とやらを確認した。

 そこには3つのスキルが記載されていた。


「≪スキル創造クリエイト≫に≪スキル付与エンチャント≫、それに≪翻訳≫か」


 ≪翻訳≫はあれか? 異世界でも言葉通じるようになるとかいうあれ?

 であれば、これはとても助かるスキルだな。

 仮に異世界に飛ばされていたとして、言葉が通じなくて意思疎通できませんじゃ詰んでいるところだった。

 残りの2つは字面から何となく意味は分かるが、効果は未知数だな。

 ただ、少なくとも和葉の言うレアスキルではなさそうだ、と俺が思っていると――


「ふおぉぉぉぉぉぉーーーーーーっ!!! ≪スキル創造クリエイト≫!? なにそれ、ちょーレアじゃんっ!!!」


 俺とは正反対に和葉のテンションは最高潮に達していた。

 え、なに?

 このスキル、そんな良いものか?


「≪鑑定≫! そーちゃん、≪鑑定≫のスキル創って!」

「は、鑑定?」

「そう! ≪鑑定≫チートで無双して俺TUEEEだよっ!」


 言葉の意味はよくわからなかったが、勢いに押された俺は≪鑑定≫スキルとやらを創ってみることにする。

 何故かスキルの使い方は何となく分かった。

 不思議に思いながらも俺は、それが今まで何千、何万回と繰り返してきた動作であるかのようにスキルを使用する。


 ――≪スキル創造クリエイト≫! ≪鑑定≫!


 そして、≪鑑定Lv1≫のスキルが創造された。

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