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19 第二階層

「ここがルトラルガの迷宮の第二階層……」


 第二階層に到着した俺はキョロキョロと辺りを見渡す。

 先ほどまで俺たちは石造りの迷宮内を歩いていたはずだ。

 しかし、下層へと続く階段を降り、第二階層へと到着した途端に辺りの景色は一変していた。


「これじゃ、迷宮っていうより洞窟だねー」


 和葉の言う通り、どこを向いても岩、岩、岩。

 いかにも迷宮といった感じだった第一階層とは違い、ゴツゴツとした岩肌で囲まれている第二階層は、まさに洞窟といった言葉の方が相応しい姿をしていた。


「話には聞いていましたが、やはり聞くと見るのでは大違いですね」


 そう言ってアエリーはメガネの位置をクイッと直す。

 アエリーは俺たちより数ヶ月ほど前に冒険者になっていたらしいのだが、第二階層には行ったことがないとのことだった。

 なので、俺たちと同じく今回が第二階層デビューとなる。


「ま、こんなとこで立ち止まってても仕方ないし先に進もっか?」

「そうだな、だがその前に和葉。第二階層での注意点、覚えてるか?」


 俺は全体の意思共有の意味も含め、和葉に質問する。

 第二階層に挑戦すると決めた際、下調べもせずに突入するほど俺たちは迂闊ではない。

 イレーネさんやクレインさん、ベネディアさんなどに出現する敵の種類や注意点などを事前に確認して回っていたのだ。


「ちゃんと覚えてるよー。第二階層では頭上のジャイアントバットに注意するべし、でしょ?」


 ジャイアントバットとは、その名の通り巨大なコウモリの魔物だ。

 この魔物は、動きこそ素早いものの一匹ずつでは大した脅威にはならない。

 しかし、この魔物の真に厄介なところは、常に“群れ”を形成しているという点にある。


 頭上への警戒を怠り、彼らのテリトリーに侵入してしまった冒険者たちは、哀れにも大量のジャイアントバットに一斉に襲われて餌食に――というのが初心者冒険者の“あるある”なのだそうだ。


「よし、ちゃんと覚えてるな。じゃあ次はアエリー、ジャイアントバットの対処法は?」

「は、はい。ジャイアントバットのテリトリーに入る前に私の攻撃魔法で一掃します」


 そう、ジャイアントバットは群れの中心から10mほどの領域をテリトリーとしており、そこに侵入してきた敵に対しては問答無用で襲い掛かってくる。

 しかし、テリトリー外の生物に対しては積極的に襲ってはこないという習性を持っていた。


 そこでウィザードがいるパーティーでは、ジャイアントバットのテリトリー外から攻撃魔法で先制し、一掃してしまうという必勝法が確立されているのだ。


「正解。そこさえ徹底できれば魔物の強さ自体は第一階層より少し強い程度らしいから、そう苦労せずに探索を行えると思う。ただ、二人ともくれぐれも油断だけはしないでくれよ」

「はーい!」

「はい!」


 こうして、俺たちは初となる第二階層の探索を開始した。




「そーちゃん、前方にジャイアントバットの群れがいるよ」

「分かった。それじゃアエリー、頼む」


 俺はもはや恒例と化している、スキル≪魔力制御Lv1≫をアエリーにエンチャントする。


「任せてください!」


 スキル≪賢者の叡知Lv1≫を発動させたアエリーが、ライトニングボルトでダンジョンの天井に張り付いているジャイアントバットの群れを薙ぎ払う。

 ギィギィという鳴き声をあげながらジャイアントバットたちは、哀れにも何も抵抗できずにその身を粒子へと変貌されていった。


 さすがに数が多いので何匹かは撃ち漏らすのではと身構えていた俺と和葉だったが、その心配は杞憂に終わることとなる。

 ほどなくして、十数個の魔石が天井からまるでシャワーのように一気に降り注いてきた。


「凄いな、一瞬でこんな数の魔石が手に入るのか」

「これもアエリーちゃんのおかげだねー」

「そんなっ、私なんてまだまだですよ……」


 そう謙遜したあと、アエリーは照れくさそうに下を向く。

 これだけの成果を上げているのだからもっと自信を持ってもいいと思うのだが、そこで天狗になったりしないのがアエリーの良いところだろう。


 まあ、スキル≪魔力暴走≫の話になった時や、酔っ払ったりした時など、少々暴走癖があるのが玉に瑕なのだが……。

 なお、酔っ払っていた時の記憶は綺麗さっぱりないらしく、先日の酒場での出来事などをアエリーは一切覚えていなかった。


「まあ、そう謙遜するな。やはり俺の見立て通り、第二階層は俺と和葉の二人だけじゃ厳しいとこだった。アエリーが仲間になってくれて本当に良かったよ」

「~~~っ!」


 俺の言葉に顔を赤くしたアエリーは、とんがり帽子のつばの部分で顔を隠す。

 事実、遠距離攻撃の手段を持たない俺と和葉では、ジャイアントバットの群れを撃退するのは難しかっただろう。

 その場合、ジャイアントバットの群れを見つけては迂回するという非効率な探索になっていたに違いない。


「そーちゃんってさぁ、意外に天然たらしだよね」

「はぁ? 誰がたらしだよ」

「自覚がない分、さらにたちが悪いというか……」


 そう言って和葉はため息をつく。

 俺はただアエリーに感謝の気持ちを伝えただけなのに、何故それでたらしなどと言われなければならないのか。

 まったく、和葉の言うことは意味不明である。


「ほら、バカなこと言ってないで、そろそろ探索を再開するぞ」

「はーい」


 こうして、俺たちは第二階層の探索を再開する。


 地上の魔物は和葉が、天井の魔物はアエリーがといった感じで俺たちは危なげなく探索を進めていく。

 天井のジャイアントバットについては、たまに何匹かを撃ち漏らすこともあったが、来ると分かっていれば対処は容易だ。

 これも俺と和葉で問題なく対処を行うことが出来た。


 とは言っても、九割方対処したのは和葉なのだが……。

 まあ、俺も多少は貢献したので“俺と和葉”で対処したのは間違いない、うん。


 ともあれ、今回が初となる第二階層の探索だが、経過は順調そのものであった。

 そうして、何度目かになるジャイアントバットの群れをアエリーが薙ぎ払ったあとのこと。

 唐突に、その瞬間は訪れる。


『レベルが2にあがりました』


 いつぞや聞いた機械音声のように無機質な声が脳内に響き、俺のレベルが上がったことを告げるのであった。

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