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17 賢者の叡知

「その代わりにですね……≪賢者の叡知Lv1≫ってスキルが増えてます……」

「はぁぁぁーーーっ!?」


 まてまてまて、≪魔力暴走≫スキルが消えるのまでは想定内だが、≪魔力制御Lv1≫スキルまでもが消える?

 しかも、≪賢者の叡知Lv1≫なんて新スキルが誕生するなんて完全に想定外だ。


「ちなみに、その≪賢者の叡知Lv1≫とやらのスキルはどんな効果があるんだ?」

「えっと……魔法威力が2倍、消費魔力が0.9倍になる効果があるみたいです……」

「なんだその便利スキルは……」


 効果こそ控えめになっているが、まるで≪魔力暴走≫スキルと≪魔力制御Lv1≫スキルの良いとこ取りをしたようなスキルじゃないか。


「そーちゃん、もしかしてスキルが“合成”したんじゃない?」

「合成?」

「うん、≪魔力暴走≫と≪魔力制御Lv1≫のスキルが組合わさった結果、≪賢者の叡知Lv1≫ってスキルが新しく出来たんじゃないかなーって」


 スキルが“合成”?

 果たしてそんなことが本当にありえるのだろうか?

 にわかには信じがたいが、状況から考えるに和葉の推測は正しいように思える。


「なるほど、その可能性は高いかもしれないな。アエリー、少し試したいことがあるから一旦エンチャントしたスキルを解除するぞ」

「ままま、待ってください!」

「ん、どうかしたか?」

「解除しないでくださいっ、このスキルがあれば私、人並みの――いえ、人並み以上のウィザードにだってなれるんです! もう一発屋ならぬ二発屋だなんてバカにされなくて済むんですー!」


 俺の腕にしがみつき、涙目で懇願してくるアエリー。

 その結果、柔らかな二つの膨らみが俺の腕に押し付けられることになる。


「ちょっ、引っ付くな! またすぐに≪魔力制御Lv1≫をエンチャントしてやるから離せ!」

「そんなこと言って、今度はスキルに何も変化が起きなかったらどうするんですか!」

「どうせ十分経てば自動的に解除されるんだから、今解除しても一緒だろ!」


 俺はアエリーを引き剥がそうとするが、その度に『ふにふに』というか『ぷにぷに』というか『たゆんたゆん』といった感触が腕に伝わってくる。

 『我、異世界にて桃源郷を発見せり!』なんて言葉が脳裏に浮かんだ。


「そんなの分からないじゃないですか! 十分経ったら何事もなく≪賢者の叡知Lv1≫がしれっと残ってるかもしれないじゃないですか!」

「いや、そんな都合の良い話あるわけが……」

「ともかくお願いです、解除しないでください! 何でも言うこと聞きますからー!」


 そう言って、アエリーはさらに強く俺の腕にしがみついてくる。


「やめろぉ! そんな危険なものを押し付けた状態で、そんなセリフを言うなー!」


 いくら強靭な理性に定評のある俺といえど、所詮は健全な思春期男子、限界はあるのだ。


「良かったね、そーちゃん。アエリーちゃんが何でも言うこと聞いてくれるって」

「バカなこと言ってないで助けてくれませんかねぇ! あと、その笑顔怖いんだよ!」




 ――その後、一悶着も二悶着もあった末に、≪魔力制御Lv1≫スキルを解除すれば≪賢者の叡知Lv1≫スキルは消え、≪魔力暴走≫スキルが復活することを確認。

 なお、この時のアエリーの嘆きようたるや凄まじいの一言だった。


 また、再度≪魔力制御Lv1≫スキルをエンチャントすれば、≪魔力暴走≫スキルと≪魔力制御Lv1≫スキルが消え、≪賢者の叡知Lv1≫スキルが復活することが確認できた。

 なお、この時のアエリーの喜びようたるや凄まじいの一言だった。


 以上のことから、≪賢者の叡知Lv1≫スキルは、やはり和葉の推測通り≪魔力暴走≫と≪魔力制御Lv1≫のスキルを組み合わさって“合成”された結果、誕生したと考えるしかない結果となる。

 また、他にも≪魔力暴走≫と“合成”できるスキルはないかと色々と試してみたのだが、結局“合成”が可能だったのは≪魔力制御Lv1≫スキルのみという結果になった。


(しかし、なんでユニークスキルの場合は、上書きじゃなくて合成されるんだ? 自分のスキルながらホントわけがわからん……)


 俺に≪スキル付与エンチャント≫なんて力を与えた存在が何者なのかは知らないが、与えるなら与えるで、説明書の一つくらい寄越せと文句を言いたい。

 まあ、そんな存在が本当にいるのかどうかも分からないのだが。


「ああ、神様……私にこんな素晴らしいスキルを与えてくださってありがとうございます。今日まで諦めずに冒険者を続けてきて本当に良かった……」


 思い悩む俺をよそに、アエリーは呑気に神へと祈りを捧げている。


(神様、ねぇ)


 俺にこんな力を与えた存在、もっと言えば俺たちをこの世界へと“転移”させた存在。

 もし、そんなものが本当にいるとするなら、やはりそれは“神様”なのだろうか。

 ふとそんなことを思う。


「和葉」


 俺はアエリーに聞こえないよう、小声で和葉に話しかける。


「やっぱり俺たちは“神様”ってやつに、この世界へと転移させられたんだと思うか?」

「んー、どうだろ。これが“転生”ものならその可能性は高いと思うけど、私たちの場合は“転移”だからねー」

「どういうことだ? “転生”と“転移”で何か違うのか?」

「うん、“転生”の場合は、主人公が何かの理由で死んじゃって、神様に魂だけ別の世界に送ってもらうっていうのがお決まりのパターンなんだけど、“転移”の場合は本当に偶然転移したってパターンも多いからねー」

「なるほど、俺たちの場合も、特に理由もなく偶然転移したって可能性があるわけか」


 それはまた傍迷惑な話だが、死亡したから転生させました、という話じゃないだけ良かったと言うべきか。

 もしそうなら、元の世界へと帰るどころの話ではなくなっているところだ。


(……俺たちに記憶がないだけで、実は二人とも死んでましたとかいうオチはないよな?)


 うん、ない。

 ないはずだ、多分、きっと!

 恐ろしいことを考えるんじゃない、俺!


「結局、俺たちがこの世界に転移した理由だとか、“転移特典”とかいうこの力のことなんて、考えるだけ無駄なのかもな」

「そうかもねー」


 だったら俺たちのやるべきことは一つだ。

 さっさとレベルを10まであげて≪時空転移≫で元の世界へと帰る。

 そのためには――。


「アエリー、そろそろ探索を再開するぞ」

「あ、はい!」


 俺たちも探索に随分と慣れてきたし、アエリーという強力な仲間も増えた。

 本当はもう少し様子を見る予定だったが、この分なら明日にでも行けるかもしれない。

 目指すは“ルトラルガの迷宮”の第二階層、まだ見ぬ未知への領域だ。

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