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11 ベネディア

「ベネディアさん、魔石の納品をお願いします」

「承ります」


 俺は受付のベネディアさんに本日の戦利品である魔石を納品する。

 ここで魔石の量や質などの査定が行われ、その結果により報酬が支払われる仕組みになっていた。


「本日もなかなかの量を集めてこられましたね」


 そう言ってベネディアさんは上品に微笑む。

 最初こそ初日にやらかしてしまった例の“アレ”のせいで、ベネディアさんからそっけない態度で対応されていた俺だったが、最近は良好な関係を築けていた。

 毎日のようにダンジョンへと向かい、毎回それなりの量の魔石を納品している成果が認められたというのもあるかもしれない。

 しかし、実際はイレーネさんの尽力によるところが大きいだろう。


 というのも、イレーネさんが本当に俺が≪スキル付与エンチャント≫なるスキルを所持していることを、彼女に説明してくれたおかげで、初日の“アレ”が誤解であったことが判明したのだ。

 誤解がとけたあと、俺はベネディアさんから謝罪を受けることとなり、それからは何かと良くしてもらっている。


「お待たせしました。本日の報酬はこちらになります」

「ありがとうございます」


 ベネディアさんから報酬の入った皮袋を受け取る。

 その後、半分は諦めながら彼女に例の件のことを聞いてみた。


「ところで、パーティーメンバー募集の件は……」

「残念ながら、本日も応募者は現れませんでした」

「そうですか……」

「はい、申し訳ありません」


 俺は今日もパーティーへの加入応募者がゼロであったことを聞かされて落胆する。

 すぐに応募者が現れるとは思っていなかったが、こうも応募者ゼロの日々が続くと、さすがに気が滅入ってくるというものだ。


 なお、パーティーメンバーを募集する際の仕組みは次のような感じになっていた。

 まず募集側は、専用のボードに募集要項を記載した用紙を張り付け、応募者が表れるの待つ。

 そして応募側は、気に入ったパーティーがあればギルドの受付、つまりベネディアさんにその旨を伝える。

 その後、ギルドの仲介の元、両者が面談を行い、問題なければ晴れてパーティーへと参加、という流れだ。


「いえ、人との縁の話ですからね。こればっかりは仕方ないですよ」

「そう言っていただけると、ギルド側としても助かります」


 そう言ってベネディアさんは頭を下げる。

 今日も素晴らしいな谷間だった。


「けど、募集を開始してから結構経ちますが、どのパーティーもこんなに応募がこないものなんですか?」


 俺は前から気になっていたことをベネディアさんに尋ねる。

 クラスを限定しての募集ならともかく、俺たちは今のところクラス不問で募集している。

 にも関わらずこの有様なのだ。

 ならば、クラスを限定しての募集だと、いったい応募者が現れるまでどれほどの期間を必要とするのか分かったものではない。


 しかし、他のパーティーを見る限り、わりと頻繁にメンバーが入れ替わっているように見える。

 その証拠に、専用ボードに貼り付けられている募集用紙は、次から次へと新しいものへと更新されていき、いつまでも残っているのは俺たちの募集用紙くらいなものであった。


「いえ、他のパーティーはそれほど時間のかかるものではないのですが……」


 ベネディアさんは困ったような表情をして答える。


「やはりそうですか。俺たちのパーティーだけが異様に応募者が少ない、というか皆無なだけなんですね?」


 とすると、その原因はなんだ?

 まさかとは思うが、初日の“アレ”が原因だったりするのだろうか。

 さすがそれはないと思いたいが……。


「あの、その原因って分かりますか?」

「そうですね……やはり備考欄の記述が問題ではないでしょうか」


 備考欄とは、募集クラス以外にも細かい条件がある場合などに使用される記入欄だ。

 一般的には、男限定の募集だったり、年齢制限がある場合などにその旨を記入する形になる。

 俺はその欄に『ともにレベル10を目指せる人』と記載していた。


「失礼な言い方になりますが、前人未踏の領域である“レベル10”を新人冒険者が目指すと言っても、他の冒険者の方々は大言壮語だとしか受け取らないのではないかと」

「なるほど……」


 確かにそれは懸念点の一つではあった。

 しかし、実際に俺たちがレベル10を目指す必要がある以上、仲間にもそれくらいの覚悟を持っていてほしい。

 そこは譲れない条件だ。

 あとになって『やっぱ辛くなったので辞めます』なんてことになっては困るのだ。


 それに“冒険者”なんて職業についている以上、誰も到達したことのない領域を目指すといった方が逆に燃えるのでは?

 という魂胆もあったのだが、今回それが裏目に出てしまっているのか。


 さて、どうしたものかと頭を捻っていると、ベネディアさんが助け船を出してくれる。


「私では冒険者の皆様方の機微についてまでは分かりかねます。ですから冒険者のことは、やはり冒険者に聞くのが一番でしょう」

「というと?」

「ナルセ様はイレーネと親しくされているご様子。一度彼女に相談してみてはいかがでしょうか」

「確かに、それはそうですね。一度イレーネさんに相談してみることにします」


 俺は『ありがとうございました』と礼を言ってその場を立ち去る。

 ベネディアさんは『はい、彼女によろしくお伝えください』と笑顔で見送ってくれた。


 ちなみに、イレーネさんとベネディアさんは一緒に飲みに行ったりする仲らしい。

 俺の貧困な想像力では、いまいちあの二人が一緒に飲んでいる姿を想像できないが、あんな美人が二人並ぶんだ、きっと絵になる光景なんだろうな――。

 俺はそんなことを考えながら宿へと帰るべく、帰路についた。

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