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01 スキル付与師(エンチャンター)

「では、ソーイチロー・ナルセさん。貴方の登録クラスは――」

「“スキル付与師エンチャンター”でお願いします!」


 俺はなるべく周囲にも聞こえるように、大きめの声で宣言する。


「“スキル付与師エンチャンター”ですか……?」


 受付のお姉さんが怪訝そうな表情で聞き返してくるが、気にしていられない。

 ここが勝負どころだ、落ち着け、俺!

 声は大きく、かつハッキリと。周囲にもキチンと聞こえるように説明するんだ!


「はい! “スキル付与師エンチャンター”とはですね――」

「――申し訳ありませんが、そういった名称のクラスは存在しませんので、“付与師エンチャンター”で登録しておきますね」


 え、あれ?

 説明の途中だったのに、このお姉さん、バッサリと話を打ち切りやがったぞ?


「では登録作業は以上で完了になります。ソーイチロー・ナルセさんの今後のご活躍を期待しております」

「いや、あの……」

「早速クエストをお受けになる場合は、あちらのクエストボードから適正レベルのものをお探しください」

「は、話を……」

「以上になります」


 あ、ダメだこりゃ。

 このお姉さん、これ以上俺の話聞く気ないわ。

 だって、表情こそ笑顔だけど目が笑ってないもの。

 つか、このお姉さんマジこえー。




「――ダメだったね」


 落胆する俺に、一人の少女が声をかけてくる。

 俺はうなだれた状態のままで声をかけてきた少女に答えた。


「すまん。俺の考えが甘かった……」


 この少女の名は橘 和葉かずは

 俺の幼馴染みで、このギルドに共に登録しにきた仲間でもある。


「別にいいよー。ダメでもともとな作戦だったわけだし」


 和葉はそういって俺を励ましてくれるが、今はその優しさが心に突き刺さる。

 俺の考えていた作戦はこうだった。

 自分は誰も聞いたことがないようなレアクラス“スキル付与師エンチャンター”であると周りに喧伝する。

 すると興味を引かれたベテラン冒険者のパーティーに勧誘され、彼らのもとで安全・確実にレベルアップ――という寸法だったのだが……。

 人生、そんなに甘くはなかったかぁ……。


「そーちゃん、大丈夫?」


 和葉がその大きな瞳で心配そうにのぞき込んでくる。

 いかん、和葉を不安にさせてしまったようだ。

 ただでさえ“こんな状況”なんだ。

 落ち込んでる暇なんかないぞ。常に気持ちは前向きに、前向きに。


「ん、大丈夫だ。次の作戦を考えないとな」

「わわっ、髪が乱れるからやめてー!」


 俺は和葉の髪をわしゃわしゃと撫でながら“次なる一手”を考えるのであった。




 ――とはいっても、そうそう妙案が思いつくはずもない。

 はて、どうしたものか途方にくれていたときのことだ。


「あれ、キミ、さっきの“スキル付与師エンチャンター”の子?」


 突然、見知らぬ女性から声をかけられる。

 見るとそこには銀髪で褐色の肌をした戦士風の女性が立っていた。


 ところで、さっきから気になっていたのだが、受付のお姉さんといい、このギルドの女性は何故こうも露出の多い格好をしているのだろうか。

 受付のお姉さんは胸元が大胆に開けた服を着ているせいで目のやり場にとても困った。

 この銀髪の女性に至っては、いわゆるビキニアーマーとでもいうのだろうか。

 胸や肩などの急所こそプレートのようなもので守ってはいるが、それ以外の箇所はすべて肌をさらけ出す格好をしている。

 どう見ても痴女です。本当にありがとうございました。


 ところで、今俺はとても重大なことに気がついた。

 もしや和葉も将来的にはこんな格好をするようになるのだろうか。

 こういった鎧(?)を着こなすためには和葉の身長では少し足りない気がするが、出るところは出ているので、全く似合わないということはないだろう。

 個人的には見てみたい気もするが、他の野郎共にも見られることを考えると……。


「そーちゃんのエッチ」


 和葉の一言で現実に引き戻された俺は、コホンと一つ咳払いをする。


「……そうですけど、アナタは?」

「私はイレーネ・ツェルニク。盗み聞きするつもりはなかったんだけど、さっきの受付のやりとりが聞こえちゃってさー」


 ごめんねー、とイレーネと名乗った女性は笑いつつも答える。

 まあ、その件に関してはわざと周りに聞こえるように喋っていたのでいいのだが、それよりも、だ。


「もしや勧誘ですか!?」

「え?」

「え?」


 二人して素っ頓狂な声を出す。

 てっきり彼女はレアクラスたる俺を青田買いすべく、勧誘にきたのだと思ったが、どうやら違うらしい。

 では、何用なのかと彼女に話を聞くと、衝撃の事実が発覚した。


 イレーネさん曰く、俺のように実在しないクラスを自称したがる輩は定期的に現れるらしい。

 たとえば、自分は“竜殺し”だとか、“黒き閃光の闇騎士ダークナイト”である、といった感じで。

 そういった者達は、得てして周囲から浮き、孤立しがちになるので止めた方がいいと、親切にもイレーネさんは忠告にきてくれたというワケだった。


「ま、マジか……」


 イレーネさんの話を聞いて、先ほどの受付のお姉さんの態度に合点がいく。

 つまり、俺はそんな中二病患者たちと同列に扱われていたのだ。

 そう思うと猛烈に恥ずかしくなってくる。

 俺は受付で周囲に聞こえるよう高らかに宣言してしまった。

 俺のクラスは“スキル付与師エンチャンター”です! と。

 周囲の人間からしてみれば『また変なのが来た』と嘲笑の対象だったに違いない。


(あぁーーーっ、違うのに! 俺の場合、ほんとのことなのにぃぃぃーーーっ!!)


 今更ながらに自分が何をしでかしてしまったのかを理解し、俺は身悶える。


「だ、大丈夫! 私はそーちゃんが中二病なんかじゃないって分かってるから!」


 和葉はそうフォローしてくれるが、ギルドに来て早々周囲に押されたであろう『痛い奴』の烙印は、今後暫くは消えることがないだろう……。

 そんな俺たちを尻目にイレーネさんは、じゃあ頑張ってねー、と去って行こうとするが――


 まてよ、これはチャンスだ。

 想定とはだいぶ違ったが、おそらくそれなりの実力者であろうイレーネさんに興味は持ってもらえた。

 この機を逃す手はない!


「――待ってください、イレーネさんっ!」


 俺は声を張り上げて彼女を呼び止める。


「パーティーに入れてくれとは言いません! ただ、俺たちに――戦い方を教えてください!」


 深々と頭を下げて、彼女に頼み込む。

 これで不足だっていうなら土下座だってしてもいい。

 周囲の視線なんて気にしていられるか。


「ほら、和葉もこっちきて頭下げる!」

「う、うん!」


 突然のことに目を丸くしていた和葉をこちらに呼び寄せ、同じく頭を下げさせる。


「ちょ、ちょっとキミたち何やって――っ」

「お願いします! イレーネさんしか頼れる人がいないんです!」


 イレーネ・ツェルニク。全くの赤の他人である俺に、わざわざ忠告をしに来てくれたことから、彼女はその派手な格好とはうらはらに情が厚く、お節介を焼くタイプである考えられる。

 であれば申し訳ないが、その人の良さに全力でつけ込まさせてもらう。

 俺はなるべく彼女の保護欲を刺激するように、自分は弱者であること、自分にはイレーネさんが必要であることを涙ながらに訴える。


「俺たち、イレーネさんに断られたら、もう――っ! 少しでもこの子羊たちを哀れだと思ってくれるのなら、どうか愛の手を――っ!!」

「わかった! わかったから少し落ち着いてっ!」


 フッ、かかった。

 俺は心の中でほくそ笑む。


「本当ですか、イレーネさん!? こんな俺たちを助けてくれるんですねっ!?」

「いや、そこまでは言ってないけど……」

「そ、そんな――っ!?」


 俺は再び泣き真似を開始する。


「ちょ、ちょっとキミぃ!?」


 自分でも外道なことをしているなとは思う。

 しかし、俺たちは何としても、どんな手を使ってでも生き延びなければならない理由があった。


 生き延びて“現代”へ――和葉と共に俺たちがいた元の世界に帰るんだ!

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