詩花 おはようの温もり
日常というか、ある2人の朝の挨拶の時、起こす側と起こされる側やりとりを切り取っています。
基本は起こされる側の視点ですが、後半は起こす側の視点も入ってますのでご注意を。
朝の倦怠感
日差しのなかの微睡み
優しく髪をくすぐる温もり
おはようと優しく
キャンディを舐めるように甘く
鼓膜を揺らす
少しだけ目を開く
おはようと
素直に返すのは恥ずかしくて
寝返りをうって小さく返す
君は立ち上がって
足音が遠くなっていく
ただ幸せであたたかくて
また眠気に身を任せてしまいたくなる
いつもの朝
また朝がくる
今日も君は優しく笑いかけてくれる
やっぱりまだ恥ずかしい
今日は寝たふりをする
君は気づかない
それとも気づかないふりかな
また陽は昇る
二重の温もりが朝を告げる
今日もなかなか起きれそうにない
君はあきれもせずに
起こしにきてくれる
また朝がくる
薄く目を開けて君がくるのを
待ってみる
だけど
おかしいな
視界が霞んでいた
目を擦っても治らなかった
どうしたの
やってきた君の問いかけに
何でもないよ
おはよう
自然と返したつもりが
いつもより不自然だということに
気づけなかった
朝がくる
陽は昇る
けど
今日は曇りみたいでどこか暗い
相変わらず視界は霞んでいた
おはよう
君はいつもみたく
甘く優しく起こしにくる
今日は曇り
私の問いかけに
少しだけ間を開けて
カーテンを開ける音がする
そうみたいだね
答えてくれた
そっか
今日はちょっと寒い
朝がくる
朝がくる
朝がくる
曇りは続く
また今日も曇り
最近天気悪いね
そうだね
君は目を細めて窓の外を見ながら頷く
空は暗い
太陽をしばらく見てないな
朝がくる
くるはず
まだ朝にならない
夜が続く
あれおかしいな
君は変わらず起こしにきた
あれ
もう朝なの
まだ暗くない
君は黙った
顔がよく見えない
どうかした
何でもないよ
ごめん
今日はちょっと早く起こしにきたんだ
そう言って立ち上がって
足音は離れていく
声が震えてた気がした
どうしたのだろうか
とりあえず寝ることにする
また朝になったら
君が起こしにきてくれる
そう信じてる
明けない夜はない
そのはずなのに
いつまで経っても夜は明けない
今日も起きたら夜
夜型に突然なるなんてありえない
君は言葉を濁して答えてくれない
ただ
今までよりも優しく甘く
起こしてくれるだけ
頭をいつもより撫でてくれるだけ
何度も何度も
確かめるように優しく
その温もりと
君の声だけが
君の存在を伝えてくれる
君は今どんな顔をしてるんだろう
君の顔が見たい
なのに
霞はとれない
暗くて見えない
そして
君は起こしに来なくなった
しばらくして
微かに聞こえた
名前を呼ぶ
君の掠れた
涙で濡れた
君の声が
あぁ
違うんだね
わたしがおきなく――
でも
きみのぬくもりは
どこまでも
あたたかいね――
覚めない微睡みに浸っていく
髪をくすぐる優しい温もりは
いつまでも
おはようという
優しくて甘い声はきこえないけど
ずっと響いてる
おはよう
ちゃんと君に聞こえたかな
届いたかな
ねぇ
きみはどこ――――
声がきこえた
頭を撫でたら笑ってくれた
頬に涙を流しながら
あぁ
そこにいるんだね――――
おやすみ
いつもみたいに
頭を撫でながら
いつもみたいに
おはようというみたいに
いつもみたいに
優しく語りかけた
いつもみたいに
返事はない