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1/2 の妖かし語り  作者: SIN
3/3

第3話

二人の前に突如として現れた妖かし「送り犬」。二人を糧とし、力をかつての力を取り戻す有無を言わさず襲いかかってくる。京二は織江に逃げるように言い応戦するが、妖かしに触る力のない京二は防戦一方となってしまう。

「!? ちょっ…織江さん、なんで逃げてないんですか!?」

てっきり逃げてくれていると思っていた織江がまだいることに驚いた。

「………ていけるか。」

距離が離れていること、呟くように言ったことで、織江の声はほとんど京二に聞こえない。

「…え?なんです!?」

つい聞き返してしまう京二に織江はこえを振り絞って叫んだ。

「京二を…京二を置いて行けるか!!」

突然出した大声に京二はビクリと驚く。さらに攻撃を繰り出そうとした送り犬も、攻撃を止めて首だけ織江の方を向けた。そしてニヤリと笑いながら

『ククク……そうか。先に小娘からいたぶり殺す方が、そこの逃げ回るだけの小僧にとってさぞかし苦痛だろうな。』

と言いながら身体も織江の方へと向ける。実際に京二からしてみれば、送り犬に対し対抗できる手段が無く、

織江が目の前で傷つけられるのは耐え難い事だったため、もはや何も言い返すことができず、

悔しそうに顔を歪めるしかできなかった。


「京二!そのステッキをよこせ!」

「え!?いや、でも…」

叫ぶ織江に、京二は戸惑ってしまう。

「いいからよこせ!!」

さらに叫ぶ織江に、

「ああ、もう!」

観念したのか、半ばやけっぱちで京二はステッキを織江に投げた。

真っ直ぐ飛んできたステッキを、織江は片手で軽々と受けとると、シャフト上部の金具をパチンと親指で回し、抜刀した。

「!?」

『ほう…仕込み杖だったか。だが、刀であっても我には通用せんぞ?』

京二はさっきまで少し重かったステッキから、細身の刀身が現れた事に驚いた。送り犬も少し驚きはしたが、

自身を傷つける事はできないと余裕の表情でいた。

『さっきも言ったはずだが、我を見ることもできぬ小娘に何ができる?せいぜい無駄な足掻をしてみるのだな!』

嘲笑うかのように言った送り犬は、織江めがけて駆け出していく。


「1時の方から向かって来ます!奴の突進と鋭い爪に気を付けて!」

京二は以前、織江から聞いた方向を時計の時刻に見立てた方法で、送り犬が襲ってくる方向と、送り犬の簡単な特徴を伝える。

その直後、送り犬は織江の肩めがけて噛みつこうと飛び掛かる。しかし、織江はそれをかわし、刀を振り上げて

「そこかぁぁぁっ!」

迷いなく降り下ろした。

送り犬は自身に振り下ろされる刀に一瞬驚くも、身を翻して鋭い爪を持った前足で切り裂こうとするが、

『!?』

急に嫌な予感がしてその場を飛び退く。が、動作が一瞬遅れてしまい、刀身が脇腹をかすめた。


『なに!?』

一旦距離を取った送り犬は、自分を視ることができない人間に攻撃を避けられただけでなく、自身めがけて刀を降り下ろしたこと、

そして、人間からまず受けることが無いであろう痛みと傷を負った事で、驚きを隠せないでいた。

『貴様…!貴様も我が見えるのか!?それに、我に傷を付けられる人間なぞ居るはずがない!』

「悪いが、お前なんか初めから視えていない。代わりにお前たち妖かしに触れる事ができるだけだ。」

『馬鹿な…では何故、我の一撃を避けて、我に狙いを定める事ができた!?』

「よく喋る犬だ。たしかに私はお前が視えないが、お前の足音と気配でおおよその位置くらいは掴める。」

明らかに動揺を隠しきれずまくし立てる送り犬に、織江は淡々と答えながら、鞘になっていたステッキのシャフトを腰に差し、刀を中段に構える。

「京二。」

ふいに織江から呼ばれて、京二はついビクッと肩を震わせる。

「な、なんですか?」

「助言のつもりかもしれないが集中できん。少し黙っていろ。」

「ぇえ!?……そんなぁ。」

良かれと思って向かってくる方向をアドバイスして、この後も同様に援護するつもりでいた京二は、ガックリと肩を落とす。

「さあ、どこからでも来い!!」

織江が叫ぶのと同時に送り犬も織江めがけて飛び掛かっていく。


送り犬の攻撃を織江は、足音と一瞬に放たれる気配を頼りに、やはり視えているのではと言わんばかりにかわしていく。そして気配から現在送り犬がいるであろう場所を、ほぼ勘で割り出し攻撃に転じる。

視えないと言えど、相手の位置をある程度把握しているようで、織江は送り犬目掛け刀を振り下ろしていく。

対して送り犬も、織江が自身に触れる事ができ、傷つけらる事ができると分かってから、織江の一太刀一太刀をかわしながらの攻撃へと変えていく。

『小賢しい!ならばこれでどうだ!!』

そう吠えながら送り犬は、攻撃を仕掛けると見せかけて、別角度から攻撃をするといったフェイントを交えた攻撃をして見せるものの、織江にかわされてしまう。

「小賢しいのはどっちだ!」

織江も叫び返しながら刀を横薙ぎに振った。それを送り犬は後方へと大きく跳び、一旦距離を取る。


『人間の小娘と侮っていたが、こうも手こずらされるとは…なかなかやりおるわ。』

「ふんっ、妖かしなんかに誉められても嬉しくないな。」

織江の実力を認めざるを得ないといった送り犬に対し、織江は不愉快とばかりに鼻を鳴らす。

『人間相手に使うのは惜しいが…これでもその減らず口を叩けるか?』

そう言うと、送り犬はグオォォォォォ!!と雄叫びをあげた。そして徐々にその身体を変化させていく。

「あれは一体…!?」

それまで両者の戦いを黙って見届けていた京二が送り犬の変貌に驚きの声を上げる。

「京二、何が起きている!?」

「なんか身体が一回り以上大きくなってきてます!瞳も紫に変わってますし、結構まずい雰囲気ですよ!」

気配の変化を察知した織江は京二に聞くが、京二も見たままの事しか答えられなかった。だが、送り犬な放つ重圧に二人の緊張が高まる。


『貴様達も感付いているようだが、この一帯は我の生み出した障気に満ちている。それを取り込む事で我の力を高める事ができるということだ。

まだ完全に力は戻っていないが、これで封じられる前の、本来に近い力が出せるというものよ。』

「ふん、出し惜しみしてないでさっさと使えば良かったんじゃないか?」

『貴様ら人間に必要ないと思ったからだ。では…ゆくぞ!!』

織江の挑発にも似た負け惜しみにも動じず、織江目掛け駆け出していく。そのスピードは凄まじく、5、6メートル程の間合いを一瞬で詰めて爪による一撃を繰り出す。

「くっ!」

その攻撃を織江はなんとか紙一重で避けるが、送り犬の爪が着物の袖にかすめた。そのかすめた部分が大きく裂け、腕からじわっと血がにじむ。

攻撃を避けられた送り犬は、身を翻して着地するが、勢いがつきすぎていたのかズザアァァァァ!っと滑っていき、再び5メートル程の間合いで止まった。

それからは織江は一切反撃できず、避けるだけしか、できなくなっていた。送り犬の攻撃は先程と違い、鋭い爪による直線的で単調な攻撃に、なっていたが、変化前より倍近いスピードで襲ってくる相手に気配や足音だけでは対処しきれなくなってきた。

もし下手に刀で防ごうものなら細身の仕込み刀はあっさりとへし折られ、織江の身体はズタズタに引き裂かれていたかもしれない。

無意識に沸き起こる恐怖心を、織江はなんとか抑え込みながら反撃のチャンスを伺っていた。が、避けて反撃しようにも、刀の届く範囲からすぐに離れてしまう。


何度か送り犬の攻撃から避けている間に、織江は京二の近くまで来ていることに気が付いた。目の端に映った京二に一瞬気を取られたその時、

「しまっ…!」

織江は石畳に足をとられ体勢をわずかに崩してしまう。

『もらった!』

その一瞬の隙を送り犬は逃すはずもなく、織江目掛けて飛び掛かっていく。

「織江さん!」

同時に、京二も織江に向かって駆け出していく。そして、わずかに京二の方が早く織江に飛び付き、織江を抱えたまま送り犬の攻撃をかわして地面を転がっていった。

お読みいただきありがとうございます。

仕事後の執筆となってしまい不定期連載となってしまいますが、ご了承ください。

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