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武器は被害者が用意してくれている

 航空機ハイジャックについて、過去の実績を調べてみると、少人数での成功例も珍しくはなく、中にはたった一人でハイジャックを成功させたケースなんかも出てくる。武器だってそんなに大層なものは必要ない。ナイフ程度の場合もあるらしい。

 つまり、ハイジャックってのは極めて低コストで実行できてしまえる訳だ。

 ハイジャックの目的は様々だ。身代金が欲しいだけだったり、亡命だったり、単に航空機を操縦してみたかっただけだったり。そんな様々な目的の中で、最も恐ろしい目的は航空機を“兵器”として利用するハイジャックだろう。つまり、航空機を操縦可能なロケット弾として用いるのだ。そして、この恐るべきハイジャックはあるテロ事件で実際に行われてしまった。言うまでもなく、それは2001年の9月11日にアメリカで起こった同時多発テロだ。このテロでは、乗っ取られた航空機が高層ビルに激突し、3千人以上の犠牲者を出した。

 ハイジャックにより、航空機を“兵器”として利用できる。それは言い換えるのなら、テロリスト達に武器を用意してやっているのと同じ事でもある。操縦可能なロケット弾なんて、もし開発しようと思ったら、数千億って単位の費用が必要な訳だが、ハイジャックさえ行えば極めて低予算で手に入れられるのだ。もちろん、テロリスト達に武器を提供してしまっているって例はこれだけじゃない。例えば、国内に原発を抱えている国は、テロリスト達に核爆弾を提供しているのと同じ様なもんだという事にもなる。そして当然、航空機ハイジャックによる原発テロだって起こり得る。

 だからこそ、アメリカの同時多発テロを受けて世界中の国々が震撼したのだ。航空機テロ対策はもちろん、航空機の墜落に耐えられる原発の設計を求め、それを義務付けるように働きかけている。

 が、しかし、国内に多くの原発を抱えていながら、そのアメリカ同時多発テロを受けてもまったく震撼しなかった国がある。

 ……まぁ、この平和ボケ社会の日本って国だよ。日本は航空機テロの可能性を軽視し、それに耐えられる原発の安全基準を無視してしまった。それは福島原発事故を引き起こす事にも繋がり、何兆円以上の損害と多大な人的被害を社会全体にもたらした訳だ。しかも、福島原発事故の後も、航空機テロに耐えられる原発の安全基準を採用してはいない。航空会社の格安競争もあるしで、航空機テロ対策の方も大いに不安だ。

 つまり、今の日本の現状は、テロリスト達に大量破壊兵器を提供しているようなものなのだ。もし日本全国で原発を再稼働し始めたなら、だから、極めて低予算で、日本という国に国家規模の深刻なダメージを与えられる状況下に陥るという事になる。普通に考えて、これは充分に恐怖を感じるべき事実だと僕は思うのだけど、君はどう思う?

 正直、僕はこれを許そうとしているこの国は未だに“平和ボケ”していると思うのだけど、実は知り合いにこれと似たような事をやってしまっている奴がいる。

 

 そいつは、僕の高校時代からの友人だ。いわゆる武器マニアってので、かなりの数の武器を持っている。日本刀とか中国の武器っぽいのとか、ヨーロッパの武器っぽいのとか。奴の家でモーニングスターの実物を僕は初めて見たよ。これって、もし奴を狙う犯罪者がいたとしたら、その犯罪者に武器を与えているようなものだろう?

 しかもだ。

 この友人の性格はちょっとばかり悪い。実を言うと、僕だってさんざん酷い目に遭って来た。つまり、大いに恨みを買っていそうなんだな。そいつは大人になってからけっこうな金持ちになった。どんな事をやったのかは知らないが、恐らくは悪い事をやって稼いだのだろうと思う。まぁ、これだけ条件が揃えば狙われる危険は大いにある。

 「お前、本当に大丈夫なのか? そのうち殺されるぞ」

 だから僕は久しぶりにそいつにあったその時、そんな忠告をしてみたんだ。色々と“よくない事”を聞いていたもんだからさ。すると、そいつはこんな事を言って来た。

 「大丈夫だよ。実はつい最近、ボディガードを雇ってさ」

 「ボディガード? よくそんな金があるな」

 「まぁ、たんまり稼がせてもらったからな」

 「そりゃ羨ましい。だったら、お前の趣味の武器コレクションも増えているんだろうな。そういえば、長い間、お前の武器コレクションを見ていないな」

 それを聞くと、奴はにんまりと嬉しそうに笑った。

 「それどころか、お前は俺の新しい家に一度も来ていないだろう? はっきり言って豪邸だぜ。ボディガードを雇っているって事にも納得がいくだろうさ」

 僕にはそいつがいかにも自慢したさそうにしているのがよく分かった。だから、それからこう言ってみたんだ。

 「それは、是非とも見せてもらいたいもんだな」

 すると案の定、奴はこう応えたのだ。

 「なら、今度来いよ。積もる話もあるし、新しい武器だって見せてやりたいし」

 「そりゃ、嬉しい。喜んで行かせてもらうよ」

 そして僕はその次の日に、奴の家に行く約束したのだった。

 

 奴の家は確かに豪邸だった。ほら、ちょうどヒバリーヒルズにでもありそうな感じ。奴の言った通り、一人だけだがボディガードもいた。陰気でごっつい体格の男。ただ本気になって奴が彼に身辺警護をさせている雰囲気はなかった。きっと、奴は単に金持ち気取りがしたいだけなんだろうと思う。

 自慢がしたいからだろうが、奴は高級な酒と料理を用意して待っていた。その席には奴ご自慢の武器も揃えてあって、奴はそれを説明しながら機嫌良さそうに酒を飲んだ。褒めてやると更に機嫌が良くなり酒が進む。かなり奴の酔いが回って来た辺りで、僕はこんな事を言ってみた。

 「確かに凄いな。でも、まさか、武器を使ってみたいからって、誰かに試してみたりはしていないよな?

 ほら、高校の時みたいに」

 実は僕には、こいつの武器の実験台にされた経験があるのだ。鎖に分銅がついたのを、頭に強く当てられた。今でもその傷痕が頭に残っている。こいつは親が金持ちで僕の家は貧乏だったもんだから、大金を貰って誤魔化されたんだが、まぁ、それも含めて僕には屈辱だった。本当は確りと罰を受けてもらいたかった。

 それを聞くと奴は笑った。

 「アハハハハ! ああ、あれか。そういえば、そんな事もあったな。あの頃はまだ若かったんだよ。今はもう大人だ。さすがにあんな馬鹿はしないさ。あの後、俺はこっぴどく親父に叱られたんだぜ」

 愉快そうにしている。僕は奴のコップに酒を注ぎながら言う。

 「気を付けろよ。人の足を踏む。踏んだ方は痛みを感じないもんだぜ。お前、色々な人間から恨まれているのじゃないか? そういえば、どうやってお前はこんな豪邸に住めるような大金を稼いだんだよ? どうせ、悪事をやったんだろう? それでも恨みを買ったんじゃないのか?」

 僕が注いだ酒を飲みながら、奴はそれにこう返した。

 「心配ないさ。確かに詐欺まがいの方法は執ったが、連中は自分達が騙されたって事にすら気付いていない」

 「どうやったんだよ?」

 「簡単だよ。ある会社の株を売ったんだ、大量に。これから上がる株だって言ってな。これは嘘じゃない。実際、上がった。ただ、その後に急落した訳だが。

 ま、こんなの、騙される方が悪いんだよ。ああ、そういや、中には何千万って額の株を買った馬鹿な爺もいたな」

 「なるほど。実際は、その株の売上は、会社へは行かず、お前の懐に入っていたのか」

 「察しが良いな。だが、正式なコンサルティング料として金を受け取っただけだぜ。犯罪じゃないさ。多分な」

 「犯罪じゃない、ね」

 そう言って僕は酒を一口飲む。それからゆっくりとこう続けた。

 「お前が騙したそのお爺さん。四宮さんって名前じゃなかったか?」

 「お? なんで知っているんだ? 確かに四宮って爺だったよ」

 「その四宮さんってお爺さんな。実はそれが切っ掛けで自殺したんだよ。しかも、その所為で家は滅茶苦茶になったらしい。仕合せな一家が、いっきにどん底だ。そしてその四宮さんにはな、実はお孫さんがいるんだよ。結婚した娘さんの子供だから、苗字は違っているけどな」

 奴はその僕の説明を聞いて、不思議そうな顔になった。そして、僕がそう言い終えた一呼吸の間の後で、部屋のドアがキィと開いたのだった。先のボディガードが立っている。手にはモーニングスターを持っていた。奴の武器のコレクションの一つだ。

 僕は立ち上がると、彼に向かって言った。

 「さぁ、約束通り、真相は聞き出したよ。後は君の自由にしてくれ」

 彼は無言のまま頷くと、部屋の中に入って来る。

 「おい? なんだよ、これ? 何かの冗談だろう?」

 奴は怯えた表情になってそう言った。僕はこう答える。

 「だから、彼がそのお孫さんなんだよ。後の事は僕は知らない。僕には彼を止める力も義理もないからな。お前にやられた傷、未だに痛むんだぜ。

 だから、僕は忠告をしたんだよ。“そのうち、殺されるぞ”ってな」

 彼はモーニングスターを振り回しながら、奴に近付いて行った。僕は後ろも振り向かずにその部屋から出て行く。その直ぐ後で、奴の悲鳴が聞こえた気がしたが、まぁ、多分、空耳だろうさ。

 

 武器は被害者が用意してくれている。恨みを買っている被害者なら、僕は手を下す必要すらもない。

 あっ そうそう。多分、安保法制でアメリカに協力しようとしているからだろうと思うけど、イスラムテロ組織が、日本を標的にするって宣言したみたいだよ。

 アメリカに協力するって事は、アメリカと敵対している連中と敵対するって事だ。当たり前だけど。なのに、日本は原発も含め、テロに対して脆弱なままな訳だ。

 まぁ、運良く、それほど敵視しないでいてくれる事を願おう。運良く、ね。世の中、そんなに甘くはないと思うけどさ。

「イスラム系のテロ組織が日本の大使館を狙おうと呼びかけた」ってなニュースを目にしたもんですから、書いてみました。

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[一言] 平和ボケしてるな〜 俺も含めて大多数の人が戦争や人殺しを画面の向こうの事やと思ってるしな〜 隣人が殺人犯で捕まったと聞いても「まさかそうだったとは怖いわ〜」で終了。 おもしかった。執筆がんば…
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