第八十九話 生存競争
現在はピグミーの村に出た魔物退治と、洞窟制圧依頼の最中。でもこの村長が色々と隠してたおかげで結構まずい事に。
「うーん、もしも一匹や二匹じゃなくてもっと大量に外に出てたら、ちょっと大変だよ。私とリサさんだけじゃ手が足りない」
「……焼きますか」
「何を?」
「森を」
……。
「冗談ですって。そんな目で見ないでください」
「だって、やりそうなんだもん」
「やりませんってば。……しかし、手段としては有効ですよ?」
「ほら危ない」
「いいえ、手段の話です。もしもどうにもならなくなったその時の、最終手段です」
候補にも入れたくないけど、うーん……。
――洞窟探し再開。
止まってても仕方がないから、さっきの場所まで戻って洞窟がないか探す事に。
「私の予想だと地下に空間があるんじゃないかなって。んで、どこかに入り口がある」
「なるほど。それで耳のいいわたくしを呼びにすぐ戻ってきたのですね」
「そういう事。もしも地下空間があって中に他の魔物がいれば音がするはずだからね」
「ならばアイシャさんは周囲の警戒役を。集中しますのでわたくしひとりでは襲撃に気付かない可能性があります」
「了解でっす」
って話してる間に到着。
「ここですね」
早速リサさんは屈んで地面に耳を向けた。二つの耳がどちらも真っ直ぐ正面を向いていて、その表情は真剣。
……私は回りを見渡して、警戒中。
首を傾げては少しずつ進むリサさんの探索方法が可愛くて、ちょっと笑いそうになってるのは内緒だよ!
「……なるほど」
と一言、リサさんが立ち上がった。
「かすかにですが、水の滴る音が聞こえました。確かに地面の下に空洞があるようです。しかし入り口が何処かまでは不明ですね」
「んでもそれが分かるって、さすが大きな耳だね」
「ふふっ、お褒めにあずかり光栄です」
やっぱりリサさんは笑顔が可愛いんだよねー。
「とはいえ、わたくしはこのような地味な事でしか貢献が出来ないのですけど」
「……大地に大穴空けたのが地味?」
「うっ、それは……」
まーあれは状況が状況だったから、ノーカンって事にしてるけど。
その後も少しずつ進んでいくと……。
「……どうも腑に落ちない事があります」
「ん? 何が?」
「地下からは確かに水の音が聞こえるのですが、それ以外の、例えば他の魔物や動物の足音などは全くと言っていいほど聞こえないのですよ。もしも巣食っていた魔物が先ほどの二体のみだとしても、動物の声もしないのはおかしいのです。普通ならばコウモリの羽ばたく音や虫の這いずり回る音がするはず」
……つまり、ここの地下にある洞窟はどこにも繋がってない? だとしたらさっきのローズワームはどこから湧いた?
「……カンだけど、隣村に行くのが正解かも」
「音信不通の村ですか。……嫌な予感がしますね」
「うん。でも行かないとどうしようもない」
慎重に行かないとまずい。そういう気がする。
――隣村へ。
一旦元の村に戻って、場所を聞いてから出発。私はリサさんのカミエータに同乗して空から向かってます。
「そういえばリサさんの調べ物は進んでるの?」
「ええ。少しずつですが、着実に進んでいます。……すみません」
いきなり謝られちゃった。
「なんで?」
「ずっと、わたくしだけ自分のために皆さんと別行動を取っていますし、未だに信頼されていない部分がありますから……」
「そんな事誰も気にしてないよ? それに信頼してないんじゃなくて、弄れるくらいに信頼してるの。……まあ、そう思っちゃってた時点でそれはそうじゃないって事だから……ごめん」
「……そうですか」
声のトーンは変わらず。
はあ……こういうところ、直したくても直らないんだよなぁ……。
――到着。
まずは上空から観察。もしも魔物の巣になっていて、降りた途端囲まれたらまずいもん。
民家の数は、にーしーろー……見える限り九軒。あ、一軒は倉庫かな? 造りが違う。
「敵は……見た目ではいないよね?」
「……そうですね。魔法には……反応なし。とりあえずは安全のようです」
「了解。んじゃ降りてみよう」
という事で降下。
……リサさんすごく慎重になってる。
んで着地。
「見回したところ……やっぱり」
「ええ」
建物が所々壊されてる。ちょっと一軒お邪魔してみよう。
「すみませーん……」
小声で呼んでも、もちろん誰もいない。
「ちょっと上がりますねー……」
家の中を確認。ピグミー用で天井が低いから、リサさんは頭ぶつけそうになってる。
外壁は壊されて穴が空いてたけど、中は……あ、テーブルの角に血の跡発見。結構な出血だよ、これ。
「……やはり襲撃を受けたようですね」
「うん。……でも……」
なんだろう、妙な違和感がある。
この違和感どこかで……あっ! ペロ村の状況とかぶるんだ!
「リサさん、普通テーブルに血の跡が付くくらいの襲撃を受けたらさ、逃げるよね?」
「逃げますね」
「……逃げた跡がないよね?」
話の最中にリサさんが家の奥まで進んだ。
軽く見回して……そして戻ってきた。
「……逃げられなかったのかもしれません。ピグミーは小さな方々なので、大きな魔物に人一倍の恐怖を感じ、固まってしまったのかも。アコさんもそうだったのですが、あの時腰を抜かして動けなくなっていたのですよ」
「つまり、恐怖で動けなくなるほどに突然の襲撃だったって事か。……洞窟の入り口がすぐ近くにあるのかも。警戒して探そう」
「ええ」
そしてその入り口は程なく見つかった。
「まさかだね」
「まさかですね。これではピグミーでなくても逃げる猶予などありませんよ」
村の中央広場からも見える位置、新しく開墾しようとしてた一角の地面に、見事に大穴が空いてる。上空からだと木の枝が邪魔して見えなかったんだね。
「不運としか言いようがありませんね……」
「洞窟の上に村を作っちゃったんだもんね……」
穴を覗くと、そこまで深い感じじゃない。
「ホーリーライト!」
という事で照らしてみたら「ホーリーライト」ってリサさんも。……私より断然明るいのは何かの当てつけ? なんちゃって。
「見た感じ」「しっ、少し静かにお願いします」
いきなりリサさん本気の索敵モードだ。これは静かに待とう。
とりあえず私は背後を警戒。でも今のところ風の音だけ。
……あれ? なんで鳥の声がしないんだろう?
「アイシャさん」「あ、はいはい」
「音では周囲に動くものはありませんでした。このまま降りても大丈夫でしょう。いかがいたしますか?」
「……ねえリサさん、こっちに来てから鳥の声って聞いた?」
「鳥の声? ……そういう事ですか。ならば一つ、覚悟を決めなければいけませんね」
「うん」
私の危惧したのは、あのローズワームはこの洞窟やこの村周囲の全ての命を食い尽くしたから、依頼の村に移動したっていう可能性。だとしたらこの中はどうなっているのか……。
――洞窟に侵入。
「うっ……」
入って一瞬でそのあまりの悪臭に吐き気がした。
鉄臭さもあるけど、すっぱいのとかモワッとしたのとか、とにかく色んな悪臭をごちゃ混ぜにした感じ。
「アンチウィーク、ミストデオドランド。これで臭いと吐き気はおさまります」
「……うん、ありがとう」
自分の周囲にうっすら霧が出て、悪臭が驚くほど消えた。ついでにちょっといい香りがしてる。これって脱臭芳香なのかな? 靴に使ったら良さそう。
警戒して剣を持って、慎重に進む。
「……音がしない」
「ええ。先ほどからわたくしたちの足音しか聞こえません」
明かりで上下左右をぐるっと見回してみても、蟻一匹いない。異様。
「ここらへんが村の中央広場の下です。……二股ですか」
「分かってますよね?」
「ええ。エアロサーチ!」
いつかの時と同じ魔法。確か……ああ、虫だけの洞窟だ。こことはまるで正反対の、騒がしい洞窟だったよね。
「吹き戻ってきましたが……左はかなり奥まで、右はそれほどでもないようです」
「リサさんに任せる」
「……左へ」
――左の道。
本当に何も音がしない。せいぜい私たちの足音と、水の滴る音。ただそれだけ。
「……アイシャさん、あれ」
「んー? ……あっ、うわっ……」
鳥の羽根の山。しかもどれも黒く変色してる。
「……血だ」
「ええ。しかし骨やそれ以外の部位はありませんね」
ちょっとつまんでみた。
「……うわぁ……ベタベタ……」「アイシャさん!」
いきなり声を上げたリサさんに驚いて、つまんだ羽根を投げちゃった。
「な、何!」
「すぐ拭いてください。あれは恐らく溶解液です」
「えっ!? 指溶けるの!?」
急いでハンカチで指を拭いたけど、その時点で私は自分の行動に失敗したと思った。皮が剥けたから。
「痛っ……」「ライトリカバー」
すぐリサさんが即効性の回復魔法をかけてくれて、痛みが治まって血も出ずに済んだ。
「ありがとう。それとごめんなさい。うかつだった」
「不用意に動いて怒られるのはわたくしの役割ですからね? 今度からは気を付けてください」
人差し指を立てて偉そうにして、本当面白い人。
「あはは、はい。反省します」
私に気を遣ったんだろうけど、大丈夫。カナタに怒られ慣れてるから。
一応剣を握って様子見。……影響なし。
その後も所々にそれっぽい跡があって、そして突き当たりまで到着。
「……意外」
「ですね」
洞窟の最深部に到着したんだけど、特にこれといって何もないし、虫一匹いない。
「……道、右でしたね」
「だね。一旦戻ろう」
「はい」
帰り道も、来た時には気付かない事があるかもしれないから慎重に。
「本当に何もいませんね」
「うん。やっぱりあれが食い尽くしたんだろうね。それで終わればよかったのに、村が穴を空けちゃったせいで人が捕食対象になっちゃった」
「それをわたくしたちが倒したのですから、わたくしたちも生存競争の中にいるのですよね。普段あまり意識しない事ですが、今回の件では強くそう感じます」
「うん。だからこそ生き延びて生き切らないと。私たちにはまだまだやらなきゃいけない事がある」
――右の道。
二股まで戻ってきたので、右の道に入った。
そしてしばらく進むと……あった。骨の山。黒ずんで異臭を放ってる。魔法のおかげで軽減されてるけど、それがなかったら今頃間違いなく吐いてる。
「人じゃない骨もある。……あ、やっぱり。共食いしてたんだ」
オーガがよく使ってる幅広のブロードソードが何本かあった。他にも色々転がってる。
「アイシャさん、奥にまだ道がありますよ。……わたくしは通れませんが」
リサさんに手招きされて向かったら、崩れたような跡。そして天井付近に小さな穴があって、道が奥まで続いてるっぽい。
「……行けるかな? ちょっと持ってて」
剣をリサさんに預けて、無理矢理体を捻じ込んで……。
「んんーーっ……ん抜けた! リサさん剣頂戴」
「はい。そちらはお任せしました」
「うん。そっちも三体目に気をつけて。終わったらあっちの村で合流しよう」
「分かりました」
よし。
――更に奥へ。
私の予想が正しいのならば、この先は地上に繋がってる。
なんて思いながら警戒して進んでると、おやー懐かしい顔、ブラッドゴブリンだ。
以前どっかの村を襲撃して、私の尻に興奮した変態で、魔法を暴走させて黒焦げにした相手。……あ、レイアに再会した日だ。大変だったなぁ。
「ねえ、あんたがいるって事は外に繋がってんでしょ?」
「……ア、ンガデー? ンア!」
うん、さすがに言葉は通じませんでした。でもこっちの強さを感じてか、逃げ腰。私も強くなったんだなぁ……。
「道案内してって言ってんの。分かる? まー分かんないだろうけど」
「……ンガ! ンガ、ンー……ン」
私があんまり戦意を見せないからか、向こうも多少落ち着いた。
……私に背中を向けて手を回した。手招き? んー……面白そう。
なんて思いながら付いて行ったら、ゴブリンの家族がいて、ブラッドゴブリンが何か話してて……え? ゴブリンに頭を下げられた。んで思わず私も会釈。
「ゴゴ、ゴー。ンゲ、ンガ」
「ここを行けば出られるって事?」
「……ンー……ンッ!」
あはは、悩んだ後に頷いた。なんとなくニュアンスは伝わったんだね。
「ありがと。今日は見逃してあげるけど、人を襲うような事したら殺すからね?」
「ンア!? ナーイ!」
……お前人の言葉分かってるだろ? って言いたくなるほど的確なリアクション。焦ったように手を振って「ナーイ!」だもん。まあいいや。
その後ゴブリンたちに手を振って見送られ、そのまま直進。
どれくらい歩いたかな? 数分ですぐ地上だった。
――地上。
それで、出てきたらここは何処? 状態。
さっきのに道聞けばよかったかな? うーん……。
「あっ!」
「え?」
振り返ったらピグミーの男性。村にいた……かな? 覚えてない。
「えーっと、近くの村の方?」
「はい。あ、勇者様ですよね? えーっと……」
「とりあえず村まで案内お願いします」
「あ、はい。すぐそこなので」
すぐそこなんだ。じゃあ何でこの穴に気付かなかったのさ?
……あの村長、やりやがったな?
――また村。
やっぱりすぐだった。ちょっと腹が立ってるからそのまま村長の家へ。
「すみませーん」
「はぁーい。あ、お帰りな……さ……い……」
睨む私にビビる村長。今の私はローズワームよりも怖いよ。
「これはどういう事なのか、説明していただけますよね!?」
「あ……えー……」
歯切れが悪い! 思わず足でドンッ! と家を蹴った。
「ひいっ……あ……す、すみませんでしたっ! 全てお話します……」
ってやってると、リサさんも来た。
「洞窟及び隣村の調査をしておきました。……何かあったのですか?」
「何かあったよ。ね? 村長」
「うっ……」
この会話で、リサさんも事情を察してくれた。
さぁーて、処刑のお時間です。
村長の家に上がりこんで、リサさんがしっかり目を光らせて逃げられないようにした。
「先にリサさんから」
「はい。まずあの洞窟ですが、落盤により出口が塞がり、内部で魔物同士の生存競争が勃発し、生き残ったのがあのローズワーム二体であると結論付けて差し支えないかと。そんな折に、村と洞窟とが繋がってしまった。あの二体は死に物狂いで這い出し周囲の村人を襲ったでしょうね。その証拠に隣村にある家の数と人骨の数がほぼ一致。隣村は全滅したと考えて間違いないでしょう。そしてそのまま周囲の鳥や小動物すらも食い尽し、様子を見に来たこの村の二人を食い、匂いを辿り更に一人食い殺し、ついにここまで来た。これがこの村にローズワームが現れた要因です」
大体私の見た通りだね。
でも話の最中から村長はまずい事したなーっていう顔。
「村長さん。洞窟で落盤が起こった原因、知ってるんじゃないですか?」
「うっ……そ、それは……」
って言ったらリサさんが尻尾で壁をドンッ! って勢いよく殴った。うん、リサさんは笑顔です。
「この期に及んでまだ隠し事をするというのであれば、……焼きますか」
「それも手段のひとつだね」
「や、焼くって……そんな……」
村長さん、事の重大さをいまいち理解してないね。もう一歩踏み込みますか。
「私、これでも魔法一発で一つの町を吹っ飛ばした事あるからね?」
「わたくしも魔法一発で一キロほどの大穴を空けましたからね?」
「ひいいぃぃっ……」
これで脅しは充分、かな。
「……と、隣村との道を、整備しようと……。その……途中に岩がありまして……爆発、させまして……」
「爆発!? 除けられなかったの?」
「……見栄を張りました……」
戦犯発見。はあ……。
「それじゃあ洞窟の事は知ってたんですよね?」
「……はい……」
「じゃあ何故最初から私たちに教えなかったんですか?」
っていう質問にはリサさんが答えを出した。
「大方、あなたは因果関係に全て気がついていたのだけれど、自身が槍玉に上がるのを恐れたのでしょう?」
「……はい。その通りでございます」
アウトだね。ピグミーは国に保護されてるは言っても、こんな事をされたんじゃトムも黙ってない。
「この事はきっちりと王宮に伝えます。あなたがないがしろにした”報告”をね」
「……申し訳ありません……」
よし、私たちは帰りますか。
――王宮、玉座。
トムに説明。
ちなみにあのゴブリン家族の事も含んでます。どうなるかは私は分からないけどね。
「――っていう事だから」
「なるほどね。これは魔物による災害というよりも人的な部分が大きい。あとはこちらで処理するよ。ただ悪いんだけど、依頼料はあまり期待しないで」
「あの村の規模見たら何も期待しないって。……それとも、国から出してくれてもいいんだけど?」
「ははは。……んーどちらにしろ国からの調査が入った後ね」
「分かった」
最初から期待してなかったし、経験が積めたからそれでいいかな。
「うん、それじゃあ今日はお疲れ様です」
と言いつつ何か言いたそうな顔してる。
「トム、用事があるならさっさと言ってよ?」
余計に難しい表情になっちゃった。
「……先ほど、フィノスから夜会への招待状が届いた。アイシャ宛にね」
「どう考えても罠でーす。行かないって返事しておいて」
「ははは、だと思った。まあ返事は三日待つってあるし、気が変わったら教えて。用事はそれだけだから。本当にお疲れ様」
ふう……って思ったらリサさんが一歩出た。
「依頼料の事でひとつ譲歩していただきたい事があるのですが、よろしいでしょうか?」
「譲歩? うーん、どのような?」
するとリサさんが大量の武器防具類を取り出した。二十人分はあるかな? ……あ。
「これ、洞窟に落ちてた奴? あの後回収したの?」
「そういう事です。という事で、これら全てをわたくしたちが頂いてもよろしいでしょうか?」
あ、なるほど。そういう意味の譲歩ね。
「うーん……依頼料を渡す時に改めてお話します。すみませんがそれまではこちらで預からせてください」
「……仕方ありませんね」
まあ帰り道リサさんが「失敗した」って言っちゃうんですけどね。
これでピグミー村での一件は終了。
俺、累計100話分を超えたらもっとギャグに振った話書くんだ……。




