第七十五話 魔王決戦(後編)
――アイシャ視点。
フューラとリサさんとモーリスのおかげで、こいつを倒す算段がついた!
問題はジリーが気付いてくれたかだけど……あはは、見えないように親指を立てた。バッチリだね!
「……狐のお姉ちゃん何したかったの?」
「それくらい自分で考えろって。それとも何かい? あんたはそれすら出来ない無能な欠陥品なのかい? あっはっはっ!」
うわージリーも結構煽るなぁ。
「欠陥品……だけど、無能じゃないもん!」
欠陥品なのは認めるんだ。そしてカプレルチカはジリーを標的に突っ込んでいった!
構えるジリー。私はカプレルチカに生まれる一瞬の隙を待つ。とにかく右腕を切り落とす事が出来れば、勝ちが見えるはず。
いきなり飛び蹴りのカプレルチカ! でもその足をジリーは掴んで、ぐるっと回転させて地面に叩き付けた! 私がやられたら顔面骨折だよあれ。
「痛ったぁー……くなーい。あははは!」
あんな事をされても相変わらずなんだ……。
その場で体ごと横に百八十度反転。人でやったら足がねじ切れるような動きをされて、さすがにジリーも手を離しちゃった。
「傍からは見ていたが、お前は何でもありなのだな」
「はぁーい! なんでもありでぇーす!」
感心してる場合じゃないよ魔王。
「あんたまだ何か隠してるんじゃないの?」
「教えなぁーい。あははは!」
まだあの馬鹿笑いをする余裕があるんだ。
「私個人としては、もうこのような力は使いたくはないのだが、事を収めるためには致し方ない。勇者、ジリー。私も少々本気を出させてもらうぞ」
「……本当に大丈夫なんでしょうね?」
「こやつを放って私を倒してしまっても構わないぞ? その場合にはこやつに勝つ事は不可能になるであろうがな」
嫌な言い方。でも表情はあざけている感じじゃないし、どっちにしても……嫌だけど! こいつの力を借りないと無理だ。それは私にだって分かるもん。
「分かった。やってみな!」
にやっと笑って頷いた。けど、危険な雰囲気じゃない。
「という事で偽者よ、少々付き合ってもらうぞ」
「えぇー……」
すごく嫌そう! 気持ち分かる!
私とジリーは一旦下がった。多分今のうちに体力を回復させろって意味でもあると思うんだ。それに、正直私の体力が持ちそうにない。
「……二人は参加しないのか?」
違った! とりあえず取り繕っておこう。
「だって危なっかしいんだもん。復活しちゃったあんたに、こっちがどれだけ不信感募らせてると思ってんの?」
「……はっはっはっ、全く以って言い返せないではないか」
魔王は笑いはしたけど、一瞬間違いなく残念そうな顔をした。なんか調子狂っちゃうなぁ。
「さて。私は私なりの詠唱に変更させてもらうか。そうだな……バレットイフリート!」
カナタの銃……スフィアだっけ? あれに付いている球体の色が赤くなった。
「……もしかして、銃に炎を?」
「さすがは勇者、すぐに気付いたか。正しくは弾丸に火属性を付与してみたのだ。……正直に白状すると、鳥の頃からカナタの銃や貴様の炎の剣に、憧れにも似た羨ましさを抱いていたのだよ」
羨ましさって……こいつ本当に魔王だったの? 色々とイメージが崩れる……。
「ねーぇー、もーいい?」
「ああすまない。戦闘中にお喋りに夢中になるのは無作法であったな。今から貴様には的になってもらうぞ」
って言ってる最中にもう撃ったよこの魔王! 卑怯な奴ー!
偽魔王カプレルチカは銃弾を避けずに素直に受けて、それでもやっぱり右腕を左腕で庇った。
……あ、それが狙いだったんだ!
ともかく、スフィアの銃弾って普段は銀色なんだけど、今発射された銃弾は赤い閃光を放って綺麗だった。本当に銃弾に属性が付与されちゃったんだ。……私のせいで魔王がパワーアップしちゃった。あーどうしよ……。
「ふむ、やはりこうなるか。……ふふっ」
嫌味な笑い。……でもなにか……。
「的になってあげたんだからぁー、次はそっちが的になってよねー!」
偽魔王が本物の魔王に突撃!
……そうだ、このタイミング! 丁度カプレルチカの右腕が私の目の前にある! あいつはこれを狙ったんだ!
理解した瞬間に体が動き、私は対峙する二人の横から迎撃に入る。
「魔王さんもーらいっ!」「いただき!」
ようやく初めて本当に驚いた表情のカプレルチカを見られた。そして私は左から右へとその右腕を切りつけ、剣先が肉と骨を両断する感覚をしっかりと得た。
ついにカプレルチカの右腕を吹き飛ばす事に成功!
「あっ!」と言ったがもう遅い。右腕の吹き飛んだ先には、既にジリーが待機している。私だってレベル70超えの勇者だよ? これくらいの調整は出来るっての!
「いよっ! っと。へっへっへっ、チカちゃーん、これ返してほしいかーい?」
右腕をナイスキャッチして、ジリーの煽り開始!
「……返して」
これは明らかに怒った声。効いてる効いてるぅ。
「へえー。左腕みたいに使い捨てじゃないんだねー。……いいよー返してやんよ。でも、そっちから取りにきな!」
ゆっくり歩いてジリーの元へ、と思ったらすぐ全速力で走り出した。やっぱり右腕は重要なんだ。
「ディスグラヴィド!」
突然よく分からない魔法を唱えたこっちの魔王。するとカプレルチカの周囲が円形に光った。
……え!? 機械には魔法は効かないはずだよね? なのにカプレルチカの動きが遅くなった! 驚いていたら、魔王が耳打ちで教えてくれた。
「貴様の特殊能力と似たようなもので、特定空間の重力を歪めたのだ」
……あ、分かった。個人じゃなくて一定空間に作用するから、カプレルチカにも効いたんだ。
「うおるぁああっ!」
魔法が効いた事を確認すると、すぐにジリーが右腕をカプレルチカに投げつけた!
その右腕はカプレルチカの胸の辺りに直撃。注射は……分からない。そして魔王は魔法を解いた。
「ほら、返してやったぞ」
「……ふんっ!」
本人は可愛く拗ねたつもりなんだろうけど、全く可愛くない……。
カプレルチカは右腕を拾って、くっ付けた。そして機嫌が直った。
「んあはははは! あーぁあ、驚いちゃったぁ! なーんもないんじゃん!」
そう言って体の後ろで腕を組もうとするカプレルチカ。
だ・け・ど?
「……んえ? あ、あれ?? えっ……えっ、えっ!? あれ?? まっ……待って待って待って!!」
残念右腕はくっ付きませんでした! うはー今までで一番狼狽してる!
そんなカプレルチカを挟んだ向こうでは、ジリーが親指を立ててでウインクしてるし、魔王は手を差し出しているし、私は思わずその手を叩いちゃってるし!
「作戦成功だね! あんた、右腕にウィルス入りの注射器を仕込んで、それをフューラとカナタに流し込んだんだろ? だったらそのウィルス、あんたにも効くんじゃないかってね」
ジリーがネタばらし。そうそう、この心底悔しそうな表情が見たかったんだ。
「毒をもって毒を制する。しかし貴様に解毒能力がなくて助かったよ」
「あ、本当だね。……今のなし」
普通に友達感覚で喋っちゃったけど、こいつ魔王だった。
「さあ、今すぐに降参するならばこれ以上切り刻まずに終わってあげる。でも足掻くっていうならば、肉片までバラバラにしてあげる!」
「……んふふ……んはは、ああっははははは!!」
まだ終わってない? まさか解毒剤を!?
「肉片まで砕かれたってね、わたしは死なないんだもん! ……てめーら人間ごときがわたしを殺すなんて事ぁ、三万年経ったって不可能だっつーの!!」
本性が見えた。つまりこいつは焦っている。今のはハッタリだ。恐らくはこちらの戦意を削ぎ、隙を見て逃亡を図るつもり。
「こいつ」「任せろ」
突っ込む体勢に入ろうとしたら、魔王が肩に手を置いて私を制止。……怖い顔だ。
……こいつの真意を確かめたいっていうところもあるし、こいつの力を少しでも削いでおきたいっていう部分もある。私は剣を構えるのを止めた。
「感謝する」
そう言って軽く笑って見せた魔王。……後でぶっ殺してやる。
「人間ではない貴様が人間の限界を推し量るな。その慢心は貴様自身を殺すぞ」
「魔王様には言われたくないっつーの!」
「ふっ、貴様も魔王ではないか。偽者。……ああそういえば、貴様は人間の偽者でもあるのだな。はっはっはっ」
うわぁ……って、多分この感想は私の肩書きが色濃く反映されているんだろうなあ。カナタが同じ事を言ったら、笑っていたかも。
「あーあーそーいう事言っちゃうんだぁー! いーよー。左腕一本で全員血祭りに上げてあげるっ!」
本当に右腕を投げ捨てて、左腕一本で突っ込んできたカプレルチカ。
「ウインドカッター!」
この声はリサさんだ! 風の刃が飛んできて左腕に直撃、吹っ飛んだ。
いきなりの場外からの攻撃にカプレルチカは反応が出来なかったみたい。きっとそれだけ疲弊してるんだ。
「……んだおらぁ! てめー殺す! 頭突きで殺す!」
また口調がおかしくなった。もう少しだ。
「やれるものならばどうぞやってお見せなさい。くくくっ、もっとも、その状態ではわたくしの元へと辿り着く事すらもかなわないでしょうけれどね」
リサさんも煽るとは思わなかった。それにこれじゃあ王女様じゃなくて女王様だよ。
「いい加減にしろよてめーら! わたしはな、てめーらなんかには負けるはず……が……え?」
リサさんの攻撃で注意が完全にそちらへと向いていたカプレルチカ。その背中の真ん中を、あろう事か本物の魔王プロトシアが手刀で貫いた。
「……く……そ、があっ!」
まるで生きたまま体に針を刺された虫のように、必死にもがいてる。けど、両腕がないあいつはもう魔王の手からは逃れられない。
「貴様は、私の大切なもの、それを三つも奪った。一つ、魔族の誇り。一つ、穏やかな生活。一つ、折地彼方。……私は嫌々ながらも”本物”なのでな、しっかりと借りは返させてもらうぞ」
冷酷な瞳にピクリとも動かない表情。だけどその声色は憤怒に満ちていて、その怒りを向けられていない私でさえも恐怖を感じる。……確かに本物だ。
「……ん? これは……」
「あっ、そ、それだけはだめっ!」
体に突っ込んだ手で何かを掴んだみたい。カプレルチカは今まで以上に全身を使ってもがいている。
「なるほど、これが貴様にとっての”もっとも大切なもの”のようだな。……ならば私は、貴様からこれを奪う事にしよう」
「や、やめて! ごめん謝るから! それだけはやめてぇーっ!!」
カプレルチカを蹴り飛ばし、その”大切なもの”を奪った魔王プロトシア。
その手にあるのは……ゴルフボールよりも少し小さい、赤い球。
「お、おねがい……それ、こわさないで……もう……わるいこと、しないから……おねがい……」
両腕を失って中々立ち上がれないカプレルチカは、いもむしのように這ってシアの足元へ。嘆願し本当に泣いているカプレルチカを、魔王は一切の躊躇なく踏み付けた。
「ほーう。そこまで固執するものとなると……これは貴様の心臓部か」
軽く片手でお手玉をした後、魔王は私を見やった。
「勇者よ、後は任せる。こいつを叩き切ってやれ」
「やめてえええええっ!!」
やめない。少なくともこいつは、私たちに殺される理由がある。
プロトシアは私へと向けて、山なりにカプレルチカの心臓部を投げた。
わたしも剣を握り、いつでも両断してやる体制だ。
「はあっ!」「待って!」
振り上げたところで、別の方向から待ったが掛かった。……仕方がないので私はその心臓部をキャッチ。
「……どういうつもり? まさか妹だからって情がわいた訳じゃないでしょうね?」
「情はわいていません。しかし仮にも僕の妹と名乗った存在です。そのコアは僕に管理させてはもらえないでしょうか? 皆さんにご迷惑はかけませんので、お願いします」
フューラに頭を下げられちゃった。
「……お……おね……ちゃん……あ……はは……」
「笑うな」
フューラはライフルを取り出し一発。カプレルチカに直撃し、その体はあっさりと消滅した。その事自体に驚きはしなかったけれど、そこまでフューラが怒りを露にした事に驚いた。
「……フューラ、はい」
カプレルチカの心臓部をフューラに渡す。それをフューラは、震えるほど強く強く握り締めた。
「僕はこいつを許せません。僕が生きている限り一生許さない。僕からオーナーを奪ったその罪を、永遠の時の中で味合わせ続けます。……殺してなんてやるものか」
小さなかすれ声でそう呟いたフューラ。きっとその怒りは、フューラ自身にも向いているんだと思う。フューラが世界を壊さなければカプレルチカが生まれる事はなかったし、この戦争が起こる事も、カナタが死ぬ事もなかったんだから。
――戦闘終了?
私とフューラの元に、全員集まった。
一番最初に口を開いたのはジリーだった。
「ぃよしっ、みんな……カナタはいねーけど、どうにか切り抜けられたね」
「……ええ。わたくしたちは、これからも前を向かなければいけません」
「はい。……カナタさんならば、止まるなと叱ると思います」
やっぱりみんな元気がないね。もちろん私もだ。何たって、カナタの嫌な予感を阻止する事が出来なかったんだから。それも、最悪の形で結実してしまったんだから。
でも、ジリーは努めて明るく振舞ってくれる。
「しっかしあんな作戦、よく思いついたなー。モーリスかい?」
「いえ。……カナタさんの作戦です。モーリスさんがカナタさんの考えを読み、それをわたくしたちに伝えたのです」
「……ちっ、なんだよ……結局一番いいところ……カナタに持ってかれたんじゃねーかよ……」
ジリーの表情も崩れた。もしもその作戦が早々に私たちに渡っていれば……。
「想う事は色々とありますが、まずは帰りましょう。僕たちには待っている人がいます」
「……まだだよ。まだ終わってない」
私は、剣先を本物の魔王、プロトシアへと向けた。
「あんたは魔王。私は勇者。……やるべき事はただ一つ」
「はぁー……そうだな。恨みは無しだぞ」
「望むところ」
「ちょ、ちょっと待ってください! アイシャさんもシアさんも、仲間じゃありませんか!」
やっぱりこの王女様は甘いなぁ。
「仲間だったのは鳥の時まで。復活した魔王ってのは、偽者以上に危険な存在だよ。その言葉一つで全面戦争が起こるんだ」
「そういう事だ。リサさん、気持ちは嬉しいのだが、こればかりは逃れられぬカルマなのだ。勇者として生まれた者と、魔王として生まれた者のな」
「……馬鹿馬鹿しい! そんな事おやめなさい! カナタさんがいたら何と仰いましょうか!」
「あはは! カナタだったらきっと「おうやれやれー、怪我すんなよー」って言うよ」
「はっはっはっ! 違いない!」
「……もうっ、知りませんっ!」
王女様からのお許しが出ました。
――勇者対魔王。
私とあいつは、みんなとは距離を置いて対峙。
私は強く剣を握り直す。これが本当に最後だと信じて。
魔王はカナタの銃は仕舞い、多分魔法だけで攻めるつもりだ。
「準備はよいか? 勇者よ」
「言われなくとも」
「では、行くぞ!」
さあ、どう来る!
って、魔王の奴、その場に座って下を向いた。
「……何のつもり?」
「殺すのだろう? より首を切り落としやすいようにと思ってな」
……はあ、一気に冷めた。数秒前までは本気でこの魔王をぶっ殺すつもりだったけど、着地点変更。それに、私はまだこいつに頼られちゃってるし。
といってもそのままは嫌だ。……煽ってやろうかな。カナタならばそうする。
「やーめた。絶対それ罠だもん。油断して近付いた隙に、さっきの手刀で私の心臓を抉り取るんだ。あー怖い怖いっ」
「……ふふっ、んあっはっはっはっ!! ……ナメるなよ勇者! 私は魔族を統べる王、プロトシア=アレス・マーレィ! そのような卑怯な手段など使ってやるものか! 私は正々堂々と首を差し出したのだぞ! 貴様のすべき事は、この首を切り落とす事、それ一点のみ!」
「黙れひよっこ! お前殺したってどうせ誰もお前が本物だって信じないっての! それじゃあ戦争終わらないじゃん! むしろ空席に推進派が座って悪化するじゃん! そんな事も分かんないで魔王なんてやってんの? バッカジャネーノ!?」
「うっ……わ、私は基本的に座っているだけだったのだ。……今考えたら、操り人形でしかなかったのだが……だとしてもだ! このまま貴様と仲良く帰り「はい終わり」では誰も納得せんであろう! 貴様は私の首を持ち帰り、大陸を鎮めなければいけないのだ!」
「あんた馬鹿ぁ? あんたの目の前にいる人物、誰だと思ってんのさ! あんた前に私に助けを求めたじゃん! あれ、まだ続いてんだからねっ!」
「なっ!? ちょっ……た、確かにあの時は……しかしだな」「しかしも案山子もあるかぁっ!!」
あーもうこの頑固偏屈石頭魔王め! イッライラするっ!
「あのね、私が今やる事は、あんたを”無害な魔王”にする事なの! さっきも言ったけど、カナタだったら「怪我するなよ」の一言で終わる事! どんだけあんた死にたいのさ!」
「そ……れ……は……」
固まった。私の勝ちぃー!
私は剣を収めて腕組みして、ついでだからドヤ顔してやった。
「……しかし、どうするのだ? 六千年経った今、私が本物の魔王であると触れ歩いたとしても、誰も信じないのであろう?」
「少なくとも魔族は信じるよ。私はそう信じる。魔王、あんたは魔族を信じる?」
「……はっはっはっ、これは見事。ああもちろん、私も信じるさ。魔族と、そして勇者、貴様もだ!」
ようやくしっかりと笑った。
「それでね、ちょっと考えがあるんだ。耳貸して」
私の計画を説明中。
「――そんな嘘を吐けと? 余計に悪化しそうな気もするのだが……」
「大丈夫、カナタならばこうする。で、出来るの?」
「ああ。……本当に貴様は勇者なのだな。感心する」
「嬉しくない。んじゃ、頑張ってー」
――その頃、魔族領各地。
「……あー、あー、魔族領に住まう諸君、聞こえているかな? 突然の告知失礼する。私はプロトシア=アレス・マーレィ。諸君のもっともよく知る人物、魔王プロトシアその人だ。信じられないとは思うのだが、先ほどまで諸君らを率いていた魔王は、私の偽者だ。――諸君らも知ってのとおり、私は六千年前の大戦の後、巨鳥ズーの若鳥へと姿を変え、力を封印された。その後の話だが、私は異世界へと渡ったのだ。そして少々の時を過ごした後、再びこの世界へと舞い戻ってきた。しかしいざ帰ってきてみるとどうだ、六千年もの時が過ぎてしまっており、そしてそこには私の名を騙る偽の魔王が幅を利かせていたのだ。偽者は私の復活を妨害し続け、諸君らを騙し続けた。一計を案じた私は、大陸の勇者、アイシャ・ロットに助けを求めた。彼女は私の嘆願を受け入れてくれ、そして今まさに、彼女とその仲間たちの尽力により、偽魔王の討伐に成功したのだ。……勇者、一言」
「え? いや、私はいいって。そういうアドリブいらないから」
「真実味を出すためだ。頼む」
「……はあ、仕方ないなぁ。……えーっと、私が大陸から来た勇者です。私の横にいるのは、本物の魔王プロトシアです。……そういう事です。以上!」「おいっ!」
てへぺろ。ってかスピーチって苦手なんだよねー。
「んんっ……あー、そういう事で、私はズーの若鳥の姿から、人の形へと復活を遂げた。私の復活を信じる者は武器を置きたまえ。偽者の戯言を信じる愚か者は鏡を見たまえ。私は今日行われている大陸との争いは望まない。何故ならば、この争いは憎しみ以外は何も生まないからだ。大陸の勇者であるアイシャ・ロットと、魔族の王である私とが手を取り合えるのだ。諸君らにも、その事をよく考えてほしい。六千年という長き時が過ぎ、時代が変わった事をよく理解してほしい。我々魔族は、過去に縛られる事なく、未来へと進むのだ」
……なんだろう、魔王のくせに嬉しそうで、それを見た私もちょっと、頬が緩む。
これで一件落着。
「それと、個人的な事だがもうひとつ」
うわっ、これ予定にない……。と思ったら私の顔を見て軽く笑った。悪い事じゃないみたい。
「諸君らの私への敬意は素直にありがたい。しかし、度が過ぎているのではないか? 私は魔王という肩書きではあるが、神ではない。普通の魔族だ。諸君らと何ら変わらないのだ。どうか一つ、この私に平穏を与えてやってはくれないだろうか? もちろんすぐに事態を飲み込めとは言わない。しかし、魔族が次の時代へと足を進めるためには、魔王への崇拝は枷になってしまうのだ。少しずつで構わないので、どうか私を忘れてやってはくれまいか? ……私からは以上だ。魔族の未来に光あれ――」
――そして。
このスピーチは、魔族領全土に聞こえていた。そしてその大半が、魔王の言葉を信じた。
「ふふっ、やってくれましたね。おい、船の受け入れ準備をしろ!」
大陸へと開港したての港町を仕切る貴族も。
「おっほっほっ、信じていましたとも。さあ、晩餐の用意を始めます! 出来うる限りの最大のおもてなしを致しますわよ!」
平凡な肉屋の娘という自分を偽り、貴族として頑張る彼女も。
「……今の声って、あの時の勇者様でしたよね!?」
「でしたね。……そうか、僕たちは戦わずに済んだんだ!」
そして尻尾を振る亜人族の一団も。
戦争推進派だった貴族もその武器を置き、今まさに衝突が起こらんとする戦場でも、武器を仕舞い撤収を開始。
この動きを見て侵攻中の大陸側も、罠ではないかと勘繰ってはいるが、撤退した。
――戦争は、終結した。
物語はまだ続きますが、一旦年越しのお休みに入ります。
次回投稿予定は1月11日(月)。
魔王プロトシアの心情や、カナタの正体、海に沈んだ街の正体などを予定。




