第七十二話 彼女の正体、彼の正体
魔王城に潜入成功し、現在は上層階でジャマー潰しを始めるところだ。
アイシャとリサさんはジャマーが魔力にも干渉しているらしく、体調不良でダウン。現在は俺とフューラとジリーで行動中。
「それっぽいものは何だろうととにかくぶっ壊せ!」
「破壊ならお任せあれだ!」
特にジリーは最近ずーっとその力を抑えてきたので鬱憤が溜まりまくっているご様子。城ごと吹き飛ばさなけりゃいいんだが。
――魔王城、上層階。ジリー視点。
さあーて暴れてやんよ! っても、いきなりぶっ壊しまくるのは遠慮するよ。そうだ、ここはニンジャスタイルで行こう。……そういえばカナタが妙な驚き方をしていたけど、なんだったんだろう?
っと、早速カメラ発見。……考えたらあたし遠距離攻撃出来ないじゃん!
……あ、方法はある。コロスで襲撃があった時みたいに何かを投げつければいいんだ。えーっと投げられそうなものは……ん? おっ、カメラが動いて別の方向を向いた!
この隙にカメラに走り寄り、バレーボールのように平手でアタック!
「痛ってー……でも成功っ」
後はこの壊れたカメラを投げつけて次のカメラを壊すってリレーでやって行くか。んでドアは片っ端から破壊! んー我ながら素晴らしい! なんて、カナタの真似。
ニンジャスタイルはどうしたって? ……さあ?
――一方フューラ視点。
僕の場合は裏技があるんですけどね。
「……方角よし。仰角よし。距離……適当」
六つの飛行装置兼ライフルは、統括して一つの高出力エネルギーランチャー兵器としても使えるんです。普通は強固な要塞壁面の破壊や広域を対象とした超遠距離射撃に使用するのですが、今回は特別です。
「射撃位置固定。エネルギーチャージ完了。周囲への警告……は不要。……撃ちます!」
――そしてカナタ視点。
「ぬおっ!?」
どこかで大きな爆発音。まさかあいつらそこまで大暴れしてるのか? また俺がブービーになりそうだ。
相変わらず銃座付き監視カメラはあるが、壊すとなればこちらも容赦なく撃っていけるのでかなり楽だ。
「まさかこんなところまで来て、FPSの腕が役立つとはなぁ」
といっても俺はそこまで上手くはなかったが。
予想としちゃ、そろそろ部屋が……あった。
「お邪魔ぶっこきまーす……」
と静かに言いつつ豪快にドアをぶち破り侵入。
だってさ、俺だってドンパチ賑やかにやりたいのよ? だけど現実が……。
「っと発見」
あの白いキノコ型ジャマーではないが、明らかに怪しい装置を発見。赤い多面体に大量のレンズが付いており、それが上下を棒で固定され静かに回転している。
しっかし防衛網薄過ぎねーか? 特にこれといってセキュリティが敷かれている訳でもないし、誰かが制御している感じでもない。
……とりあえず一発撃ってみるか。もしかしたら動体センサーで精密迎撃なんて事があるかもしれない。
パンッ! と一発。
そしてやっぱり仕掛けてあった。バリア的な目視出来ない防壁が張られており、銃弾が空中で消滅した。となるとどこかに発生装置があるはずだが……あ、もしかしてこのジャマー一つで自衛もやってるのかな?
「あぶなっ!」
なんて考えていたら俺を感知したようで、天井からそれらしき銃座が出現。即撃ってきたので部屋の外まで逃走。顔を近づけ中を覗くと……っ! っと撃ってきた。これじゃあ中に入れない。
参ったな。怪力ジリーや大火力のフューラならばいざ知らず、俺の装備では決定打がない。俺が持ってきてるのは銃が三丁とスクーターと、あとは細々とした補助用アーティファクトであり、戦闘用のアイテムはない。
……待てよ? ちょっと確認してみたくなったので、一番最初にフューラに作ってもらった実弾仕様のトミーガンを取り出した。弾丸は当時のままなので撃ち尽くすとそれで終わりだが、しかし現在唯一の実弾銃だ。
もしもエネルギーをエネルギーで対消滅させるとかよく分からないSF的な御託を並べた仕様なのであれば、実弾ならば通るのではなかろうか?
「なんてな」
と思う気持ちが声に出つつ銃口だけ部屋に突っ込み構え、引き金を引く。
ダダダッ! という久しぶりに聞く本物の銃弾の音。
そして三点バースト仕様で撃ち出された弾丸は、あっさりとバリアを突き破り装置に直撃。んが! 多少傷が付いた程度で破壊は出来ていない。やっぱり硬いか。
……いや、こうなったら残ってる弾を全弾撃ち込んでやるまで!
ダダダッ! とまた三点バースト。やはり弾はバリアをスルー。そういえばフルオートってなかったっけ? ……あ、ないのか。
しかし実弾ならばバリアを貫通可能な事が分かった。なので俺の現在の狙いはあの銃座だ。
「角度厳しいな……」
銃座はここからだと半分以上が影になってしまう。さらには無理な体勢と片腕だけで構えなければいけないので狙いが定まらない。
「しゃーない、ラッキーショットに賭けるか」
運に頼らざるを得ない自分が情けないが、今はそんな事を言ってる暇はない。
「これが当たったら俺、ドヤ顔ダブルトミーガンやるんだっ!」
というどうでもいいフラグを立ててみたところ、何と大当たり! 銃座は壊れ地面に落下。
「っしゃあ! ドヤァ!」
水鉄砲仕様も取り出し、フラグどおり腰を落としドヤ顔で両手を掲げてやったぜ!
「……なにやってんの?」
「え?」
呆れたような声に振り向くと、全員が揃っておいででした。おいそこの銃座今すぐ俺を撃ち殺せ!
――ジャマー破壊成功、最上階へ。
結局俺担当のジャマーは、フューラが一撃で撃ち抜いて終わり。
「あはははは!!」
そして俺は勇者様に大爆笑されております。
「そんな大声で笑うなよ。一応ここは敵の本拠地、そのど真ん中なんだからな?」
「だーれが笑わせてんのさ! ど、ドヤ顔ダブルトミーガンって、あはははは!!」
片手は新しい銃、スフィアのほうが良かったかな……。
え? そういう問題じゃないって?
そんなこんなで進んでいくと、あからさまに怪しい扉を発見。俺が百七十五センチだから、この扉は三メートル以上あるか。
「ここからはもう笑っていられないね。みんな、準備はいい?」
「おう」「はい」「ええ」「おーけー」
静かながらも全員返事。ここが俺たちの最終決戦の場だ。
「うん。じゃあ……ジリー、やっちゃって!」
「っしゃああっ!」
ジリーは軽く助走を付け、しかし物凄い勢いで回し蹴り! 空を切る音さえするその強烈な蹴りで、巨大な鉄製の扉があっけなく吹っ飛んだ!
「ぜっこーちょーっ!」
本当に絶好調だなジリーは。
――魔王城、玉座の間。
さあさあやって参りましたよ玉座の間!
「おい魔王! ちょっとツラ貸せ!」
いきなりドのつく不良口調のアイシャ。俺も昔は人の事言えなかったが。
「……お留守?」
玉座の間はスクーターで走り回れそうなほどの大広間になっており、支柱が左右対称に四本ずつ、城内には窓がなく窮屈だったが、ここに来て天井と壁に大きな窓があり、結構明るい。その中央に赤い絨毯が敷かれており、そしてその先には鉄製と思われる尻が痛くなりそうな玉座。
そんな玉座だが誰も居らず、アイシャの怒鳴り声はただただ反響して虚しく消えた。
「えー、ここに来て空振りとかどんだけ運ないんだよ」
「私に言わないでよね。……いや、私がこのタイミングを選んだんだけど」
「ここには生体反応はありませんよ。やはり」「おねえちゃんたち誰?」「ぬわっ!?」
全員一斉にのけぞるように驚いてしまった。
「……?」
俺たちに声を掛けてきたのは……ようじょである。見紛う事なきようじょである。三度言うが間違いなくどこからどう見ても普通のようじょである。そんなようじょが首をかしげているのである。
「あー町の子が間違って入り込んだのかな。お嬢ちゃん、ママは? ここは危ないからお帰り」
と近付こうとしたら、アイシャが間に割って入った。しかも剣を持ち、構えている。
「おいおい、いくら自分も小さいからって」「違う」
……このアイシャの声色は最大限の警戒が必要な時に出るものであり、俺たちに対しての警告でもある。つまり、このようじょは――。
「あんた、偽魔王でしょ」
「……んー……なにそれー?」
「とぼけなくてもいいよ。ここは魔族領だ。なのにあんたには角がない。そして偽魔王は人間の子供。これだけでも充分でしょ」
ようじょは、うつむきながらも小さく笑った。
「んふふ……」
つまり大正解! そう。このようじょこそが俺たちのターゲット、偽魔王その人だ。
俺たちは一斉に距離を取った。
「んあはははははっ!!! いやぁーまさかこんなタイミングで来るぅ? んもーわたしやんなっちゃうなぁー」
「改めて確認させてもらうけど、君が偽魔王って事でいいんだね?」
「だあーいせーいっかあーい!」
大きく手を広げ丸を作る偽魔王ようじょ。その口調は子供が遊んでいる時のそれそのもの。つまりこの……こいつには、罪の意識など欠片もない。
「あ、先に自己紹介しますねー。わたし、カプレルチカっていいまーす」
手を上げてハキハキと切れよく自己紹介をするようじょ偽魔王カプレルチカ。
見た目は本当にただの子供。アイシャよりも背が低く、小学生どころか幼稚園児でも通じるだろう。もちろん胸はない。
髪は白っぽい茶色。金や黄土色ではなくただ薄い茶色であり、正直あまり綺麗な色ではない。髪型は肩まで伸びたストレートだが、その先端だけをリボンで縛っている。
服装は本当に至って普通だ。このまま町中にいても誰も偽魔王だとは気付かないだろうな。ただし顔は可愛くない! これだけは強く断言する。可愛くない!
「……おねえちゃん、ようやく会えたねーっふふ」
その目線の先にいるのは、血の気の引いた表情のフューラ。
予想はしていた。偽魔王は俺よりも高度な技術力を持つ存在だ。そしてそのの技術力を分析出来るのは、俺たちの中でもフューラだけ。
フューラは過去へとタイムスリップし、自分が世界を壊す事を阻止するのが目的であった。しかし時間旅行に失敗し、世界を渡ってしまった。そしてフューラのプログラムには過去への過度な干渉、歴史の改変は行ってはいけないとなっており、その制約は異世界であっても発動してしまう。だからこそ俺たちは歴史に干渉しないように抜け道を通ってフューラの技術を手にした。
しかし、もしもフューラ自身が歴史の改変だと判断されたら? もしもフューラを破壊するための何かが用意されたとしたら? そしてもしも、フューラは世界を渡ったのではなく、過剰に過去へと時間を遡ってしまったのだとしたら?
全ての説明が付いてしまう。そう、全ての説明が――。
「うーん、みんな気付いちゃったみたいだねー。はいっ! わたしの本名は、対ナンバー54専用戦闘アンドロイド製造ナンバー55、でえぇーっす!」
なげぇ!
っと、アイシャがいきなり突っ込んだ!
「おるぁっ!」「いよっ!」
軽く飛び上がり、俺たちの頭上を越え玉座の前へと着地するナンバー55、カプレルチカ。
「勇者おねーちゃん気が早いよー? まずはー、ぜぇーんぶのお話を聞いてからにしてねー?」
人を食った態度がすげーむかつく! けれどここはアイシャを押さえよう。
「こいつ」「待て」「なんでさ!」「冷静になれ!」
苦虫を噛み潰したような表情のアイシャだが、しかし俺の制止に従う事は出来ている。
「……さっさと終わらせなさいよ!」
「おねーちゃん顔怖いよ? あははは!」
「ストップ!」「んがあああっ!」
俺だって今すぐ殴り倒してやりたいわ!
唇に指を当て、考えている様子のカプレルチカ。
「んーとー、そーだなぁ、まずはいっちばん最初からね。フューラおねえちゃんが過去に飛んだ時ね、ちょっとしたトラブルがあったんだー。おねえちゃんは三百年前に飛んだはずだったんだけど、桁が二つくらいずれてたんだよねー」
「……ここは僕の時代から三万年以上前だと?」
「うん。それで、あーこれは作戦失敗だー、このままだったらどうなるか分かんなーい、って事で、急遽わたしが作られたの。三万年前に戻っておねえちゃんを破壊するためにね?」
愛想を振りまいて可愛く言っているが、内容はぶっ飛び過ぎだ。
「カナタ、あいつ何言ってんのか私分かんないんだけど」
アイシャが小声で聞いてきた。俺だってギリギリだ。
「フューラもあいつも、この世界の住人だったって事だよ。ただし三万年以上も先の遠い未来の話だ。そしてあいつの真の目的は、フューラの破壊だ」
「……分かった」
ああ、俺も分かった。俺がずっと抱いてきた嫌な予感は、フューラがいなくなるという予感だったんだ。……ならばどうにかしてこの嫌な予感から脱しなければ。どうにかしてフューラを守らなければ。どうにかして、家族を守らなければ!
「それでー、わたし実はおねえちゃんの三ヶ月も前にこの時代に来ちゃったんだー。それでー、暇だったからー、いっちばんおねえちゃんが喜びそうな壊し方をずーっと考えてたんだー。それでそれでー、分かったの!」
「……何が」
おうっ、今までこんな辛辣なフューラの声色は聞いた事がない。
そういえばフューラが生体反応はないと言った直後にあいつが出てきた。つまりあいつには生体反応がない、本物の機械だという事だ。フューラのこの声色は、相手が人間ではないからこそなのか?
「えーっとねー、わたしが戦争を起こさせるでしょー? それでおねえちゃんが戦争を止めるの。そうするとおねえちゃんは大喜び! そこでわたしがおねえちゃんを壊せば、おねえちゃんは一番喜んで壊れるの! はっぴぃえんどー! あっはははははっ! わたしあったまいいー!!」
……狂ってる。
「んだぁーけぇーどぉー……おにーちゃんが来ちゃった。狐のお姉ちゃんも、囚人のおねえちゃんも来ちゃった。わたしー、フューラおねえちゃんに会わせないように色々してたんだよ?」
そりゃ三ヶ月も準備期間があれば色々出来ただろう。
「おにーちゃんの事は山賊さんに殺すように頼んだのに、鳥の魔王さんが勇者おねーちゃん連れて来ちゃったし、狐のお姉ちゃんはあのまま餓死するはずだったのに王様連れて来ちゃうし、囚人のおねえちゃんだって警備隊に殺されるはずだったのに助かっちゃったし。もーわたしの努力台無しだよー?」
全部覚えのある話だ。全部、こいつは見ていたって事だ。……だからこそドッボをあんな正確に操れたし、俺たちを陥れる事が出来ていたのか。
全部見ていた……ああっ! 思い出した! 運送屋の依頼でドッボに接触した時、あの大砲の差出人が「55」だった! なんだこいつ。本名であんな物を運ばせたのか!
……気付かれない自信があったんだな。その自信どおり俺は一切、今の今まで気付かなかった。フューラがナンバー54だという事が頭にあれば、あるいは……いや、もう過ぎた事だ。
「だからね、戦争する事にしたの。元々そのつもりだったけど、もっと一気にやる事にしたの。まずはグラティア王都が欲しいっておねだりしてー、魔族を調子に乗せてー、一気にグラティアを潰すつもりだったの! んだけど、あの程度の装備じゃもう遅かったみたい。てへっ」
てへっ、じゃねーよ! そもそもお前顔からして可愛くねーし。
「……それなのにここのグズどもったら、わたし放って自分たちでいがみ合うんだもん。だからまずは、おねえちゃんたちの中心にいるおにーちゃんをぶっ殺そうと思ったの」
俺か!
「でーもー! 欲を出したあいつが勝手におにーちゃん拉致するし、おにーちゃん使って戦争始めちゃうし、、勇者おねーちゃんなんかすごい事になってたし……」
口を尖らせ拗ねた態度の偽魔王。
俺はドッボのおかげで死に損なったのか。あいつあれで命の恩人だったんだな。ついでにモーリスも救えたし、ピエロだったはずのドッボは、この世界にとっての影の功労者だ。
「あと、あの白いの! あいつわたしの事も気付きやがったから、もうおねえちゃんに近付けなくなっちゃったの!」
白いのといえばモーリス。何も言ってなかったけど、気付いてたのか。
……あっ、モーリスは一度だけ妙な反応をした事がある。グラティア王宮で目を覚まし、カキア大臣を初めて見たあの時だ。心が読めるならばカキア大臣に敵意や殺意がない事はすぐに分かるはず。なのにモーリスはカキア大臣を恐れ、布団に潜った。
もしもあの場にこいつが潜んでいて、それを魔族であるカキア大臣の心だと勘違いしたのならば? 充分にあり得る。
「アイシャ」「分かってる。カキア大臣との事でしょ? 私もちょっと引っかかってたから」
さすが勇者様。そしてヒソヒソ小声だったのだが、やはりあちらさんには聞かれている様子。フューラも地獄耳だが、あちらも同等のスペックと考えていいだろう。つまり軽率に口を開く事すらも危ない。
「Dプロジェクト」
フューラが静かに怒った声で一言。
Dプロジェクトとは、亡くなって間もない遺体を機械と融合させ、不死身の兵士とする狂気の計画だ。ドッボの機械化は、この技術を応用したものだと推測出来る。
「……ふふっ、せーぃかあーい! そうだよー。わたしからアプローチ出来ないならー、おねえちゃんから気付いてもらえればいいよね? って。ジャマーでおねえちゃんを無力化してー、それからあれを操ってそっちのをぶっ殺すつもりだったんだけどー、いやぁーまさか負けちゃうとは思わなかったなぁー。本当に計算外」
と、計算外というか予想外の事態。フューラがいきなりライフルをぶっ放したのだ。その弾丸は偽魔王に直撃し、その左半身が抉れた。人ならば間違いなく即死であるが……だが、偽魔王は笑っている。
「んあははは! 痛いなぁー。わたしに痛覚ないけど!」
そして言ってるそばから見る見るうちに体が復元されていく。吹き飛んだ服すらも再生しているので、あの服は偽魔王自身が作り出したものなのだろう。フューラのビキニ型戦闘服も自己再生するし、やはり二人は同一スペックか。
「忌々しい……」
本気で心から嫌悪している様子のフューラの嘆き。それは恐らく、死ねない自分へも向けられているのだろう。
「お前は踏み込んではいけない領域に足を踏み入れた。それは人であろうと機械であろうと不可侵の領域。……お前は、存在してはいけない!」
まるで俺たちの知るフューラとは別人の表情だ。それだけフューラは本気なんだ。
「おねえちゃんも待ち飽きたみたいだから、最後の話ねー。じぃーつぅーはぁー、わたし今からこの世界をぶっ壊しに行くところでした! わーおー!」
「……はぁ!?」
思わず珍妙な声を出してしまった。
「だぁーかぁーらぁー、この世界をぶっ壊しに行くところだったの! だって、わたしもおねえちゃんも死なないんだから、この世界の人間を全員ぶっ殺しても動けるんだよ? そうしたら、わたしとおねえちゃん二人だけの世界が出来るじゃん! わたしてんさぁーい!」
狂ってるとは思っていたが、こいつは度を越して狂っている。
「なぁーのぉーにぃー、今から行こうっ! って時におねえちゃんが来ちゃったの。……おかげで準備が出来なくなっちゃったよぉ」
あと一日でも遅れていれば、もう手遅れだったという事か。危ないなんてレベルじゃねーぞ!
「……この世界が本当に僕の世界の過去だとしたら、そんな勝手な行いは出来ないはず。僕と同じならば、お前にも歴史の改変は出来ないはず」
「だと思った? あははは! わたしにはその機能はありまっせぇーん! だってだってぇーわたしって急造されたんだよー? だからおねえちゃんみたいに情操教育なんて受けてないしー、過去改変防止プログラムなんて、なぁーんもなぁーい」
待て待て、つまり常時暴走状態って事じゃねーか! とんでもない欠陥品を送り込みやがったな!
「んだからね、わたしは世界を変える事にしたの。わたしを作った奴ら、おねえちゃんを作った奴ら、わたしとおねえちゃんの邪魔になる奴ら、わたしとおねえちゃんとの仲を引き裂こうとする奴ら、ぜーんぶぶっ殺す事にしたの! あははは!」
これはまずい。
結論から言えば、俺たちが勝たなければ人間族だろうと魔族だろうと、全員殺されるという事になる。そして相手は不死身。
こいつを攻略する鍵を握るのはフューラだ。というか、フューラ以外に対処法を知る奴が誰もいない。
「はいっ! お話おーわりっ!」
手を叩き、にっこり微笑む偽魔王カプレルチカ。
「……いっくよぉー!」
「来るぞ!」
不覚を取りつつも一斉に構える俺たち。カプレルチカは銃の類は持たず、恐らくは近接格闘型なのだろう。それか……さっき準備が出来なかったと言っていたが、もしかしたら装備前だったのかも。
「まずは……ふふっ、やっぱりおねえちゃんからっ!」
人知を超えていると言わざるを得ない、とんでもないロケットスタートで突っ込んでくるカプレルチカ。狙いはフューラだ! ここでフューラを失うのは一番痛い!
「あはははは!」
ぶっ壊れた笑い声を上げるカプレルチカと、それを冷静に迎撃するフューラ。正直俺は目で追うのが精一杯であり、その隙に入り込む余裕を持たない。
「アイシャ、俺は無理だ」「分かってる!」
分かっちゃってたかー。
「私もギリギリだもん」
お前もかよ! やっぱり未来のアンドロイド同士の戦闘、ろくな事にはならないんだな。
「ぬおっ! あぶねえ!」
「そっちで避けて!」
フューラがフレンドリーファイアしそうになり、そして俺たちに構う余裕がないと。これは完全に押されてるぞ!?
「あっはははー……ぁあ?」「ひひっ、つっかまーえた!」
あれだけ高速で暴れまわり、俺やアイシャですら逃げるので手一杯の相手を、ジリーが素手で捕まえやがった!
左腕を掴まれ動きが止まったカプレルチカは、ジリーを睨む。
「わたしー、今おねえちゃんと愛し合ってるんだけどー。邪魔すんな!」
腕を掴まれたままの無理な体勢だったが、そこから回し蹴りをしやがった! ジリーは片腕で止めたが、しかし吹っ飛ばされた! という事はこいつ、ジリーよりも上か!
「ってぇーなあ! クソガキ!」
元気なようで一安心……もしてられないか。しかしこれを愛し合っているとは、とんでもないシスコンヤンデレサイコパスだ。
「あーぁあー。腕折れちゃったじゃーん。んはは、なんちゃってね。もう直りましたー」
掴まれた腕をトカゲの尻尾切りの如く折っての攻撃か。こいつ自分の体が再生するからってやりたい放題するつもりだな?
そういえばずっと見ていないリサさんは?
「――――――」
本を持ち何か唱えている? ……仕方がないな。
「アイシャ、リサさんを守るぞ」「うん」
「そうはいかないもーん!」
俺たちが入る前に回り込んできた! っとフューラが飛んで来た! そしてライフルでホームラン!
「僕だけならばいざ知らず、僕の家族にまで手を出す事は許さない!」
「……えへへへ、家族? へえー、おねえちゃんの家族なんだー。……じゃあ、わたしの家族でもあるよねぇ。そうしたらぁー、愛し合わないとねっ!!」
歪みきった偽魔王カプレルチカの愛情表現に火をつけてしまったようだ。
「本番はこれからだよ!」
「おうよ!」
過激な準備運動は済んだ。さあ本気で行こう!




