裏五十六話 黒ぶちメガネと機械人形
――工房。フューラ視点。
アイシャさんが帰省してから二日目。この日工房に珍しいお客さんが来ました。
「すみませーん」
「はあーい」
と扉を開けると、黒ぶち丸メガネの女性。
「おや、レイアさんじゃないですか。確かルシェイメのダンジョン以来ですよね」
「うん、そうですね。お久しぶりです」
しっかりと頭を下げるレイアさん。さすがはお店のカウンターに立つ事もある方です。
「しかしよくここが分かりましたね」
「結構有名ですよ? 勇者の仲間がやっている工房があるって」
アイシャさんからの繋がりならば納得です。
レイアさんを中にご案内。
「今日はどのようなご用件ですか?」
「はい。えー……先に、気楽に喋っちゃってもいいですか? アイシャみたいに友達の雰囲気で」
「ええ。全然構いませんよ」
「よかった」
ほっとした表情。僕とはまだ面識が浅いので緊張していたんですね。
「えっと、私が武器職人だっていうのは?」
「もちろん。武器屋リコールの娘さんですよね。アイシャさんとは学生時代からの友人で、謝肉祭前に自身のレベルを上げようとして失敗。アイシャさんと険悪にはなったけれど、武術大会で新しい剣を渡し関係修復。ルシェイメのダンジョンではジリーさんとも共闘して中々の戦果を挙げましたよね」
「あはは、全部覚えてるんだ」
「ええ。僕は一度覚えれば忘れないので」
「えー羨ましい!」
あはは、僕の中身の話はまだでしたね。とはいえ今する話でもありませんけど。
「それで、本題は?」
「あ、うん。工房っていうから、どういうのか見学させてもらおうかなって」
「……すみません。ここは機密の塊のようなものなので、普通の方にはお見せ出来ないんですよ」
そもそもここにアイシャさんたち以外が来る事はないと思っていたので、その機密もそこかしこに置いたままなんですけどね。
「うん、分かった。元々見せてもらえるかは半々だと思ってたから気にしないで」
と言いつつも残念そうですけど。
「……じゃあここからが本当の本題。私またちょっと壁に当たってて、アイシャ今忙しいじゃない? だから今回はアイシャ抜きでダンジョンに潜ろうかなって。それでフューラさんが実はすごく強いっていう話をアイシャがしてたのを思い出して、良ければ用心棒を引き受けてもらえないかなって……思ったん、です、け……ど……」
僕の表情が変わらないのを見て、駄目だと判断したようですね。しかし僕のこれは元からなので。
「なるほど、そういう事ですか。でもそれは僕一人で決められる事ではないので、まずはリサさんに訊ねてください。今は王立図書館にいるはずです。……そうだ、僕もリサさんに用事があるので、一緒に行きましょう」
「あ、はい。ごめんなさい」
「気楽にでいいですよ?」
「あ、あはは……」
僕の口調のせいですかね?
――王立図書館。
モーリスさんの解呪の資料を探した時以来、リサさんは王立図書館の地下によく出入りするようになりました。狙いは自分の世界への帰還魔法を探す事なのですが、中々成果は上がっていないようです。
地下までレイアさんを連れて行く訳にはいかないので、リサさんを呼んでもらう事にしました。
「フューラさんと……確かレイアさんでしたか。珍しい組み合わせですね」
「お久しぶりです。実はフューラさんと一緒にダンジョンに潜ろうかと思って」
「その確認と承諾ですね。もしもの事があって連絡が取れなくなるとまずいので」
可能性ならばいくらでもありますからね。特に、僕一人ならば問題はないでしょうが、レイアさんが不確定要素となりうる今回、何よりも慎重を期すべきです。
「そういう事でしたか。……すみませんがわたくしは合流出来ません。それでもよろしいですか?」
「はい。ただ一応、あれをお願いします」
「分かりました。ではフューラさん、レイアさんを守ってさしあげてください」
「はい。了解しました」
リサさんはサブオーナーですらないので、あくまでも形式的なものです。そして形式的なものだとしても、これで僕には目的が設定出来ました。
今回のミッションは、レイアさんの修行に貢献し、かつその身を守る事。
――王都北西のダンジョン。
今回はレイアさんの希望でルシェイメのダンジョンではなく、少し難しいダンジョンを選択しました。
「確かアイシャさんとカナタさんを連れて一度は入ったんですよね?」
「うん。でも私が命の重さを理解していなかったから、アイシャに物凄く怒られた。ここはそれ以来だから、ちょっと緊張してるかも」
「大丈夫ですよ。僕が言うんですから」
「あはは、なんかすごく頼れるお姉ちゃんって感じ」
……お姉ちゃん、ですか。これでも末妹なんですけどね。
さて、受付を済ませエスケープリングを持ち、出発です。
――第一階層。
入るといきなり案内板が。まるで観光地ですね。
「レイアさんは常に僕がどこにいるのかを把握してください。僕からレイアさんは把握出来ますけど、逆の状態で迷われるとこちらも手間取りますので」
「うん。それにたった二人、しかも私はお荷物。しっかりそれを意識して行動するよ」
アイシャさんに怒られた事が、かなり効いているようですね。これならば僕も少し気を楽に持てます。
「さて行きましょうか」
「うん。……あれ? 前もそんな格好でしたっけ?」
戦闘用に切り替えたのですが、レイアさんは忘れていた様子。
「そうですよ。ただ前回はあまり僕は仕事をしませんでしたからね」
終盤で一緒に行動しましたが、僕は後方警戒が主だったのでこの格好にはあまりなっていません。それもあるんでしょう。
「ああそれと、僕たちが異世界人である事は知っていますよね? 僕ははるか未来の世界から来た機械なんですよ。こう見えて人ではありません」
「あ、だから工房?」
「そういう事です」
意外なほどあっさりと納得していただけた様子。もしかしたらアイシャさんは既に話していたのかもしれません。
進むと早速一匹目。あれはスライムですね。
「第一階層では大ウサギ以外は私だけでもいけるよ」
「そう言ってアイシャさんに怒られたんですか?」
「あうっ……。でもスライムなら本当に私一人でも大丈夫だよ」
「……分かりました。レイアさんの実力も確認したいですし、ここはお任せします」
「うん。よーし、頑張るぞ!」
いざとなればスライムくらいは吹き飛ばせますし、以前の話では大ウサギ以外は問題なかったようですから。
レイアさんが取り出したのは槍ですね。さあお手並み拝見です。
「とりゃあっ!」
可愛い声と共に槍で一撃。……実力を測るには情報不足。これで大ウサギが出てきたらどうしましょうかね。
「んーと、アイシャの最初の頃って覚えてる?」
「ええ」
「そうしたら、私はあれくらいの力だと思ってね。つまり戦闘素人」
自分から言うという事は僕の疑念に気付いていますね。
「分かりました。ならば大ウサギが出てきたら、まず僕が行動不能にします。その後に攻撃をお願いしますね」
「うん」
……そういえばレイアさんは学校では優等生でしたか。
その後もさくさくと進んでいますが……出ました大ウサギ。大きな振動と共に登場です。
「えっと……お願いします」
「分かっていますよ」
敬語になりましたね。それだけトラウマ、もとい警戒しているという事でしょうか。しかし何度見ても大ウサギは可愛いですね。これで大人しければペットとして飼えそうです。
が、そうは行かない様子。こちらを目ざとく見つけ、突っ走ってきました。僕はボールを二つ用意。
「止まらないと撃ちますよ。と言っても言葉が通じる相手ではないですよね」
僕は今後レイアさんでも僕の発射タイミングが分かるようにと手を上げ、それを振り下ろすタイミングでレーザーを発射。狙いは大ウサギの後ろ足二本。
「……はい。行動不能にしましたよ」
「えっ!? えええええっ!?」
「驚くばかりならば先に倒しちゃいますよ?」
「あっ! は、はいっ!」
まあここまでしっかりと見せた事はありませんから、驚いて当然ですけどね。
気を取り直したレイアさんは、動けなくなっている大ウサギに連撃……というか、適当に刺しているようにしか見えません。
「……仕方ないですね。レイアさん、頭頂部を狙ってください」
「あ、はいっ!」
僕のアドバイスが効いたようで、無事撃破。おっと、肉を落としましたね。
「……うっ……うっ……」
「え!? いや、泣くほどの事ではないですよ?」
いきなり泣かれたので思わず動揺してしまいました。
「だって……私全然なんだもん……」
「それは、えー……あ、レイアさんはあくまでも職人さんですからね? そこまで気を落とす事はありませんよ」
「うん……ごめんなさい……」
レイアさん、こんな表情はきっとアイシャさんには絶対に見せないでしょうね。お二人の関係は親友であり、共依存でもありますから。
――第二階層。
階段を下りた途端、レイアさんが不安そうな声を出しました。
「あの、ここからは私来た事なくて、えと……」
「勝手に動かなければ大丈夫ですよ」
「うん、頼りにしてます」
すっかり敬語になっちゃってますね。そしてまたもや案内板。
「ここから先、スライム種が徒党を組み複数現れる場合があります。ご注意ください。だって」
「種類は同じ? ですね。ならば一匹ずつ確実に仕留めれば大丈夫でしょう。行きますよ」
「は、はいっ!」
なんとなくですが、僕はレイアさんの中では姫を守る騎士のような存在になってしまっているのではないかと危惧し始めています。これでは僕に頼りきりになる可能性があり、そうなればレイアさんの修行に貢献するという目標が不成立となってしまいます。
……次の階層までに考えをまとめないとですね。
第二階層で最初に出会ったのは大ウサギでした。とはいえ、一度倒した相手なのでレイアさんもしっかり学習していました。さすがは優等生ですね。
そのまま進むと、スライムが四匹連なって現れました。
「全てお任せしますね」
「えっ、あ……うん!」
数の上では不利ですが、さてどうなりますかね?
「えいっ!」「はっ!」「やあっ!」「とおぉっ!」
……少し戸惑った様子を見せたものの、しかし一匹ずつ確実に倒し、一人で四匹の討伐に成功。レイアさんには多少厳しい態度を取ったほうが良さそうです。
「ふう。あ、スライム玉いただきー」
レイアさんが拾ったのはゴルフボール大の半透明でプニプニした玉。
「それは?」
「スライムの……残骸? 溶かしてスープにすれば滋養強壮に効果あり。といっても一杯のスライムスープにはスライム玉が十個以上必要なんだけど。他の使い道は……投げつけて気を引くくらいしかないかな」
なるほど。この世界には僕の知らない事が色々とあって楽しい限りです。
――第三階層。
「レイアさん、僕の見る限り大ウサギならば一人でも倒せそうなので、一度全てお任せしますね」
「あー……うん。頑張る……」
不安そうな顔をしています。
「大丈夫ですよ。僕が見ていますからね」
「あはは、うん」
ようやく笑ってくれました。
第三階層は第一第二階層のモンスターに加えて、スカルヘッドというガイコツのモンスターが飛んでくるようです。……そういえばジリーさんがガイコツ苦手でしたね。お土産にひとつ持ち帰りましょうか? なんちゃって、
と思っていると早速ガイコツが出てきましたね。
「ルシェイメでも見ましたが、こちらのほうが強いんですよね?」
「うん。こっちは腕を噛み千切るくらいって案内板の警告にあった」
僕ならば腕をくれてやる代わりに脳天に一発お見舞いしますけど……絶対に怒られますね、はい。
「まずは僕が」
ボールをひとつ出し、まずは一発。……で終わってしまいました。
「うーん、意外に弱いですね」
「その攻撃が強過ぎるだけだと思うんですけど……」
「そうでしょうかね? ならば次は別の方法を取りましょうか」
少し歩くとまたガイコツ。ここはレイアさんに丸投げしましょう。
「えー」「あの、私にやらせて。やっぱり後ろにいるだけじゃ成長しないって思うから」
「……分かりました。ただし僕が危険だと判断したら割り込みます」
「うん」
わざわざ言うまでもありませんでした。
レイアさんは槍を構え、ガイコツもいつでもどうぞと言わんばかり。一応僕もボールを用意してありますが、現在のところ、手を出す気はありません。
「たあっ!」
相変わらず可愛い声ですが、ハズレ。
「やあっ!」
またハズレ。というか、完全にガイコツに遊ばれてますね。
「とりゃっ!」
はい残念。と、ガイコツも口をあけてカラカラと音を鳴らし笑っています。レイアさん、完全に馬鹿にされてますね。
「んもおっ! こうなったら……」
と、レイアさんが取り出したのは……クロスボウでしょうかね? 大きさは三十センチほどで、木製の機械弓です。
「フレイムエンチャント!」
これは驚きました。矢じりが燃え上がり、そして射出。見事に……ハズレ。弓矢から避けたようにも見えました。
「ええっ!? ちょっと君! 動かないでよ!」
「それは無理な注文でしょう」
(うん)とガイコツさんも頷きました。
「……んもーっ!!」
と、近くに浮かせておいた僕のボールを掴み、ガイコツに投げつけちゃいました。……はい、大当たり。
「今のうちですよ」
「うん! うりゃあっ!」
という事で、一応はレイアさん一人でもガイコツを撃破出来ました。
「……さすがに凹む……」
「でも一人で倒せたじゃないですか。それにあの炎の魔法、まるでアイシャさんのものとそっくりでしたし、充分な成果ですよ」
「……フューラさん優しいっ!」
と抱き付かれちゃいました。
「あはは。でも本当にあの魔法はすごかったですよ。レイアさんも武器に属性を付与出来るんですね」
「んー……ちょっと違う。あれは矢じりにあらかじめ油を塗ってあったの。それに魔法で着火。だから属性付与じゃなくて追加効果が正しいかな」
「という事はよくある手なんですか?」
「ううん。アイシャのを見て思いついたの。同じ事考えてる人は多いみたいだけど、弓矢だと炎のせいで軌道がずれちゃって駄目。大失敗!」
「あはは、それもまたひとつの成果ですよ」
「そうだね」
安心したように笑顔を見せてくれました。
第三階層最後の敵は、あの大ウサギさんです。
「出来ますか?」
「やってやります!」
「分かりました。しかし危険と判断した場合には……ですからね?」
「はいっ!」
僕は姫を守る騎士と言うよりは、稽古の先生かもしれませんね。
さて茶色い大ウサギさんもレイアさんと僕を視認。鼻をヒクヒクさせながら様子をうかがっていますね。
先手はレイアさん。近距離攻撃は危険と判断したのでしょう、先ほどの機械弓で攻撃開始です。
「もう一回! フレイムエンチャント!」
さて今度は……命中! さすがに大ウサギは当たり判定が大きいですね。そして矢じりの炎がウサギさんに引火、火だるまです。
「よし、後はちくちくダメージを与える!」
弓矢を追加で射出。八本目でようやく大ウサギが倒れました。無事、僕が一切手を加えなくても大ウサギを倒せましたね。ついでに肉も落としましたので、晩御飯は決まりでしょう。
「これでアイシャさんにも文句を言われる事はありませんね」
「あはは、うん。なんかほっとした。けど何度も来られると困っちゃうかなー。やっぱり私はあくまでも鍛冶職人だから、戦闘には向いてないって事をひしひしと感じてる。……ここからはまたサポートお願い。そして第六階層に着いたら帰ろう」
「分かりました」
――その後。
第四、第五階層共に僕が一撃を加え、最後はレイアさんが仕留めるという流れで進みました。目新しいモンスターはこれと言って特になく、無事に第六階層に到着です。
「セーフスペースは……どこでしょうか?」
「私も分からない。って、あれ」
「あはは。これじゃあ本当に観光地ですね」
天井から鎖に繋がった看板が垂れ下がっていまして、矢印とセーフスペースの文字。
「簡単には行かないようですね」
僕たちの前に現れたのは、何時かの洞窟で見たのと同じオーガ。
「後ろにも!」
「おっと、これはこれは」
前後をオーガに挟まれました。レイアさんは……明らかに死の恐怖を感じていますね。
「ここは僕が一手に引き受けましょう」
「う、うん」
レイアさんの今後の参考にもなるかもしれませんし、見せるだけならば世界の改変に接触もしないので、僕はライフルを二丁、両手持ち。
「ふぇ?」
目の前で展開されるよく分からない棒のギミックに、レイアさんはきょとんとしています。
「耳塞いで」
「あ、はいっ!」
それほど大きな音が出る訳ではありませんけど、念のためです。
僕は両手を広げ、左右から来るオーガを両方一気に倒す事にしました。ちょっとだけ格好を付けたくなったんです。
「僕と出会った事を不運と思ってくださいね。さようなら」
こういう台詞、一度言ってみたかったんですよ。
僕はライフルの引き金を引き、左右同時射撃。以前出会った時にオーガの動きは見切っていますから、必中です。
オーガ二匹はなす術もなく倒れ、黒い砂と消えました。……おっ、所持していた幅広の剣を落としました。
「はい、終わりましたよ」
「……むはあっ」
「いや、息まで止めなくても」
「あ。あはは、ついなんとなく。でもすごいねそれ、本当にフューラさんは未来の人なんだ」
人ではなく……というツッコミも野暮ですね。
こうして僕たちは無事に一切の怪我もなく、第六階層のセーフスペースを発見し、地上へと帰還しました。
――地上。
「んんーやったあっ!」
レイアさんは体を伸ばすと、開放された喜びを声に出しました。
「お疲れ様でした。僕も結構楽しめましたよ」
「あはは、駄目だよフューラさん。本当は私がお荷物になっていたって顔に書いてある」
おっと、建前だったのを見事見抜かれました。
「だけど、本当に助かった。ドロップアイテムは……正直微妙だけど、でも私もこれで職人レベルが上がるはず。んー……何かお礼をしたいんだけど、ご希望ありますか?」
「お礼ですか……」
そう言われると困ってしまいました。なにせ僕は自前で用意出来てしまうので。
……ならば、自前では用意出来ない事を提案しましょう。
「ならばひとつ、デザインのアイディアをいただけますか?」
「デザインのアイディア? ……うん、いいけど……あ、あの棒みたいな武器?」
「おおよそ正解です。カナタさんの銃は見た事ありますよね? あのタイプで新しいのをと頼まれているのですが、デザイン案が浮かばないので」
レイアさんは神妙に思案中です。
「うーん……おっけー。でもそういう武器は私もド素人だから、期待はしないでね」
「あはは、了解です」
「よーし、そうしたら一旦フューラさんの工房に行きましょう!」
「はあー……い?」
……あれ? もしかして僕、やらかしちゃいましたか?
――帰宅。
工房に帰った時にはもう夕暮れでした。
「んー、明日以降にしますか?」
「えーっと、どういう部品が必要かを教えて。それを頭に叩き込んで、帰って考えます」
「分かりました」
その後、僕は銃に必要な外装部品、つまり銃口やトリガーなどを一通り見せ、そしてレイアさんを武器屋リコールまでお送りしました。
「あっ! ようやく帰ってきた!!」
「あれ? お二人とも帰省していたのでは?」
武器屋リコールに着くと、店内にアイシャさんとカナタさんがいました。
と、レイアさんの顔を確認したアイシャさんが、見る見る泣き顔になり――。
「レイア、ごめーん! これ……」
「あちゃー、綺麗に根元からポッキリだね。何があったのさ?」
「……あれ……」
驚きました。アイシャさんが指差した先には、僕よりも大きな水晶が鎮座しています。
「えっ!? こ、これ……わっ! エフォートクリスタルだ! ……あー、これならば剣が折れても仕方がないよ」
「仕方がない……の?」
「の。これね、鉄の何十倍も固いんだよ。……っていうか鉄の剣でよくこれを持つ敵を倒したね。そっちにびっくりだよ?」
「質問を」「質問を」
おっと、カナタさんと同時に質問をしようとしてしまいました。
カナタさんが譲ってくれました。
「まずはアイシャさん、どうしてそうなったんですか?」
「うん。帰省してたら村の近くに洞窟が発見されたから、調査してほしいって。それで中に入ったら壁も敵も水晶だらけ。三体目の敵が見た事のない水晶モンスターで、最後の一撃を加えたと同時に、剣も粉々になっちゃった」
「あー、それアイシャの技量に剣が付いて行けなくなったんだよ。私もまだまだ修行が足りないって事。だからアイシャのせいじゃないよ」
「……レイアああごめーん」
結局泣きつきましたね。
「後は俺が説明するよ。最後の敵を倒したらこれをドロップして、アイシャの父親に見せたら、剣に加工してもらえばいいじゃないかって。だから一旦帰ってきたんだけど、丁度いい具合にレイアさんがお出かけしていたから、お店で待たせてもらっていたという訳。まさかこんな時間まで、しかもフューラと一緒に出歩いているとは思わなかったけど。俺の質問はそれ」
「それは、フューラさんに頼んでダンジョンに一緒に潜ってもらったんだ。北西ダンジョンの第六階層まで行ったよ」
「ええ。しっかり無傷でお守りしましたよ」
するとレイアさんは私に向き直りました。
「えへへ。改めて、ありがとうございました」
「いえいえ。確かに少しお荷物ではありましたけど、でも面白かったのは本当ですから。また今度一緒に行きましょう」
「うん。お願いします」
なんてやっていると、カナタさんに笑われました。
「あっはっはっ、すっかり二人も仲良くなったんだな。アイシャ、友達取られるぞ?」
「いやあ取らな……い、ん? んー……フューラ、私からレイアを横取りしちゃ駄目だよ!」
「じゃー私がフューラさんを横取りしちゃおーっと」
「それも駄目ー!」
あはは、モテていますね、僕。
現在ドツボなうなので、エンジンが掛かるまでもう少し掛かりそうなのです。




