第五十四話 帰路に就く人々
――宿屋。カナタ視点。
アイシャがダウンして丸三日。近所で朝飯を買い、戻ってきたらアイシャが起きていた。
「……あ、おはよう」
見てからに元気がない。それは疲労とはまた別の部分からだろう。
「はあ、お前なー……安心したぞ。ほら、飯食え」
「うん。……ごめん」
「ミダルさんやメイドさんにもお礼を言っておけよ」
「うん」
アイシャが起きたという事は、これでようやく我が家に帰れる訳だ。
朝食を終えて本日の行動開始。
「アイシャ、お前はまだ安静にしておけ。動くのは医者の診断を受けてからだ」
「うん」
気持ち悪いほど素直だが、恐らくは自分の体調が戻りきっていない事も理解しているんだろう。
さて医者はリサさんに任せて、俺はフューラと港へ。モーリスとシアは……自分たちから部屋に戻ったから、留守番するつもりだな
――港へ。
そんな道中、フューラがここ数日の事をまとめて教えてくれた。
「あのですね、僕はここ数日この町で聞き取り調査をしていたんです。その結果をまとめて報告します」
「……あー、だからシアが付いて行ってたのか。んで、どうだった?」
表情を一切変えないフューラ。恐らくはこいつの思った通りだったんだろう。
「この町に限れば、戦争が起こっている事すらも知らない人がいるほどでした。そしてその意識は一切統一されていません」
「町ごとに千差万別って事か?」
「はい。正確にはそこを治めている貴族の意向に沿う形で大勢が決まっています。なので好戦的な貴族が治めている地方では僕たちに敵意を向けてきますし、ミダルさんのように友好的であれば町の人々も概ね友好的です」
地方単位でバラバラという事は、小国単位と考えるほうが自然かもしれない。
「次に魔王プロトシアについて」
「魔族から見た魔王か。モーリスを見ていると予想は付くけど、聞こうか」
「……正直に言いまして、皆さん現実的でした。魔王の伝説は誇張されていて、作り話も多分に含まれていると」
「あっはっはっ、いいねー。きっとシアも喜んでいたんじゃないか?」
「はい。ただ……」
おっと。
「魔王プロトシアは、魔族の王である。複数の、年齢も性別もバラバラの方々が、全く同じ文言を並べました。そしてその度にシアさんは落ち込んでいました。良くも悪くも、自分が六千年もの間にどれほど影響を与えてしまったのか、この数日間で嫌というほど思い知らされたでしょうね」
「……酷ではあるけど、それもあいつが選んだ事だからな。でなければさっさと耳を塞いで宿に帰ったろうし」
「でしょうね」
「僕もシアさんも自分の世界を壊しかけました。なのでお互い世界を救うという責務を果たそうと、そういう話もしました」
恐らくシアは、俺をこの世界に招いた時点で……いや、力を封印された時点で分かっていたんじゃないだろうか。それでも時間が解決してくれるならばそれでよかった。しかし現実はそうではなかった。むしろ悪化していた。
「僕は三百年余り、シアさんは六千年。僕は続きで世界を見てきましたが、シアさんは異世界から戻ってきてみればこれですからね。きっと今、一番辛いのはシアさんですよ」
「だろうな。なにせ俺たちは目標に向かって進む側だが、シアだけは違う。あいつはこれから目標を探す側だ」
「……あの……」
フューラの表情は変わらないが、放つ雰囲気が大きく変わった。何かを打ち明けるつもりか。
「今だからこそ、僕の最終的な目標を話しておきます。僕は元の世界に戻り、世界を修正出来たならば……壊してもらおうと思っています」
「やっぱりな。悪いが以前お前がこっちに来た理由を話してくれた時、そうじゃないかなって思ったんだよ。……もしかしてだけど、自分から時を越える作戦を申し出たんじゃないのか? 報酬として自身の破壊を提示して」
「……大当たりです。時空転移の技術自体は僕が渡る十年程前には開発されていました。しかし人体では負荷が大き過ぎて時空転移は不可能だったんです。それを知って僕は自らこの作戦を立案し、成功報酬として正しい手順での機能停止と破壊を要求しました」
「もう人には触れられたくなかったのか」
「はい。もう……静かにしてほしかったんです」
そう言いつつも、少しだけ表情が柔らかくなったフューラ。
それはつまり、破壊してもらい静かになりたいという心情はあるが、しかし今俺たちとの生活を本気で楽しんでいるという事の表れだ。
「じゃあ俺も本音をひとつ言おう」
フューラは俺の顔を見てきた。俺が何を言い出そうとしているのか探っている様子だな。さてそれは合っているかどうか。
「俺はな、羨ましいんだよ。お前を含めたみんな、人生を謳歌している」
「それはカナタさんもじゃないですか?」
フューラには分からないか。
「……いや、俺は……何て言えばいいのかな……やっぱやめ!」
「ええー? せっかく皆さんに言いふらそうと思ったのに」
「鬼め」
「あはは」
唐突にこれは言うべきではないという気がして、急遽取りやめた。しかし俺のこのモヤモヤは何なんだ……。
――港、セプテンブリオス号。
「おーい」
「はーい」
桟橋から声をかけたら頭だけが見え……っと飛び跳ねて顔が見えた。
「あ、おはようさん。船長なら部屋だよ」
「了解。んじゃお邪魔しまーす」
迎えてくれたのはミアさんだった。相変わらずお若い限りで。いや、背丈の問題じゃないぞ。
さて船長室。
「入るぞー」「どーぞー」
と入ると、ジリーは日誌をつけていた。
「お前それ昨日の夜のうちに書くものだろ」
「いやー昨日は一悶着あってね。んでそっちは?」
「……先にそっちの話を聞く」
「ははは……」
苦笑いした。という事はよろしくない事か。
「んー……と、昨日別の地方から船が入ってきたんだよ。あたしらをよく思わない地方の奴らでね、暴力沙汰にはならなかったけど、言い争いがあったんだよ。あたしもフューラと一緒にちょっとだけ情報収集をしてて、事前に知識があったから止めたんだけど、あのままだったらみんなに顔向け出来ない事になっていたって訳」
「つまりは俺たちの事が外部にバレたって事か」
「それはない。あたしらは侵略者になっちゃ駄目だろ? それは船員にも深く言い聞かせてあるから、あたしらが何者かっていう話は出さなかった。ただ……出航を早めようかと思ってる。後で宿屋に行くつもりだったんだけど、早ければ今日中には出るよ」
「また急だな。んじゃこっちの話。アイシャが目を覚ましたから、医者の診断次第では今日には帰るよ。あ、一緒には帰らないぞ」
「あはは、先に言われちゃったか。おーけー分かった」
これで用件は完了だな。
「僕からひとついいですか?」
「今日のフューラは珍しいな。何だ?」
少し考えた様子のフューラ。
「……先ほどの話の続きですが、僕たちがいるという事が町の方々にとってのひとつの不安要素になっているんです。これは僕たち自身の問題ではなく、魔王が僕たちに気付きこの町や地方の方々を裏切り者として断罪するのではないかという、そういう不安です」
「……アイシャには絶対に言うなよ」
「はい」
あいつの事だから全部抱え込む。
「さて、どうするべきかな。まず来てしまったからには、そしてドッボに見つかったからには魔王にまで話が行って当然だろう。これ自体は当初から予想出来た事だ。しかしそれが原因で町の人に危害が加わるのは避けなければいけない」
といったところでドアがノックされた。誰だ?
「リサとミダルさんです。よろしいでしょうか?」
ジリーが思わず俺の顔を見てきた。
「どうぞ」
と俺から招いた。
「何かありましたか?」
「今後の事について。私の予想では、この町に偽魔王からの刺客が送り込まれるのではないかと不安視しているのではないですか?」
「大正解。丁度今それをどうしようかと話していたところですよ」
やっぱり、という表情のミダルさん。そりゃそうか、この地方の長だもんな。
「それについては皆さんは一切気にしないでください。この町この地方で起こった事については私が全ての責任を取ります。それが私の仕事です」
「しかし……」「貴族というものを甘く見ないでいただきたい」
笑顔でこの強い言葉をぶつけてきた。……これはこれは、太刀打ちなんて出来ないや。
「分かりました。降参します」
実際にお手上げしてみたら全員に笑われた。
「ふふっ、カナタさんは面白い方ですね。……ええ、今回の件については全て私にお任せを。それを忠告しに来ただけですので、私はこれで」
一礼してあっさりと帰ったミダルさん。完全に持っていかれた気分だ。
「んで、リサさんは?」
「あ、そうでした。アイシャさんの診断結果が出まして、今日一日様子を見て問題がないのならば、明日には帰っても大丈夫だという事でした」
「お、そうしたらジリーが出航したのを見届けてから俺たちが帰るのか」
「え? ジリーさんも明日なのですか?」
「いや、あたしらは今日出る。ちょっとだけ問題があって早めに引き上げる事にしたんだよ」
その後は今までの話をまとめて説明。リサさんも頷き、これでアイシャと魔族組み以外には話が行き渡った。
――その日の夕方。
「錨を上げろ! 出航だ!」
すっかり船長らしい凛々しい声を上げるジリーを乗せ、俺たちよりも一足先にセプテンブリオス号は出航。
「先に帰ってるよー」
「全速力で帰ってやんよ!」
体調を取り戻したアイシャの言葉にそう言い返し、手を振りしばしのお別れ。
「ああー! 間に合わなかった!」
っと、例の猫耳娘さんが大焦りで飛び込んできた。
「どしたの?」
「追加でこれ持って行ってもらおうと思ったんだけど……」
「ん? ……あーあはは、それならばリサさん」
「はい」
という事でまだ船が見えているうちにリサさんがお届け。ほうき……カミエータだっけ? あれを思いっきり全速力で吹かしたので速いの何の。しかもあの速さに順応してるんだから、リサさんの身体能力は馬鹿には出来ないな。
「……早く安定した貿易航路になればいいですね」
「君もそう思う?」
「はい。なんたってコレが。あはは」
親指と人差し指を合わせて円を作る娘さん。商魂たくましいな。
――翌日。
俺たちの帰宅予定日。先にアイシャの診断結果だが、問題なしと出た。
「よーし、これで帰れるな。昼には出るから忘れ物するなよ」
「はあーい」
といったところで俺だけ医者に呼ばれ、一旦外へ。おいおい……。
「まずはこちらから。本当にご迷惑をおかけしました」
「あーいえいえ。患者がいればそれが例え自分の親を殺した相手であろうとも助ける。それが医者というものですから」
頭が上がらないな。
「それでですね、やはり一度しっかりとした休みを取る事をおすすめします。勇者様の特殊能力の事は聞きましたが、小人族ゆえの体の小ささとその能力との相性がですね、良過ぎるんですよ。だから余計に負荷が掛かってしまう」
「あー。あいつ痛い苦しいって弱音は吐かないタイプだからなぁ……」
「魔族である私からこう言うのは何ですけど、小人族の持つ劣等感は魔族のそれ以上です。勇者という肩書きを背負うのならば余計に、そしてそういう性格ならばさらにですよ。一度しっかりと話し合われるべきだと、進言します」
俺の予想以上にアイシャには負担が掛かっていたのか。……どうにかしないと。
医者は帰り、俺はアイシャの顔色をうかがう。といってもアイシャの事だから、既に感付いているだろう。……こういう時のモーリスだな。
(ううん)
いきなりか。……アイシャに口封じされたな?
(……)
反応なし、イコール正解。はあ……全く、こうなったら少々手荒な方法もいとわないぞ。
「アイシャ」「カナタ」
っと、まさかのかぶり。
「カナタから」
「いえいえ、レディファーストでどうぞ」
「……ずるい。けど、多分言いたい事は同じ。私だってちゃんと反省するんだから」
という事は、自分から言い出したいからモーリスには黙ってもらった訳か。
(うん)
なるほど。
「えっと、自分勝手なお願いなんだけど、帰ったら少しの間、私は実家に帰りたいんだ。……正直に言います。私今頭がこんがらがってる。色々あって整理がついていない。私元々あまり優秀じゃないからさ、ここで一回整理したいんだ。じゃないと私……潰れると思う」
口元は半笑い、なのに目には涙をうかべて手は震えている。限界が来たんだな。
「分かった。気の済むまで休め。お前らも文句言うんじゃないぞ」
「分かっていますよ」「ええ。ここいらで休憩としましょう」(うん)
残りはシアの反応だが、こいつはこいつでひどく落ち込んでいる。
「アイシャ、シアも連れて行ってくれ。二人で考えろ。それが一番だ」
「……だったら……」「俺もか?」
静かに頷いたアイシャ。
「……しょうがない奴だな、全く」
偶然にも目の前に丁度いい手の置き場があった。何だとは言わせるなよ。
「という事でその間はリサさん、あなたが陣頭指揮を執る事」
「え? わ、わたくしですか?」
なーにうろたえてんだか。
「リサさんあんた王女でしょうが。万の人の上に立っていたんだから、フューラ・モーリス・ジリーの三人くらい手懐けられなくてどうすんの?」
「……はい。分かりました」
うん、さすがだわ。目の色が変わった。
「えー……それではフューラさん、わたくしをオーナー代理として見ていただいてよろしいですか?」
「は」「あ待って! えーと、今の関係は崩さずに、友達として私の話を聞いてくれる状態で、その……」
「あはは、分かっていますよ。命令ではなくお願いですよね? 大丈夫です。僕だってそのほうが気が楽ですから」
「はい。ではそういう事でお願いいたします」
これでリサさん側も大丈夫……かな?
――帰宅時間。
ミダルさんとメイドさんたちも見送りに来てくれた。
「今回はドッボの乱入に勇者様の体調不良と、こちらとしてもあまりおもてなしする事が出来ませんで、忸怩たる思いです。今度来られる時には、ぜひとも相互友好関係のもと、ビーチにバカンスしにいらしてください」
「ははは、バカンスですか。それじゃ次は進展と水着持ってきますね」
そんな余裕当分はないだろうけど。
そしてアイシャ。
「本当にお世話になりました。このご恩は一生忘れません。えっと……」
何を言おうか迷ってるな。こういう時は耳打ちで俺が誘導。
「俺たちのいない間?」
「あ、私たちのいない間の事、多分偽者から何かしらあると思うんですけど、もしもの時は私を悪者にして逃げてください」
「承知いたしました。しかし私は勇者様の味方です。それは変わりませんよ」
にっこり笑顔のミダルさん。それを見てアイシャも溜め息を吐いた。ようやく緊張が解けたか。
「魔族領で最初に味方になってくれたのがミダルさんで本当によかったです」
最後にこう言い締めたアイシャ。これは心からの言葉だな。
「私も皆様と出会えてよかった。私の……いえ、私たちの命の恩人」
俺たちが救ったのはミダルさんだけじゃない。メイドさん然り、町の人然りだ。
「それでは皆様方を転送いたします。またのお越しを心よりお待ち申し上げます」
――グラティア王宮。
グラティアまでは転送で一気に。といっても魔族は魔力をほとんど持っていないのでアイテム頼り。
一瞬ロステレポが頭を過ぎったものの無事到着。場所は王宮の中、出発した場所と同じである。
「……という事は、魔族がそのままここに転送する事が出来るんじゃねーか」
「ちょっと違う。今回は最終転送場所に戻っただけ。これならば魔力の消費が少なくて済むんだ」
なーるほど。
――玉座。
まずはトム王に帰還と成果の報告。ただしアイシャの諸々に関しては伏せておいた。
「――といった具合です」
「はあ……。そうか、みんな無事で安心したよ。国としての報酬は……ジリーさんが帰ってきてからだね」
トム王が笑顔を見せた事でこちらもようやく一安心。
「では次にこちらの状況。まずはルーディシュ・ラフリエ・グラティアの三国間で、水面下で手を結んだよ。とはいえ大きな事態にはならないだろうけどね。内容は主に貿易ルートの締結とラフリエへの出資」
「グラティアの経済は外部に出資出来るほど大きくはないのでは?」
すぐさま国政に強いリサさんから指摘が入る。
「ええ。なので出資額は少額に留まります。ただし出資金に使用制限を設けました。使用してもいいのは貿易港の整備、及び街道の整備のみ。国全体に対する出資ではないので、グラティアとしてはこれでもいいんですよ」
まさに自分のための出資だな。リサさんもニヤリと笑った。……意外と怒らせると一番怖い人物かも。
「グラティアに関してはそれくらいだね。ただ……どこかで聞いた事があると思うんだけど、ズー教団というカルト宗教団体が怪しい動きを見せている。現在一番弱っているメセルスタン領内で、武装蜂起するのではないかという噂すらある。こいつらは文字通り巨鳥ズーを神と崇める集団でね、ズーの子供であるシアさんが狙われる可能性も充分にある。警戒するように」
「分かりました」(うん)
確か以前、んー……いつだったか忘れたが、アイシャから噂を聞いた気がする。しかしまあ、戦争がどうこう言い終わらないうちにまた次の問題か。こりゃー骨が折れる。
「それから小諸国連合がこの戦争が終わるまで仲間内での小競り合いを禁止した。まあフィノスが動く事を警戒してだろうけどね。そのフィノスとナーシリコの二国は何も動きなし。以上だ」
つまりこちら以外は平常運行か。
「分かりました。それじゃあ」「ちょっと」
おっと、アイシャだ。
「……王様としてじゃなくて幼馴染として聞いて欲しいんだけど、私ね、少し村に帰ろうと思うんだ。ちょっと……色々と、無理してたから」
トム王は……安心してる。とっくに見抜いていたのか。俺よりも優秀だ、というかそもそも幼馴染だもんな。
「実は、カナタは言わないでおいてくれたんだけど、あっちで倒れちゃったんだ。体力的にってのじゃなくて、精神的に限界が来たんだ。それが自分でも分かっちゃって、それで余計にどうしていいのか分からなくなって。だから……」
「うん、分かったよ。……っていうか、ようやく弱音を吐いたね。アイシャは昔から溜め込むタイプだから、最近の動向を見ていて正直不安だったんだよ。後の事は幼馴染の縁としてオレが見る。安心して羽根を伸ばしておいで」
「……」「ごめんとは言うんじゃないよ」
沈黙の後アイシャの口が開き、言葉が出る前に先回り。さすがは幼馴染にして恋仲一歩手前、よく分かってらっしゃる。
「あーそれと、俺とシアも同行します。……ははは、俺からこいつにそういう感情はありませんよ」
「……分かりました。預けます」
まーね、一瞬睨まれたよね。
――ようやく帰宅。
実に四日ぶりの我が家である。元はジリーだけが魔族領に行ってジョージさんの紹介でミダルさんに謁見する予定だったのが、大幅に変わってしまったな。
「はあ……。よし、まだ日は高いけど今日はもう行動しないでおこう。……あ、フューラちょっと」
「はい、なんですか?」
俺はフューラを手招きして自室へ。
「今回のドッボの件で、お前にふたつ確認しておきたい。ひとつはジャマーだ。元世界ではああいった物はあったのか?」
「ありました。二百数十年間の地下生活をしていた僕を捕らえるために、僕専用のジャマーが作られたんですけど、あれはそれとほぼ同一だと思われます」
「つまり偽魔王は、少なくともフューラがいた世界の技術に追いついているという事だな。……まずいな。今後あれを常時複数設置されたらお前は置物だ」
「いえ、実はすごく簡単な対処法があります。今回はそれをする事なく使われてしまったので手出し出来ませんでしたけど」
もったいぶるような口調。
よし、当ててやろうじゃねーか。
機械であるフューラが戦闘に参加する資格を剥奪するのがあのジャマーのやり口だ。という事は剥奪されなければいい。つまりアンチジャマーを搭載すれば……いや、フューラの口調を考えるとこれじゃおかしい。答えがストレート過ぎる。
……フューラの参加資格を剥奪するんだから、フューラ自身を偽装してしまえばいいのか。つまりUA偽装だ。フューラは名前の由来でもあるナンバー54の戦闘アンドロイドだ。つまりそのナンバーを偽装してやればいい。
「分かった。じゃーお前ナンバー36に偽装しろ」
「おっ! 当てましたねーさすがです」
と言いつつ、こいつは俺が当てると思ってわざとこういう会話に繋げていやがる。目は口ほどにものを言うのだよ。
「でも何故36? ……あ、カナタさんの実年齢ですか」
「そういう事。中途半端な数字ならば偽装したのがバレても何番なのかはすぐには分からないだろ?」
「分かりました。偽装には丸一日掛かるんですけど、今のところ大丈夫でしょうね。明日には作業開始します」
「了解」
「それじゃもうひとつ」
俺はトミーガンを取り出した。
「……力不足を感じた。これはこれで片手で扱えるからいいんだけど、ドッボには傷ひとつ付けられなかったからな」
「ですよね。上から見ていて僕も同じ感想を持ちました。なので片手で扱えて威力の高い銃を考えていたところです。なにかリクエストがあればお聞きしますよ」
と言われてもなー。アサルトライフルは両手だし、サブマシンガンは威力が……。
「迷っているようでしたら僕なりに作りますよ。スクーターに乗りながら撃てるのがいいんですよね?」
「ああ。だから片手銃がいいんだけど……全部任せちゃっていいか?」
「はい。僕のライフルに勝るとも劣らない威力を」「待った待った! やり過ぎ禁止」
「あはは、分かりました」
少しでも隙を見せればこれだ。……とは言っても、やり過ぎた代物を見てみたくはある。
こうして諸々はあったが、二度目の魔族領への遠征は成功、後はジリーを待つのみとなった。




