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第四十七話  知恵と勇気と回りくどい発想

 ――第十四の島。

 この島は海底火山の山頂部分が顔を出した感じ。海風が吹けば硫黄の臭いも火山の熱さも一瞬和らぐが、数秒で元通り。

 モフモフリサさんは上陸直後に、小柄なアイシャとモーリス、そしてシアも早々にリタイヤ。残ったのは俺とフューラとジリー。バラバラで動くのは危険と判断したので、俺たち三人は全員で動く事に。

 「さすがにフューラでも溶岩に落ちればひとたまりもないだろうな」

 「うーん……実際に落ちた事がないのでなんとも。ただ、燃える屋敷に進入しての救助活動はやった事がありますよ」

 「へえー、言っちゃ悪いが意外だ。いつ? 元世界で?」

 「はい。えーと僕が稼動を開始して二ヵ月後の話ですね。感情育成のために……人命救助を幾つかしていまして、その最中での事です」

 話の途中で表情が変わり、寂しそうな顔を見せるフューラ。昔の頃を思い出したのだろう。その頃はまさかこんな事になるとは夢にも思っていなかっただろうな。


 島の周囲を探索していると、枯れ木の中にぽつんとひとつ、あからさまに怪しい岩を発見。噴火で飛んで来たようには見えない、黒くない丸い岩だ。

 「んーと……さすがに動かせはしないか」

 「破壊するかい? あ、でも溶岩の蓋だったらまずいよね」

 「それは……大丈夫のようですよ」

 フューラの言う大丈夫は、当人には分かる範囲だから根拠に乏しいのが難点。

 「壊すにしても動かすにしても、危険性がないとは言い切れないな」

 「……僕信用されてませんか?」

 「だってお前、自分の基準で大丈夫って言ってる部分があるだろ」

 「それは」

 と言い争いになりそうになった瞬間、ドスン! といういい音と共にジリーがあっさりと岩を破壊。

 「大丈夫だったぞ?」

 そうだ、こいつもこういうところがあった。失念していた。

 「お前なー、もう少し慎重に動けよ」

 「んまーいいじゃんか。大丈夫だったんだし」

 「大丈夫じゃなかったらどうするつもりだったんだよ。そういう事を俺は言っているんだよ。この前アイシャにも怒られただろ」

 「あー……確かにそうだった。ごめん」

 あっさりと謝った。こういう言い訳をしない諦めのよさというか、素直さがジリーのいいところ。


 そして岩をどけたその下にあったのは、半分埋まった宝箱。今までの箱に比べて、明らかに小さいな。

 「問題ありませんよ。どうせ信用しないでしょうけど」

 「いつまでも拗ねてんじゃねーの。大丈夫ってなら俺が開けてやろうじゃねーか」

 「あっ……」

 と思わず手を出すフューラ。

 「ほらそれ。お前自身が自分の判断を信用してないんじゃねーか。そんな事で人を信用させられると思ったら大間違いだ」

 と軽く叱りつつオープン。はい、なにも仕掛けられてはいませんでした。


 宝箱の中には紙切れが一枚。

 ”つぎの し にいけ。おひさ にきらわ た、み のおく”

 一部かすれて読めないが、指示書で間違いない。

 「お日様に嫌われた水の奥……海底か地底湖ですかね?」

 「だろうな。……ふっふっふっ、しかしこういうのは、往々にしてショートカットルートがあるものなのだよ。例えば――」

 と空の宝箱を逆さまにして軽く振ってみると?

 「なんじゃこりゃ!?」「二重底!?」

 二人ともいい感じに驚いてくれた。



 「カナタさん、どうやってこれを見抜いたんですか? 僕でも分からなかったのに」

 「相手は長年海賊の参謀をやっていた副船長だぞ? こんな分かりやすい岩の下に、こんな分かりやすい状態で宝箱を置いておくか? 俺ならばもっと分かりにくくするね」

 二人とも納得してくれたご様子。

 「それと、人が一番見逃す場所ってな、一度確認した場所なんだよ。特にそこで何かが起こった場合”目の前にある物事”だけしか見えなくなる。最近だとアイシャの村で起こった失踪事件、あの時の村長がこれにハマっていただろ? 地震があって灯台の被災状況を確認したがなにもなかった。だからその後に灯台の下に子供が閉じ込められたとしても、確認すらしなかった。フューラも長く生きてるから経験あるんじゃないか? ここは一度確認したからもう何もないだろう。そう思い込んでスルーした事」

 すると、今までに見た事がないほどに苦々しい表情を見せるフューラ。

 「あります。先ほど燃える屋敷で人命救助をしたと言いましたが、実は完全にこれをやってしまい、子供を一人……」

 「……そっか。それはちょっと、ごめんな」

 「いえ。悪いのは僕ですから」

 俺が何を言ってももう戻らない。


 さて気を取り直して二重底から出てきた紙切れを読む。

 「えーっと……”これ”の一言だ。これって何を指してこれなんだろ?」

 たった一言が一番難しい。

 「僕分かりました。これとはこの宝箱の構造、二重底の事ですよ。箱の中が二重なので、きっとこの埋まった宝箱も同じなんですよ」

 「宝箱の存在が二重底って事か? とするならば、もうひとつ本命の宝箱が埋まっているのか。二重底ならぬ二重宝箱だな。フューラ、船からスコップ」「もうあります」

 おっと、まさかフューラも仕舞っちゃう魔法的な事が出来るとは。……いや、武器を仕舞えているんだから可能か。フューラの場合は四次元ポケット的な科学なんだろう。

 力仕事はジリーが買って出た。そして数分後、カコン! という何かに当たるいい音がした。発見だな。そのままジリーが力任せに本命の宝箱を引き抜き、穴から出した。

 「お疲れ。引き上げるから掴まれ」

 「あんがと。んしょっと」

 あまり力を入れずとも穴から出てきた。そういえばこいつは屋根の上まで飛び跳ねられるんだった。中身三十七歳の優しさ、不発である。


 さて宝箱の開封だ。

 「こういうのが一番危ないんだよな。散々苦労させておいて疲労で判断力が鈍っているところに最後の一撃を食らわせる」

 「僕の見た限りでは大丈夫そうですよ」

 「いや、あたしは怪しいと思う。何故とは聞くんじゃねーぞ。単なるあたしの死刑囚としてのカンだからね」

 そして二人とも俺を見やった。結論は俺が出せと。

 「……一旦船のところまで持っていこう。リサさんの判断も聞きたい」

 そしてこの俺の判断が、思わぬ結果を導いてしまうのだった――。



 ――船へ。

 十四番目の島で見つけた宝箱をボートのある海岸まで移動させ、フューラを使いリサさんと船長に伝令し、リサさんを呼んだ。

 リサさんは毒気が抜けたように元気になっており、一安心。

 「これですね」

 と一言、手を出し探っている様子。

 んが! 明らかに小さい声で「やばっ」と言った。

 「えーっと……ですね、魔法で確認する事を見越していたようで、魔術的な封印が発動してしまいました」

 「という事は?」

 「封印を解く何かがなければ、開かなくなりました」

 「ははは、こりゃーやられたな。放置する訳にもいかないから、船には乗せよう」

 という事でジリーの出番。だったのだが、これまた問題発生。

 「んん……ん? んんーーっ? んんんあがああああーーーっ!! ……うっそ!? 動かなくなっちゃった!」

 あのジリーが全力で顔真っ赤にしても動かないとは。

 「よし、俺とフューラも手伝うぞ」

 という事で、三人がかり。

 「せーのっ! んんーーがああーーっ!! ……いやーなんだこれ? 駄目だな。びくともしない」

 つまりこの宝箱、開ける事も移動させる事も出来なくなってしまった。


 「どうする?」「どうしましょう?」「どうしましょうね?」「どうしよう?」

 全員大困惑。

 「……船長に状況だけでも報告しよう」

 という事でリサさんとフューラの二人を向かわせた。

 「何で二人?」

 「リサさんまた顔色悪くなってただろ? 臭いと暑さがとことん合わないんだよ」

 「あー、なるほどね」

 そして予想通りフューラだけが帰ってきた。

 「リサさんはまた休憩です。宝箱ですけど、船長さんはこの島のどこかに封印を解く鍵があると断言しました」

 「……断言されちゃー、探さない訳にはいかないよな。俺とジリーは地上を、フューラは上空から」

 「はい」「おうよ」

 結局最初からとなった。



 ――探索再開。

 俺とジリーはまず、宝箱を見つけた岩の場所まで戻った。

 「もしかしたら、俺がショートカットを見つける事すらも読んでいた可能性がある」

 「だったらすげーな。えーと確か最初は”お日様に嫌われた水の奥”だよね。海の底か地底湖か。……なんで水の底じゃなくて、水の奥なんだ?」

 「そう言われてみれば……」

 単純に言い回しか? しかしここまで人を読める参謀だ。何か仕込んであってもおかしくはない。

 「あ、水の奥だから地下に川があるんじゃねーかな? その奥って事」

 「暗渠って奴か。可能性はある」

 という事で洞窟を探そう。


 ――しかし一時間ほど探しても、それらしい穴がない。フューラも降りてきた。

 「駄目ですね。少なくとも人が近付ける位置に、地下水の流れていそうな洞窟はありませんでした」

 「となると何か思い違いをしているのかも。お日様に嫌われた水の奥、暗渠じゃないとしたら……んー……」

 お日様に嫌われた水とは地下水に間違いないだろう。しかし暗渠ではない様子。そして底ではなく奥。底ならば地底湖だが、それも違うと考えられる。とすれば……お日様に嫌われたがポイントか。嫌われた……嫌われ……。


 「んあ! 水無川!」

 説明しよう! 水無川とは普段は水はけのいい土壌により地上に水は流れていないが、雨が降ると地中の川、伏流水が飽和し、地上を流れるようになる川の事である。

 「――つまり、お日様に嫌われ普段は地上には出てこられないが、雲が太陽を覆って雨が降ると地上に顔を出す川。その奥、水源が正解だ」

 「カナタ、何でそんな事知ってるんだよ?」

 「中学時代の担任が地理担当でな、赤点を勝手に20点から50点まで引き上げやがったんだよ。まさかあのハゲ親父に救われるとは思わなかった」

 注意しておくが、あくまでも折地彼方の話である。


 「……それっぽい場所ならばありました。先導しますね」

 という事でフューラの後ろを歩く事二十分ほど。火口に近いので温度も上昇。

 「ここか。んーさすがに暑いな」

 「僕ならば二人同時にも運べますから、体調が悪化したらすぐ言ってくださいね」

 「わーってるよ。あたしは今んところ問題なし。頭痛もなし」

 「俺も問題なし。それよりもさっさと終わらせよう」

 しかし色々探し回るまでもなく、本当に普通に箱が置いてあった。サイズとしてはお歳暮のビールセットの箱を二段重ねにしたくらい。

 「一旦持って海岸まで行こう。さすがにここで開けるのはまずい」

 「だね。あたしが持って走るから、カナタはフューラと一緒に空から行きな」

 「悪い。それじゃあ二人とも、頼んだ」



 ――海岸。

 来るまでにフューラが安全を確認。という事でいきなり開けてみる事に。

 「……大丈夫でーす」

 「はーい」

 さて中身は? あーまた指示書だ。

 ”つ のばしょ いけ。そこの な”

 「底の穴? 箱に穴はないよな」

 「海底の穴、海溝という奴でしょうか? だとしても、さすがに僕でもそんな場所には行けませんよ」

 「だろうな。水圧で潰されてしまう。とするならば、別の底の穴か。……まさか火口に穴があるとか?」

 「僕が行きましょうか?」

 「いやいや、考え直せ!」

 「あはは、冗談ですよ」

 フューラの冗談は本気と区別がつかないから困る。しかし底の穴?


 「んー……何も分からん。……手詰まりかな」

 「あたしも分かんない。穴って言ったら靴下の穴くらいしか浮かばねーもん」

 「それはそれでジリーらしいな」

 「あん?」

 と笑顔で軽くすごまれました。

 「……底の穴……そこ、の、あな……そこ……が、を、に……? ……ああっ!」

 お、フューラが閃いた。

 「そこの穴、ですよ! 何かの底面にある穴じゃなくて、すぐそこにある穴! 宝箱を拾った近くに穴があるはずなんです! その穴の中!」

 「なーるほど! あの場所ですぐに箱を開けていれば気付いたけど、俺たちは一旦持ち帰った。だから指示書がおかしくなったのか! ……さっき言った二重底と同じだー! あー俺がやられるとは思わんかったー!」

 思わず悔しさで頭を抱えた。安全性重視が仇になった訳だ。本丸の宝箱も慎重過ぎて開けられなくなったし、今回は完全に俺の負けだ。



 ――そこの穴へ。

 「相変わらず暑いし臭いがきついしで嫌になってくるな。絶対服にも臭いがつくぞ」

 「モーリスさんのあの魔法でクリーニングしてもらいましょうか」

 「んだな」

 モーリスは屋敷で奴隷として働いていたので、日常に使える魔法も幾つか習得していたのだ。その中のひとつが服をクリーニングする魔法。ただし服限定であり、壁のヤニ汚れや床の掃除には使えないらしい。新品の服で洞窟に潜った時も、この魔法があるから汚れるのを気にしていなかったのだ。

 さて穴探しだが、なんともあっさりと見つかってしまった。箱のあった場所からたった十メートルほど離れた盛り土の反対側だったのだ。思いっきり分かりやすいその不自然な盛り土に気付かなかったとは、完全に俺のミスだ。


 「そこの穴、だな。一応入れそうだし、中を確認するか」

 と進入しようとしたところ、喋るよリ先にフューラに腕を掴まれた。

 「僕が行きます。お二人は絶対に入らないでください。中に火山性のガスが溜まっていると、間違いなくお二人は死にます」

 久々に見たフューラの本気の目。これは任せるしかないな。

 「分かったよ。でもお前も気を付けろよ」

 「はい。では行ってきますね」

 振り返り、穴に飛び込むフューラ。覗くも真っ暗な”そこの穴”の底。俺たちは待つのみだ。


 「……なあ、カナタ」

 「ん? どうした?」

 「あたし、ギブ。船に戻ってる」

 確かに顔色が悪い。そうか、口数が減ってたのは無理をしていたんだな。とは言っても今はそれを叱る場面ではないし、硫黄の臭いも火山の熱も下に比べてきついのだから、やられても仕方がない。

 「一人で大丈夫か? 送るぞ?」

 「……フューラの事があるから……」

 「お前が優先だ。フューラには……そうだな。ちょっと待て」

 フューラ用に、地面に足でジリー、船と書いておいた。これであいつならば理解するだろう。

 「さ、行くぞ」

 「ああ。……なんか悪いね」

 「気にするなっての」



 ――海岸。

 ジリーの背中に手を軽く当てながら海岸へ。

 到着してふと見ると、アイシャとモーリスが水遊びをしてやがる。こちらの気も知らないでと思うと、ふつふつと怒りが込み上げてきた。

 「おいコラそこのガキども!」

 明らかに口調の荒い俺に気付き、大慌てで船に戻っていく二人。そしてリサさんが文字通り飛んで来た。

 「ったく、あいつら何なんだよ」

 「えと、なんというか、まあ、あははー」

 「はい、ジリーがリタイヤ。フューラは今俺たちが入れない穴に潜って様子見てるから、俺もすぐ戻る」

 「ならばひとつおまじない代わりに魔法をかけておきます。アンチウィーク!」

 ……さすが魔法。臭いや暑さが多少楽になった。

 「それ、最初にやっておいてくださいね」

 「えっと、すっかり忘れていました。すみません」

 リサさんらしいっちゃーらしいな。では最後に。

 「ジリー、お前無理しただろ。今これ以上は怒らないけど、反省しろよ」

 「……ごめん」

 という事でジリーはリサさんのほうきで乗船。


 さてフューラのところへ……と思ったら丁度来た。血の気が引いた顔に……頭に硫黄の粉が乗ってる。

 「あの」「ジリーは大丈夫。気分が悪くなっただけだよ。それとお前のその頭」

 「あ、あはは」

 粉を払ってようやくすっきり。顔色も戻ったので、もっと重篤な状態かと思ったんだな。

 「はい、これが箱ですね。持ち運べるサイズで助かりました」

 密林から発送される小さな段ボール箱程度かな? 長年火山性ガスの近くにあったせいか、これ自体にも硫黄がこびりついて山のようになっている。

 「よく見つけたな」

 「何故かテーブルの上に置いてあったんですよ。なので誰かあの中に入ったという事ですよね。命知らずもいたものです」

 感心しているフューラ。という事はやはりあの穴は火山性ガスが充満していたのか。フューラの判断は正解だったな。

 「罠はなかったので中身はその場で確認しました」

 「あーぁあ。判断に褒めてやろうかと思った矢先にそれか」

 「あっ……」

 まずいという顔をした。

 「全く。頭に硫黄がまだ乗ってるぞ」

 という体裁を取り繕い撫でておいた。本人は……気付いた。


 さて三箱目。何が出るかな?

 ”つぎの しょ     のき  のき?”

 「また豪快に消えてるなー。といっても前半は分かる。次の場所に行けだろ」

 「のきのき? ってなんでしょうね?」

 「うーん……一旦船に戻って全員で考えよう」

 という事で、俺もフューラの飛行装置を借りて乗船。



 ――船上。

 「あ、戻ってきた。どうだった?」

 「ガキが人の苦労も知らずに水遊びしてた」

 「あうっ……」(はうっ……)

 二人して目を逸らした。リサさんはダウン中のジリーに治癒魔法をかけており、ジョージ船長とシアは優雅に寝ている。

 「さてお前らにも働いてもらうぞ。この謎を解け」

 と、見せた瞬間にモーリスが手を挙げた。名探偵モーリスすげーな。

 別の紙を渡し、勉強の成果もついでに見せてもらう。

 「前半は次の場所に行けだ。同じ文言が他の指示書にも入っているからな」

 (うん)

 「んで……んえ? このきなんのき? 何で?」

 モーリスは指示書を裏返した。そこには物凄く下手な絵が三つ、場所も間隔もバラバラに描かれており、かろうじて種・葉・木である事が分かる。

 「……木? あ、なるほど。この木の種類は何でしょうか? っていう事か」

 (うん!)

 そうか、俺は文章しか見てなかったけど、それを見せる時にモーリスは紙の裏が見えていた訳だな。


 「うーん、でも何の木? って言われても、こんな下手な絵じゃ分からないよね」

 「今までの経験からして、ストレートな答えじゃないんだろう」

 ……この木なんの木と来れば、某大企業のCM曲を思い出す。とりあえず頭の中で歌いながら考えるか。

 「ふふーん……ん? あ! ああっ! 分かった!」

 「え、なになに?」

 「この絵には、花がないんだよ」

 「確かに華やかさがないよね」

 「そうそ……ん? いやいやそっちの華じゃねーよ。いいか、普通の植物ならば種・葉・花・木の順番に成長するはずなのに、この絵には花が描かれていないんだよ」

 ありがとう某大企業。名前も知らない木には名前も知らない花が咲くんだよね。

 「つまり」「花を付けている木が正解! 僕見てきます!」「わたくしも。上空からならば熱も臭いも気になりませんから」

 有無を言わさず飛んでいくフューラとリサさん。今はあの二人に任せよう。


 その間に俺はこのガキ二人を叱るか。

 「んで、お前らは何水遊びしてたんだよ?」

 「あ……えっと、海に白いのが浮いてるでしょ? クラゲかなと思って覗いてたら、リサさんがあれは違うって。それで気になって降りたら、海が温かいからそのまま……」

 「んで釣られてモーリスも参加したと」

 (うん)

 まあ確かに温泉が沸いていれば俺も入りたくはなる。しかも硫黄泉だからな。

 「あの白いのって何なの? リサさんも細かくは知らないって」

 「あれは温泉成分が固まったのでな、別名湯の花って……」

 ええ、見事に固まりましたよ。間違いない、この指示書の答えは花の咲いている木じゃない。湯の花だ。

 ……という事は何だ? 湯の花をどうするんだ? この指示書にはまだどこかにヒントがあるはず。どこだ……どこだ……。

 「カナタ?」

 「待て。まだどこかにヒントが……」

 とまたもや名探偵モーリスの出番。水遊びして濡れた服から湯の花を指にこすり付けてきて、それを指示書に塗った。するとどうだ? 見事に文字が浮き出てきた。


 「えーと” ぎ ばしょにいけ。 いしょの この、さら  た”か。んー……最初の箱の更に下!」

 二重底の事だ。そしてその結果出てきたのがあの本命の宝箱。つまりここで止まってしまった訳だな。さてどうする? と迷っていると、フューラとリサさんが同時に帰ってきた。

 「ただいまです。カナタさん、これ。枯れ木の中に一本だけ白くなっている木がありまして、その根元に置いてありました。安全は確認してあります」

 「なーるほど、二重底ならぬ二重指示か。俺みたいにいきなり二重底に気付いたとしても、正規ルートもしっかり通らないと開かないようにした訳だな。……こいつ本当に回りくどい嫌な奴だな」

 そんなシナリオを書いているのは……おっと。


 さて開封すると……やっぱり指示書。

 ” ぎの とをし 。たか ば はおん んだいす ”

 「冒頭が変化したな。えーっと、次の事をしろ。かな? たか……」

 「宝箱は温泉大好き!」

 「あー! 先に言いやがって!!」

 最後の最後でアイシャがいいところ持って行きやがった!

 「んだよ、うっせーな」

 「お、ジリー大丈夫か?」

 「リサさんのおかげで大分楽になったよ。まだ本調子じゃねーけどな」

 騒いでたからジリーを起こしてしまったか。リサさんも来た。


 後はあの箱に温泉を……んよし!

 「カナタ!?」

 上着を脱ぎ捨て船上からダイブ! この船に乗ってから一度やってみたかったんだ。腹は打たないように足から着水したが、これが痛いの何の。

 「だ、大丈夫ですか?」

 「……んはぁ! いやーへーきへーき! 足の裏は痛かったけど、すげー気持ちいいぞー!」

 海上から顔を出し手を振る俺。シアを除いた五人はそれぞれ顔を見合わせ――。


 「ひゃっほーい!」

 まずはアイシャ。小さい体でも運動神経は人並み以上。見事に空中で前転を披露しきれいに着水。

 「フューラ、行きまーす!」

 どこのニュータイプだよとツッコミを入れたくなったが、意外と飛び込みは地味。今までを考えても単体での運動神経は普通だからこんなものか。

 「ろいやるだーいぶ!」

 クソダサ台詞にツッコミを入れる気も削がれるが、しかし捻りを入れて飛び込んできた。さすが伊達にロイヤルを名乗っている訳ではない。

 「ひゃあっ!」

 飛び込む前からその悲鳴はどうなんだ? ジリーは鼻をつまみながら、そして屈んだせいで尻から着水。すげー痛そう。

 (――――!)

 最後のモーリスはどうしても無音で飛び込んできた。……すげー、後方宙返りで頭からダイブした! 意外とやんちゃだ。

 「……なあ、一言いいか? お前ら何やってんだよ!」

 「あはははは!!」

 はい、大爆笑いただきました。


 ――ちなみにその頃船上では?

 「若いというのは、羨ましいものよのー」

 (うん)

 なんていう会話があったとかなかったとか。


 さて本題に戻る。動かせない宝箱に温泉のお湯をかけてみた。

 「……おっ、勝手に開いた!」

 こんな簡単な事が鍵だったとは。散々苦労させやがって。

 「さて中身は……おー入ってる。ん? これは……手紙だ」

 財宝の中には手紙が三枚。紙は指示書と同じ感じ。一枚目を目で軽く読んだが、これは船長が読むべきだと判断し、一旦箱の中に戻した。


 俺たちは十四個目の、最後の宝箱を土産に持ち、船へと戻った。

 「これで十四箱、全て揃ったのー。お前さんたちには感謝じゃよ」

 「その前に中身の確認を」

 「おっと、そうじゃな」

 十四個目の宝箱には、とある人からの手紙が入っていた。ジョージ船長はどういう表情をするのかな。

 「んー……これは?」

 「元から入っていました。俺たちが入れた訳じゃありません」

 「ふむ」

 黙読している船長。その表情は徐々に笑顔になっていく。

 それからユーヌユーヌ島に帰るまで、ジョージ船長は一言たりとも喋る事はなく、ただ黙々と最後の舵を握り続けた――。


 アジトへと戻り船を降り、ジョージ船長を待つ俺たち。

 「すまんが、今日は帰ってくれ」

 船長は船から顔を出す事もなく、こう言った。もちろん俺たちもこうなるだろう事は予想していたので、ここは静かに引き下がる。

 「分かりました。それじゃあ明日にまた来ます」

 こうして俺たちは、ジョージ船長からの依頼を完遂した。



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