第四十四話 大きな玉ねぎの王宮
この日俺たちは全員揃って王宮に呼び出された。モーリスは勉強のためだけど。
「何? もう私たちには依頼を寄越さないんじゃなかったの?」
「いや、今回の依頼はグラティア王宮からではないんだ」
嫌な言い回しだな。トム王もあまり言い出したくない様子。
「他の国から私たちへの直接の依頼って事? そんなの罠に決まってるじゃん」
「私もそう思う。けれど断る事は出来ないんだよ。大陸七勢力の均衡というのは、そういうものなんだ」
溜め息をひとつ、アイシャが目線でこちらを確認。
「俺らはアイシャに任せるよ」
「……うん。じゃあ内容を聞かせて。それ次第で決める」
しかしトム王も大きな溜め息。
「はあ……そう来ると思ったからこちらも依頼内容を確認すると言ったんだよ。でも本人にしか話せないと突っ撥ねられてしまった」
「じゃあどこの国からの依頼かだけ教えて」
とカキア大臣が来てアイシャにポストキーを手渡した。そこにあった名前は、ルーディシュ。
「シュンヒのところだね。アイシャ、ここはあたし先導でいいかな?」
「……何かあるんだ。自信は?」
「半々。でもあたしのカンでは悪い話じゃないはずだよ」
ジリーには何か策がある様子。
「僕はジリーさんに任せます」
いの一番にフューラが言ったか。その後俺たちも了承し、いざルーディシュへと飛んだ。
――ルーディシュ王国、首都ナラ。
ルーディシュの転送屋に到着。
「いらっしゃい。ルーディシュ王国の首都ナラへようこそ」
迎えてくれた転送屋さんは気の良さそうな青年。焼けた肌と白い歯がまぶしい。
一瞬聞き間違えかとも思ったが、転送屋を出れば看板があり、やはりこの首都の名前はナラで合っているようだ。
「……マジか。マジでナラって名前なのか」
「そういう顔するって事は聞き覚えのある名前?」
「ああ。俺の国の……地域の名前」
県名と言っても分からないだろうし、ここは大きめに表現しておいた。
「へえ。でも二文字ならば結構あるんじゃないの?」
「……だな」
首都ナラは、少し乾燥した風土にレンガ壁の家と茅葺の家とが乱立している、中々に雑然としたカオスな街。そして大型の建造物……寺院かな? があり、玉ねぎのような塔が見られる。
雰囲気的にはインドが一番近いかな。奈良もお寺が一杯あるし仏教の元はインドだしで、微妙に繋がっている気がしないでもない。
「アイシャ、来た事は?」
「ない。だからこれでもすごく警戒してる」
「なるほど。ならばフューラとリサさんも」
「分かっています」「ええ」
万全という訳だな。
目抜き通りと思われる道を進んでいくと、遠くに一際大きな金ピカ玉ねぎを発見。あれが日本武道館……じゃなかった、ルーディシュ王宮のようだ。
――ルーディシュ王宮。
大きな玉ねぎの下に到着。ちなみに八角形だったりはせず、しっかり王宮だというのが俺にも分かる。
文字通りの第一関門、門兵が現れた。というか立っていた。
「あたしが行くよ」
と本当に先導するジリー。すげー頼もしい。
「あの、ジリー・エイスって言うんですけど、シュンヒ・レクァに話を通してもらえますか?」
「シュンヒ・レクァ? ……ああ、分かった」
振り返りドヤ顔ひとついただきました。
五分ほどして門兵が戻ってきた。横には執事っぽい男性。
「お待たせいたしました。どうぞこちらへ」
再度ドヤ顔のジリー。しかし油断大敵。っと言ってるそばから躓きやがった。誰かの駄目さが移ったんじゃねーか?
王宮内はグラティアとは違い、見事としか言いようのない絢爛豪華な装飾に溢れており、しかもドアノブひとつ取っても金ピカである。これトイレも金なんだろうか?
「王宮内での身の安全は保証いたします。なのでそこまで殺気立たなくてもよろしいですよ」
なるほど、アイシャとリサさんの眉間にしわが寄っている。オノマトペで言えばゴゴゴゴとか入りそうな感じ。
俺たちが通されたのは、応接間だな。適当に座って待つか。
「フューラ、怪しい動きをする奴はいるか?」
「いえ、そういう影はありませんよ。……四名こちらへと来ました。一人は先ほどの執事さんですね」
さすがレーダー付き。
――謁見開始。
扉がノックされ、みんな立って待つ。現れたのはオバチャン一人と若い男一人と、そしてエルフの女の子が一人。
「皆様方には多国間連携協議以来ですね。……そちらの男性は?」
「折地彼方と言います」
「ああ! あなたが例の。私はここルーディシュの長を務めております、セ・リーンと申します。以後お見知りおきを」
「こちらこそよろしくお願いいたします。セ・リーン陛下」
なるほど、このオバチャンが女王か。という事は男は王子、女の子は……?
「ジリーさん、すぐ会えましたね」
「そうだね。あたしもびっくりだよ」
なんと女の子はジリーに抱きついた。その光景に俺がびっくりだよ。
「あ、えっと、わたしはシュンヒ・レクァと言います。そしてこちらがわたしの……」
「次期夫であり、ルーディシュ王子の、ロー・リーンと言います。よろしくお願いいたします」
しっかりと頭を下げる王子。年の頃は十五歳くらいなのかな? アイシャよりも背が高く、見た目は中三とか高一辺り。一番青春したい頃だな。
こちらも各々自己紹介を済ませ、皆座り本題へ。
「まずジリーさんにはお礼を申し上げます」
いきなり深く頭を下げるセ・リーン陛下。と、ロー・リーン王子。この王子、かなりしっかりしている。
「もうご存知とは思いますが、私はこのシュンヒを使い、彼女をメセルスタン領内で殺害する事で火種に油を注ごうとしておりました」
「いや、それ初耳です」
アイシャの一言に青くなるセ・リーン陛下。
「あはは、あたし仕事の内容はなんも言ってないんだよ」
「あ……それでは、聞かなかった事に」「出来ませんよ」
さすが勇者様。
「でも私たちがそれに口を出すのは違いますよね。それを断罪するのはシュンヒ王妃です」
「えっと、まだ王妃じゃないんですけど」
「そ、そうなんですか。シュンヒさん、でいいのかな?」
「はい。それから、この事についてはローと話し合って、もう答えを出してあります。お義母様には秘密ですけど」
シュンヒさんも中々に頭の切れる人のようだな。その証拠に、セ・リーン陛下はやられっぱなしである。
セ・リーン陛下は咳払いをひとつ、どうにか顔色を戻した。
「んんっ、それでですね、ジリー様がシュンヒを無事送り届けていただいたおかげで、連携協議の場で危惧されていたメセルスタンとの戦争が回避され、さらにはメセルスタン側からラフリエへの支援及び貿易路確保を打診されたのです」
んー……俺はその連携協議には参加していないからよく分かっていない。一方他の五人は理解している様子。
「メセルスタンは恐らく、我々が戦争を仕掛けるほどまで深く考えているとは思っていなかったのでしょうね。そして戦争になるくらいならば大人しく街道を開放すべきだと判断したのでしょう。図らずもジリー様のご活躍により、無血のうちに事態が解決したという訳なのです」
「……あたしすごいの?」
「ええ。戦争をひとつ、未然に防いだのですよ」
頭にハテナマークの乗っていたジリーの表情が、笑顔に変わった。そしてそれ以上に喜んだ表情をしているのがいる。
「僕には出来なかった事をジリーさんは達成したんですよ。羨ましいです」
これこそフューラの本音だな。自身はそのために造られておきながら、逆に世界を殺しかけた。一方ジリーは無意識ながらもそれを達成してしまった。羨ましいと思って当然だ。
「皆様方をお呼びしたのは、ひとつ依頼をお願いしたいのです」
ここからが本当の本題か。
「内容はシュンヒのご両親を我が王宮に招きたいので、その往路の護衛。報酬は情報。転送屋を使用しても構いません」
「すごく簡単ですね。……あ、そういう事ですか」
「ええ。そういう事です」
なるほどね。情報は提供したいが、何もなくただ話してしまっては他国に示しがつかない。だから依頼の報酬という形にしたと。こうすれば他国から文句を言われたところで、正式な報酬であると突っ撥ねる事が可能。
「分かりました。お受けしますよ」
「え、ちょっとカナタ、私が決める前に決めないでよ」
「でもお前も了承するんだろ?」
「……んー」
おや、苦い表情。もしやこいつ気付いていない? という事で耳打ちして説明。
「あ……なんだ、そういう事。あはは、てっきり罠かと思っちゃった」
「ふふっ、勇者様は慎重なのですね。お約束いたします。この依頼に危険性はありませんよ」
「ならばその依頼、謹んでお受けいたします」
――中略。再びルーディシュ王宮。
依頼は中身をすっ飛ばすほど何もなくすんなり終わった。
ロー王子とシュンヒさんはご両親とお散歩中。その間に俺たちはセ・リーン陛下から話を聞く。
「では約束の報酬、私の持つ情報を提示いたします」
この国は貿易で成り立っている内陸国だ。つまりその長たるセ・リーン陛下には絶え間なく新しい情報が入ってきているはず。でなければ貿易国はやってられない。まさにペンは剣より強しだ。
「まず、現在の魔族の構成から。私のところに入っている情報を整理しますと、まず偽の魔王がおり、そしてその下には四人の上位貴族、言わば四天王がいます。更にその下にも複数の魔貴族がおり、ドッボと言ったか、あやつはここに位置していました。そして最後に平民という、四層構造の権力図となっております」
「随分と倒すべき敵が多いな」
「違うよ。私たちは蹂躙するんじゃない。だから倒す敵は最小限にしなきゃいけない」
真剣な眼差しのアイシャ。こいつは本当に勇者をやっているんだな。
「グラティア及び小諸国を除く五つの国にそれぞれ魔貴族がおり、横の繋がりを持っています。しかしご存知の通りドッボは死に、この魔貴族たちの横の繋がりは戦争の開始を以って消滅したと言っても差し支えありません。もちろん我が国にも魔貴族はおりましたが、現在は行方不明となっています。恐らくは魔族領に潜伏しているのでしょう」
「その消えた魔貴族というのは、上位?」
「ええ、そうです。彼女は上位貴族です。ちなみにですが、フィノスとナーシリコに二名ずつ、他にはそれぞれ一名、計七名の魔貴族が大陸で活動をしていました。現在は全員が行方をくらませておりまして、そのうち一名が先ほども名前を出したドッボとなりますね」
「……もしかして、その七人のうち四人が上位貴族っていう事ですか?」
「いえ、七名のうち我がルーディシュにいた者だけが上位貴族です。こちらには下位の貴族を束ねる役割で来ており、そのために大陸中央のこの国を選んだようですね」
つまりこの国にいた女性の上位貴族は、言わば大陸側のリーダーだった訳か。
「ちなみに他の上位貴族は魔族領内で活動をしていたようですが、しかし私の情報網を以ってしても、魔族領内の情勢というのは断片しか手に入らず、それ自体も信用の出来る情報かと問われると厳しい部分があります。……ただひとつ、魔族領内においても、この戦争に異を唱える者が存在するという情報は得ております」
もしそれが貴族であり、こちらに取り込めれたならば、魔族領内での活動も可能になる。可能性は低いが、光明が差したな。
「次に大陸側の情勢を。フィノスとナーシリコは元々利害の一致を見ており、この二国が主に魔族領への侵攻を行っています。しかし力の差がありますので、現時点では魔族領にある貿易港の保持を優先させ、本格的な侵攻へは至っておりません」
「一番の問題はフィノスだよ。あそこは戦争慣れしてるし、野心家でもある。噂では大陸全土の掌握も視野に入れてるって話」
「ええ。間違いなくこの戦争による戦利品を用いて、大陸掌握に乗り出すでしょうね。最初に狙われるのはメセルスタン。次にグラティアとなるでしょう」
西から攻めるか。
「これには理由があります。それはメセルスタンの情勢。かの国では現在、宗派間での軋轢が起きており、本来ならば魔族との全面戦争などしている場合ではないのですよ。つまり現在メセルスタン政府は非常に脆弱であり、内乱がいつ起こってもおかしくない状態なのです。これが今回、我々がシュンヒを使いメセルスタンへの戦争を仕掛けようとした理由です」
「悪い人」
アイシャの一言に一瞬の間が開いたが、セ・リーン陛下はばつが悪そうに目線を逸らした。
「……話を続けさせてもらいます。次にここルーディシュ。我々は現在、利益を出来るだけ抑えた価格でフィノス・ナーシリコへの物資輸出を行っています。しかし現在までに兵力の動員は行っていません。これにはひとつ理由があり、魔族領への輸送ルートが確保出来ていないのです」
「貿易港まで転送で飛べばいいのでは?」
「飛んだ先で物資が不足してしまえば、それはただの無駄なのです。そして大量の物資は転送では賄いきれず、どうしても海上輸送ルートが必要となります。そして輸送ルートの確保には新規航路の開拓が不可避。なにせ既存の航路では待ち伏せし放題ですからね」
「ついでに言えばルーディシュは内陸国だよ。他国の協力なしでは手詰まり」
「なるほど。空を使えればいいんだけど、この世界に飛行機はないし、魔族領は海の向こうだものな」
海上輸送ルートか。羅針盤が暴れそうだ。
「ラフリエに関してですが、国土こそ広いものの国家水準はまだ心もとないので、現在は様子見という状態です。シュンヒが来てくれた事で我々との関係にも変化があると思いますが、現在はまだそこまで表立った動きはありません」
「あいつを運んでからまだ数日だからね。でもあたしはこれがいい方向に向かうきっかけになると確信してるよ」
「ええ、私もそう思います。改めてジリーさんにはお礼申し上げますね」
照れているジリー。うん、可愛い。
「そしてグラティアは……私からは言うまでもありませんね。勇者様方の本拠地でもあり、そちらのトム王も好戦的ではないので静観中」
「そもそもグラティアが戦争に明け暮れてたのは数百年以上前の話。今は兵力よりも経済に重点を置いていますから」
事実グラティアは兵よりも冒険者とか賞金稼ぎのほうが強い国だ。だからこそ襲撃の時はあれだけ手間取っていたとも言える。
「最後に小諸国連合ですが、彼らはほぼ常にお互いで睨み合いが発生していますので、魔族どころではないと言ったところですね」
「つまるところ、戦争に前向きなのはフィノスとナーシリコだけ。他は自身の問題やお互いの牽制で手一杯と」
「そうなります。……全く、お笑いですね。大陸全土が危機に瀕しているというのに」
俺の結論を肯定し、呆れたように鼻で笑うセ・リーン陛下。
情報通だからこそ、これでは駄目だという危機意識を強く持ったのだろう。
「……だから、俺たちを呼んだ」
俺の一言で、セ・リーン陛下の表情が一瞬で変わった。核心はここからだったか。
「皆様方にはもうひとつ、重要な依頼をお願いしたいのです」
来た。
「恐らくはグラティアからの西回りの輸送航路の確保をしたいのでは?」
「ふふっ、お見事です。そしてそれが可能なのは皆様方だけ。ルーディシュからラフリエまではメセルスタン経由の陸路が確保出来ました。ラフリエからグラティアへの海上輸送ルートは既にあり、残りはグラティアから魔族領へのルートの開拓。これが出来ればナーシリコを通さずとも魔族領への兵員や物資輸送が可能となります。しかしこのルート開拓を三つの国が手を組んで行ってしまうと、それは他勢力への裏切り行為とみなされかねません。しかも七勢力の全てをまとめての航路開発など、魔族側に反撃の機会を与えるようなもの。したがって国家としては動けないのです」
つまり俺たちにコロンブスになれと言いたい訳だ。なんという酷な注文だ事。
「アイシャ、理解出来てるか?」
「んー……っと、つまりグラティアから魔族領への船の道を作れって事だよね?」
とりあえずは褒めておく。
「正解。やれば出来るじゃん」
「へっへーん」
いや、胸を張るところではないぞ。Cはあるけど。
「でも私たちは船を持っていないし、グラティアから大陸をグルっと回って魔族領なんて、きっと何ヶ月もかかるよ。その間に大陸侵攻が開始されたら終わり」
「……あれ、この時代ってまだ世界は平坦なのか?」
「……??」
アイシャ、不勉強炸裂である。
「陛下はそこの知識はお持ちですか?」
「ええ。この世界は球体であり、ずっと西へと向かえばやがて東から帰ってこられますよね」
頭にでっかいハテナマークを掲げている勇者様。
「……アイシャ、お前もモーリスと一緒に王宮で勉強したらどうだ?」
「あうっ、ごめん……」
凹む勇者様。しかし新規航路の開拓という話は理解出来ている。
「返事はすぐにという訳にはいきません。準備は全く出来ていないし、それにいつ本格的な衝突が起こるかも分からない」
「それは重々承知しております。なのでそちらの準備が整い次第で構いません」
「じゃあひとつ確認したいんですけど、依頼というからには報酬がありますよね? どういう報酬を出してくれますか?」
グイグイ押していくアイシャ。
「そうですね……」
とセ・リーン陛下はそろばんのような物を取り出し計算、しようとしたのをアイシャが無言で手で止めた。
「……ええ、分かりました。海上輸送航路の確保が成功したあかつきには、我々ルーディシュは勇者様の協力者となる事をお約束いたします。これでよろしいでしょうか?」
「はい」
こうして俺たちの次の目標が決定。グラティアから西回りでの魔族領への航路確保だ。
――帰宅。
モーリスを引き取り帰宅し、早速作戦会議。
「西回り航路の開拓か。完全にコロンブスだな」
「なにそれ?」
「あー、俺の世界で昔、それこそこっちくらいの時代に、船で新大陸を発見した偉人だよ。コロンブスの卵って話が有名だな」
という事で卵を用意、実演してみる事に。晩御飯はオムレツだな。
「はい、これを垂直に立ててみな」
「卵を垂直にですか? うーん……」
フューラも困惑するんだな。そして結局誰も正解出来ず。
「正解はな、こうなんだよ」
卵の尻を少し割り、立たせる。
「えー! それずるいー! そんなの私だって出来る!」
「出来るならば何故やらなかった?」
「それは……」
口をつぐむアイシャ。
「それなんだよ。この話の真意は卵を割って立たせる機転ともうひとつ、誰でも出来る事を最初にやる、その難しさにある。コロンブスは船で西にただ進むという誰でも出来る事を、世界で初めてやった。だからこそ新大陸を発見出来た」
真剣にこちらの話を聞くアイシャたち。だからこそ、俺はもうひとつの話もする事にした。
「新大陸を発見したコロンブスは、その後どうなったと思う?」
この質問の意味に、リサさんはすぐさま気付いた様子。さすがは王女様、伊達に民衆の上には立っていない。
「それは、やっぱり祭り上げられるんじゃないの? 英雄だーって」
「正解。そして地位と名誉と資金を得て……虐殺を開始する」
「え、何で虐殺?」
シア・フューラ・モーリスはこの時点で気付いた。一方アイシャは分かっていない。ジリーは……そもそも話自体をよく分かっていない様子だ。
「じゃあ逆に聞くが、新大陸に元から住んでいた人たちの目には、いきなり大きな船で乗り付けてきた見た事もない武器を持った連中は、果たしてどう映る?」
「……侵略者だ」
「そういう事」
全てを理解して頭を抱えたアイシャ。ジリーも理解した様子。
「俺たちはこれから、一歩踏み外せば侵略者になりかねない状況に飛び込むんだ。その覚悟はあるか?」
俺の質問に、アイシャは固まってしまい、答えられなかった。
「悩んでいても仕方がない。話を進めよう。どちらにしろ俺たちには進むしか道はないんだからな」
「……ごめん。そうだよね」
意気消沈、声に力がなくなったアイシャ。ならば中身三十七歳の父親として、手を貸してやろう。
「アイシャ、お前は勇者だろ? という事は、自分たちが侵略者にならないようにするのも仕事だぞ」
じっくり考えた様子のアイシャの表情が、少しだけ緩んだ。
「ははは、確かにそうだ。私、その覚悟をとっくにしてたんだった」
明るい笑顔ではないが、少し肩の荷が下りた様子。溜め息は漏らしているが、とりあえずは大丈夫かな。
「それじゃあ私たちは進もう。まずは船の入手だね。トムに掛け合ってどうにかならないかな?」
「それでは駄目ですよ」
おっと、リサさんが来た。
「この依頼は、あくまでもわたくしたち個人で新規の航路を発見しなくてはいけないのです。王国保有の船舶では、航路の発見が王国にある事になってしまいます。そうなればグラティア王国が裏切り者のレッテルを貼られてしまうのです」
国家単位の話になるとリサさんは強いな。
「じゃあ、どうやって船を手に入れる? さすがに買う訳にはいかないよ。何ヶ月も走らせなきゃならないなら、少なくとも十人以上が乗れる大型船じゃないといけない。航海の準備資金も含めると、数十ゴールドはないと」
つまり誰かから借りるしかない訳だな。
「アテはあります」
「え、マジ?」
「マジです」
自信満々のリサさんだったが、そのアテに俺たちは一斉に溜め息を吐く事になる。
※私生活で詰まっていて筆が動いていない状況にあります。展開自体は考えてありますが、もう少し時間がかかりそうです。ご了承ください。




