第四話 ようこそ、王都コロスへ
「ようこそ、王都コロスへ」
笑顔のアイシャが一言。
……マジか。これが瞬間移動か。数日かかる行程を一瞬で終わらせた魔法、実際すごい。
そして王都の名前も中々すごい。イントネーションは俺の名前と同じで語尾が下がる。逆だったらどんだけ修羅の街なんだよとツッコミを入れていた所だ。
転送屋からどこに飛ばされたのかと思ったら、別の転送屋だった。なるほど、こうして転送屋同士を繋げているのか。
一歩外へと踏み出せば、そこには立派な都市があった。白い壁に赤いレンガ屋根で統一された、地中海風の町並みとでも表現すればいいだろうか。道はレンガ敷きだが凹凸もなく綺麗なものであり、現代的に言えば三車線分は広さがあるので見通しも良好。
「私は一回家に戻りたいんだけど、いい?」
「いいよ。そうしたら俺は……」
とアイシャが指を差した。見ると遠くに立派なお城。あれが王宮か。
「私の家もこっちの方向。途中に広場があるから、そこで待ってて」
「了解」
――広場へ。
街をのんびり歩いていると、さすが地元だからか、アイシャは声を掛けられている。
山賊やペロ村の人たちは名前を聞いただけですくみ上がっていたが、あれはしっかりと情報が回っていないからなのだろうな。
「よう、極悪勇者!」
そこは本当なんだな。アイシャも苦笑いで答えている。
「それで、何をやらかしてそんなあだ名が付いたんだ?」
「……言わなきゃ駄目?」
「駄目」
やはり嫌そうな表情をした。しかし溜め息を一つ、教えてくれた。
「私ね、勇者認定されてから今回が三回目の依頼だったんだ。一回目はさっきも言った、異世界の人を探して王宮まで連れて行く。そして二回目が……とある町にモンスターがいるから、討伐してくれって依頼」
一回目は危険性なし。という事はその二回目でやらかした訳か。
「……私怖くて、間違って炎の魔法を暴発させちゃったんだ。そしたら町の地下にガスがたまっていたみたいで、引火してドッカーン! ……町一つ丸ごと吹き飛んじゃった」
「おいおい吹き飛んじゃったって軽く言ってるけどなー」
「あー大丈夫、怪我人は出たけれど誰も死んでないよ!」
焦って訂正してきた。なるほど、山賊の見張りが「魔法一発で町を吹っ飛ばした」って言っていたのは、あながち嘘や誇張ではなかった訳か。
「という事は、山賊のねじろで起きた爆発も?」
「うん。あれも暴発。それと見張りを吹き飛ばしたのも、風魔法の暴発。……もう、自分が嫌になる。私魔法すごく下手なんだよぉ……」
凹む勇者さん。あー、だからやり過ぎたと呟いたのか。……そういえばあの時も。
「オークに向かっていく時も呪文唱えてなかったか?」
「あれは……」
おや、顔が赤くなった。
「あれは、自分に怖くない大丈夫だって言い聞かせていただけで、呪文じゃない……」
物凄く恥ずかしそうにしている。なるほど、レベル1でオークに立ち向かうのは、それはそれは怖かった訳か。
「あ、私はこっちだからここで一旦お別れ。ちょっと……十分くらい待ってて」
「はあーい」
ケロッと表情を変えたアイシャ。という事でアイシャは自分の家へ。さすがに凝視するのも変なので空でも仰いでおくか。
ベンチ代わりの花壇の縁に腰掛けのんびりしていると、茶色いフードを被った三人組がチラチラと見てきている事に気付いた。……追い剥ぎかな? どちらにしろ嫌な予感しかしない。
すると全く別の方向から声を掛けられた。見た目四十歳くらいのスキンヘッドに口ひげのマッチョなおじさん。武器屋の主人ならばバッチリの風貌だ。
「兄さん珍しい鳥を手懐けているね」
「え!? あ、ええ」
突然の事とその風貌にやられ動揺してしまったが、そのおじさんは笑っている。
「あーすまん驚かせたね。俺は街の反対側で武器屋をやっているんだ。それでその鳥だけど、ズーの子供じゃないのか?」
「えーっと……」
どう答えようか困っていると、アイシャが来てくれた。
「どうしました?」
「うん? ああいや、ズーの子供だなんて珍しいなって」
すると何故かアイシャに睨まれた。
「おっ、そういえば君、勇者ちゃんじゃないか。今度うちで買い物していってよ。おっとまだ寄る所があるんだった。それじゃあね」
武器屋のおじさんは去っていった。そしてさっきのフード三人組もいなくなっていた。
「それじゃあ王宮に行きますか」
「うん」
気を取り直して王宮に向かっていると、アイシャが溜め息交じりにシアを睨んだ。さっきの目線は俺じゃなくてシアに向けてたのか。
「……ズーの子供? またとんでもないのに変身しちゃって」
呆れ声のアイシャ。すると質問する前に答えてくれた。
「ズーの子供は今希少で、高値で取引されてるの。しかも最近ズーを神様だって崇める宗教団体まで出てきて……勇者のカンとして、この先厄介になるよ」
「シアは脱走は得意だけど、俺としては宗教はやめてほしいな」
シアと目を合わせたが、よく分かっていない様子。
「お前もしかしてアイシャの言葉が分からないのか?」
(……うーん)
首を傾げてしまった。
「同じ世界でも六千年も経てば言葉が変わっているか」
(うん)
まあそうだろうな。
「でもそれはそれでおかしくない? なんでカナタは私達の言葉も文字も分かるの? それで喋っているのに、シアは理解してる。矛盾してるよね?」
「あー……でも文字は書けないぞ。シア、お前がいるから俺はこの世界の言葉が分かっているのか?」
(ちがう)
「お前自身も分からないのか?」
(うん)
本人も分からないとは、こりゃ困った。思わずアイシャとも顔を見合わせてしまった。
――王宮に到着。
「ほえー、見事な城だな。しかもこれ全部石組みかよ。どんだけ頑張ったんだ」
王都コロスの王宮はちょっとした丘の上にあり、横よりも縦に伸びる構造なので首が痛くなる。しかも見た感じ全てが白い石で組まれており、屋根は涼しげな明るい水色をしている。絢爛豪華というよりは百戦錬磨の古城を思わせる風格。元は本当に要塞だったんじゃなかろうか。頂上階に世界最後の飛竜がいて、優しい王女が毒の花を諸ともせずに助けようとしそうだ。
「一応入り口で名簿に名前を書いておいてね。……あ、文字は書けないんだっけ」
「書けない、はず」
と言いつつ羽根ペンを持ってみる。……うん、書けない。
「じゃあ今のうちに自分の名前だけでも覚えておいて。おり……ぶふっ」
「またか!」
「ごめんごめん。……名前だけでいい?」
「いいよ、もう好きにしろ」
名前が種無しだものなー。
さてアイシャが代筆してくれた俺のカナタという名前だが、こっちの言葉では六文字だった。なんとなーくどっかで見た事のある文字なのは気のせいだろうか。ロシアとかギリシャとか、そっち方面の文字に似ているのだ。他人の空似であってほしい。
王宮内は飾らない外観とは違い、煌びやかだ。展示されている調度品の一つ一つが”俺はレアだぜ”と主張しており、ある意味うるさい。もちろんそんな事を口には出せないが。
少し広い場所に出たところでアイシャが止まった。
「またここで一旦お別れ。私は先に王様と謁見して、今回の報告。カナタの事もね。私が戻るまでは王宮内を散歩するといいよ。一階はほとんどが一般客にも解放されているからね。でーも! くれぐれも問題は起こさないでよ!」
「ははは、分かりました勇者様」
指を差され注意されてしまった。
――王宮散歩。
どうやら一般開放されているのは本当のようで、俺のような普通の格好の人や、それこそ高校生くらいの若い人も歩いている。そして見取り図もあった。それによればアイシャの言っていた通り、一般公開されているのは一階部分のみ。
「うーん? 開放されていない部屋はそう書いてあるのか。気になる……けれど仕方がないな」
入れる部屋は応接室や兵士の休憩室など、それほど重要ではない部分だけだな。それでも一々高価そうだ。きっとそこいらの花瓶一本で俺は一生遊んで暮らせるのだろうな。
「お、ドアが開いている。何も書いていないし、入ってもいいのかな? 失礼しまーす」
どうやらここの部屋の持ち主は本の虫だな。壁一面に、それこそ床から天井までの特大の棚に、びっしりと隙間なく本が収納されており、そして机の上にも本が山積み。さすがにこれは中を見るのは失礼だな。
「だれじゃ!」
「っと!?」
振り返ると髭の爺さんが睨みを利かせていた。部屋の持ち主だろうか。
「あーすみません。散歩してたらドアが開いていたもので」
「お主、さてはスパイだな!?」
「いやいやただの観光客ですって。さっさと出て行きますよー」
「きっ! だから最近の若いもんは……」
あーこういうジジイいるいる。そしてこれが大臣だったりするんだよなー。
庭にも出られるようなのでちょっと行ってみる。
「へえ、綺麗な景色だ事」
さすがに丘の上にあるので見晴らしも抜群。そして分かった事なのだが、奥に海が見える。見事に地中海風である。何がと言われれば、雰囲気がとしか答えようがないが。
「そうだシア、俺のスマホって代価にしちゃったのか?」
(ううん)
と空中に小さな黒い球が現れ、そこからスマホが出現。何だすげー便利。
魔法で隠してたとは言っても問題なく動いている。カメラを起動し一枚。誰に見せる訳でもないが、撮った事を記念として記憶に止めておく。……ペロ村も撮ればよかった。
「あのー」
うん? と見ると、今の俺と同じか、少し若いくらいの男子。身なりがいいので高貴な家柄なのかも。
「はい、なんですか?」
「それってなんですか? 初めて見るものなので、もしよろしければ、見せてもらえないかなと」
「あー……どうぞ」
若い者ならば当然興味を持つだろうな。どうせこっちの世界では使わないし、色々見せてあげようか。
「へえー、面白い! えっと、あなたはどちらから?」
「東の島国からですよ」
そういえば残業中に休憩がてら録画した夜の東京の風景があったはず。見せてみるか。
「これが俺のいた所の夜です」
「……!!」
お口あんぐり固まっている。パーフェクトなリアクションだ。
「え、えっと、東の国ではこんな光景が見られるんですかっ!?」
「実はもう見られません」
「……そう……ですか。ごめんなさい」
「あーそういう意味じゃないんで、気にしないでください」
謝らせてしまった。恐らくは戦争で滅んだとか悪く捉えてしまったのだろう。
色々見せていたら血相を変えて兵士が飛んで来た。
「あーいたいた! 王様もうとっくに休憩時間終わりですよ! 勇者様もお待ちですから!」
「え? あっ! あ、えっと、ありがとうございました」
「こちらこそー……」
思わず固まる俺。そりゃーそうだ。
……あれが王様だとっ!? おいおい俺一つ間違えたら打ち首になっていたぞ! なんだよそれ! なんだよセキュリティ甘過ぎんだろ! ってか王様若っ!
茫然自失というか、驚きのあまり今までの事が吹っ飛んでしまった俺は、素直にアイシャと別れた広間まで戻った。
――幾許か。
「あーちゃんと戻ってた。これから私とカナタで謁見だよ。いい? くれぐれも粗相のないようにね」
「あはは、分かっていますって」
なにせもう出会っているからな。
玉座が謁見の間だった。物凄く高い天井に、綺麗な装飾。ステンドグラスも芸術的である。そして玉座まで一直線に敷かれた赤いカーペット。まるでゲームの中だ。
……まさかな? ちょっと不安になってきた。
「いいって言われてから顔上げて。それまでは片膝立てて頭下げててね」
小声のアイシャ。とりあえずそれっぽい場面は見た事があるので大丈夫だろう。
「アイシャ・ロットです。異世界から来たという方をお連れしました」
「はい、ご苦労様です。顔を上げてください」
アイシャがちらっと俺の顔を見た。さて王様はどんなリアクションをくれるかな?
「……ああっ!」
「ははは、えーと、先ほどぶりです」
ナイスリアクション。そしてもう一人、王様の横で驚いているのがいる。髭の爺だ。まさか本当に側近だとは。
「き、貴様っ! トム王! こやつはスパイですぞ!」
「スパイ? 大臣、一体どういう……」「ええい衛兵どもめ! そいつをひっ捕らえろ!」
王様の言葉を遮った大臣。こりゃ後で大変だな。そして衛兵は困惑しながらもこちらに剣を向けた。
「王様! 大臣! カナタはスパイじゃないよ!」
「うるさいうるさい! 勇者ともあろうものがスパイに篭絡されおって! 諸ともひっ捕らえろ!」
「待て!!」
アイシャの言葉も聞かない大臣に、王様がぶち切れたご様子。
「大臣、あなたはオレに血を見せるおつもりか!」
「し、しかし……」
さすが若いとは言っても一国の王。大臣を睨む眼力がすごい。そして一人称はオレなのか。中々やり手のにおいがする。
「……この人は今からオレの客人だ。文句は言わせない。兵もいつまで客人に剣を向けているつもりだ!」
大急ぎで所定の位置まで戻る衛兵。これはこれは……。
「大臣はオレがいいと言うまで控えていろ!」
「……承知致しました」
すごすごと退散する大臣だが、後にアイシャから、最後にこちらを睨んでいた事を聞かされた。
大きく溜め息を吐き、少し笑顔を見せる王様。
「大変失礼致しました。改めて自己紹介させてください。私はここグラティア王国の王であり、アイシャの幼馴染、トム=ヴァン・デー・ボンハルトと言います。長いのでみんなにはトムと言わせています。以後お見知りおきを」
「こちらこそ、えー私はですね……」「オリチカナタさんですよー」
人の横から口を出してきたな。そしてニヤニヤといたずら顔。
「えっと……本名ですか?」
「ははは、本名です。こっちでは種無しの意味だと聞いて、まー散々勇者様には笑われましたよ」
「ぶふっ……」
抑えながらもしっかり噴出して笑っているアイシャ。さすがに俺も冷ややかな目で見ざるを得ない。
「名前で笑うのは感心しないなー。アイシャだってオレの名前がどういう意味なのかは知っているよね?」
「あ、うん。ごめんなさい」
同朋発見。
それから話は進み、俺の事、シアの事、この先の事などを話し終わった。
「という事は、カナタさんは当てがないんですね?」
「そうなりますね。シアの事もありますし、正直どうしようか迷っています」
すると顎に手をあて考え中の王様。
「ちょっと待っててくださいね」
と一言、玉座の横にある部屋へ。
そして数分後、大臣と一緒に出てきた。
「今後の方針が固まるまで、客室を提供します。食事もこちらで用意させていただきますね」
「いやー……」「気にしちゃ駄目ですよ。あなたは既に私の大切な客人だ。一国の王が客一人もてなせなくてどうしますか。それに、客人は静かに主賓のもてなしを受けるものですよ」
やられたな。こちらが拒否する間もなくしっかりと逃げ道を塞いできた。
「それじゃあ私も今日は泊まっていいですか?」
「そうだね、たまには一緒に喋り倒そうか」
「やった!」
本当にこの二人は幼馴染なのだな。……だからこそアイシャを勇者認定したのか? 今は聞けないな。
――客室へ。
さすがに一般公開されている部分ではなく、三階部分に通された。そしてその案内はまさかの大臣だった。
「……ここをお使いなさい」
ぶっきらぼうに一言。そしてあっさりと帰っていった。中々に嫌な爺さんだ事。
「私は隣を使うね」
アイシャは隣。ちらっと部屋を見たが、作りは同じだった。
客室の作りだが、手前に十畳くらいの大きさのリビングと、奥に六畳くらいのベッドルーム。ちょっとお高いホテルくらいかな。机や花瓶はあるが、それ以外の絵画などはない、意外とシンプルな部屋だ。
「はあ……さて、ようやく落ち着いたな」
(うん)
シアもずっと銅像のように静かに固まっていたので、気疲れした様子。珍しく大きく翼を広げ、軽く翼を揺らした。まるで人が伸びをするみたいだな。
トントンとドアがノックされた。入ってきたのはアイシャ。
「食事の時間まで一緒にと思って。それともしも今後一緒に行動する事になるのならば、もっとしっかり知っておかなきゃいけないし」
「ははは、すっかりその気なんだね」
「いや……」
あら、否定された。と思ったら柔らかい表情になった。
「まーね。私だってこれから一杯依頼をこなして成長しなきゃだし、それにそこの魔王の動向も見定めなきゃいけないし」
見られているシアは、言葉は分からなくても何を言われているのかは察した様子。アイシャの前に行き、頭を下げた。
「お礼? それとも謝罪?」
アイシャの一言に、首を傾げるシア。代弁は俺の役割だな。そしてシアの答えは、そのどちらもだった。
「……信用はしていないよ。私が勇者という立場にある以上、きっとそれは一生ありえない。ただね、本当の私個人としては、危険性はないんじゃないかって思ってる」
ちらっと俺を見るアイシャ。
「勇者である限り信用はしない。ただ個人的にはそうではない」
(……うん)
「でも! それはあくまでカナタを通して見ているから」
「俺が間にいるからこそだってさ」
(うん。うん)
少し嬉しそうなシアとアイシャ。意外と気が合うのかもしれない。
「それじゃー俺からもだな。俺は元の世界では三十六歳で、髪の色はこんなピンク色じゃなく黒だった。これもシアの仕業か?」
(……うーん)
首を傾げるシア。仕草は可愛いんだがなー。
ふと別の可能性が浮かんだ。
「もしかして、この世界に来るための代価が年齢と髪の色だったんじゃないか?」
(……)
無言で目を逸らされた。するとアイシャはシアの頭を鷲掴みにしてこちらに向かせた。さすがにシアも観念した様子。
(うん)
「という事は、家具家電じゃ代価には足らなかったか」
(ちがう)
と、シアの後方に大きめの黒い球体。そして出てきたのは二段のカラーボックス。それで分かった。
「シアお前、部屋の物一切代価にしなかっただろ?」
(うん)
やっぱりな。恐らくはこちらの世界で使えるものがあるかもしれないと気を回したのだろう。そしてその結果、俺は年齢が半減し髪の色がビューティフルになった。……命を取られなかっただけマシか。
「それじゃ次。言葉の事だ。やっぱりおかしいよな? 俺が分かるのにシアが分からないって。本当はアイシャの言葉も分かっているんじゃないのか?」
(ちがう)
即答で首を振った。
「聞いた事のある言葉はないのか? 文字は?」
(……ううん)
やはり首を振った。するとアイシャからこんな予想。
「ねえ、当時魔族と人類とで、使ってた言語が違うんじゃないの?」
「あーその可能性あるな。そもそも言語が違うのか?」
(うん)
出た答えに、俺もアイシャも納得し大きく溜め息。
「っはあー、なるほどなー。それじゃあどう足掻いても言葉が分からない訳だよ」
「ね。……あーでもそうしたら、なんでカナタは言葉が分かるの? もう一人も言葉分かっていたよ?」
「それは俺に聞かれてもな」
分からない事はまだ多いのだ。例えばアイシャの好物とか。
「あ、それで俺よりも先に来てた人ってのは?」
「うーん? 分かんない。私がいない間にどこかに旅立ったのかも。あとでトムに……王様に聞けばいいよ」
「それもそうだな。……じゃあ最後に。何であんなに王様若いんだ?」
と丁度食事に呼ばれた。食堂まで移動だ。
――食堂。
さすがは王宮。物凄く豪華だ。しかし俺は包丁は握れても、その知識はせいぜい大衆食堂レベル。この豪勢な食事を、フレンチフルコースのようだとしか表現出来ないのが心苦しい。
「遠慮せずにどうぞ」
「いただきまーす」「いただきます」
アイシャの幼馴染とは言っても相手は王様。テーブルマナーなど知らない俺は、ガチガチに緊張している。おかげで皿をカタカタと鳴らしてしまう失態。
「あ、すみません」
「あはは、全然気にせずに食べてください。私だって王様になったのは一年前で、それまでは一般人でしたから」
「そ、そうですか」
何か謁見の時よりも緊張しているぞ俺。あれか、大勢の前でプロポーズを受けて、時間が経って冷静になると恥ずかしくなるっていうあれか! 誰が王様と恋仲になるかバカたれ!
「大丈夫ですか?」
「あ、はい。ちょっと色々考え事が多くて」
心配そうな顔で見られてしまった。中身三十六歳、人生最大の失態である。
食事中、やはり緊張の抜けない俺を気遣ってか、アイシャが話を逸らしてくれた。
「ねえカナタ、トムが若い理由を教えてあげるね。この国の王様には、十六歳から三十二歳までしかなれないんだよ。しかも独身限定。年齢制限が来るか結婚すると引退して、新王の補佐に就くんだ」
「なるほど、だから若い王様でも国民は安心して国政を任せられるという事か」
軽く頷いた王様は、話をアイシャから引き継いだ。
「そういう事です。そして新王の選定方法が変わっていて、全て他薦です。まずは各村、各町から候補者が他薦により選ばれ、地域で選挙をします。その後、地域の代表一名が、この国は二十六の地域に分かれているので、二十六名が王の座をかけて最終選考にのぞみます。王様一名は国の代表として、敗れた二十五名は各地区の代表執行者として国を支える事になります」
総理大臣になれなかったら知事になれるという感じかな。そして大臣は元王様……? まさかあいつもか!?
「あの大臣も元王様?」
「あーいえ、元王は全く別の役職になります。そして大臣は基本的に専任です。王様権限で交代も事も出来ますけどね。なのでカナタさんに食って掛かったあの大臣は元王ではありません。安心しましたか?」
「ははは、安心しました」
すっかり俺が何を言いたいのか、悟られている様子。
「そうだ、私よりも先に来ていたという異世界からの人は、今どちらに?」
「えーっと、確か最初に謁見して数日はカナタさんと同じく王宮に泊まって、その後は旅立ったと聞いています。不思議な方でしたね。自分はナントカだから食事はいらないとか、技術がどうとか」
つまり変人か。仲良くなれるか心配だなー……。
――食事も終わり各々部屋へ。
一息つくと睡魔が。思えばペロ村を出てからまだ一日と経っていないのだ。そりゃー疲れるわな。シアも眠そうだし、今日は早めに就寝しよう。
「おやすみ」
(うん……)
一方アイシャとトム王だが、その日は夜遅くまで話し込んでいたそうな。
――。
「痛っ!?」
と殴られ目を覚ました俺は、訳も分からず兵士に縛り上げられるのだった。
世界最後の飛竜云:FF5、第一世界の飛竜の事。脳内の外観イメージはそのままタイクーン城です。