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第三十話   狭間の勇者たち

 謝肉祭襲撃の翌日、私たちは日常に戻った。ひとつの不安と、ひとつの謎を残して。

 カナタが留守の間、シアは私の家で預かる事に。そしてジリーはフューラの工房を間借りする形になった。

 「せめてこの腕輪が渡せていたならば……」

 「射的の景品だけど、どんな魔法込めたんですか?」

 「ホーリーライトと同じく、魔を寄せ付けない魔法です」

 あれ以来リサさんは元気がない。当然ではあるけれど、耳としっぽのあるリサさんは、それが人並み以上に分かってしまう。

 「……よし、今日はフューラたちも誘って遊びに行こう!」

 「え、でも」「いいからいいから! それにそんな暗い顔してると運気も下がりますよ!」

 空元気でもいいから笑おう。きっと今出来る事はそれだけなんだ。



 ――フューラの工房。

 「フューラいるー?」

 「いますよーどうぞー」

 入ると、フューラはいるけどジリーはいなかった。

 「あれ?」

 「ジリーさんならば斡旋所ですよ。お金を稼いで、お祭りの最中に借りたお金を早く返すんだって息巻いていました。下着代も払うって言ってましたよ」

 「そうなんだ。……ジリーだったら力仕事も出来るし料理も出来るし外見も可愛いから、どんな仕事でも出来そうだよね」

 「そうですね」


 私たちはジリーが帰ってくるまでお喋り。

 「そういえばフューラが工房を持ったのって、自分に必要だからって事だったよね? どうなったの?」

 「まだ最後の一歩が詰めきらないといった感じです」

 「そうなんだ。じゃあお邪魔だったかな?」

 「いえいえ。ジリーさんにも話したんですけど、工房の事には気を遣う必要はありません。それに今必要な材料は待ち時間だけなんですよ。なので例え席を外したとしても、進展には何も差し支えないんです」

 「そっか。安心した」

 フューラの表情を見る限り、私たちに気を遣っている様子でもないし、これは本当。


 「そうです、フューラさんにひとつお願いしたいものがあります」

 リサさんだ。

 「なんですか?」

 「謝肉祭で魔法使いがほうきに跨っているのはフューラさんも見ましたよね? わたくしにもひとつ、専用のものをこしらえてはいただけませんか? どのようなものにするのかは全てお任せします」

 「うーん……普通の魔法使いのほうきならば、専門店を探して購入されるほうが早いと思うんですけど」

 「あーフューラ違うよ。リサさんの言ってるのって、フューラの持ってる棒みたいな奴の事でしょ?」

 私の予想にリサさんは頷いた。

 「ええ。もちろん同じでなくても構いませんし、技術の干渉により不可能であれば諦めます。無理強いであるのも理解しています」


 「うーん……えー……んー……」

 難しい表情で唸り続けてるフューラ。

 「それはどういう唸り?」

 「えーと、リサさんはこちらの世界の人ではありませんよね? でもそれほど高度な機械のある世界の人でもない。前者を取るならばカナタさんの銃のような、僕が持つ技術基準の装置を作れますが、後者を取るならば、そのー……」

 「前者でお願いいたします」

 身を乗り出したリサさんからの熱いリクエスト! そしてフューラは何か言いたげに私の顔を見てきた。カナタならばすぐ答えが出せるんだろうけど、うーん? 

 ……あ、分かった。

 「フューラ、リサさんの希望どおりにお願い」

 「はい、分かりました」

 やっぱり。最終判断を私に預けたんだね。それだけ私も頼りにされてるって事かな。



 ――お昼前。

 「ただいまー……はあ……」

 そうこうしているとジリーが帰ってきた。一見して分かる凹み様。

 「大丈夫?」

 「え? あー来てたんだ。んー……やっぱり前科があると厳しいね。登録は出来たけど特記事項に無条件ってないと駄目なんだってさ。んでそのどれもが危険で劣悪な環境での仕事でさ、正直募集を見てるだけで参っちまった」

 大きく溜め息を吐いている。ここは少し励ましてあげよう。

 「カナタもね、こっちに来てから一ヶ月くらいは、毎日飛び込みで面接受けては落ちてたんだよ。この街は特によそ者に厳しいからね。それで斡旋所に行ったんだ。だからジリーも一日や二日で折れてちゃ駄目だよ」

 私の言葉に、少し安心した表情をしたジリー。

 「あはは、そっか。カナタも苦労してんだな。……んよし、あいつに出来てあたしに出来ない事はないっ!」

 「そのいきだよ。あ、でも午後からは遊びに行こう? きっとこれから大変になるから、心の切り替えのためにも。ね?」

 私の提案に全員頷いた。

 「よし、それじゃあちょっと準備してくる。待っててね」

 三人と一羽を残して、私は一旦帰宅。



 ――午後。

 「……あのさ、あたしたち何でこんなところに来たんだ?」

 「えへへー。ここはルシェイメのダンジョン。ルシェイメってのは発見した人の名前」

 ここは超の付く初心者向けで、ストレス発散にも丁度いいところ。第一階層までならば、木刀を持った子供でも戦えるほどに簡単。第五階層まであるけど、最下層でもレベル5もあれば余裕で突破出来る。私もレベルが低い時は何度か来ている。詳しくは案内板を読んでもらった。

 「あ、いたいたー。おーい!」

 「はーい! えーと、本日はよろしくお願いします。今回はちゃんとするよ」

 「レイアさんもなんですか?」

 実は武器を取りに家に帰ったついでに、レイアの工房にも寄っていた。

 「うん。ほら、前回行った場所では一階層目で問題起こしたから、今回は一番簡単なところからってね。それにみんなも体動かさないとだよ」

 私は笑顔を見せるけど、みんなは顔を見合わせてる。

 「あはは、みんな困惑してるねー。だからこそ多少強引にでも連れて来ようと思ったんだ。普段と違う事をする。それが今の私たちに一番必要な事だと思ったから」


 一番に私の言葉に反応したのは、リサさんだった。しっぽが揺れるからすごく分かりやすい。

 「面白そう。看板の説明を読む限り、一定の危険はあっても、どちらかと言えば体感ゲームとして進めそうですね。ここはひとつ、二チームに分かれてスコアを競うというのはいかがでしょうか?」

 「あ、いいね! 私賛成ー。みんなは?」

 レイアとフューラは頷いた。あとはジリーだけ。

 「確かに気持ちの切り替えにはいいかもしんないけどさ、散々命がなんだーって言ってたアイシャが、そういうモンスターの命を弄ぶのはどうなのさ?」

 「洞窟のモンスターは個々の営みを持っているけど、こういうダンジョンのモンスターは違うんだ。例えるならばダンジョンが人工的にモンスターを生み出している感じ。だから倒しても倒しても無限に沸くし、そもそも命がある訳じゃないんだ」

 「……はあ、わーったよ」

 溜め息を吐きながらも賛同してくれた。ジリーってやっぱりしっかりしてるよね。



 ――第一階層。

 チーム分けは私・レイア・ジリーと、シア・リサさん・フューラ組。シアは正しくは戦力じゃないけど、その分を補って余りある二人だからね。

 「撃破数を嘘つくのは駄目だよ。それと素材を落としたら換金するからちゃんと拾っておいてね。チェストの魔法はレイアとシアでそれぞれ使えるから大丈夫だよね。それじゃあゲーム開始!」

 早速私たちはダッシュ! 私はレイアの手を引いている。ジリーは、まあ余裕だよね。

 「随分急ぐね」

 「私たちはあっちよりも早めに進むんだよ。そうすれば先にたくさんおいしくいただけるって寸法!」

 「……セコーい」

 あはは、私もそう思う。


 私たちが最初に出会ったのはスカルヘッド。名前の通りガイコツの頭だけが浮遊してる敵。攻撃は体当たりと噛み付きだけど、ここに出てくるモンスターはどれも痛いで済む相手だから安心。

 「ジリーどうぞ」

 「い、いや……レイアどうぞ」

 「そう? それじゃいただきますっ!」

 レイアの槍の一突きで倒せるんだから、子供が木刀振っても倒せるのが分かるよね。

 次に出てきたのはスライムだ。順調順調。

 「うわーベタベタになりそうだからあたしパス」

 「じゃあまた私がもらいまーすっ!」

 そしてまたスカルヘッド。

 「今度こそジリーどうぞ」「どうぞー」

 「……や、えーっと……」

 「もしかして、怖いの?」

 「ばっ! バカっ! んな訳」「後ろ!」「きゃあっ! ……っておい!」

 「きゃあだって」「ジリーさん可愛い」

 代わりに私が一撃。そしてジリーが拗ねちゃった。


 「ジリーの弱点見破ったり」

 「……だってガイコツだよ? ベタベタだよ? 気持ち悪いじゃん!」

 そして頬を膨らませて身振り手振り。

 「あはは! ジリー可愛いー!」

 ……でも、なんだろう。この……この、敗北感っ!

 「はあ。次いこ次」

 「な、なんだよ突然? ……まーいいけど」

 そんなやり取りを見てレイアが大笑いしてたりする。



 ――第二階層。

 「あたしさ、あんまりこういうのに向いてないと思うんだよね」

 「やる前から文句言わない! 触るのが嫌ならグローブとか着ければ?」

 すると手をポンと叩いたジリー。

 「……その手があった! フューラに頼もうかな」

 「呼びました?」「うわっ!?」

 びっくり。いきなり後ろにいるんだもん。

 「あはは。こちらは実質二人なのでかなり動きやすいですよ」

 「わたくしも久々に存分に魔法を使い、本当に楽しくやらせていただいております」

 やっぱりこのコンビはすごいや。

 その後、ジリーはフューラにグローブを注文。フューラも二つ返事で受けた。


 「それでは次はわたくしたちが先陣を切らせていただきます!」

 そう一言、颯爽と走り去るリサさんとフューラ。そしてオマケのシア。なんていうか、あの三人だけでも世界を変えられそうだよね。

 「ほら、私たちも行こう」

 レイアに促され、私たちも出発。そして早速一匹目のモンスター。

 「でっかい……蟻?」

 「蟻だね。これならジリーも行けるんじゃない?」

 「あたし虫嫌いなんだよ」

 ジリー弱点あり過ぎ! 蟻なだけに。

 それじゃあこれは私がもらおう。走りこみ跳んで上から一撃。

 「……あたしまだ楽しんでない。普通のっていないの?」

 「もう少し進めばいるよ。ゴブリンとかコボルトとかね」

 「じゃあそれまで温存しておくよ。あと食材になりそうなのは倒したいな」

 さすが料理上手。


 次は大いもむし。動きが結構グロテスクです。

 「やだあああ! 絶対イヤあああ!」

 「私もこれ嫌!」

 「仕方がないなー。それじゃあここは勇者様にお任せあれ」

 うん、一撃なんですけどね。

 「あんたよくあんなの平気な顔してぶった切れるね。ある意味尊敬するよ」

 「あー、ジリーと会う前にみんな連れて入った洞窟でね、巨大な虫の大群に襲われたんだよ。あれを思えばこれくらいどうって事ないよ。それに、気味悪いのならば更に上がいるし」

 「……倒しに行こうだなんて言うなよ? あたし絶対イヤだからね!」

 「言わないよ。言わないけど、出会わないとも言えないよ」

 溜め息を吐いて凹んでいるジリー。ここみたいな世界の人じゃないから仕方がないよね。



 ――第三階層。

 下りると三人が待っていてくれた。

 「先に進んでもよかったのに」

 「階層ごとのスタートは同じタイミングがいいと思ったので。しかし本当に進みやすいダンジョンですね。装備品のテストにはもってこいだと思います」

 フューラの一言にレイアが反応。

 「そっか。そういう使い方も出来るんだ。私もたまに入ろうっと」

 「でもなるべくならば単独で来る事はやめてね」

 「あはは、分かってますって。もう無茶はしないよ。アイシャに怒られるのはもうこりごりだし、何よりも私は作る側だからね」

 レイアのすごいところは、一度言ったら本当にしっかりとこなす事。前回は命を軽視している事に気付いていなかったのが一番の問題だったけど、一度それが分かってしまえばレイアはもう道を踏み外す事はない。


 「と言ってる間にモンスターさんですよ」

 リサさんの指摘で目線を移すと、コボルトがいる。

 「よっしゃ、あれはあたしがもらうっ!」

 一瞬だった。ジリーが素早く突撃し、コボルトが構える間もなく頭上からゲンコツのように地面へと拳を叩き込み、その一撃だけで倒してしまった。

 「すごっ! 普通体術の使い手でもああいうのは数発食らわせるものなんだよ。それをたった一発って」

 「えへへ。でもこれでも本気じゃないんだよ。様子見でこれだったら巨大亀や巨大カニが出てきても一撃で甲羅を粉砕出来そうだ、なんてね」

 冗談めかして言ってるけど、きっとすぐ先で出来るよ、それ。


 「えっと、ゴブリンだね」

 「あーいうのはあたしがもらうよ!」

 ゴブリンもジリーに気付き攻撃態勢へ。こん棒を持っているから近距離専門のジリーには……。

 「貸せ!」

 あはは、振り下ろされたこん棒をそのまま奪い取ったよ。そしてそのこん棒で一撃ホームラン。なんだろう、モンスターよりもモンスターしてるかも。

 「……あれ? これは消えないのかい?」

 「え? あー……ダンジョンでは普通、モンスターの持つ武器も消えるんだけどね。戦利品かもしれないし、そのままもらっちゃえば?」

 「あはは! そうだね。それじゃあこれはあたしが有効に使ってやろう」

 カツアゲだよねこれ。でもそれもまた似合うジリー。


 「え、あれここにも出るんだ。嫌だなー」

 目の前に現れたのは、長いつるを持つ花のようなモンスター。私が苦手な奴。

 「アイシャが嫌がるなんて珍しいね。どういうモンスターなの?」

 「あれね、つるで絡みついてくるんだ。みんなはいいけどさ、私小人族でしょ? 絡みつかれたら余計に厄介なの。それに前にスカートの中につる入れられた事あるし!」

 するとジリーとレイアが顔を見合わせた。

 「あ、じゃあ私行く」「いやいやあたしが行くよ」「ううん私」「いやいやー」

 「……じゃあ、私が……」「どうぞどうぞ」

 やっぱりそうなるんかーい! 仕方がないのでつるを伸ばされる前に近付き、体ごと剣をクルリンパと。

 「晩飯おでんにすっか」「やめて」



 ――第四階層。

 下りて待っているとすぐにリサさんチームも来た。

 「ここから一つ注意がありまーす。この先見知らぬ誰かが一人でいた場合、安易に近付かないように。それいわゆるゾンビだから」

 「ぞ、ゾンビって、生ける屍……ですよね?」

 みんな苦い表情だけど、一番困惑してるのはフューラだね。

 「ちょっと違う。死んだ人がそうなった訳じゃなくて、ダンジョンが作り出した存在。だから容赦なく張り倒していいよ。それと噛まれても自分がゾンビ化するような事はないから安心して」

 「はあーい」

 一番ほっとしてるのもフューラだ。多分フューラの中ではゾンビも人と認識しちゃうんじゃないかな? だから命令がない限りは人に攻撃出来ないフューラは困っちゃった。


 「って言ってる傍から出てきましたね」

 フューラの言葉に振り向くと、確かにゾンビが一人……一匹? 歩いてる。

 「背中しか見えないとかで判断がつかない時はね、デタラメでいいから名前呼んで声をかけてみるんだ。こんな感じ。もしもしハンスさーん?」

 ……。

 「反応ないでしょ? もしも人だったら振り返って挨拶くらいはするよね。これが見分ける方法で、ちゃんとガイドブックにも載ってる公式な方法なんだ」

 みんな「へえー」って納得してくれた。

 「という事で、闇のものならばわたくしにお任せあれ。ホーリーアロー!」

 眩い光の矢を射ったリサさん。矢はまるで意思を持っているかのように曲がり、ゾンビに命中。一撃だ。

 「すごいですね! 魔法の弓矢って曲がるんだ。私知らなかった」

 「こちらの世界にはまだ存在しない魔法なので、知らなくても当然ですよ」

 レイアがリサさんの魔法に興奮してる。これであの反対属性同時使用を見せたら卒倒するんじゃないかな?


 「あ、そうだ! 私一旦そっちに移籍してもいい? 色々見たいんだよね」

 「ええ、構いませんよ」「はい。どうぞ」

 レイアの申し出を二人とも受け入れた。代わりにシアをこっちに移動。

 「それじゃあ僕も少し張り切りましょうか」

 「そう言って問題起こしたら私も捨てるよ」

 「あはは……より一層気を付けます」

 今のところ私の中では、カナタは私たちを捨てたのではないと思ってる。もしも本当に私たちを捨てたのならば、その意思を残すはずだから。それもなしに家財道具も置いて自分から姿をくらませるっていうのは考えられない。



 ――第五階層。

 「ここが最下層、かつ私とレイアの因縁の相手が出てくる場所」

 「……あのウサギさんだね。もう、絶対にあんな真似はしないよ」

 「えー、ホントー?

 真剣なレイア。だからこそ、わざと冗談めかして聞いてみたんだ。どう答えが返ってきても、今のレイアならば正しい答えを導けているから。

 「本当だよ。だからこそ今回ここに来たんだからね。アイシャ、あの時本気で怒ってくれたっていう事は、少なくとも私を信頼してくれたからでしょ? 私が反省し改善するって信じてくれたからでしょ? ならば私は、その信頼に答えるよ」

 私は冗談めかして返してくるかと思ったんだけど、全然違った。すごく真剣で、すごく耳が痛くなった。そしてそれは周りも同じだったみたいで、みんな目を伏せてる。

 「アイシャも、皆さんも。分かった?」

 「はい」

 叱られちゃった。


 第五階層は今までのモンスターが全部出てきて、かつ大ウサギと、そしてレアな巨大カニが出てくる。さっきジリーが言ってたのはこいつの事だね。

 「ここはみなさんで移動しましょうか」

 とリサさんからの提案。確かに最下層だから用心にこした事はないかな。

 「うん、そうしよう」

 私たち五人と一羽は固まって移動。道中色々敵は出てくるけど、ここにきてフューラとリサさんが大人しい。

 「……これだけ人数がいたら、ダンジョン探索では狭苦しいですね」

 「あはは、そうですね」

 それでか。なんて会話をしていると、いつか聞いた地響き。

 「ここは私とレイアでやらせて」

 「じゃーあたしらは周辺警戒だね」

 「うん。背中は任せた」


 さあ茶色い大ウサギが姿を見せた。

 「随分と可愛いウサギさんですね」

 「そう言って余裕ぶってると、またカナタに怒られるよ」

 「……そうですね」

 フューラったら……。

 「レイア、そっちはいい?」

 「いつでも!」

 「よし。私が気を引くからレイアはあれが後ろを向いたら攻撃ね」

 「分かった!」

 じゃあ行きますか!


 「赤き炎よ宿れ!」

 私はわざと目立つように剣に炎を宿らせた。思惑通り大ウサギは私を目で追ってる。

 ……来た! 私も呼応するように走り、剣を振る。当たれば一撃だろうけど……やっぱり跳んだ!

 「レイア!」「分かってる!」

 私は落ちてきたウザギにタイミングを合わせ一振り。これは当てるんじゃなくて振り向かせる事が目的。……よし、こっちを向いた!

 「ほらほらあんたの相手はこっちだよー」

 鼻をヒクヒクさせる仕草は可愛いんだけどね。

 隙を見てレイアが後ろに回り込んだのを確認。そして――。

 「やあっ!」

 私と違って女の子らしい可愛い声が響き、レイアには見えないように私も一撃加えて、大ウサギは黒い砂となって消滅。


 「ふう。レイア大丈夫?」

 「うん。緊張したけどどこも怪我してないよ。……って、これなに?」

 レイアが指差した先には、まん丸フワフワ、両手サイズの大きな毛玉。これ確か……。

 「あ! 思い出した! これウサギのしっぽだ!」

 「し、しっぽ!?」

 素っ頓狂な声をあげたのはリサさん。自分のしっぽを守るように抱いたから、きっと自分のしっぽと勘違いしたのかな?

 「あはは、これだよ。ああいう大ウサギの種類から稀に手に入るアイテムでね、特別な効果はないんだけど、幸運のお守りなんだ。はい。これはあのウサギを倒したレイアのものだよ」

 「うわーフワフワしてて気持ちいい! 幸運のお守りかあ……うん。ありがとう。でも半分はアイシャのおかげだね。ほれほれー」

 「あはは、やめてよーくすぐったいー」

 レイアはウサギのしっぽを私の顔にポンポン当ててきた。これがすごく気持ちよくて、なんていうか……この嬉しさを分かち合える人が一人足りない事が、本当に悔しくなった。



 ――最深部へ。

 最下層最深部。ここにたまにカニが出る。

 「……あれカニ?」

 「そうカニ。ここはさっきのとおりジリーに任せるカニ」

 「よっしゃ、甲羅割ったるカニ!」

 「悪ふざけが過ぎるとカナタさんに怒られカニませんよ」

 「フューラだってふざけてるカニ。でもそろそろ真剣にやらないと危ないよ」

 出現したカニはさっきのウサギよりも大きくて、甲羅が丸くて突起がなくハサミも小さい。これでもちゃんと食材を落としてくれるんだけどね。


 ジリーは走り飛び上がり、なんとカニの上に着地。そして力一杯拳を振り下ろした。

 「うぉるあっ!」

 気合の雄叫びと拳がカニに刺さり、そして有言実行、カニの固い甲羅が一瞬で粉砕されちゃった。これにはみんな驚いた。

 「じ、ジリーの本気すごっ!」

 「あー、あはは。これでも全力の八割なんだけどね。アイシャに振るった拳のほうが威力高いんだよ」

 「げっ、食らわなくてよかった……」

 と、心の底から思っちゃいました。


 「あ、やっぱり落ちた。これがさっきのカニの戦利品、巨大カニの脚だよ」

 戦利品はフューラの武器棒くらいの大きさがあるカニの脚が四本。ちなみにカニミソは私たちは食べません。

 「あたしの想像してた以上にサイズがあるなー。こういうのもシアやレイアさんは仕舞えんの?」

 「うん、仕舞えるよ。この魔法で仕舞えないのは思い出だけ、なんて言い方もあるくらい。私たち職人は行商もするから必須魔法なんだけど、でも逆に魔法使いはあまり習得してる人はいないの」

 答えたのはレイア。そしてジリーは一本をレイアにおすそ分け。

 「はい。短いながらも一緒に戦った仲間だからね。遠慮せずに持っていきな」

 「やった! ありがとう! 今夜はカニ鍋だー!」

 「……カニ鍋、いいね。あたしたちもそうしようか」

 晩御飯、おでんからカニ鍋に変更となりました。


 その後はリサさんとフューラが大ウサギを倒し、ウサギ肉を手に入れた後にエスケープリングで脱出。

 スコアだけど、私たちが67点に対してフューラたちは91点。実は物凄い勢いで狩っていたみたい。

 「すっかり暗くなっちゃったね」

 「うん。あ、本日はどうもありがとうございました。また呼んでもらえたらと思います。それから武器屋リコールをよろしくお願いします」

 しっかり宣伝もするレイアにみんな大笑い。

 「あはは。それじゃあ鑑定と換金が終わったら――」「レイアさんも一緒に晩御飯どうですか?」

 「うーん……一旦帰ってからでいいのならば、お邪魔します」

 フューラのとっさの提案で、レイアも一緒に晩御飯。



 ――鑑定屋。

 戦利品のうち、まずは食材を抜いた分を一括で鑑定してもらった。

 「うーんと……しめて五シルバーってところだね」

 丁度五人いるし、一人当たり一シルバーと考えれば充分かな。

 「じゃーこれは?」

 ジリーはゴブリンのこん棒も鑑定してもらった。あんまり見ないものだけど、価値はないんじゃないかなあ?

 「これは……これをどこで?」

 「あー……ゴブリンから奪い取った。るめ……なんたらのダンジョンで」

 「ルシェイメだね。あんなところのゴブリンから、こんなものがねー。んー……」

 コノサーは何か深く考えて唸ってる。

 「このままでの価値は百ブロンズにも満たないけどね、素材として考えれば最終的には十シルバー以上の値が付くよ。知り合いに鍛冶屋でもいれば、声をかけてみるといい」

 「あ、私鍛冶職人です。アイシャの剣も私が鍛えました」

 「……あ、そういう事かい。どっかで見た気がするなーって思ってたんだよ。ならばあんたが鍛えるといい。良い勉強になるだろう」

 意外そうなのは当のレイアだけ。コロシアムでの一件は既に噂になっているからね。


 「あ、それならばこれも」

 レイアはウサギのしっぽも鑑定してもらった。

 「うーん、きれいなウサギのしっぽだね。お守りに加工した場合で言えば五十シルバーは固いだろうね。でもこれは売らずにあんたが持っていなさい。きっといい事があるよ」

 「はい。元々売る気はなかったので、そうします」

 鑑定結果にはジリーもレイアも満足したみたい。



 ――フューラの工房。

 「それでは」

 「いただきまーす」

 「今日はカニ尽くしだー!」

 こうしてカナタがいない寂しさを紛らわすように、私たちはお腹一杯カニ三昧となりました。



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