第二十五話 祭りの始まり
本日はグラティア王国、年に一度のお祭り、謝肉祭だ。
このお祭りは五日間ぶっ通しで行われ、街をそのまま使った競馬、ロデオ大会や牛追い祭り的な行事、そしてコロシアムでの武器屋対抗武術大会などが催される。
一日目二日目は出店が中心で派手な行事はないが、それでも王都の宿泊施設は満員御礼になり、臨時の民宿を開業する人もいるらしい。
三日目は街中での競馬。特定のコースを突っ走る文字通りのレースで、そのレイアウトから参加者の半数近くがリタイヤするというサバイバルレースだ。
四日目にはコロシアムでロデオ大会と、その牛をそのまま使って街中で牛追い。これまた危険で去年は死者も出たとの事なのだが、一切中止になる気配がないのが素晴らしいな。
そして五日目。コロシアムでの武器屋対抗の武術大会。これが一番盛り上がるそうで、三日目四日目に怪我をした人も足や腕を折りながらでも見に来るとの事。
――そんな楽しそうな街の雰囲気とは打って変わってこちらは重苦しい。
気が付いたら全員俺の家に転がり込んでいたのだが、まずどうしてこうなったのか、フューラとリサさんとが険悪ムード。そしてアイシャを尋ねて何故かレイアさんまでいる。
「とりあえずフューラとリサさんの問題から聞きましょうかね」
以前はリサさんがフューラにそっぽを向いたが、次はフューラがリサさんにそっぽを向いている。そして何となくだが、至極どうでもいい事でもめている気がする。
「リサさんがですね、僕のサブオーナーになるのは嫌だと言うんですよ」
「最初に嫌だと言ったのはフューラさんじゃありませんか。それをわたくしひとりのせいにしないでください」
お互い静かな牽制。
とりあえずは全ての話を聞き出しましょ。
「そもそも話の根っこが見えないんだけど。何故にフューラは最初に嫌がったの? 何故に今リサさんが嫌がっているの? そこんところはっきりさせてください」
「だってリサさん、僕を魔法の実験台にしたいだなんて言い出すんですよ? 僕だって燃やされたり吹き飛ばされたりは嫌ですから」
「ただフューラさんに魔法を使ってみたいと言っただけじゃありませんか! 何も燃やそうだなんてしていませんから!」
あーこりゃもっと深くから聞かないといかんな。
「リサさん、なんでフューラに魔法を使おうと? そしてどんな魔法を使おうと?」
「機械は魔法が効きにくく、補助や回復のような魔法は基本的に一切効かないのですよ。でもフューラさんはこの通りですから、魔法が有効かもしれません。もしも有効であればフューラさんももっと安全に戦えます。というか、これはフューラさんにもしっかり説明いたしました!」
「それってつまり実験台ですよね? それをサブオーナーになってまで強要しようとしたから嫌だと言ったんです!」
「強要ではなくお願いです!」
「僕にとっては同じですから!」
あーこりゃこりゃ。すっかり二人とも喧嘩腰である。
「んじゃ、なんでリサさんはサブオーナーになるのを嫌がったんですか? 今は自分からサブオーナーになるっていう流れでしたけど、逆を行っていますよね?」
「それは、今までと同じようなお付き合いは出来ないと言われたからです。わたくしは主人と従者という関係ではなく、あくまでも友達として接したいのです。でーも! そのような関係にはなれないと! フューラさんが!」
「当たり前ですよ! だって僕はそう作られているんですから! それでも僕の嫌な事を強要するのであれば、それはサブオーナーになって命令という形で行ってくださいという事です。僕だってそのほうが何かあればリサさんを守れますし、カナタさんがいない時にもオーナー権限での命令を受諾出来ます。なのに僕に嫌な思いを強要させておいて友達でなくなるのは嫌だって。道理が通りませんよ!」
なんというか、一見してこじれているようで全くでした。
「はいはいはいはい、そこまで。じゃー結論を言うぞー」
みんな一斉に俺の顔を見やった。中々面白い光景。
「お前らただの仲良しじゃねーか!」
よく分かっていない頬の膨れた二人に対して、俺の結論を聞いた途端に同時にふき出すアイシャとレイアさん。
「結局どっちも友達でなくなるのが嫌なんだろ? んでどっちもお互いを考えての事だ。なんつー馬鹿馬鹿しい話よ。お前らもう結婚しろ!」
頬が膨れたまま二人はお互いの顔を見やり、そして――。
「魔法の強要をしなければオーナーにならなくてもいいですよ」
「友達でいられるのならば魔法はかけませんよ」
そして小さな沈黙の後、二人はお互いを指差して大笑い。
「あははは! リサさんの膨れた顔、変なの!」
「ふふっ、フューラさんこそすごい顔していましたよ?」
「いいえ、リサさんのほうが変な顔でした」「フューラさんのほうがです!」
うん。単なるじゃれ合いに付き合わされただけでした。
「さて、次はそっちの二人か」
「私は悪くないよ」
いの一番にアイシャの牽制。ずるいな。
「……うん。悪いのは私。だって武器鍛冶を生業として、私の剣一本で何十人もの命に関わっているはずなのに、私は――」
うっすら涙を浮かべるレイアさん。アイシャに怒鳴られたのが相当に効いている様子。そして次はアイシャのターン。
「レイア、今回よりも前に、自分の武器が使われている場面を見た事がある?」
「……ない」
「目の前で人が死んだ事は?」
「ううん」
「モンスターと対峙した事は?」
無言で首を横に振るレイアさん。つまり武器鍛冶でありながら、自分は武器と関わった事がないのだ。
淡々とした口調でアイシャは続ける。
「……今のレイアの剣は握れない。今のレイアがいくら謝ったところで、上辺だけだもん。自分も命に関わっているっていう根幹の感覚がないんだもん。そんな人の打った剣で命を刈り取ってしまったら、相手に失礼だ」
命の奪い合いというものを肌で感じているアイシャだからこそだな。そしてそんな大切な部分が抜け落ちてしまっているレイアさん。
恐らくアイシャは今回の事よりも以前に、どこかしらでレイアさんのそういう部分を見抜いていたんじゃないだろうか。だからこそリサさんの体調回復を待たずに、俺を連れてあそこに潜った。……俺を信じて? いや、そこは分からんな。
すっかりアイシャにやり込められ泣いているレイアさん。
「私……学校の成績はよかったのに……鍛冶の才能があるとも言われたのに……命の授業は……0点だね」
このレイアさんの言葉に対し、アイシャは大きく溜め息。
「はあ……あのね、人の生き死にってのはね、成績じゃないんだよ。私たちには点数なんてない。もしもあるとするならば、死んだ時に初めて点数が付く。でもね、例えどれだけ勇敢な死であっても、戦場で死んだら0点なんだよ。生きて帰ってきて歳取って寿命でくたばらない限り、生きてる私たちには点数は付かない」
このアイシャの攻勢はきっと、レイアさんを信じているからなんだろうな。
ここで小さく手を挙げた人物がいる。いや厳密には人ではないか。
「質問をひとつ。レイアさんは何故武器を作っていらっしゃるんですか? 何の目的があって、どういう想いで、どういう方にどう使ってもらいたいんですか?」
自身も兵器であるフューラだからこその質問。そして恐らくは自身の開発者にも宛てた質問だ。
「目的……それはやっぱり、人を救うため。私が打った武器で、誰かが人を助け……て……」
どうやらフューラの質問はレイアさんにクリティカルヒットした様子。そしてレイアさんは答えに気付き始めている。
初心忘るべからず。レイアさんも最初は命の重さを頭に描いて鉄を打っていたはずが、自身の成績優秀者というおごり、そして師匠から才能を認められた事で、よりよい武器を作る事に固執し過ぎ、肝心の心が抜け落ちてしまったのだろう。
「僕は使われる側です。だからこそ、正しい心で作られ、正しい心で使ってほしい。それは心を持たない武器も同じです。……失礼ながらあの折れた剣は、正しい心で作られたようには見えません」
直球のフューラ。口調と表情は穏やかだが、恐らく内心は怒っている。
「私、分かろうとする事に慣れて、分かったつもりになっちゃっていたんだね。……何も分かっていないくせに」
うつむき溜め息を吐くレイアさん。そして顔を上げる事なく姿勢を正し、アイシャへと向き直った。
「……アイシャ、私に一度だけチャンスを頂戴。私に、人を助けるチャンスを頂戴。……武器屋対抗の武術大会。あれまでに一本仕上げるから、アイシャにあげるから、それで、私の武器で人を助けて!」
すがるようなレイアさんの、最早叫びにも似た嘆願。
「ずるい」
と一言。アイシャは溜め息を吐き、レイアさんを睨んだ。
「私はね、本気で勇者をやっているんだ。命懸けでね。そんな私が人を助けてだなんて言われて、いいえだなんて言えるはずないでしょ」
さすが勇者様。
「でも! 自分からチャンスを頂戴って言ったんだから、それに背いたらどうなるのか、分かってんでしょうね?」
「……私の短くて未熟な鍛冶職人の人生、捨てる。アイシャが納得しないなら、私の職人としての価値はない。別の、命に関わらない道を進む」
これまた極端な決意だ事。それか、それだけの決意があるのか。そしてアイシャは?
「いいよ、受けて立とうじゃないか。レイアの気持ち、確かめさせてもらうよ」
決まったな。
その後レイアさんは一分一秒をも無駄にしたくないようで、挨拶もそこそこに走って帰宅。一方のアイシャはそんなレイアさんを見て、本人には見られないように、ようやく少し笑った。
――王宮。
アイシャの武術大会へのエントリーを済ませるため、俺とアイシャだけで王宮へ。残りは王宮に近いアイシャの家で待機している。
「さすがに人だらけだな。……んー、場所の制限入ってるな」
「人が増えるっていう事は、妙な輩も増えるっていう事だからね。……言った傍から、ほら」
アイシャの目線を追うと、衛兵に捕まった子供がひとり。
「見た目が子供だからって油断しちゃ駄目だよ。私を見れば分かるでしょ?」
「あー、すげー分かる」
改めて、ここでは俺の三十六年間の常識が通じない事を肝に銘じておこう。
アイシャ、エントリーシートに記入中。
「さて我らが勇者様はどこまで行くのかな?」
「多分三回戦くらいで負けるよ。私まだレベル28だからね。高い人は50とか60だから」
そりゃ負けるわな。
「んでも世界の勇者様がそんな簡単に負けたら、恥だな」
「あはは、私が勇者になったのを知ってるのなんて、この国の人くらいだよ。外国に行けば知名度ゼロ。……まあ、それでも恥には変わりないけどね」
そういうものなのか。
「あ、カナタだ! おーい!」
ん? 誰だ? と振り向くも人の山でよく分からん。向こうからは近付けなさそうなので、こちらから近付くと……金髪の女性。なんでジリーがいるんだ?
「あーやっぱり。その髪目立つねー」
「よりにもよってピンクだもんな。それよりもお前、牢屋に入ってなくていいのかよ? あ、まさか脱獄したんじゃ」「ねーよ!」
ま、そうだな。そもそも脱獄犯が王宮にいるはずもないし。
ジリーの服装は囚人とは思えないほどにラフ。長袖の白いシャツに、カーキ色のダボついたズボン。ただし胸には大きく「王立ワーニール山頂刑務所、服役囚」の文字。後で見たら背中にも、そしてズボンにも刺繍されていた。
「刑期の短い模範囚に限り、謝肉祭の最中だけは王都内での自由行動が許可されてんだって」
「へえ。あ、刑期の短縮は?」
「来月には出られるって事になったらしいんだけど、あたしから断った。それでも五ヶ月だぜ? あたしの罪はそんな軽いもんじゃねーっての。……まー、もしもあんたらがピンチになったその時は、脱獄でもして助けてやっけどな!」
「あっはっはっ、やめとけやめとけ。そんな事したら勇者様に切り殺されるぞ」
なんて言ってると人の真後ろに立ってるんだもんな。
「……今日の私は機嫌悪いんだけど」
「ひいっ!」
と、ジリーと一緒に引いてしまいました。
――出店めぐり。
アイシャの家で二人と一羽を拾い、ジリーも含めて六人での集団行動開始。
「先に言っておくけど、単独行動するなよ。特にリサさん!」
「……え? あー……あははー」
早速よそ見して人の話を聞いていないんだからな。
「カジノ」
「うっ……分かりました」
今後ずーっとネチネチ言ってやろうっと。
「フューラ、命令だ。お前がリサさんの監視役になれ。何も起こさせるな」
「はい。ご命令の通りに」
これで絶対に逃げられないな。
さて出店に関してだが、アイシャの説明によれば大通りに限定しているとの事。まあ確かに狭い路地に乱立されても困るからな。内容は日本の祭りとそれほど違いがある訳ではない。
――的屋。
俺が見つけたのは射的。といってもコルク銃ではなくて、いわゆるパチンコだ。景品を落とすのではなくてポイント制で、一定ポイントで欲しい景品ゲットという流れ。
的の中央が50点、以下30点、20点、10点。
「うおーし、全員で三発勝負なー」
「勝負なら負けない!」「僕も頑張りますよ」「魔法は、駄目ですよね」「あたしもいいのかな?」(……?)
まあシアは仕方がない。代わりに美味いもの食わせてやろう。
「まずはわたくしから行かせていただきますね」
さてリサさんの腕前はいかに?
一発目はずれ。二発目10点。三発目はずれ。合計10点。景品は棒キャンディーでした。
「わー! 当たりましたよ! 的に当たりました!」
うん、可愛いからよしとしよう。
「次は私。100点は超えたいな」
背が足りないので踏み台を持ってきて、さてどうなるかな?
一発目10点。二発目20点。三発目外れ。合計30点。景品は意外や意外、小さくて可愛いクマのぬいぐるみ。
「もふもふー、んふふーん」
低い点数を踏み台のせいにするかと思いきや、全然気にせずクマさんに夢中。やっぱり中身は歳相応の女の子なんだな。
「あたしもいいの? お金持ってないよ?」
「祭り中は俺が貸してやるよ。出所したら正しい金で返せよ」
「……絶対返す!」
意外なほどに火が付いたジリー。もしや俺から金を借りるのが嫌だったり?
「あ、引っ張り過ぎて千切るなよ」
「っと! そ、そうだった」
一発目いきなり50点。二発目30点。三発目20点。合計100点だ。景品は他の店で使える食べ物のタダ券。
「持ち物が迷惑になったら嫌だからね。それに監獄には持って帰れないし」
一番しっかりしているかもしれない!
「次は俺だな。満点取っちゃるぜ!」
ちょっとばかり自信あり。なにせ高校時代、地元の祭りで三発全てで景品を落とした事があるのだ。
一発目惜しくも30点。二発目50点。三発目も50点。合計130点だ。景品は――。
「あれ」とアイシャが指差したのはシルバーの腕輪。何でそんなものが的屋に? と思って持ってみたら分かった。これ安物だ。
「やるよ」
「違う。カナタにいいと思ったの」
おや、てっきり自分が欲しいから、ねだったのかと。そしてリサさんが神妙な顔つきに。
「……確かに物は安いですけれど、アーティファクトの器ですよ、それ」
「驚いたな。それじゃあ一旦リサさんに預けますよ。何を込めるのかも含めてお任せします」
「はい、承知致しました」
「最後は僕ですね」
否が応にも期待が高まる。なにせ中身は兵器だからな。
一発目50点。二発目も50点。三発目も50点。パーフェクトゲームだ。
「んやったあああっ!!」
あれ、こいつこんなに喜ぶ流れだったか? と思ってしまうほど本当に喜んでいる。
「景品は……これください」
選んだのはなんと10点の景品、キーホルダーサイズの犬の彫り物。
「もっといいの選べたのに」
「これがいいんです」
まーホクホク笑顔だから文句はない。
――フリーマーケット。
出店と平行してフリマも開催中。ゴールデンなんちゃら的な。
「何それ?」
「道民ならみんな知ってるネタだよ。本編とは全くの無関係」
さてどんなものがあるのかな?
「焼き物に日用雑貨に手作りのぬいぐるみに、ミサンガ的なのもあるな。……なんで携帯ストラップがあるんだ?」
スマホ時代になって大分生息域を減らしたガラケーのストラップ。ほぼそのままのものが売られている。
「これはバッグに付けておくものだよ。麻のバッグは見た目似たようなのが多いから、こういうのを付けてオシャレして、自分のものだって分かるようにね。中には髪飾りに引っ掛けてる人もいるよ。……ほらいた」
アイシャの視線の先には確かにお団子結びの根元にストラップがぶら下がっている女性。こういう使い方もあるのか。まあストラップなんてデザイン的には簡単だから、別の世界に似たものがあってもおかしくはないな。
「だからフューラにも着けられるんじゃない?」
「え……っと、これがあるので」
フューラが見せたのはさっき獲得した小さな犬の彫り物。
「あ、150点取っておきながら10点の景品にしたのって、もしやそれが狙いだったのか?」
「たまにそういう方を見かけていまして、僕もちょっとだけ色付こうかなと。えへへ」
「なるほど。お前らの中で髪を結わえてるのはフューラだけだし、いいと思うぞ」
フューラは短いポニーテールだ。リサさんがフューラから受け取り、試しに着けてみた。
「いい感じだな」「似合ってるね」「ええ、似合っていますよ」「あたしもポニテにしよっかな……」
と大好評。すっかり気をよくしたフューラは鼻歌交じりである。
……とんでもない事に気付いてしまった。フューラの鼻歌だが、国民的知名度を誇る某ネコ型ロボットアニメの曲そっくりなのだ。他人の空似か? にしてはそっくりだな。
「フューラ、その歌どこで知った?」
「え? あー、僕のお父さん……開発者さんが鼻歌でよく歌っていたんですよ。なのですっかり覚えちゃって。そもそも僕は一度しっかり記憶すれば忘れませんけどね」
これは言うべきか? 隠すべきか? というか考えてみればあまりにも前例が多過ぎる。うーん……。
「どしたのさ?」
人の顔を覗き込む子供っぽい勇者約一名を視認。
偶然で片付けるにはあまりにも一致する事項が多い。しかしレベルや魔法の概念があり、しかもアイシャのような小人族にペロ村の獣人族、カキア大臣のような魔族がいる時点で、その可能性はない。もしも未来、人類が魔法を習得出来るようになったとして、何故技術レベルがここまでどん底に落ちなきゃいかんのだ?
……やっぱりここはゲームの世界なんだろうか? それを確認する術すら持ち合わせてはいない。
「カナタ!」
「ん、ああ。んー……晩飯どうしようかなってな」
はぐらかしてしまったが、今はこれが最善だと思うしかあるまい。
「嘘だね」
と思ったらこれだ。
「若い女の子に目が行ってたんだ! カナタのドスケベ童貞!」
「スケベでも童貞でもないやい!」
「あはははは!」
大笑いしやがって。冷や汗かいたぞ。
――休憩中。
「……それで、さっきの質問は何だったんですか?」
広場で一旦休憩中、やはりというか、フューラが聞いてきた。
「なんでもないよ。昔聞いた歌に似ていただけ。……それよりもあれを監視しなくてもいいのか?」
「え? あー……ちょっと言ってきます」
リサさんが暴走の兆し。フューラは早速止めに行ったので、これで一安心。リサさんの事も、あの質問の事も。
……と思ったら勇者様にガン見されとりました。
「カナタさ、自分は中身三十六歳だからって言うけど、でも私たちを頼らない理由にはならないよね? だからカナタも私たちを頼って相談してくれてもいいんだよ? 勇者だとか何だとか、そんなの関係なく友達として、仲間として聞くよ?」
溜め息が出るほど真っ直ぐの視線。俺の言動のおかしさにしっかりと気付いているからこそだな。
「たまに思うんだよ。アイシャは本当に勇者の器だって。だから俺を心配してくれるのも分かるし、その気持ちは嬉しい」
ほっとしたように微笑む小さな勇者様。
「……でも、これは少し違うんだ。誰に何を相談したところでどうにもならない話だ。それに何よりも確信がない」
「そっか」
と一言、目線を外し前を向くアイシャ。
「んでも、いつでも頼ってくれていいんだよ。なんたって私、勇者だから!」
再び俺を見て満面の悪戯笑顔。だからこそ俺はこいつを本物だと思えるんだよ。
その後は会話も一旦落ち着き、改めて出店めぐりに精を出し、気付けば日が落ちていた。普段ならば夕闇と共に眠るこの世界だが、この謝肉祭の最中だけは例外であった。




