表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/195

裏二十三話  王都襲撃 北

 ――襲撃時、ジリー視点。

 なんかよく分かんねーけど、あたしも借り出されちまった。転送屋から現場に来たら、逃げる人の波でまともに動けやしねーの。

 「んで勇者様、どうすんだい?」

 「まずはあの大砲を黙らせなきゃ。ともかく前に進もう」

 まーそうなりますか。

 「わーった。……んしょっと」

 「えっ!? ちょ、ちょっとっ!」

 「じっとしてないと落とすよ」

 人だらけの中を掻き分けるよか、勇者様を肩車して屋根伝いに走るほうが早いってもんだ。そう判断したあたしは、勇者様を拾い上げてジャンプ、屋根の上へ。


 「お、重く」「ないよ」

 まっ、女性だもんな。自分の体重には気を使うよ。

 「……まずは北側のを狙おう。近付けるところまで近付いて!」

 「あいよ!」

 屋根の上を飛び移るのは前の星で散々やってきた。まさか人のために使う事になるとは思わなかったけど。

 ……そっか。もしかしてここで頑張ればあたし、早く出られるかも!

 「何ニヤついてんの? 人の命が懸かってるんだよ!」

 「あ、ごめん」

 怒られた。



 ――襲撃地点、北側。

 「あたしら狙われてね?」

 「うん。ここで一旦下りよう」

 屋根から下りて勇者様も下ろした。するとさっきまでいた場所に砲弾が直撃。

 「うおっと!?」

 「危なっ! ジリー怪我は?」

 「大丈夫。勇者様も大丈夫みたいだね。……早速お客さんだよ」

 後ろから剣を持った奴が来た。どう見ても王宮の連中じゃねーな。

 「よっしゃ、あたしがいっちょ」「待って、進むよ!」

 「えっ!? い、いや……わーったよ!」

 カナタの奴に、勇者様の指示に従えと言われてるからな。


 逃げるように進むと、小さな広場に出た。

 「これ囲まれるフラグじゃねーの?」

 「あはは、一網打尽の間違いでしょ」

 「……どーゆーこと?」

 「私たちが目立てば敵をこっちに引き付けられる。そうすれば被害も抑えられる。私たちは囮になるんだよ!」

 マジか。この勇者様、やる事結構大胆だな。そして狙いが成功したようで、あたしらは四方向六人に囲まれた。


 「ジリー、私に張り付いて」

 「お、おう」

 さて何をするのかな?

 「……青き水よ立ち上れ!」

 呪文を唱えるとあたしらの回りから水の柱が高く立ち上って、周囲の連中を巻き込み吹き飛ばした。これすげーな! さすが勇者様だ!


 よし、あたしも負けていられないね!

 「ここの残りはあたしに任せて、勇者様は先に行きな!」

 「それは出来ないよ。私はあくまでもあんたの監視役なんだからね」

 ちっ、自由にやれると思ったら。

 「それと、その勇者様ってのはやめて。私はアイシャだからね」

 「それって」「命令!」

 思いっき睨まれた。

 「……ちょっと嬉しい。だってほら、名前呼びって友達みたいじゃん」

 「はあ!? ただ勇者様って呼ばれるのが嫌いなだけ! 友達には……出所出来たらなってやるよ」

 ……よっしゃ!


 勇者様……アイシャの作戦が当たったようで、そりゃーもうわらわらと人が集まってきた。魔法で吹き飛ばされた連中も目を覚ましてもう一度こっちに来やがった。

 アイシャは連中に一歩も引かずに突っ込んでいく。あたしも殴り飛ばしはするけど、でもこいつら怪我させたらアイシャと友達になれねーし……もう、力加減が全っ然分かんねー!

 「あーもうチマチマやってられっかっての!」

 「だからって殺すんじゃないよ! 私の前で人を殺してみろ、その場で私がお前を殺すからな!」

 うへーおっそろしーなー。

 ……待てよ。殺さなけりゃいいって事か? だよな!

 「うぉるあぁっ!」

 適当にそこにいる奴にアッパーを食らわせてみた。これがまた見事に打ち上がって、地面にビターン! と落下。

 「おーい、生きてるかー?」

 「……うっ……」

 「生きてんな。っしゃ! 力加減覚えたっ!」


 アイシャと違いあたしは拳ひとつだ。剣を振り回されたら避けるしかない。でもそんな状態になったらアイシャが助太刀に来てくれる。なんつーか……っとまずい!

 「アイシャ!」

 砲弾に背を向けてるせいで、自分が狙われてる事に気付いていない!

 「間に合えーっ!」

 その自分の行動には、自分自身で驚いちまった。頭で考えるよりも先に体が動いて、こんなあたしが人を助けようとしたんだから。

 あたしは広場、アイシャは右手一本先の交差点。あたしは間に合うかどうかも分からないけど、全力で走った。そして当たるかも分からないけど、思いっきり拳を突き立てた。

 あたしの体はとんでもない速度を出し、あたしの拳は空を切り、左上からアイシャ目がけて飛んで来た砲弾にジャストミート! 吹っ飛んだ砲弾がこの先にいる魔法使いにクリーンヒットした。


 あたしはアイシャの背に立ち、なるべく離れない事にした。

 「ごめん、ありがとう。私の命を救ってくれて感謝するよ」

 ……感謝、されちゃった。んーだめだめ、頬が緩んだ顔なんて見られたくない。

 「いいや、それは違うよ。あたしは恩を返しただけだ」

 「……じゃあその恩また貸すよ!」

 くるっと振り返り飛び上がったアイシャ。見ると砲弾が来ていた。あたしもまだまだだな。アイシャは砲弾に剣を向け切り落とし……損ねてやんの! でもかすったおかげで速度が落ちた。

 「オーライオーライ! っと。おーキャッチ出来るもんだな」

 「ジリー、それをあれに投げ返して!」

 「えっ!?」

 砲弾とアイシャと大砲……あ、そーいう事か。この砲弾であの大砲をぶっ壊せと。なんつー無茶な注文だよ!


 「当たらなくても文句言うなよ! ……うぉるああああっ!!」

 我ながら全力の投球。この球打ち返せるものなら打ち返してみな!

 「……あはは! ジリーすごい! 当たったよ! あれを一発で壊した!」

 「マジか!? あはは、あたしスポーツ選手にでもなろうかな?」

 この瞬間、あたしの中で少し恥ずかしさが生まれた。それは最初、これを上手く切り抜ければ刑を軽くしてもらえるかも、なんて思った自分に対する恥ずかしさ。

 あたしは一度死刑になっているくせに、二度目の人生を正しく生きると誓ったくせに、楽をしようとした。これは罪じゃないけど、あたしには正しい罰が与えられなけりゃいけない。そのチャンスをくれたこの世界に、あたしは感謝しなくちゃいけない。

 本当ならば半年ですら短いってのに、これ以上短くなったら、今のあたしが未来のあたしを軽蔑してやる。


 「まだ来るよ。体力大丈夫?」

 「まだまだ余裕! 伊達に五十人と三時間やりあった訳じゃねーよ!」

 「あはは、頼れるなあ」

 一々嬉しい一言をかけてくれる。……よし、あたしはこの勇者様に惚れよう。こうなりたいという目標にしよう。強く優しく気配りも出来て人を引っ張っても行ける、そんな人になろう。

 「上から見たら南側のはもう壊れてた。あれはきっとフューラかな? だから残りはひとつ。全力でぶっ壊しに行くよ!」

 「おうよ!」


 あたしはアイシャの後ろに付き、アイシャの攻撃で隙の出来た奴らを片っ端から打ち上げまくった。

 ダダダッ! と後ろから銃声。驚いて振り返るとカナタがいた。

 「アイシャ、カナタだ」

 「え? あ、本当だ。そのまま来てたら間違って攻撃してたかも」

 「あはは、あたしもだ」

 そっか、そうならないために距離をあけて銃声で気付かせてくれたのか。カナタの奴も結構頭が回るじゃん。

 「フューラから、あと数人だそうだ」

 「よし、全員ぶっ飛ばすよ!」

 「おうよ!」

 カナタの奴見てろよー、あたしとアイシャのコンビネーションプレイ!


 砲弾だ! アイシャの服を引っ張りあたしはカナタの前へ。もしもアイシャが外しても、あたしがナイスキャッチしてやんよ!

 と思ったけどアイシャはしっかりと芯で受けて砲弾を真っ二つ。爆風の中を飛び抜けるアイシャ格好いいなー。……いや、あたしも頑張らないとな!

 「アイシャすげーな! ジリーもありがとうな!」

 あはは、あたし何もしてないのに褒められちゃった。

 じゃー最後のひとつを潰しに行きますか!


 大通りに出ると一直線に大砲発見!

 「手前は任せて。あんたはあれをぶっ壊しなさい!」

 「任せな!」

 連中はこっちに気付いたけど、この速さならあたしらが勝つ!

 「白き風よ吹き飛ばせ!」

 アイシャの魔法で手前の連中が止まった! あたしは一気に速度を上げる!

 「終わりだあああっ!」

 大砲に渾身の一撃。吹き飛ぶってよりは殴り倒す形になったけど、これで大砲は使えない。

 「お前らも殴り倒してやんよ!」

 逃げようとした砲手三人をそれぞれ一撃で沈めてやった。……生きてるよな? あー動いた。大丈夫だ。

 「ふう。アイシャは……あはは、あっちも終わってやがる」

 これであたしの役目は終了。心置きなく監獄行きって訳だ。



 ――王宮。

 尋問が始まった。あたしとフューラとリサは外で待機。

 「ジリーさん、わたくしは上空から見ていましたが、活躍なされていましたね」

 「え? あー……いや、自分勝手にやっただけだよ。それをアイシャが上手くまとめてくれただけ」

 リサは異世界の王女らしい。確かにそんな雰囲気だけど、でもあたしにとっちゃ狐娘でしかないね。

 「自分勝手にですか。……少し羨ましいです。わたくしは王女とはいえ、その生活は窮屈なものでしたから。常に誰かに見られ、自分の時間はないも等しいものでしたから」

 「んー、ちょっと誤解してるね。あたしは犯罪者だよ。リサが見られてるなら、あたしは追われてる。きっとあたしが自由だと言いたいんだろうけどさ、実際はあたしに自由なんてこれっぽっちもないんだよ」

 「……ふふっ、でも獄中での十日間のうちにお教えしましたよね? わたくしも人を殺めたと。その罪は刑期を終えてからも、そしてこちらの世界に来てからも、わたくしに絡み付いています。未だに人に向かって魔法を使う事が出来ていませんから」

 きっとあたしも一生六人の殺人と五人への傷害の罪を背負って生きていく。でも、あたしは覚悟している。させてもらえた。人を救う事で、その重さに気付けた。だからこそ、あたしは刑期を短くしたいだなんて思わないし、きっとアイシャはそれを申し出てくるけど、拒否する。


 尋問が開始されてまだあまり時間が経ってないうちにカナタが出てきた。顔色が悪い。それをリサに質問されると、フューラに交代して……あれは吐きに行ったんだね。

 「カナタさんの事はお任せしますね。さて、僕も頑張らないと」

 カナタが一番分かんねーけど、フューラも正直分かんない。フューラは自分の心を見せるのが下手なんだよ。

 十分くらいで青い顔したカナタが戻ってきた。

 「大丈夫か?」

 「あー、いや。多分数日はうなされる自信がある」

 「何だよその変な自信。まあ、言いたい事は分かるけどなー」

 あたしだって胴体だけの父親が夢で追いかけてきたりする。カナタが何を見たのかは知らないけど、ここは外の空気を吸わせたほうがいいな。

 「カナタ、リサ。庭に行こう。ここは空気が悪い」



 ――玉座。

 王様とアイシャたちが来たから玉座に移動。そしてきっとこれがあたしにとっての正念場。

 今回の騒動のまとめが終わり、あたしの出番だ。

 ……いざとなると五ヶ月って時間がすごく重く感じる。溜め息も出る。でも、あの時王様に言われた言葉、あたし自身が決めた刑を全うしなけりゃいけない。

 「それじゃ、改めてあたしは山頂監獄に行くよ。五ヶ月間のさようならだ」

 きっとアイシャは温情を求める。けど、あたし自身がそれを否定しなきゃいけない。じゃないとあたしは背負う罪を直視出来ないと思うんだ。


 ……やっぱりだ。アイシャは温情を求めた。

 「いいよ勇者様そういう事しなくてもさ。あたし自身が五ヶ月の禁固刑を分相応だと判断してんだからな?」

 「でも、それじゃあ私の気が収まらない。私、あんたに命救われてるんだよ?」

 あたしはあんたに未来を救われたけどな。……これはあたしが正式に出所して、アイシャと友達になったら話そう。……絶対に話そう。だから絶対に、正しく刑期を終えよう。

 「しかしどちらにせよ牢には入ってもらいます。それがけじめというものですからね。刑期の短縮などは後に通達します」

 「はい。あんがとさん」

 頬が膨れている勇者様と一緒に、あたしは山頂監獄へと飛んだ。



 ――ワーニール、山頂監獄。

 やべっ、すげー寒い。あたし薄着なんだけど、もしかしてこのままじゃねーだろーな?

 「名前は?」

 「ジリー・エイス」

 「出身は?」

 「あー……別の星」

 「は? ……あー、あんたね。付いてきな」

 看守は山頂監獄の異名に似つかわしくない太っちょ。通された先にには囚人服、というよりは作業服だな。それでも今の服よか暖かそうだ。

 「元の服は私が預かっておくからね。出所の時は私が服を持って迎えに来る。……本当にいいの?」

 「いいんだよ。……あたしの正当な刑罰を邪魔すんなよ?」

 「そっか。じゃあ五ヵ月後待ってるね」

 「ああ」

 ようやく納得してくれた。


 さて、あたしの本番開始だ!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ